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6 精霊との会話

 心を閉ざしていると、風の精霊は言った。

 リンちゃんがなぜ?


『人間だー』


『部外者だー』


『でもこの子は同じみたいー』


 精霊たちの意識が私に向いたのがわかる。

 その意識は獰猛(どうもう)な獣に対峙したときと同じような不快な雰囲気を臭わせている。


『おかえりー』


『妖精のせいだー』


『やっと揃ったー』


 次々と意味の通じていない言葉を紡ぐ精霊たち。

 いったい何を言っているのか――。

 そう思いシロの方を見ると、苦虫を噛み潰したような渋い顔をしていた。


『いいよー教えてあげるー』


『この子はねー自分で心を閉ざしているのー』


『だから優しく起こしてあげればいいんだよー』


 自分で心を閉ざす?

 リンちゃんが?

 思い当たる節は……ない。

 そんな、自分で心を閉ざす理由なんて……。

 それに、優しく起こすってどうやって……。


『いいこと教えてあげるー』


『起こすならアレだよねー』


『あの薬草だねー』


 薬草?

 目を覚ます薬草といえば聞いたことはある。

 珍しいものではあるが、さほど高価ではないとある薬草が。

 その名も――目覚草(めざめそう)

 捻りも何もない、まんまのネーミングに笑いそうになるが、これでもれっきとした薬草だ。

 需要が少ないため流通量は少ない。

 ただ、手に入らないこともない。

 その薬草であればリンちゃんも目が覚めるのか。

 でも、あの薬草って優しく起こすというより――。


『教えたよー』


『もういいでしょー』


『ここから出してー』


 逡巡(しゅんじゅん)していたところに、(いきどお)りを含んだ声が降りかかる。

 いまだ張られている障壁(しょうへき)のせいで、抜け出せずにいる風の精霊たち。


「……精霊王はどこにいるの?」


『いつものところにいるよー』


『ただ誰も会えないよー』


『でも妖精女王なら会えるかもー』


 シロの質問に次々と言葉を返す風の精霊。

 精霊王……どんな存在なのか。

 妖精女王に精霊王、知らないことがまだいっぱいあるようだ。


「そう……それじゃ、精霊王に伝えて。……近いうちに挨拶へ行くから、って」


 そう言い薄らと暗い笑いを浮かべるシロ。

 その顔は背中が凍りそうなほど冷徹な表情だった。

 ……いまは妖精女王の感情か。

 身震いしそうな自分の感情を抑え、シロに声をかけようとしたところ、周囲を覆っていた障壁(しょうへき)が解かれた。


『出れたー』


『帰れるー』


『逃げるのー』


 精霊の声とともに、存在が薄れていくような感覚。

 風の精霊たちが言うように、この場を去って行くのだろう。


『じゃあねー』


『またねー』


『それじゃ、せーの――』


『『『精霊の御加護がありますように』』』


 そう言って風の精霊たちは、その存在を完全に消した。



「……ちっ」


 いきなり舌打ちするシロ……というより妖精女王かな……?


「……えと、シロ?」


 その呼びかけに振り向いたシロは、いつものあどけない表情をしていた。


「……なに?」

「あ……。ううん、ありがとう。なんとかなりそうなのかな?」

「ん。この子は眠っているだけ。たぶん、転移の副作用。魔力に充てられたんだと思う」


 リンちゃんの近くに(ひざまず)き額に触れるシロ。

 リンちゃんはいまだに目を覚まさず、眠っているように……って、シロの言葉どおりであれば本当に眠っているのだろう。


「眠っているだけなのに、目が覚めないの?」


 眠っているだけであれば、いつかは起きるように思えるけど……。


「ん。この子の願望に魔力が作用して、一種の魔法のようになっている。起こすなら精霊に言われたとおり目覚草(めさめそう)が効果的」


 そう言ってリンちゃんの頭を撫でるように触れると、シロは立ち上がった。


「言い忘れたけど、あっちに人の気配がたくさん。たぶん、村か街がある」


 指差す先は生い茂った木々……の向こう側にあるのか。


「そういえばここはどこなんだろうね。見覚えは……当然ないけど。木の模様とか覚えているわけじゃないし」


 今までだんまりだったアウルが唐突に口を開く。


「居たんだ」

「居たよ! 邪魔しちゃ悪いかな、って思って静かにしていたんだ」


 確かに、普段のアウルは落ち着きがないし、正直うるさい。

 黙っていたのは正解かもしれないな。


「コトミが何を考えているか、なんとなくわかるよ……」


 ため息をついて額に手をつけるアウル。


「アウルのことは置いといて……ちなみにここはどこなの?」

「わからない。世界間という規模の転移では、細かい座標位置の指定が難しかったから」


 そう言ってシロは首を横に振る。

 そっか。

 確かに同じ世界の近場に転移するのと、別世界に転移するのでは感覚が違うのだろう。


「それより、これからどうしましょうか? リンさんがこんな状況では……」


 アウルの隣に(たたず)むルチアちゃんから不安そうな声がかかる。

 リンちゃんのことについては私も心配だ。

 早くなんとかしてあげたいところではあるが……。


「とりあえず安全な場所まで連れて行こう。落ち着ける場所を見つけたら今後の予定を決めようか」


 いつまでもこんな所に居るわけにもいかないし、せめて安心できる場所で休ませてあげたい。


「というわけなんだけど、転移できる?」


 私たちのやりとりを眺めていたシロにそう問いかけるが――。


「……無理」


 拒絶……じゃないな。

 昔のシロであれば無感情で言い放っていたのに、いまは少し申し訳なさそうにしている。

 この子も段々と変わってきたんだな。


「そっか……。魔力無くなっちゃった?」


 世界を渡るような転移をした直後だし、さすがに厳しかったか。


「ん。一人ならまだしも、この人数は無理」


 まぁ、仕方がないか。

 地道に歩いていこう。


「それじゃ、私がリンちゃんを背負うから、アウルは先頭をよろしく。カレンとルチアちゃんは周囲の警戒とアウルのサポートをお願い」

「りょーかい」


 その言葉に反応したアウルは、腰に(たずさ)えた剣を軽く叩き頷く。

 元々テスヴァリルの生まれで同じ転生者、腐れ縁のようにずっと一緒にいる少女。

 見た目は幼いが中身はいい年齢だという。

 そりゃ、テスヴァリルで成人し、フランコリタで生まれ変わったのだから、精神年齢は相当なものだろう。


「わかりました」


 隣にいるカレンは、僅かに微笑むと小さく頷き、緋色の瞳でこちらを見つめてくる。

 すでに魔眼を(おこ)しており、準備万端のようである。

 見た目は私やアウルよりも年上のように見えるけど実際のところ年齢は不明。

 いや、出るところは出ているし、見た目以上には年上の可能性も……。


「任せてください」


 そんな考えを打ち払うかのように、ルチアちゃんが返事をする。

 そちらへ視線を向けると両手を身体の前で握りしめ、意気込むように笑顔で頷いていた。

 アウルの妹で、ひょんなことから魔法を使えるようになった幼い少女。

 カレンとルチアちゃんはフランコリタ生まれだから、テスヴァリルのような剣と魔法の世界は初めてとなる。

 二人とも馴染んでくれればいいけど……。


「わたしは、ちょっと精霊王に挨拶してくる」


 みんなの状況を確認していたところ、笑顔でそう言ってきたシロ。

 そちらへ視線を向けると……。

 いや、この笑顔は悪い笑顔だな。

 精霊と出会ったせいか、所々に妖精女王の存在が現れるな。

 前の世界じゃそんなことはなかったのに。


「そっか。それならあとで合流できる?」

「ん。大丈夫。魔力追っかける」


 妖精であれば個人の魔力を特定して追いかけることもできるだろう。

 それならシロが一人で別行動しても問題はない。


「じゃ、またあとでね」


 これからの予定を確認してそれぞれが行動に移す。


「ん。すぐに戻ってくる」


 そう言ってシロは姿を消した。



「ふぅ、来て早々問題発生だけど、とりあえずシロの指し示した場所へ向かおうか」

「うん。それはいいんだけど、どのぐらい離れているのかな?」


 アウルが珍しく真っ当なことを言っている。

 うーん……そういえば聞かなかったな。


「まぁ、いまさら仕方がないし。とりあえずは移動しよう」


 考えても仕方がない。

 今の私たちに選択肢なんてないのだから。

 そう自分自身を納得させ、リンちゃんを抱き起こす。

 勢いをつけてその華奢(きゃしゃ)な身体を背負うと、フワリと花のような香りが鼻を掠めた。

 ……可愛い子たちはなんでこうもいい匂いがするのだろうか。


「コトミ、不謹慎(ふきんしん)だよ」


「うっさい。さっさと行くよ」


 そう言って一歩を踏み出す。

 木々の隙間から日は見えるが時間はわからず。

 可能であれば日が沈む前までに街か村へ着きたい。


「ほら、急ぐよ」


 なぜか呆れているアウルを促し、先へと進める。

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