第9章:深き眠りと「目覚まし時計」の調律
カイルたちの噂が広まり、セシリアが「私の師匠は世界を救う調律師よ!」と吹聴して回った結果、物語はついに人知を超えた領域へと接触してしまいます。
それは、王都から遠く離れた、千年の封印が施されているはずの『終末の奈落』で起こりました。
その場所には、かつて世界を滅ぼしかけ、神々によって強制的に深い眠りにつかされた**【古の魔王・アザトス】**が封印されていました。
しかし、長い年月の間に封印の祭壇が歪み、魔王の寝床からは不気味な「いびき」という名の震動が漏れ出し、周辺の地脈を狂わせていたのです。
「……ねえカイル、この辺り、地面がずっと小刻みに揺れてて、なんだか気持ち悪い音がしない?」
セシリアがハープを抱えながら、顔をしかめて言いました。
「うん。地鳴りじゃないね。……誰かが、すごく寝心地の悪そうな顔をして寝返りを打ってる音だ」
カイルは音叉を耳に当て、地面の震動を分析します。
(……この音、枕の高さが合ってない時の呼吸だ。それに、部屋(空間)の気密性が高すぎて、耳抜きができてない)
カイルには、それが「恐ろしい魔王の復活の予兆」だとは全く思えませんでした。ただ、**「ものすごく寝起きの悪そうな音」**が聞こえてくるのが、職人として我慢ならなかったのです。
「ちょっと、静かにさせてくるよ。近所迷惑だしね」
「えっ、カイル!? そこ、伝説の封印指定区域よ!?」
レオンの制止も聞かず、カイルは奈落の底へと続く大扉の隙間に、スッとハンマーを差し込みました。




