21 道具屋での目覚草の情報
…………。
「――姉さん。どうかしたんですか?」
「ん? あぁ……ちょっとこの世界に来たときのことを思い出していてね」
毛布に包まっているカレンに声をかけられ、思い出したかのように枯れ枝を一つ、焚き火へと放り投げる。
「テスヴァリルへ来たときのこと……ですか?」
焚き火が一つ大きく弾け、火の粉が夜空へと舞っていく。
「そうだね。ここ数日のことなのに色々あったなぁ、と思ってね」
転移が成功したと思ったらみんな転移酔いに苦しめられ、リンちゃんは眠ったまま目を覚まさない。
精霊が出て来たと思ったら、精霊王を追いかけて妖精女王はいなくなった。
フェネオンの村を目指す最中にラエムンの村が襲われ、また召喚の儀に遭遇した。
異形は相変わらずの姿で厄介だったし。
「……確かに。姉さんと一緒にいると退屈しないですね。フランコリタでも色々と巻き込まれていましたし……」
「それはあまり言わないで」
小さくため息をついてカレンの言葉を遮る。
自分はトラブルメーカーではない。
――ではない、と思いたいところだけど、カレンの言うとおり色々とありすぎる。
このまま何事もなく過ごせれば一番いいんだけど……。
明日はやっとフェネオンへの村に到着する。
長い旅路ではなかったはずだが色々なことがありすぎて、街を離れて随分経っているような感覚に陥る。
明日は何もなければいいな。
そんなことを思いながら二日目の夜を過ごしていく。
翌朝、北に向かって歩き続け、二晩過ごした次の日の昼頃、遠くに目的の村――フェネオンが見えてきた。
その村は山の麓にあり、自然と共に存在しているような村だった。
形だけの柵が村を取り囲んでおり、入り口は門番がいることもなく開け放たれている。
その様子を眺めながら、道なりに下りて村へと向かっていく。
「やっと着いたね。とりあえずは宿屋を探そうか」
村の中へ足を踏み入れ、近くを歩いている女性に声をかけた。
その女性と二言三言話してわかったことだが、どうやらこの村には宿屋が一軒しかないらしい。
まぁ、泊まれるのであればなんでもいいか。
「ありがとうございます。早速向かってみます」
「あぁ、それにしても子供二人で旅をしているのかい? こんな村に寄るなんて何も無いんだけどねぇ」
女性はそう言うと頬に手を添え、ため息をついた。
呆れているような、疑問に思っているような、そんな表情だった。
「あ、私たち、目覚草を探しに来たんですよ。直接採取しに来た方が早いと聞いたもので」
「あぁ、なるほどねぇ。この時期だったら道具屋にもあるかもね。宿屋の隣だから覗いてみるといいよ」
道具屋にあるのか。
それなら案外早く手に入るかな。
お礼をして早速宿屋に向かって歩く。
クルクルクルゥ〜。
「……宿をとったらお昼にしようか。道具屋の反対側にご飯屋さんがあるみたいだしね」
「……はい」
そう言ってカレンは俯き加減に小さく頷いた。
訪れた宿屋は村の割にちゃんとしており、二人一部屋が小銀貨五枚。安い。
やっぱりこの辺りは需要と供給のバランスなんだろうね。
そんなことを思いつつご飯屋に到着。
私たち以外にお客さんは二組ほど。
一組はこの村に住んでいる人たちだろうか。
二人で談笑しながら食事を進めている。
もう一組はお一人様。
同業者のような匂いがする冒険者風の男性。
剣を携えており少々いかつい。
二組とも入ってきた私たちへ視線を移すも、興味なさげに食事へと戻る。
「いらっしゃい。空いている席へどうぞ」
言われたとおり席へ着いてメニューを広げる。
そこには見慣れた名前の食材や料理が並んでいたが、カレンにはわかるだろうか。
そう思い視線を送ると、カレンは難しそうな顔をしてメニューを睨んでいた。
「……私が頼もうか?」
コラコールの街でもそうだけど、魔物や野草の名前を知らなきゃどんな料理なのかも想像が付かない。
いや、炒め物や煮込みであればなんとなくわかるのだろうが、それが肉なのか魚なのか、またまた野草なのか、まったくわからない。
まぁ、内陸のこの辺りじゃ、まず魚料理はお目にかかれないんだけどね。
「……いえ、ワタシがチャレンジします」
おぉ、いい意気込みではあるが……。
まぁ、メニューを見る限り変なものはないから大丈夫か。
地方によっては虫料理とかあるし。
虫料理も見た目が悪いだけで味は悪くないんだよね。
積極的に食べたいものではないけど……。
そんなことを考えていたら、カレンが手を小さく上げ女性の店員さんを呼んでいた。
愚豚の炒め物に多角兎の丸焼き、揚げた狸狐に野草の盛り合わせ、などなど。
五種類ほどの料理を注文。
「……それぞれ二人分で」
かける二で。
「……ちょっと時間もらっていいかい? 昼間は一人でやっているからさ」
店員さんは少し驚愕しながらも営業スマイルで奥へと戻っていった。
「相変わらずよく食べるねぇ……」
いつもどおりのことではあるが、この小さな身体のどこにあれだけの料理が入るのだろうか。
そんなことを思いつつ、ふと視線を感じ、横を見ると二組のお客さんがこちらを凝視していた。
……うん。これだけ小さな村だとよく目立つねぇ……。
時間がかかると思っていた料理も、案外早く出てきた。
お陰でハラペコ怪獣が大騒ぎしなくてすんだね。
「誰がハラペコ怪獣ですか。それに大騒ぎなんてしませんよ」
凄い勢いで減っていく料理を尻目にそんなことを考えていたんだが、カレンにはどうやらお見通しのようだった。
十人分の料理をサクッと完食。
「いい食べっぷりだねぇ。それだけ食べてくれると、こっちも気持ちがいいよ」
食後のお茶をのんびりと嗜んでいたところ、先ほどの店員さんが声をかけてきた。
「見たところ旅人のように見えるけど、子供二人で旅をしているのかい?」
「あはは、ご飯おいしかったです。えっと、旅というほどではないんですけど、この村には目覚草があると聞いてきたんですが」
「あぁ、あの薬草を探しているのかい? いつもなら道具屋にあるはずなんだけどね。聞いた話だと、生息地の道中に魔物が現れたとかなんとかで、今は在庫がないんじゃないかな」
なんですと……?
「それじゃ、手に入らないんですか……?」
「うーん、なんともだねぇ……。とりあえずは道具屋の爺さんに聞いてみたらどうだい? もしかしたら在庫が残っているのかもしれないしね」
ということでやって参りました。
宿屋を挟んで反対側にある道具屋。
大通りに面しているとはいえ、あまり人通りがないためお客さんはいなさそう。
意を決して扉を開ける。
「いらっしゃい。何をお求めで?」
中へ入るとカウンターの奥にいるおじいさんから声がかかった。
「えぇと、目覚草ってありますか?」
「目覚草? あぁ……悪いね。在庫を切らしていてね。今は無いんだ。さっきも、冒険者の人が訪ねてきたんだけどね」
ため息交じりにそう答えるおじいさん。
おぉう……まじか……。
ここに無いのなら直接採取するしかないのか。
でも、道中に魔物が出るとか言っていたな。
うーん……どうしよ。
とりあえず話だけ聞いてみるか。
「あの、どこに生息しているか教えていただくことってできますか?」
「それは構わないけど……。もしかして自分で採りに行くのかい? それはやめておいたほうがいいよ。道中に魔物――日向鳥が出たからね。いなくなるまでは無理だよ。それに、あんたたちは見たところただの旅人だろ? さっきの冒険者には教えたけど、あんたたちにはな……」
ご飯屋さんに聞いたのと同じく、道中に魔物がいるらしい。
それにしても、ルサニウスか。
確か森の中でよく見かけたことのあるルサニウスだけど、そんな脅威だった覚えはない。
飛ぶより走ることが得意な鳥で、調教が成功すれば人も乗れるという大型鳥。
どちらかというと、こちらから攻撃しなければおとなしい魔物であったと思うけどね。
討伐ランクはDだったはずだし、あまり人前には出てこないから冒険者以外には知られていないのだろう。
「それでもなんとかして目覚草が欲しいんです。それに私たちは旅人ですが、自衛の手段ぐらいは持っていますよ。コラコールの街から二人でやって来たんですから」
「お、おぉ、そうなのかい? それならなんとかなるかな……。もし可能なら多めに摘んできてもらってもいいかい? 余った分は買取させてもらうよ」
「本当ですか? それぐらいお安いご用ですよ」
そうやって目覚臭の在処を聞いて、道具屋をあとにする。
「日が暮れるまでには時間があるし、急げば間に合うかな?」
目覚草はこの村の裏手にある山奥へ群集地があるらしい。
人が通れるほどの道は均してあるから、迷うことはないだろうとのこと。
距離もさほど離れておらず、往復で半日程度の距離だそうだ。
「斜面は中々急だね。カレンは大丈夫?」
「えぇ、なんとか。ただ、長いスカートだとちょっと登りづらいですね……」
私とカレンの服装は膝下のスカートにブラウスのような格好である。
旅用に黒色のロングコートを羽織っており、外見上は旅人風の装いであるが、山登りをするには中々動きづらい。
「まぁ、無理をしないで行こう」
そんなことを話ながらカレンとともに、言われたとおりの道を頂上めがけ登っていく。




