9 捕まえた盗賊たち
「えーと、カレン。親玉っぽいのはいた?」
「はい。遠くから監視していたのが一人いました」
魔眼を熾しているカレンは頷き遠くを指差す。
それは街道から少し離れている群衆林――のような、ちょっとした木々の集まりがある。
……やっぱりいたか。
普段と違う荷運びに、普段は出ない盗賊の発生。
なんとなくだけど、仕組まれているような気がしていた。
「うーん、ちょっと遠いし、こっちに来てもらおうか」
「はい」
そう返事をしたカレンの魔眼が爛々と妖艶に輝きだす。
「あ、あの……コトミちゃんたち……」
そのまま少し待つか、と思っていたところ商人さん――ユルバンさんから声がかかる。
「あ、この盗賊たちを縛るロープとかあったりします? 野放しにするわけにもいけないですし、殺すのも忍びないので」
「あ、あぁ……あるよ」
少しヒクつきながらも、ユルバンさんは荷台の中をゴソゴソと漁り、木箱から数本のロープを取り出す。
「ありがとうございます」
それをアウルへと手渡す。
「えーと、ルチアちゃんも手伝ってほしいんだけど、大丈夫そう?」
「はい。大丈夫ですよ」
そう言ってアウルの元へ向かうルチアちゃん。
あまり野蛮な盗賊たちと接してほしくないけど仕方ないか。
この世界じゃ頻繁に遭遇する事態だし。
「あ、あの……コトミちゃんたちはいったい……」
そのやりとりを終始見ていたユルバンさんが困惑したような声を上げる。
「あー、説明していなかったんですが、私たち一応冒険者のようなものでして……。見てのとおり、多少は戦えます」
まだ冒険者ギルドにも行けていなくて、正式な冒険者じゃないけど……まぁ、いいだろう。
「あ、あぁ……そうなんだね。まだ若いのに……。って、驚き呆けている場合じゃないや」
唖然呆然していたユルバンさんだが、何かに気が付くと、たたずまいを正し、真剣な表情で話しかけてきた。
「コトミちゃん、助けてくれてありがとう。危うく大事な荷を失うところだったよ。この荷を失ったとしたら商会の信用問題に関わってくるからね。本当に助かった」
「あー、乗りかかった船なのでいいですよ。あのままじゃ私たちも無事にすまなかったでしょうし」
盗賊たちの目的が何かわからないけど、荷を渡して「はい、サヨナラ」ってわけにはいかないだろう。
積み荷よりも高価な私たちもいるんだから……。
「今は大した手持ちが無いから、街に着いてからお礼をさせてくれないかい?」
「いや、本当に大したことではないのでいいですよ。でも、もしお願いを聞いていただけるのなら、私たちのことは内緒にしてもらえますか? 色々と秘密が多いので……」
テスヴァリルに来て早々目立つとか避けたいからね……。
「それは別に構わないが……」
首を傾げ疑問の声を漏らすユルバンさん。
そりゃそうだろうな。
通常、冒険者というものは総じて名声を求めるものだ。
それをこうして自身の活躍を口止めするとかあり得ない行為なのだろう。
それでも、私たちは否が応でも目立つことになるだろうし、静かに暮らせるときは暮らしていきたいとは思う。
「お願いしますね」
「姉さん」
私が念押しして頼んだところでカレンから声がかかった。
そちらへ目を向けると緋色に輝く魔眼と視線が交差する。
『あの、親玉っぽい人を連れて来ましたよ』
カレンの口が動くことなく、頭の中に直接声が響いてくる。
――念視の能力だ。
『特に抵抗されることもなく、今回の件について詠み取れましたので、不要な者はアウルさんにお願いしてまとめてもらいました』
そう、カレンの視線を辿ると、ロープに縛られている盗賊が……一人増えているな。
あれが親玉か。
一人だけ気を失うことなく座り込んでいるけど、その表情は恐怖というか困惑に満ちている。
カレンのもう一つの能力だな。
『そっか。それで? なんとなく想像つくけど、どういう計画だったの?』
盗賊のことは置いておいて、こちらからも念視でカレンに語りかける。
……と言うより、私の思考をそのまま詠み取られる。
便利なんだけど、考えていること全部筒抜けってのが困るよね。
変に余計なことを考えられない。
『この件は誰かに頼まれたものらしいですね。お昼頃にこの街道を通る馬車の荷を奪え、だそうです。荷以外に手を出すな、と強く言われたようですね。依頼主についてはよくわからないみたいです』
やっぱりそうか。
あまりにも都合がいいというか、タイミングの良すぎる出来事だったもんな。
『ありがと。ユルバンさんと話しているからちょっと待っててね』
それだけ言うとカレンは小さく頷き、アウルたちの元へと向かっていった。
「あの子……魔眼持ちかい? 珍しいね」
「あー、その辺りのことも含めて、私たちのことは内密にお願いします」
私たちのやりとりには気がついていないだろうユルバンさんが驚きの声を上げる。
念視でのやりとりは誰にもわからず、端から見れば見つめ合っているだけに見えるだろう。
幼い少女が言葉を発さずに見つめ合う姿は、少々危険な香りがするけど……。
「あぁ、わかった……。幼いのに一流の剣士と魔眼持ち……秘密にしたいのもなんとなく理解できるよ」
「ありがとうございます。……ところで、この盗賊の襲撃、黒幕がいるようですよ」
「……え?」
本日何度目かの驚きかわからないが、さらに驚きを重ね言葉を失うユルバンさん。
「依頼主はわからないですが、隠れて監視していた盗賊の話によると、この街道を昼頃に通る馬車の荷を奪え、だそうです。ご丁寧に荷以外は手を出すなと言われているみたいですね」
「なっ……! い、いったい誰がそんなことを……」
「残念ながらそこまでは聞き出せませんでした。盗賊たちをコラコールの街まで連れて行って、尋問したほうがいいかもしれませんが、どうしましょうか」
遠くない街とはいえこれだけの人数だ。
もし連れて行くとしたら今日中に辿り着くのは難しいだろう。
「当然連れて行くよ。商人にとって盗賊は憎き相手だからね。慈悲をかけるつもりはないさ。コイツらのおかげで、どれぐらいの従業員たちが犠牲になったことやら……」
ユルバンさんは盗賊たちを射殺さんばかりに睨みつけている。
商人なんてやっていると色々とあるんだろうな。
この世界は前の世界と違って安全安心が保証されているわけではない。
自分の身は自分で守らなければいけないし、時には相手を殺す必要も出てくる。
私とアウルは問題ないけど、あとの三人は……。
うん。今後のことは色々と考える必要はあるけど、とりあえず今はこの状況をなんとかしよう。
「そうと決まれば早速移動しましょうか。気絶している盗賊は水をかけて起こしますんで」
ユルバンさんも特に異論が無いようで盗賊を引き連れる準備に取りかかる。
「アウル、どう?」
ちょうど縛り終えたアウルが手をはたきながら立ち上がる。
「うん、終わったよ。ちゃんと首にも巻いたから素直に歩いてくれると思うよ」
見ると両手と首へ数珠繋ぎのようにロープが縛られていた。
引っ張ると盗賊たちの首が絞まっていく縛り方だね。
さすがアウル。
猿ぐつわもされているし、問題ないかな。
「それじゃ、起こそうか。ルチアちゃんお願いできる?」
「はーい。面倒なのでまとめてやっちゃいますね。ウォーターボール」
詠唱を唱えると同時にルチアちゃんの手のひらへ生成される大きな水球。
それが射出され盗賊たちへと直撃、弾け、水飛沫を上げる。
「ガボガボ……んーっ!? んー!」
「んー! んー!」
んーんー言ってて何を言っているかわからないけど、私たちを射殺さんほどの視線で見つめてくる盗賊たち。
おーおー、威勢のいいことで。
あまり相手にすると精神衛生上よくないから放っておこう。
「ユルバンさんの準備ができたら出発するよ」
アウルにルチアちゃん、それにカレンが頷き、馬車の元へと戻っていく。
「コトミちゃん。馬も大丈夫そうだし、出発できるよ。盗賊たちはここに繋ぐ感じで大丈夫そうかい?」
ユルバンさんが指し示した場所は荷車の車軸を支えるフレームのような場所だった。
「十分だと思いますよ。盗賊たちも引きずるような形ではなく、自分たちで歩くように縛りましたから」
私の言葉に首を傾げ、盗賊たちへと視線を向けるユルバンさん。
その姿を目にして、何かを理解したのか口元を引きつらせていた。
それを横目に盗賊付きロープを手際よく荷車へ固定していくアウル。
「コトミ-、準備できたよ」
「はーい、それじゃ出発しましょうか」
「あ、あぁ」
ユルバンさんが御者台へと座りルチアちゃんとカレンが荷車に乗り込む、アウルは――。
「私は盗賊のケツを叩いていくよ」
「よろしく」
歩き始めれば渋々でも付いてくるだろうけど、最初はちょっと突っついておかないとね。
本当にどうしようもない時はカレンの魔眼、操視で無理矢理にでも動かすつもりだ。
操視であれば先ほどの親玉の時のように、身体を操ることもできる。
ただ、街に着くまでの間ずっと能力を使い続ける必要もあるし、なるべくなら避けたい方法ではある。
ゆっくりと動き出す馬車。
後ろを振り返るとなんとか歩き始めているようだった。
盗賊たちの後ろで、アウルが剣をヒュンヒュン振っているのも素直に歩いている理由かもしれないな。
とりあえず一息つき、視線を前へと向ける。
街道は地平線の向こう側へと続いており、目的地はまだまだ見えない。
穏やかな風が吹き頬を撫でる。
テスヴァリルにやって来てから立て続けに色々なことが起きたけど、この感じがやはりテスヴァリルへ戻ってきたんだなー、と感じる。
アウルも心なしか楽しそうに剣を振っているし。
今度こそはこの世界でのんびり暮らしていきたいと、心よりそう思う。




