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18 目覚草を目指して

「ん〜〜っ」


 窓から差し込む日が眩しく目を覚ます。

 そのまま大きく伸びをしようとして――身動きが取れないことに気が付ついた。


「……この子は相変わらずガッチリと決めてくるね」


 視線を横に向けると、そこにはスヤスヤと幸せそうに眠るカレンの姿があった。

 昨日の夜、ベッドをくっつけて一緒に寝ることにしたのだ。

 ハッキリ言ってこれだけ引っ付いていると、ベッドをくっつけた意味がないような気がするんだけど……。

 小さくため息を付きながらカレンの寝顔をあらためて観察する。

 長いまつげに整った鼻筋。

 顔も小さく、宿屋のお姉さんが美女揃いと言うのもうなずける。

 元々は浮浪児だったカレンであるが、そんな面影も感じさせることもない、可愛い顔をしている。

 出るとこは出ているし……うん、ズルい。


「んぅ……」


 そんなことを考えていると、目の前の少女のまぶたがゆっくりと開いていく。


「……姉さん。揉みたかったらいつでもいいんですよ」


 抱き付いている腕へ、押し付けるように強調する二つの()()


「朝から何を言っているのよ。それより、人の心を()まないで」


 起きた早々、さっそくこれだ。

 いくら心が詠めるといっても、なんでもかんでも詠まれたらたまったもんじゃない。


「姉さんは顔に出やすいので、能力(ちから)を使わなくてもわかりますよ」


 そういってほくそ笑みながら私の胸へ顔をうずくめるカレン。


「ちょっと、どこに顔を突っ込んでるのよ」

「おはようございます、姉さん」

「あぁ、おはよう。……って、そんなことで誤魔化せられないんだからね」


 引き剥がそうと、肩に手をかけたが――やめた。


「……はぁ、まったく。もう少ししたら起きるからね」


 肩にかけた手をそのまま頭へ乗せ、抱き付いているカレンの髪を撫でる。

 指の間を通り抜ける銀髪は手触りが良く、いつまでも撫で続けていられるほどの感触であった。



「治癒魔法はいる?」


 そのまましばらく――いつまでもそうしているわけにいかず、カレンを引き剥がして身体を起こす。


「あっ……。お願いします」


 少し言い淀みながらも受け入れるカレン。

 いつからか、私と寝るようになってから治癒魔法を求められるようになった。

 理由は……よくわからないな。

 みんなに聞いても教えてくれないし。


「私たちは準備できたよ」

「ん。ゴメン、アウルたちは治癒魔法、大丈夫?」

「あはは、今日は大丈夫だよ」

「そう?」


 苦笑いを浮かべながらそう答えるアウル。

 必要な時とそうではない時の違いがよくわかんないな。

 ま、いっか。


「待たせちゃっているね。先にご飯行ってもいいよ」

「りょーかい。それじゃ、先に行くね。コトミたちの分も注文しておこうか?」


 アウルの言葉でふとカレンに視線を送る。

 そこには物欲しそうな表情をするカレンが……。


「うん。売り切れにならない程度に頼んでおいて」

「あは、あはは……。朝から食べるんだね……」


 若干表情を引きつらせながらアウルとルチアちゃんは一階に下りていった。


「さて、私たちも顔を洗って用意しようか」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 朝から賑わいを見せる食堂を、入り口からキョロキョロと眺める。


「姉さん。奥の方にアウルさんたちがいますね」


 頭一個分の身長差のおかげか、カレンの方が早く見つけたらしい。

 なんとなく、負けたような気がしながら奥の方へ向かって進んでいく。


「お待たせ」

「……やっと来たね。テーブルがもういっぱいだよ」

「大丈夫。すぐにカレンが処理するから」


 元気なくつぶやいたアウルの目の前には所狭しと山盛り料理が並んでいた。


「処理って……。姉さん、一応食べ物なんですから……」

「おっと、ゴメンね。でも、早く食べないとあのお姉さんも大変そうだよ?」


 私が指差したそこにはピンクの髪を振り回しながら駆け回るお姉さんの姿が――。


「あぅ〜〜! 目が回るです〜! 人手が足りないです〜! お皿が足りないです〜!」


 言動はのんびりしているのに動きは案外早い。

 さすがこの宿屋を切り盛りしているだけはあるな。


「チップは多めに弾んであげるかな……」


 そう思いながら私も目の前の料理に手を付けていく。



「――ごちそうさま。カレンももう大丈夫なの?」


 慌ただしかった食堂も今は少し落ち着いてきたのか、先ほどの喧騒(けんそう)もなくなり、注目を浴びていた視線も今は平常時へと戻っている。


「……はい。あのお姉さんを見ていると、これ以上頼めなくて……」


 申し訳なさそうにフォークとスプーンを置くカレン。

 視線の先には――。


「次はあと片付けです〜!」


 いまだ慌ただしく動き回っているお姉さんの姿が……。


「まぁ……ね。今度は予約でもしておこうか。できるかどうかわかんないけど」


 通常、こういう宿屋併設の食堂は宿泊客の人数を見て仕込みを行う。

 特に朝はほとんどが宿屋の食堂で食べるだろうから。

 たまに朝食を食べない人がいたとしても宿泊客以上に仕込みをする必要もない。

 そのため、普通であれば宿泊客分だけ仕込めばいいのだが、カレンは一人で十人分以上を食べた。

 そうなってしまったら計画は意味をなさなくなる。

 それでも、売り切れることなく全員分を用意できたのはあのお姉さんの手腕なのか……。

 うん。今度から前日までに言っておこう。

 さすがに申し分けなさすぎる。

 そんなことを考えながら、お姉さんが慌ただしく動き回っている食堂をあとにした。

 ……あ、宿泊を延ばすこと伝えていないや。

 まぁ、今は忙しそうだし、あとでアウルに言伝(ことづて)を頼もう。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「さて、準備ができたら私たちは出発するね」

「うん。二人とも気を付けてね」

「アウルもね。リンちゃんのことは任せたよ」


 部屋に戻った私たちはリュックに必要な物を詰め込み、出発の準備へとりかかる。

 目指すは北にあるフェネオンの村だ。

 昨日買った地図によると、この街を出てからずっと北へ行ったところにあるらしい。

 ギルドで聞いた話では村まで三日ほどかかるという。

 最短でも往復六日。

 採取に時間がかかればそれ以上の日数が必要となってくる。


「とりあえず十日、かな? それ以上連絡がなかったら別の方法を考えて」

「……珍しいね。コトミがそんなことを言い出すなんて」


 ……確かにそうかもね。

 昔は一人で何も考えずに行動していたけど、今は――。


「守るものが増えちゃったからね。さすがに自分だけの問題じゃすまないでしょ」


 アウルだけに限らず、その妹のルチアちゃん、カレンにリンちゃん。

 シロは……今はいないけど。

 良くも悪くも私の居場所が――帰る場所ができてしまった。

 私が居なくなったらみんなが悲しむ。たぶん。

 ……実は平気でした、とならないことを願いたい。


「姉さんはワタシが命をかけても守りますから」


 (そば)に近寄ってきたカレンが身を寄せてそう言う。


「ん。でも自分のことも大事にね」


 カレンのこの言葉は何度も聞いている。

 そして、何度訂正させても聞きやしない。

 自分の命も大切にって何度も言った。

 それでも私の命より優先するものは無いという話だ。

 それなら……私がカレンを守るだけだ。

 私自身もそうだし、この子(カレン)の命も守る。

 大変かもしれないし無茶なのかもしれない。

 それでも、成し遂げなければならないのだ。

 この関係を守るためにも――。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「忘れ物はない?」


 宿屋前でそう声をかけてくるアウル。


「アウルに心配されるほどボケちゃいないよ」

「そういう意味で心配したわけじゃないんだからね!?」


 相変わらずいい反応をする子だ。

 そんな他愛もないやり取りを微笑みながら見守るカレンにルチアちゃん。

 涙目となったアウルを横目にカレンへと視線を移す。


「準備はいい?」

「はい。地の果て地獄の果て、どこへでもついて行きますよ」

「そこまでの覚悟はいらないんだけど……」


 若干呆れながらも準備はいいようだ。


「じゃ、サクッと行ってくるね」

「うん。気を付けてね」


 アウルとそう言葉を交わし、宿屋をあとにする。



「さて、とりあえずは街道沿いに北を目指そうか。長旅ってほどではないけど、まだこの世界に慣れていないし、無理はしないで行くよ」


 宿屋の前でアウルとルチアちゃんに見送られ、街の中を北に向かって歩く。

 コラコールの街はそこそこ大きく、街を抜けるだけでも一苦労だ。

 そのまましばらく大通りを歩いていき、門番さんに会釈してから街を抜ける。

 街の外は街道がまっすぐと、地平線の彼方まで続いている。

 この世界(テスヴァリル)でまた新たな冒険が始まろうとしていた。

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