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第16章:究極の自己言及(セルフ・チューニング)
仲間たちを「神域」まで引き上げ、街を楽園に変えてしまったカイル。しかし、職人の探求心には終わりがありません。
彼は、魔王の心臓で作ったその「漆黒のハンマー」自体が発する、ごく僅かな「重心のブレ」が気になって仕方がなくなってしまったのです。
「……おかしいな。このハンマー、少しだけ『未来の音』を先食いしてる気がする」
宿屋の自室で、カイルは一人、黒く輝くハンマーを見つめていました。
魔王の心臓という究極の素材。それはあまりにも強大な密度ゆえに、振るだけで周囲の時間を0.0001秒ほど歪ませていたのです。
「道具が使い手に先んじるのは、良い楽器とは言えないな。……よし、こいつも『今』に調律してあげよう」
カイルは、もう一本の予備の「普通の鉄ハンマー」を取り出しました。
究極のハンマーを、普通のハンマーで叩いて直す。
論理的には不可能なその行為も、カイルの指先にかかれば「ただのメンテナンス」に過ぎません。
「……静かに。世界の鼓動に合わせて……」
カイルが予備のハンマーを振り上げ、漆黒のハンマーの「核」に向けて、極限の集中力で叩きつけました。
カランッ。
それは、世界で最も透明で、最も「何も含まない」音でした。




