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無限♾ループに囚われ  作者: Alicecloud


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第2章:不協和音の森と「少しだけ」重い一撃

王都郊外、「木漏れ日の森」。

新人冒険者の登竜門とされるこの場所で、レオン、クラリス、カイルの三人は初めての依頼に挑んでいた。依頼内容は『フォレスト・スライムのコアの採取』。

「よし! カイル、クラリス。俺が前衛で引きつける。カイルは危なくなったら後ろに下がれよ。クラリスは援護を頼む!」

レオンが意気揚々と安物の鉄剣を構える。その姿は「勇者」という重荷から解放され、純粋に冒険を楽しむ一人の少年のものだった。

だが、カイルの耳には、茂みの奥から響いてくる音が「不快なノイズ」として届いていた。

(……変だな。スライムって、もっと柔らかい音がするもんじゃないのか?)

カイルは腰の音叉を指先で弾いた。

キィィィィィィィン……

その澄んだ音が森の空気に溶け込んだ瞬間、カイルの視界に違和感が浮かび上がる。

茂みから飛び出してきたのは、通常のスライムではなかった。全身が異常に硬質化し、金属のような光沢を放つ『アイアン・スライム』。本来、新人が相手にするような魔物ではない。

「なっ、硬え!? 剣が通らねえぞ!」

レオンの一撃が弾かれ、金属音が響く。反動でレオンの体勢が大きく崩れた。アイアン・スライムはその巨体をバネのようにしならせ、レオンの無防備な胴体へ突進しようとする。

「レオンさん! 危ない……!」

クラリスが悲鳴を上げ、杖を構えるが、魔法の詠唱が間に合わない。

(……ああ、やっぱり。あいつ、ピッチがズレてる)

カイルの体は、考えるよりも先に動いていた。

一億回の記憶はなくても、彼の筋肉と神経は「世界で最も効率的な最短ルート」を知っている。

カイルは軽やかなステップでレオンの前に出ると、手に持っていた**【調律用ハンマー】**を、突進してくるスライムの「一点」に向けて、軽く振り下ろした。

「ちょっと、静かにしてくれ」

コンッ。

それは、釘を打つような軽い音だった。

だが、ハンマーがスライムの外殻に触れた瞬間、空間そのものが共鳴し、目に見えるほどの「振動の波」が魔物の全身を駆け巡った。

直後、アイアン・スライムの巨体は、まるでガラス細工が粉砕されるように、内側から弾け飛んだ。

「……え?」

レオンが尻もちをついたまま、口をあんぐりと開ける。

クラリスの詠唱も途絶え、森に沈黙が訪れた。

足元には、スライムだったはずの銀色の破片と、無傷で転がっている『核』だけが残されていた。

「あ、悪いレオン。ちょっと表面を叩いて、振動を逃がしてやっただけだよ。……ほら、楽器もあんまり強く弾くと割れるだろ? あんな感じだ」

カイルは平然とした顔でハンマーをポーチにしまった。本人としては、スライムの「硬さ」を調律して、崩れやすくしてやった程度のつもりだった。

【SNS:王都実況掲示板:新人パーティー観察スレ 1】

56:名無しの冒険者

【目撃情報】おい、今の見たか!?

木漏れ日の森で、楽器職人のガキがアイアン・スライムをハンマー一本で粉砕したぞ。


57:名無しの冒険者

アイアン・スライム? 嘘だろ。あれLv.30以上の戦士がパーティー組んで挑むやつだぞ。


58:名無しの冒険者

マジなんだって! 叩いた瞬間、魔物が結晶みたいにバラバラになった。

叩いた本人「メンテナンスです」みたいな涼しい顔してて、マジで意味不明だった。


59:名無しの冒険者

あの楽器職人、絶対おかしい。

さっきギルドで見かけた時も、受付嬢の肩叩いて「肩凝りの波形を直しました」って言ってたし。

その後、受付嬢が「魔法の袋を素手で引きちぎれるようになった」って騒いでる。


60:名無しの冒険者

#カイル被害者の会 結成か?

#無自覚チート #世界を調律する男


「……カイル、お前。今のはさすがに……」

レオンが呆然と立ち上がる。

「ん? 何か変だったか?」

「変っていうか……お前、そのハンマー、特級の魔道具か何かなのか?」

レオンが覗き込むが、カイルが持っているのは、どこにでもある安物の、ただ手入れだけが行き届いたハンマーだ。

「ただの道具だよ。大事なのは、どこを、どの角度で、どんなリズムで叩くかだ。……職人の世界じゃ、基本だろ?」

「いや……基本じゃないわよ、カイルさん」

クラリスが頬を引きつらせながら、地面に落ちたスライムの核を拾い上げる。その核は、余計な衝撃が一切加わっていないため、最高級の品質を保ったまま輝いていた。

「ま、いいか! おかげで助かったぜカイル! やっぱりお前は、俺たちの最高の幸運ラッキーチャームだな!」

レオンが笑ってカイルの背中を叩く。

カイルは、その笑顔と温かさに、胸の奥が少しだけ、懐かしい音色で鳴ったような気がした。

記憶はない。

けれど、こうして二人の「音」の隣にいることが、今のカイルにとっては、この上なく心地よかった。

「さあ、帰ろう。パン屋のオーブンが冷める前にさ。……あそこのオーブン、火力のピッチがズレやすいから、帰りに直してやりたいんだ」

「パン屋まで調律するのかよ!」

三人の笑い声が、平和な森に響いていった。


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