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23 冒険者としての収穫

「俺はここから西のラスティという名の街にいてな。普段はあまりこっちに来ないんだが、どうしても目覚草(めざめそう)が欲しくてわざわざやって来たんだよ。まぁ、大した魔物も出ないと高をくくっていたのだが、まさかルサニウス程度に遅れをとるとはなぁ……」


 三人で山を登りながら冒険者――ガロンさんの話に耳を傾ける。

 ガロン――どこかで聞いたことのある名前だけど、気のせいかな。

 それにしてもラスティの街……か。

 あの街には色々な思い入れがある。

 できれば少し情報を得たいところなんだけど……。


「ガロンさんは冒険者なんですね。長いんですか?」

「うーん、もう二十年以上やっているかな。いまだに万年Bランクから抜け出せないでいる」


 あっはっはっ、と気さくな笑いで冗談を言ってくるガロンさん。

 Bランク冒険者といえば駆け出しから卒業し、一端の冒険者と名乗れるぐらいまでに力を持った冒険者である。

 大体の冒険者はCランクかDランク止まりなんだからべつに恥ずかしいことではないだろう。

 ごく稀にBランク冒険者がいて、Aランク冒険者は一つの大きめな街に一人いればいい方だ。

 Sランク冒険者ともなれば、その国に一人いるかどうかの逸材となる。


「見るからに君たちは旅人みたいだが、こんな森の中まで来るんだからもしかして冒険者かい?」

「……えぇ、コラコールの街で登録したばかりですが。私はGランクで、この子はFランク、ですね」

「あー、年齢制限か。でもまぁ年齢さえクリアすればFランクになれるんだ。二人はコラコールの街から来たんだろ? それだけの実力があればすぐにでもランクは上がるさ」


 ランクの話をする私を不憫に思ったのか、なんてことはないように言うガロンさん。

 まぁ、私の場合ギルドランクを必死に上げるつもりはないから良いんだけど。

 ランクが低くても力のある人や強い人はいるし、逆に高ランクの人でも弱い人はいる。

 結局はギルドの貢献度合いによって変わるものなんだからあまり気にしても仕方がない。

 私も以前はCランク冒険者として登録していた。

 ランクを上げるような話は何度もあったが、あまり目立ちたくはないのと、のんびりやっていきたいということもあり、ランクはそのままにしてもらっていた。

 大多数の冒険者が登録しているCランクであれば変に目立つこともない。

 逆に低過ぎるEランクやFランクは避けたかったし、Gランクなんていうのは論外だというのに……。

 まぁ、嘆いても仕方がない。

 あまり目立たないように行動すればいいだろう。


「っと、そろそろ頂上かな?」


 視線が高い分、ガロンさんの方が先を見通しやすい。

 傾斜も少しずつ緩くなってきているし、目的地は近いのだろう。

 開けていく視界に広がっていく蒼空。

 木々の合間から見えるそれらは頂上に到達した者だけに許される絶景だった。

 あまり高くない山とはいえ、周りは平地になっており景色がいい。

 ここからだと、フェネオンの村も見えるな。


「おっ、あったぞ」


 そんな景色に見とれていたところ、少し離れたガロンさんが足下の草を探っている。

 近付くとそこには葉の形が三日月をしている草が沢山――。


目覚草(めざめそう)ですか。結構生えていますね」

「そうだな。道具屋のじいさんが言っていたんだが、しばらく採取に来られなかった分、繁殖したんだろう」


 そういって目覚草(めざめそう)を摘んでいくガロンさん。

 私も摘むか。



 その後、三人でしばらく目覚草(めざめそう)を摘んでいく。

 この薬草は三日月の葉の部分が薬として役立つため、なるべく茎は残して置いた方がいい。

 そこから次の新しい葉が生えてくるからである。


「こんなもんでしょうか」


 採り尽くしてしまわないよう、ほどほどのところで手を止める。

 リンちゃんの分は十分採取したし、あまり持っていても仕方がない。

 まぁ、余った分は収納魔法に突っ込んでおこう。

 さほどかさばるものでもないし、時間停止の効果もあるから品質は劣化しないしね。


「そうだな。ほれ、この分も持っていきな。道具屋へ渡す分の足しにはなるだろう」

「え……? いいんですか?」


 採取していた袋の内、一つをこちらに渡してくるガロンさん。


「あぁ、大した礼もできていないしな。それに、俺はこのままラスティへ向かうからフェネオンには遠回りになっちまう。代わりに渡しておいてくれや」

「そうですか。そういうことであれば遠慮なくいただきますね」


 お言葉に甘えてガロンさんから麻袋を受け取る。


「うし。やることはやったし、俺は行くぜ。また会うことがあったら、その時はよろしくな」


 そう言って別の道から山を下っていくガロンさん。

 そのまま背中が見えなくなるまで見送っていた。


「さて、私たちも行こうか」


 いつまでもそうしているわけにもいかないし、早く山を下りよう。



「姉さん、あの魔物の素材とかはいらないんですか?」

「ん? あぁ、ディアスカリ? うーん、羽毛はほとんど燃えちゃったしねぇ。残っているのは肉と爪、くちばしぐらいか」


 空を見上げ、日の傾きを確認する。

 ……今ならまだ寄り道はできるか。


「そうだね。折角だし、採れるものは採っていこうか。カレンに解体のやり方とかも教えたいし」


 そうやって元の開けた場所に戻ってから森の奥深くへと潜っていく。


「うわぁ……」


 珍しく驚きの声を上げたのはカレン。

 茂みをかき分け入っていった少し先、焦げ臭さと血の臭いが鼻につく場所でそれは横たわっていた。

 何本もの大木が根本で千切れ飛び、地面がえぐれ、鮮血が草木を赤く染めている。

 そんな場所で巨体な鳥――ディアスカリの亡骸は横たわっていた。


「うーん、あらためて見ると凄い状況だね」


 アウルやルチアちゃんであれは高威力の攻撃で一撃なんだけど、私みたいに魔力量の少ない人間は手数で稼ぐ必要がある。

 そうなると必然的に魔物の抵抗も激しくなるわけで――。


「中々凄惨(せいさん)な状況ですね」

「だね。ま、血の臭いに釣られて他の魔物が来てないからよかったかな。早速必要部位の剥ぎ取りにかかろうか」


 ディアスカリで素材となる部位は、その強固なクチバシと爪に羽毛、それに低カロリーながら旨みが凝縮しているその肉である。

 羽毛は炎弾で炭になってしまったからクチバシと爪かな。

 あとは自分たちで食べるための肉を切り取っていこう。


「クチバシは目の下にナイフを突き入れてえぐるように、剥がしていってね。こういう風に……」


 カレンにやり方を教えつつ、ディアスカリへ解体用のナイフを突き立てる。


「爪は足の指の根本を切り落とすように。勢いをつけてね。余分な部位が残っていると査定に響くけど、切り落とし過ぎるよりはいいからね」


 カレンは顔色を変えることなく、私の全てを習得しようと手元を真剣な目で見ている。

 魔眼を(おこ)しているあたり、何か能力(ちから)を使っているのかな?


「肉はこの太もも辺りにしようか。油が乗っていておいしいよ。野営の時にでも食べよう」


 切り取ったディアスカリの肉は近くにあった大きめの葉っぱで包み、収納に入れておく。

 こうすれば鮮度を保ったままにできるしね。


「よし、こんなものかな。他の魔物が寄ってくる前にこの場所を離れようか」


 水洗いしていた解体用のナイフも収納へと仕舞い、カレンとともに再び山を下りる。



「それにしてもさすがというかなんというか……。あの魔物を一人でやっつけたんですよね。周りが大変なことになっていましたが……」

「うーん、そうだね。討伐ランクはBとちょっと高めだったから倒すのに時間がかかっちゃったかな。怪我は大したことなかったんだけどね」


 山を下りながら、カレンと先ほどの魔物について話す。


「魔物のランクもSからFまでランク付けされていてね。さっきの魔物はランクBになるから、そこそこの高ランク魔物だね」


 魔物へのランク付けも七段階で付けられているが、Sランクは規格外、ランク付け不可の魔物に付けられるランクだから、実際に敵対する魔物はAランクが最上位となる。

 逆にFランクは害が無いけど一応魔物、ってことで付けられるランクだから実質Eランクが魔物の最低ランクとなる。

 そのため、実質AランクからEランクが頻繁に会う魔物の討伐ランクとなる。


「確か、そのランクの魔物を倒すのに同じランクの冒険者が四、五人必要と聞いたのですが……」

「基本はそうだね」


 カレンの言っていることは間違っていない。

 ただ、それはあくまで目安だし、私みたいにランクを意図的に上げない人もいる……はず。

 カレンが呆れるかのようにため息を一つついて話を促す。


「姉さんの前世はCランク冒険者でしたっけ。確か」


 私の過去も含めカレンは知っている。

 以前、魔眼の能力(ちから)で私の全てを()られたからだ。

 それこそ、転生前のテスヴァリル(ここ)での生活などもだ。


「そうだねー。目立つのは嫌だったから、敢えてそれで止めていたっていうのもあるしね」

「それでもSランクのドラゴンを一人で倒しているんですから……。ギルドも放っておかなかったでしょうに」

「あれは私の力というより、剣のおかげだからね?」


 前世では成り行きでドラゴンと戦う羽目になったことがある。

 その時はなんとか倒すこともできたが、全て私の力ではなく、剣のおかげでもある。

 それなのに賞賛されてもな……。


「はぁ、姉さんは無欲と言いますかなんと言いますか……。もう少し褒め称えられてもいいと思うのですが」

「目立つのは嫌なんだよね。それに、カレンが知ってくれているし、それで十分かなと思うよ」

「――っ、当然です。ワタシは姉さんのことを全て知っていますし、受け入れています。周りがなんという評価をしようが、ワタシだけは唯一姉さんのことを理解しています」


 急に早口になって捲し立てるよう言葉を並べるカレン。

 少し様子が気になって横へ顔を向けると視線を逸らされた。


「カレン?」

「なんでもありません。ほら、もうすぐ村に着きますよ」


 その言葉に前を向くとちょうど山道も終わり、村の建物が見えてきた。

 もうすぐ日も暮れる。

 ちょうど良い時間だ。


「ホントだね。それじゃ、先に道具屋へ行ってそのあとにご飯としようか」


 目覚草(めざめそう)を採りに来ただけだというのに、ラスティの街の冒険者と出会い、Bランクの魔物とも遭遇した。

 中々に濃厚な一日であったとは思う。

 そんな一日をなんとか乗り切り、やっと村に帰ってきたのだ。

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