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17 宿屋での生活

 その後、アウルとルチアちゃんも問題なく冒険者ギルドへの登録は済んだらしい。

 得意なものとして、アウルは剣で、ルチアちゃんは魔法として登録。

 ま、無難なとこだよね。


「さて、みんな冒険者ギルドへの登録が終わったから、とりあえずの身分証は確保できたかな。何かあればギルドを頼ればいいし、当面の活動には問題ないね」


 私と隣に座るカレン、対面のアウルとルチアちゃんも同様に頷く。


「ギルドで聞いたけど目覚草(目覚めそう)はフェネオンという村まで行く必要があるらしい。片道三日と言っていたね」


 多少の地理関係は覚えているけど、さすがに全ての村を覚えているわけではない。

 あとで地図を買っておこう。


「その間、リンちゃんを放ったらかしにはできないから……アウルとルチアちゃんにお願いできるかな? 私とカレンの二人で行ってくるよ」

「二人で大丈夫? 私かルチアが付いていった方が良いんじゃない?」


 二人で向かうことに対し、アウルが心配したかのように声を上げる。


「それも考えたけどアウル一人じゃ心配だし、かといってこの世界になれていないルチアちゃんを一人にするのも不安がある。結局は二人とも残ってもらった方がいいね」

「私一人じゃ頼りないかなぁ……」

「大丈夫だよ、お姉ちゃんは頼りになるよ」


 ガックリとうな垂れるアウルに対し、励ましの言葉をかけるルチアちゃん。

 いい子だねぇ。


「ま、冗談はさておき、一人じゃ不測の事態に対応しきれないからね。二人とも残ってくれた方が心強いかな。こっちはカレンがいるし、なんとかなるよ」

「任せてください」


 頼られてか、少し嬉しそうに返事をするカレン。

 何が起きるかわからないけど、カレンの能力(ちから)があれば大概のことはなんとかなるだろう。

 世界にも貴重な魔眼の使い手。

 頼りにさせてもらおう。


「そういうわけで、今日は買い出しとか準備を進めて、明日の朝に出発するよ」

「了解」

「ついに冒険が始まるのですね」

「姉さんはワタシが守る」


 三者三様の反応でこの話を締める。

 その後、交代で色々と必要な物を買い出しに行った。

 地図はもちろんのこと、野営に必要な干し肉や乾燥野菜、簡単な食器類など買いそろえた。

 水は魔法で出せるし、毛布はフランコリタから持ってきた物があるから問題ない。

 そういった物を日が沈むまでに諸々と取り揃える。

 そうして日が沈み、宿屋の食堂で今夜の食事を取る。



「ん。懐かしい味だね」


 昼に食べた食事もそうだけど、こういう料理を口にするとやっぱりテスヴァリルに戻ってきたんだと実感する。


「うん。私もそう思った」


 目の前のアウルも僅かに微笑み、同じくスープをすくって口に運んでいる。

 今日の夜ご飯はサラダに野菜のスープ、何かの肉――恐らく魔物だろう――の炒め物、それとパン。


「このパン……歯ごたえがありますね」


 パンに使う言葉ではないが、カレンの言葉は、まぁ、当てはまる。

 一般市民が食べるパンは少々……いや、かなり固いのだ。

 下手したら歯が欠けるほどに……。


「だいたいがスープと一緒に食べるようになっているからね。柔らかいパンもあるけど、それは貴族の人たちが食べるような高級品かな」


 そう言ってお手本のようにスープへパンを浸す。

 カレンとルチアちゃんも見よう見まねで同じようにしている。


「行儀が悪いとか言われないでしょうか……」


 ルチアちゃんが心配しているようだけど、この辺では問題ないかな。

 フランコリタでも国や地域によってマナーが違うように、このテスヴァリルでも国や地域によってマナーが違う。

 ただ、固いパンについてはどこも似たような食べ方かな?


「あ、高級な柔らかいパンはそのまま食べるのがマナーだよ。まぁ、あまりそういう機会はないかもしれないけどね」


 二人が頷きつつ、スープで柔らかくなったパンを口に運ぶ。


「あ、おいしい」

「うん。スープの塩気がパンの味を引き立ててくれている」


 カレンとルチアちゃんが意外だとばかりにそれぞれの感想を口にする。


「あはは〜。ありがとうございます〜。皆さんにそう言っていただけると父が喜びます〜」


 ふと、声のした方を見ると、昼間受付をしてくれたお姉さんが料理を運んでいる最中であった。


「皆さんのお口に合うかどうか心配だったんですが〜。大丈夫でしょうか〜」

「……? えぇ、おいしいと思いますよ?」


 料理を運び終えたお姉さんが再び私たちの前に現れ、そんな疑問を口にする。

 食堂にはチラホラとお客さんがおり、そんなに寂れている様子はない。

 味もこの宿の価格帯であれば十分合格点ではあるのだが……。


「はぁ〜、よかったです〜。あまり貴族の方たちにお料理をお出ししたことがないので、父も気が気じゃなかったんですよ〜」


 ……貴族? 誰が?


「あの……私たち、別に貴族とか、そんなのじゃないんですが……」

「へぁ? そう〜、なんですか〜?」


 変な声が漏れたかと思うと、目を丸くして驚くお姉さん。

 いや、驚くのはこっちだわ……。

 目の前のアウルやルチアちゃん、カレンも驚くようにお姉さんを見つめている。


「……なんで貴族と思ったか、聞いてもいいですか?」

「へぅ。だって〜、皆さん高価な服を身にまとっていますし〜、美女揃いじゃないですか〜。幼い娘さんが社会勉強のために泊まりに来たのかと〜。そう思ったのですよ〜」


 ……確かに、私たちの服はフランコリタで仕立てたからそれなりの質ではある。

 だけど、別にヒラヒラドレスとかではなく、れっきとした冒険者向けの服装だ。

 ただ、装備を外すとかなりの軽装だし、町娘と見られても致し方ないか……。


「それは……すみませんでした? 期待させて申し訳ありませんが、私たちはただの冒険者ですよ」

「あぁ〜、そうなんですね〜。いえいえ〜、こちらが勝手に勘違いしただけですし〜大丈夫ですよ〜。むしろこちらこそ申し訳ありませんでした〜」


 そう言って頭を下げるお姉さん。


「でも、まぁ、美女と言われて悪い気はしないよねー」

「コトミ、悪い笑顔になってるよ」


 うっさいわ。

 なんだよ、悪い笑顔って。

 そんなことがありながらも、楽しくおいしい食事は続いていく。



 日も完全に沈み、あとは寝るだけとなって部屋に戻る私たち。


「お風呂は無理でも、せめて身体は拭こうか」


 ご飯を食べたあと、桶だけ借りてきた。

 しめて銅貨一枚なり。

 そのまま部屋の鍵をかけ、部屋の真ん中に置いた桶に魔法でお湯を張る。

 バシャバシャと音を立てながら出てくるお湯を適温となるように温度を調整していく。

 このお湯を出し、温度を調整するという魔法は世の中にはあまり出回っていない。

 少なくとも私がテスヴァリルにいたときは使える人を見たことがない。

 簡単のように見えるけど、水魔法と火魔法を器用に使い分けながら水を温めているため、その難易度は高威力の魔法を力任せにぶっ放すより難しい。

 それを知ってか否か、ルチアちゃんは私の手元をジーッと見つめ続けている。

 確かルチアちゃんはこの前、温風魔法を使えていたかな?

 それなら温水を出す魔法もいつかは習得可能だろう。


「よし、こんなものかな」


 昼間に買いだめしてきた布切れを手にし、各々身体を拭いていく。


「姉さん、お手伝いしますよ」

「ん。じゃあ、背中をお願いしようかな」


 一人で身体を拭くこともできるけど、カレンはこういう時に必ず手を出してくる。

 そして、断ろうものなら散々駄々をこねて不貞腐れる。

 ご機嫌取りも大変で、結局私が結局折れることになるのだから、押し問答をするだけ無駄というものだ。


「ルチアは私が拭いてあげる」

「ありがとう。お姉ちゃん」


 反対側のベッドでも同じように身体を拭き合っている姉妹がいる。


「……前は自分でやるよ」

「いえ、ワタシにお任せください」


 このやり取りもいつもどおり。


「はぁ、お風呂と違って石鹸もないんだし、擦るのに力加減わかんないでしょ。それに汚いよ」

「姉さんに汚いところなんてないですよ」

「その言葉を女の子の口から聞くことになるとは思わなかったわよ」


 盛大なため息を包み隠さずに吐き出す。

 後ろへ少し視線をやると期待の眼差しをこちらへ向けているカレン。

 ……はぁ、私も甘いなぁ……。


「……上だけだからね」

「むぅ……。仕方がありません。今日は我慢しておきます」


 カレンさんや。

 手を出している時点で我慢できていませんよ。

 そんな心の嘆きも無視してカレンは手を動かしていく。はぁ……。

 その後、残りを自分で拭いて、お返しにカレンの身体も拭いてやる。

 拭くのも拭かれるのもカレンは嬉しそうだった。

 なんか負けた気がするのは何故だろうか……。


「カレンさんの、やっぱり大きいですね……。わたしもあと一年であそこまで成長しますかね」


 ルチアちゃんがカレンと、自分のを比較しながらポツリとこぼす。

 いや、たぶん無理じゃないかな。

 この子(カレン)は自称十二歳と言っているけど、この大きさは十二歳にしては大きすぎる。

 恐らくそれ以上……。

 あ、でも下は――。


「姉さん? いくら姉さんでも言って良いことと、悪いことがあるんですよ?」


 目の笑っていないカレンからそう言われ、下げていった視線を逸らす。


「あ、いや……。口には出していないんだけど……」

「ふふふ……。姉さんとは身体の付き合いが足りないようですねぇ。次のお風呂を楽しみにしていますよ。ふふふ」


 変な悪寒が身体を駆け上っていく。

 普段と雰囲気の違うカレンから視線を外し、貞操の危機を感じながらも残りを吹き上げていく。

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