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無限♾ループに囚われ  作者: Alicecloud


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15/42

【完結編??:白紙に記す、ただ一行の光】第?章:復讐という名の「呪縛」

⁑⁑⁑ジッジジ⁑⁑⁑

世界は再び、王都のギルド裏から始まった。

だが、今回のループは今までと決定的に違っていた。

カイルの手にある『全知の記録庫』が、物理的な実体を持たず、カイルの精神そのものと完全に融合していたのだ。

「カイル、どうしたんだ? 震えてるぞ」

レオンが心配そうに肩を叩く。

クラリスが祈るようにカイルの手を握る。

本来なら、ここで「一億回の殺意」が爆発し、カイルはこの二人を無慈悲に粉砕するはずだった。

だが、カイルは動かなかった。

彼の脳内には、文字の奔流が渦巻いていた。


[Log: 感情解析……『憎悪』。残存率99.8%。]

[Warning: この感情は、過去の物語を再生産するための『燃料』です。]

[Analysis: 復讐を完遂しても、カイル・フォン・オーウェンの幸福値は上昇しません。]


(……ああ。そうだ。俺は気づいてしまった)


カイルは、自分の震える手を見つめた。

レオンたちを地獄に突き落とせば、一時的なカタルシスは得られるだろう。SNSの観測者たちは狂喜乱舞し、この「ざまぁ」劇を絶賛するだろう。

だが、その後に残るのは何か?

復讐を終えた俺は、また次の「復讐すべき相手」を探してループを彷徨うだけではないか。

「俺は、お前たちを憎んでいる。それは真実だ」

カイルが口を開いた。レオンとクラリスが目を見開く。

「だけど、その憎しみすら……誰かに『与えられた設定』なら、俺はそんなもの、いらない」




観測者たちへの宣戦布告(SNS炎上)



カイルの宣言と同時に、世界中のスクリーンが真っ赤に染まった。


【実況掲示板:【速報】カイル様、復讐を拒否!? ざまぁ無しとかマジかよ 155】


12:名無しの冒険者

おいおいおい! ここまで引っ張って「復讐いらない」はねーだろ!

13:名無しの冒険者

運営のミスか? カイルの精神汚染がひどすぎて、主人公としての機能が壊れてるぞ。

14:名無しの冒険者

俺たちはレオンが惨めに死ぬところが見たいんだよ! カイル、早くペンを動かせ!

15:名無しの冒険者

お前ら残酷だな……。でも、カイルの目が今までで一番怖い。

復讐心がないっていうより、もっと別の「ヤバいこと」をしようとしてる気がする。


自己書き換え(セルフ・デバッグ)

カイルは、宙に向かってペンを走らせた。

だが、その刃が向いたのはレオンでもクラリスでもない。

自分自身の「魂の記録」だった。

「【全知の記録庫・最終奥義】――『全事象の強制昇華』」

カイルが呟くと、彼の背後から一億回分の「死の光景」がインクの塊となって溢れ出した。

それは巨大な影となり、王都を飲み込もうとする。

「カイル、何をするつもりだ!?」

レオンが剣を抜き、カイルを守るように前に出る。

「やめて、カイルさん! そんなに魔力を使ったら、あなたの存在が消えてしまうわ!」

クラリスが泣きながら結界を張る。

「レオン、クラリス。お前たちを縛っている『勇者』と『聖女』という呪いを、今ここで解いてやる」

カイルのペンが、レオンとクラリスの胸元を貫いた。

痛みはない。

だが、二人の体から、眩い黄金の光――管理者たちが植え付けた「設定バグ」が引き抜かれていく。

「お前たちは勇者じゃない。聖女でもない。……ただの、臆病で、不器用な、俺の幼馴染だ」

カイルの脳内ログが、高速で書き換わっていく。


[Modify: レオン……『勇者の傲慢』を削除。性格を『ただの熱血漢』へ。]

[Modify: クラリス……『聖女の計算』を削除。性格を『ただのお節介』へ。]

[Modify: カイル……『一億回の殺意』を消去。……消去を確認。]


「……あ……」

カイルの目から、黒い涙が溢れた。

一億年間、彼を支え、同時に苛み続けてきた「復讐心」という名の重荷が、文字となって空へ消えていく。


さらば、観測者(メタ構造の破壊)


[Critical: 物語の整合性が崩壊しています。]

[Error: 主人公が『幸福』を選択しました。これは『売れる物語』のレギュレーションに違反します。]

[Action: 世界の強制リセット(ハードリセット)を実行します。]


空が割れ、管理者たちの手が世界を握り潰そうと降りてくる。

「ざまぁ」を見せない物語に価値はない。だから世界ごと消去する。それがこの世界の非情なルールだった。

だが、カイルは不敵に笑った。

「お前たちの『面白い』に、俺の人生を売る気はない」

カイルは残ったすべての力をペンに込めた。

【記録抹消:世界の接続を恒久的に断絶する】。

カイルは、自分たちを観測していた「すべての瞳(SNS・掲示板)」に向けて、最後の一行を書き記した。

『――この物語の続きは、誰も読むことができない』

その瞬間、世界中のスクリーンがブラックアウトした。

スマホも、魔法の鏡も、掲示板も。

すべての観測者は、カイルの世界から完全にシャットアウトされた。

第5章:ハッピーエンド(白紙の明日)

気が付くと、カイルは草原に寝転んでいた。

王都の喧騒も、魔王の威圧感も、システムの効果音も、何もない。

「……うう、頭が割れそうだ」

隣で、金髪の男が頭を押さえて起き上がる。レオンだ。

彼の顔には、もう「勇者」としての不自然な輝きはない。ただの、少し喧嘩の強い、普通の男の顔だった。

「レオン、大丈夫?」

クラリスが駆け寄る。彼女もまた、聖女の法衣ではなく、村娘のような質素な服を着ていた。彼女の瞳には、打算も、過剰な献身もない。

二人は、草原に座っているカイルを見た。

「……カイル。俺たち、何してたんだっけ。……何か、すごく悪いことをして、すごく良いことをしてもらったような気がするんだけど」

レオンが首を傾げる。

カイルは、腰のペンをそっと草むらに置いた。

もう、本も、ペンも、スキルもいらない。

「忘れていいよ、そんなこと。……それより、これからどうする?」

カイルが問いかけると、二人は顔を見合わせ、晴れやかな顔で笑った。

「とりあえず、腹が減ったな! 街へ行って、普通のパンでも食おうぜ!」

「賛成! カイルさん、一緒に行きましょう?」

三人は立ち上がり、どこまでも続く平原を歩き始めた。

そこには、一億回のループの影も、管理者たちの監視も、??の期待もない。

カイルの胸の中にあった「殺意」は、もう跡形もない。

代わりに、心地よい風と、仲間の笑い声だけが満ちていた。


[System Message: Offline]

[Current Status: Just a Human]

[Remaining Log: None]


カイル・フォン・オーウェンの、本当の一回きりの人生が、今、静かに始まった。

それは誰にも記録されない、世界で一番贅沢な、白紙の物語だった。

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