12章 第4章:違和感の正体
夜。キャンプの火を囲む三人。
一回目では、カイルは輪の外で泥水を飲んでいた。
だが、今のカイルは、ふかふかの毛布に包まれ、レオンが焼いた最高の肉を与えられている。
「カイル。昔、お前が言ったよな。俺たちの伝説を書き残すのが夢だって」
レオンが、焚き火の光の中で優しく語りかける。
「俺はさ、お前のその夢を叶えたいんだ。お前が記録する価値のある、最高の勇者になってみせるよ」
クラリスも、カイルの隣に座り、そっと肩を寄せる。
「私たちは、ずっと一緒よ。カイルさん」
(……ああ。そうだ。俺には、この最高の仲間がいる。俺を認めてくれる、居場所がある。俺は幸せだ。……幸せなはずなんだ)
カイルは自分に言い聞かせる。
しかし、彼の「全知の記録庫」は、音もなく新しいページをめくっていた。
そこには、管理者たちが隠蔽しきれなかった、一億一回前の「記録」が、滲んだインクのように浮かび上がる。
[Hidden Log: 聖女クラリスの発言『死んでくれて、ありがとう』との一致率 99.9%]
[Hidden Log: 勇者レオンによる蹴打のシミュレーションと、現在の座標の重なりを確認。]
カイルの手が、震えながらペンを握った。
本能が、何もない空中に「×(ペケ)」を書き込もうとする。
目の前で笑っているこの優しさは、偽物ではないか?
この温かさは、俺を再び奈落へ突き落とすための「罠」ではないか?
「……カイル? 泣いてるのか?」
レオンが心配そうに顔をのぞき込む。
カイルの頬を、一筋の涙が伝った。
それが、悲しみの涙なのか、それとも終わらない悪夢に対する「魂の悲鳴」なのか。
カイル自身にも、まだわからない。
「……いいや、なんでもないんだ。レオン」
カイルは、無理やり微笑んだ。
その笑顔は、かつて彼が最も憎んだ「レオンの傲慢な笑顔」と同じくらい、空虚で、歪な形をしていた。




