第5章:傲慢なディーヴァと沈黙の楽器職人
ゼノ・グリフとの奇妙な邂逅から数日。王都の噂は、尾ひれをつけて凄まじい速さで広がっていました。
「一叩きで伝説の魔物を解体する」「触れるだけで不治の古傷を癒やす」……。
そんな中、カイルたちの「音」を聞きつけ、一人の**「自称・本物のアーティスト」**が動き出しました。
王都の広場。カイルがレオンの剣の「ビビリ音」をハンマーでトントンと修正していたその時、背後から鋭く、しかし華やかな声が響きました。
「――ストップ! その不快なノイズを止めなさい!」
現れたのは、豪華なフリルに身を包んだ少女。彼女の背後には、重そうなハープを運ぶ屈強な従者たちが控えています。
彼女の名はセシリア。かつてクラリスと聖歌隊でセンターを争い、その「完璧すぎる歌唱力」ゆえに周囲を支配していた、プライドの塊のような少女です(前回の記憶はありませんが、その傲慢な気質だけは健在でした)。
「クラリス! 落ちぶれたとは聞いていたけれど、まさかこんな野蛮な『トンカチ男』を連れ歩くなんて。私の繊細な耳が腐ってしまうわ!」
「セ、セシリアさん……。カイルさんは野蛮なんかじゃありません! カイルさんの調律は、世界で一番……」
クラリスが言い返そうとしますが、セシリアは鼻で笑ってカイルを指差しました。
「楽器職人だなんて、よく言えたものね。あなたが触れると魔物が壊れるという噂、聴いたわ。それは音楽じゃない、ただの『暴力』よ。本物の調律というものを見せてあげるわ。私のハープ、少し音がボヤけているの。直せるものなら直してみなさい。……もっとも、あなたのような無作法者に、この『深海の真珠のハープ』が触らせるはずもないけれど!」
従者が仰々しくハープを差し出します。
周囲には、噂の楽器職人の手腕を見ようと、野次馬が集まり始めました。




