9章【再始動:黄金の絆と、拭えぬ違和感】第1章:書き換えられた「始まりの音」
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王都のギルド裏。差し込む午後の陽光は、一億回繰り返されたあの絶望の記憶を塗り潰すように温かい。
「――おいカイル、聞いてるのか?」
カイルは、ハッと意識を浮上させた。
目の前には、眩い金髪をなびかせた青年、レオン。
だが、その表情にいつもの傲慢な蔑みはない。そこにあるのは、親友の身を案じるような、どこか過保護ですらある笑顔だった。
「お前、さっきからボーッとして。……やっぱり、昨日の魔物退治で無理させたか? すまねえ、お前の『記録』のおかげで俺たちは助かってるのに、俺が先走りすぎたな」
カイルは、自分の感覚が信じられなかった。
(……え? クビ、じゃないのか?)
「カイルさん、これ」
隣から、可憐な少女が歩み寄る。聖女クラリスだ。
彼女は、かつてカイルの胸を焼き、冷たく見捨てたあの聖女と同じ顔をしていた。しかし、彼女の手にあるのは転移結晶ではなく、冷えた水袋と、丁寧に包まれた手作りのサンドイッチだった。
「少し休んでください。あなたは私たちの『生命線』なんですから。あなたが倒れたら、私たちがどうすればいいかわからないわ」
クラリスは、慈愛に満ちた瞳でカイルを見つめ、その泥に汚れた袖をそっと拭った。
システムは、彼女の??を「カイルを盲信する献身的なヒロイン」へと再定義していた。
「……ああ、ありがとう。クラリス」
カイルは水を受け取った。
記憶はない。システムが施した精神修正により、「彼らは古くからの大切な仲間だ」という認識が上書きされている。
だが。
水袋を受け取る時、カイルの指先がクラリスの肌に触れた瞬間――。
(――殺せ)
脳の奥底、魂の最も深い領域から、猛烈な「拒絶」が噴き上がった。
心臓が激しく鐘を打ち、全身の毛穴が開き、胃の底から熱い酸がせり上がる。
「カイル……さん? どうしたの、そんなに震えて……」
心配そうに顔をのぞき込むクラリス。
彼女の笑顔は完璧だ。悪意の欠片も見当たらない。
それでも、カイルの潜在意識に刻まれた「一億回分の殺意」が、システムの書き換えを突き破って、彼女を『???』だと叫んでいた。




