第20章 真実の共鳴(トゥルー・エコー)
カレーの騒動が一段落したある日のこと、カイルはギルドの受付で、ある冒険者が受付嬢に吐き捨てた「嫌味」が気になって仕方がありませんでした。
「……なんだか、言葉の『角』が鋭すぎるな。これじゃあ聞いている方の鼓動まで乱れちゃうよ」
カイルにとって、人の言葉もまた「音」の一種に過ぎません。彼は懐からお馴染みの音叉を取り出すと、ギルドの喧騒の中で静かにそれを鳴らしました。
「ちょっと失礼。この場所、反響が強すぎてトゲのある言葉が響きやすいんだ。少しだけ、空気の密度を調律させてもらうね」
カイルがギルドの中央にある柱を、ハンマーでコンッと優しく叩きました。
その瞬間、目に見えない透明な波紋がギルド中に広がり、空間そのものが「嘘や虚飾を許さない、純粋な共鳴帯」へと書き換わりました。
すると、信じられない光景が広がり始めます。
「おい受付の姉ちゃん! さっさとこの依頼の報酬を払えよ、このブ……っ、……この、いつも笑顔で対応してくれてありがとう! 大好きだ!」
「……はぁっ!?」
乱暴な冒険者が口走ったのは、心の奥底に隠していた本音でした。カイルが「言葉のトーン」を調律したことで、悪意というノイズが削ぎ落とされ、魂の響き(本心)だけが強制的に出力されるようになったのです。
この「調律」の影響は、ギルド内だけに留まりませんでした。
• ナンパ師: 「君、可愛いね。俺と遊び……いや、本当は自分に自信がないから、誰でもいいから認めてほしいんだ! 寂しいんだよ!」
• ケチな商人: 「この商品は一級品で……いや、実はこれ在庫処分の型落ち品なんだ! 騙してごめん、安くするから買ってくれ!」
• 浮気疑惑の夫: 「昨日は仕事で……違う、隣町のカジノで全財産スッてきた! 許してくれ妻よ!」
王都中から「嘘」という不協和音が消え、街はかつてないほどの「暴露大会」へと変貌しました。
「カイル、これヤバいって! 街中で殴り合いが始まるどころか、みんな泣きながら抱き合って謝罪し合ってるぞ!」
光の巨人・レオンが、あまりの正直すぎる空間に冷や汗を流しています。
「え? みんなスッキリした顔してるよ。言葉のトーンを整えたら、心の中にある『本当のメロディ』が漏れ出しちゃったみたいだね」
カイルは満足げにニコニコしていますが、その横でセシリアが顔を真っ赤にして口を塞いでいます。
「ちょっとカイル……! 私は絶対に……絶対に、あなたのことが……本当は朝から晩まであなたのハンマーさばきに見惚れてて、昨日の夜もあなたの夢を見たなんて、口が裂けても言わな……ああっ!? 言っちゃったじゃない!!」
セシリアは叫びながらその場に崩れ落ちました。
【SNS:王都実況掲示板:新人パーティー観察スレ 8】
801:名無しの冒険者
【警告】王都に入るな。今、あそこに行くと「本音」しか喋れなくなるぞ。
802:名無しの冒険者
遅いよ……俺もさっき、意中の子に「実は君よりお姉さんの方がタイプなんだ」って本音ぶちまけて、全力でビンタされてきた。
803:名無しの冒険者
犯人はやっぱりカイル。
ギルドの柱を叩いて「コミュニケーションのノイズを除去しました」だと。
そのせいで国王様まで今、広場で「実は王冠が重くて肩が凝るから、たまに放り投げたくなるんだよねー」って愚痴ってるぞwww
804:名無しの冒険者
でも、街の空気がめちゃくちゃ綺麗になった気がするのは俺だけか?
嘘がないって、こんなに清々しいんだな……。
#カイル被害者の会(本音暴露編) #世界一ピュアな街 #セシリア様の大告白
結局、この「正直モード」は半日ほど続きましたが、人々は嘘をつかないことの気楽さに気づき、王都の幸福度は爆発的に上昇しました。
「……ふぅ。カイル、もう二度とこれやらないでね。私のライフはもうゼロよ」
魂が抜けたようなセシリアを横目に、カイルはハンマーを磨いています。
「ごめんごめん。でも、みんなの音が綺麗に揃ったから、これからはもっと仲良くできると思うよ」
カイルにとっては、言葉も料理も世界も、すべては一つの大きな「合奏」の一部。
彼がハンマーを振るたびに、世界は少しずつ、しかし確実に「最高の演奏会」へと近づいていくのでした。




