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3 予期せぬ結末

鎌風(かまかぜ)!」


 魔法によって作り出された風の刃が、異形へと飛んでいき切り刻む。

 しかし――。


「相変わらず硬い――な!」


 収納魔法から取り出した短剣を両手に持ち、異形へ跳びかかる。

 硬質な筋肉のようなものに(はば)まれ、鎌風(かまかぜ)も短剣による攻撃も、表面の肉をえぐり落とす程度でほとんどダメージは通っていない。

 しかも前回と同様、刻まれた傷は少しずつ再生していっている。

 その異形も邪魔者の存在に気が付いたからか、四本の触手がこちらへ向かって伸びる。


「――っ、転移(てんい)


 短距離転移(てんい)で触手による攻撃をかわし、一旦離れる。


「カレン! 子供たちをお願い!」


 追いかけて来たカレンにそう言って、子供たちとは反対側に跳躍(ちょうやく)で距離を取る。


『相変わらず無茶するんですから……。気を付けてくださいよ』


 一瞬交差した視線からカレンの念視(ねんし)が届く。


「今回は一人じゃないからね。きっちり片を付けさせてもらうよ」


 向かってくる異形にそう呟き、収納魔法から取り出したナイフを牽制代わりに投げる。


「――ふっ」


 そのナイフは異形へと突き刺さるが、ほとんどダメージが通っている感じはしない。

 ――ちっ。

 心の中で舌打ちをしつつ、次の攻撃へ繋げるために短剣へ持ち替えたところ、異形から四本の触手が伸びてきた。


「――っ、風槌(ふうづち)!」


 振り下ろされた二本の触手に、空気の塊をぶつけることで弾く。

 残り二本となった触手が私をめがけ刺突してくるが――。


「甘いよ」


 転移(てんい)魔法で二本の触手をかわし、魔力を足元へ集め跳躍(ちょうやく)

 わずか一歩で異形との距離を詰め、その勢いを利用して短剣を顔面に突き立てた。


「――ッ!!」


 声にならない叫び声を上げる異形。

 勢い余らせ、無防備にそのまま倒れ込んでいった。


「ついでだよ。雷撃(らいげき)!」


 金属の短剣を通し、ほとばしる電撃。

 痙攣(けいれん)する異形の身体から鼻につく臭いが漂ってきた。


「うっ……」


 あまりにも強烈な香りに顔をしかめるも、短剣を回収してその場から一旦離れる。

 ピクリともしなくなった異形を横目に、魔法で作り出した水で短剣を洗い流す。

 そのまま収納魔法へ仕舞うのはさすがにね……。


「……姉さん」


 異形の様子をうかがっていたところ、背後から近づいてきたカレンに声をかけられる。


「カレン……。子供たちは?」


 伏し目がちな魔眼が悲しそうに、静かに首を横へ振る。


「……そう」


 以前もそうだった。

 大量の子供たちの死体。

 そして、この異形の存在。

 ハッキリとはわからないが、この一連が召喚の儀なのだろう。


「……倒したのですか?」

「いや、前回と同じであれば、また起き上がってくるはずだよ」

「前回って……。姉さんはこんなのと何度もやり合っているのですか? 正直、嫌悪感しかないんですが」


 なぜか呆れられ、哀れみの目を向けてくるカレン。

 いや、そうは言っても、私も好きで遭遇しているわけじゃないからね?

 仕方なしというか、成り行き上というか……。

 そんなことを考えながら異形の様子をうかがっていたが――まだ起き上がりそうにないため、その間に子供たちの状況を確認しておこう。

 倒れている異形を気にしつつ、子供たちを見ていくが……。

 全員首を切られて、血が抜かれているようだ。

 なんて残酷な……。

 以前見かけた子供たちには大きな外傷が見当たらなかったけど、召喚の儀にも色々な種類があるのだろうか?

 わからないことが多過ぎて、結論は出せないが……。


「姉さん、動き出しました」

「はぁ、やっぱりか……。燃やして何とかなるかな?」


 カレンの声に振り返ると触手を支えに起き上がろうとしている異形が目に入る。

 とりあえず、逃げられるようにしておくか。

 子供たちは……仕方がないよね。

 心の中で手を合わせながら出口へ向かって歩く。


「それじゃいくよ。炎弾(えんだん)


 いつでも逃げ出せる位置に立ち、火の玉の魔法――炎弾(えんだん)を異形へと撃ち込む。


『ヴゥアァアァアァ……』


 着弾し燃え上がる異形。

 呻き声を上げながらも全く効いていないかのように立ち上がった。


「もう何発か撃ち込んでおくか」


 二発、三発と撃ち込むごとに激しく燃え上がる異形。

 全身火だるま状態の異形は、そのことを気にも止めず触手を振り上げ、こちらへ向けて放ってきた。


「――障壁(しょうへき)


 魔力で作った障壁(しょうへき)で異形の触手を防ぐ。

 対物理対魔法に優れているため、よほどの攻撃でなければ破られることはない。

 それを剣で破壊する常識知らずもいるけど……。


「ちょっと離れようか。このままじゃ(らち)が明かないし、洞窟ごと埋めよう」


 子供たちは残念だけど(かえ)る場所もないし、私たちだけで全てを(とむら)ってやることなんてできない。

 それなら、せめて(かたき)討ちとして、この異形を始末するだけだ。

 再び心の中だけで手を合わせ、カレンと共に出口へ向かって駆け出す。


「埋めるって……どうやるのですか?」


 小走りに駆けながらカレンが聞いてくる。

 異形の移動速度は遅いし、会話するぐらいの余裕はあるだろう。


「んー、人が掘った洞窟なんて補強を入れない限り(もろ)いもんだよ。このぐらいならちょっと衝撃を与えるだけでも崩れるはず」

「いえ……。ですから、その洞窟をどうやって崩すのかな、っと」


 あー、なるほど。

 魔力量の少ない私じゃ強大な魔法を放つことなんてできないし。

 普通にやったんじゃ無理だと思うか。


「ふふふ、私に任せなさい。伊達(だて)に長いこと魔術師と名乗っていないよ」

「はぁ……」


 なんでそんな残念な人を見る目で私を見るのかな?

 姉と呼んでいるぐらいなんだからもっと尊敬してもいいんだよ?

 ここらで姉としての威厳を取り戻さないといけないか……。


「私は他の魔法使いとは違うんだからね」


 詠唱やイメージで魔力を魔法に変換する魔法使いと違い、魔術師は直接魔力を操作して不可思議な現象を起こすことができる。

 魔法使いと同じような魔法はもちろんのこと、魔力を直接操作することにより身体強化も可能だ。

 魔力量の少ない私が冒険者として渡っていくためには、こういった工夫も必要だったのだ。

 カレンの言い訳にそんなことを考えていたが、説明が終わる前に洞窟の外へと到着する。


「カレンは離れていてね」


 洞窟の入り口から少し離れたところでカレンだけを避難させ、魔力を練っていく。

 今から放つのは炎弾(えんだん)風槌(ふうづち)といった単純な魔法ではなく、炎と風の混合魔法。

 構成が複雑な分、魔力を練るのに少しだけ時間がかかる。

 ただまぁ、その難点も他の魔法と比べ数秒程度の差ではあるが。


「――炎爆(えんばく)


 手の平から放出された、拳大の球体が飛んでいく。

 炎弾(えんだん)のように燃え盛る炎や速度はない。

 風槌(ふうづち)のように物理的な破壊力もない。

 魔力のエネルギーは直接的な燃焼には用いられず、気体の()()に大部分を費やせられる。


 静かに飛んでいく球体。


 その球体が洞窟に吸い込まれていくように消え、念のためにと私はカレンの元へ駆け寄り、木の陰に身を隠した。

 その直後、耳を紡ぐ爆発音と共に暴風が洞窟の奥から噴き出してきた。

 放出した球体は、圧縮されていた気体が本来の姿を取り戻し、数百倍にまで膨張、周囲の空気を押し広げる。


 そこへ、火炎が伝播していくことで爆発的な破壊力を生み出している。

 その破壊力は人工的な洞窟を崩落させ、跡形もなく消し去るほどの威力を有していた。

 噴出してきた熱風に粉塵、それを木の陰に身を隠しながらやり過ごす。

 そのまましばしカレンへと身を寄せ、落ち着くのを待つ。


「……姉さんって、実は凄かったんですね」

「姉と慕っているのになんでそんな辛辣(しんらつ)なのかな?」


 崩落した洞窟を目の前に、カレンから厳しい一言を浴びる。

 もう少し優しくしてくれてもいい気がするんだけど。

 やっぱり、今回も無茶したことを怒っているのかな。

 ガラガラと瓦礫(がれき)の破片が転がってくる中、舞っている粉塵を風魔法で拡散させる。


「これで終わりかな?」


 洞窟のあった場所は瓦礫の山となっており、跡形もなくなっている。

 風魔法とは違う自然の風が草木を揺らし、元々あったかのように瓦礫の山が自然へと溶け込んでいた。

 これなら、変に掘り起こされなくていいか。

 子供たちをこんな形で埋葬してしまい、申し訳ない気持ちもあるが、どうか安らかに眠ってほしいと切に思う。


「……さて、終わったし、行こうか」



 残念な結末となってしまった村――ラエムンをあとにし、当初の目的地だったフェネオンの村へと先を急ぐ。


「本当はイリエスさんへ報告した方がいいんだけど……。仕方がないよね」


 村人の殺戮(さつりく)に子供の誘拐、そして――召喚の議。

 これだけの大事件ではあるため、本来であれば報告して今後の対策を取ってもらった方がいいのだが……。


「こんな後ろ盾も何もない子供が言うことを、どれだけ信じてくれるか」


 信じてくれないだろうし、逆に変な疑いをかけられて拘束される可能性もある。

 今はリンちゃんのこともあるし、そんなに時間をかけられるわけでもない。

 申し訳ないけど、この件についてはこれ以上首を突っ込むことができないかな。

 そう答えを出し、洞窟から離れた私たちはそのまま林道へと戻って元の分岐路まで歩いて行く。


「そういえば、カレンは大丈夫? 魔眼をかなり使っていたようだけど」


 隣を歩くカレンの瞳はいつもの翠眼(すいがん)へと戻っており、特に疲れているような様子はないが、万が一のこともある。


「はい。集中力は必要でしたが難なく使いこなすことはできました」


 あれだけの魔眼を併用したのに……それはすごいな。

 改めてカレンの能力(ちから)が規格外だということを思い知らされる。

 まったく、この子にはいつも驚かされるなぁ。

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