第17章:全事象の一時停止(ワールド・ポーズ)
その音が響いた瞬間。
カイルの部屋の窓の外、鳥の羽ばたきが止まりました。
風に舞っていた埃が空中に固定され、レオンが食堂でパンを放り投げたポーズのまま固まり、クラリスが杖を振る軌跡が光の帯となって静止しました。
「……あれ?」
カイルが顔を上げると、世界から「色」と「音」が消えていました。
カイルがハンマーを「調律」した衝撃で、世界の時間軸そのものが「正しすぎるリズム」を刻もうとした結果、因果関係がオーバーフローを起こしてフリーズしてしまったのです。
「あ、やりすぎたかな。……これ、どうやって戻すんだっけ」
カイルが困っていると、モノクロームの世界に、一人の老人が現れました。
白髭を蓄え、あまりの神々しさに直視すれば目が潰れるはずの存在――この世界の設計者(神)です。
「……おい。ちょっと待て。何をしてくれているのだ、記録……いや、楽器職人の青年よ」
「あ、こんにちは。すみません、ハンマーの重心を直したら、急にみんな動かなくなっちゃって」
「当たり前だ! お主は今、宇宙の基本周波数を『完全に』一致させてしまった! ズレがないということは、変化がないということ。変化がないということは、時間が流れないということだ! このままでは、この世界は永遠にこの瞬間のまま完成してしまう!」
神様は泡を吹いて叫びました。
【SNS:王都実況掲示板:……(通信途絶)】
(※この書き込みは、時間が再始動した後に一括でアップロードされたログである)
601:名無しの冒険者
待って、今、一瞬だけ「意識があるのに世界が止まってた」よな!?
602:名無しの冒険者
俺もだ。目の前で飛んでたハエが、空中に突き刺さったみたいに動かなくなった。
603:名無しの冒険者
【目撃談】宿屋の屋根の上で、神様みたいな爺さんが楽器職人のガキに「お願いだから少しだけズレてくれ!」って土下座してたぞwww
604:名無しの冒険者
カイル、ついに「世界そのもの」をフリーズさせたのかよ……。
#カイル被害者の会(神様入会) #世界の再起動 #不協和音が必要な理由




