16 年齢詐称のこと
「君たち、僕たちのパーティーに入らないかい?」
「いえ、結構です」
いきなり道を塞ぐように声をかけてきた男性。
少し時間をかけすぎたか。
お約束の展開にうんざりする。
「そうは言っても新人君、特にギルドへ登録した直後は無茶をする人が多いからね。すぐ死んじゃう子たちもいるんだ。だから基本は先輩たちのパーティーに入って経験を積むことが多いんだよ」
そう説明をする剣士風の男性。
左右にいる男性たちは同じパーティーメンバーだろうか。
片方は魔法使いのような格好をし、もう一人は槍を背中に抱えている。
そんな二人が同じように頷いている。
言っていることは間違っていない。
間違っていないが私たちには不要だ。
「はぁ、いえ、私たちの他にも仲間はいますから大丈夫ですよ」
「それならその子たちも一緒に来ればいい。歓迎するよ」
……いい加減うざくなってきたな。
そろそろ強行突破するか?
だけど、ギルド内で魔法を使うわけにはいかないし、あまり目立つことはしたくない。
さて、どうしたものか……。
「嫌がっている少女を無理矢理誘うとは感心しないね」
どうしたものかと逡巡していたところ、男性の向こう側――ギルド入り口から助け船が出された。
声のした方へ視線を向けると、白い鎧に身を包んだ若い男性がちょうどギルド内に入ってきた所だった。
「何を言う。僕たちは別に無理矢理な勧誘をしているつもりはないよ。お互い合意の上、話をしているだけさ」
「いえ、お断りしていますけど」
道を塞いでいる男性に向かってハッキリと告げる。
「あっはっはっ。まだ話は終わっていないよ。説明を聞いてから決めても遅くはないよ」
いや……だから、話を聞くまでもなく、パーティーに入るつもりはないと……。
この男性は人の話を聞かないのか、私の言葉を無視してつらつらと、パーティーのことについて話しだした。
あまりにも勝手すぎる男性について、呆れて言葉も出ない。
そんな私の気持ちを無視して話し続ける男性に、頷き続ける左右の二人。
「……これ、無視して帰ってもいいですかね」
そう言って、助け船を出してきた男性に視線を向ける。
その男性は両手で諦めのポーズをすると横に移動し、ギルド入り口の道を譲ってくれた。
……では、お言葉に甘えるとしましょう。
いまだ説明を続ける男性の横をすり抜けるようにギルドから出る。
そのまま小走りに離れるが、どうやら追いかけてはこないようだった。
「はぁ、まったく。災難だったね」
「姉さん。ワタシの能力で振り切ってもよかったのですが……」
「それは最後の手段。あとで説明するけど、魔眼持ちって結構珍しいんだよね。それに、カレンほどの能力を持っている魔眼持ちは、この世界では、まずいないの。そのことを考えると、あまり目立つようなことはしたくないかな」
カレンは複数の魔眼を使いこなしているけど、普通は一種類、よくて二種類の能力しか使えないものだ。
メジャーなのは遠くを視ることができる遠視で、その魔眼を持っている人は斥候役として重宝されている。
その他は、透視や眩視など、ほとんどが視ることに特化した能力だ。
それに、能力の強さも人それぞれ。
ほとんどの人が一生涯をかけても、今のカレンレベルまで達せないだろう。
ホント、反則過ぎる。
そんなことをかんがえながら、宿屋の入り口を開ける。
「ごめん、待たせちゃった」
宿に戻り、アウルたちが待っている部屋の扉を開ける。
「あ、コトミお帰り。うぅん、私たちはこの宿の食堂で済ませたから大丈夫だよ。それより何かトラブル?」
アウルとルチアちゃんは入り口近くのベッドで対面に座り、何か話しているようだった。
遅くなった私たちを心配そうに尋ねてきた。
「いや、大したことじゃないよ。ただ、ギルドにまたバカが現れたから気をつけて」
「あー……。たまにいるよね。今回だと勧誘でもされたのかな?」
「ご名答。アウルなのに鋭いね」
「『なのに』は余計だよ!?」
相変わらずいい反応をするアウル。
「それで、コトミさんたちは大丈夫だったんですか?」
アウルに続いてルチアちゃんからも心配の声がかかる。
「そうだね。たまたま通りすがりの人に助けてもらえたしね。まぁ、そもそも人の話を聞いていなかったから無視して出て来たんだけど」
大きなため息をついて、私もアウルの隣へと座る。
「それより、重大な問題が発生した。ギルド登録はできたんだけど、肝心な年齢制限を忘れていた」
「あー……そういえば十二歳以上だっけ? 登録できるのは。そうなると、依頼の受注や素材の売却で稼ぐことができなくなっちゃうね。どうしようか……」
ルチアちゃんはよくわかっていないけど、アウルは馴染み深い冒険者ギルドのことだからか、すぐに察してくれた。
「そうなんだよね。でも、依頼の受け付けとか、素材の売却はとりあえずなんとかなりそうかなぁ」
服の内側に仕舞い込んだギルドカードを取り出す。
「あれ? 登録できたの? 私と同じ、まだ十一歳じゃなかったっけ?」
「登録できたよ。Gランクだけど」
「……G? なにそれ?」
まぁ、そうなるわな。
疑問に思うアウルへ、先ほどギルドで聞いた話を説明する。
「それじゃ、登録自体はできるけど、まともな依頼は受けられないってこと?」
「いや、それもなんとかなる。カレン」
「うっ……」
私の呼びかけに渋々とではあるが、服の内側へ仕舞ったギルドカードを取り出すカレン。
「これはカレンのギルドカード? ……え? カレンがFって……」
「そ。この子は十二歳以上らしい。いや、実はもっと年上という説も……」
「ね、姉さん……」
私の説明に慌てふためくカレン。
年齢を誤魔化していたのがバレたためか、少し申し訳なさそうにしている。
「へぇ、そうなんだ。ま、私たちも人のことは言えないしね。もしかしたら事情があるかもしれないから、仕方がないんじゃない?」
カレンが内緒にしていたことについて、一定の理解を示すアウル。
ルチアちゃんもコクコクと頷いている。
「もし、年上だったとしても、わたしたちの関係は変わらないよね?」
「も、もちろん」
ルチアちゃんにそう言われ、嬉しそうに頷くカレン。
ん。二人とも大丈夫かな。
仲間とはいえ、今まで隠していたんだから一悶着あるかと思ったんだけど、杞憂だったようだ。
胸をなで下ろした私は話を続ける。
「ま、そんなわけで私たちはGランクからのスタートだけど、カレンがいるから依頼の受注や素材の売却は問題ないかな。……なんか、寄生しているようで嫌だけど」
「ね、姉さん……そんなことありませんから、頼ってくださっていいんですよ」
はぁ……。
カレンは申し訳なさそうにしているけど、頼られているからかどこか嬉しそうだ。
まぁ、事情が事情だけに仕方がないよね。
あと一年もしないうちに十二歳になるから、少しだけの辛抱だ。
「それじゃ、次は私たちが行ってくるから、リンさんのことよろしくね」
「ん。気をつけてね。特にバカには」
「あは、あはは……。うん、わかった」
そう言って部屋の扉を閉めるアウル。
カレンとルチアちゃんも笑顔で手を振りあっていた。
「さて、少しのんびりとしますかね」
交代でギルド登録することになったから、アウルとルチアちゃんに代わり、私たちがリンちゃんの様子を見ることとなった。
スヤスヤと眠るように穏やかなリンちゃん。
いや、本当に眠っているんだけどね。
シロの話だと、普通の昏睡とは違い、魔法で眠らされている――というより、時の流れから切り離されているようで、目覚めない限り何年、何十年と眠り続けるらしい。
しかも、肉体の劣化は押さえられているようで、お腹が減ることもないから食事も不要だし、色々なお世話も不要らしい。
リンちゃんであればそんなお世話も苦ではないが、本人の威厳的にもその方がいいだろう。
目が覚めた時が怖いしね……。
そんなことを思いながら奥に眠るリンちゃんの隣、真ん中のベッドに寝転がる。
「ん〜っ……はぁ、やっと一息ついたかな。色々とドタバタしていたし」
「そうですね」
相槌を打ったカレンはしれっと私の隣のベッドを占領していた。
別にいいけどね。
「せっかくこの世界でのんびりまったりしていこうと思ったのに、幸先よくないなぁ」
本来であれば冒険者ギルドへ登録して、適当に依頼をこなして、それなりに稼いで、日々のんびりとまったりと過ごしていければと思ったのに。
「当面の目的は目覚草の入手ですか? ギルドではフェネオンの村の近くで手に入れられると言っていましたが」
「そうだね……って、なに人のベッドに寄ってくるのよ」
大きなベッドで大の字になっていたところ、カレンがギシリと音を立て私の横に寝転がってくる。
「いえ……せっかくの二人きりですし、ここ最近ご無沙汰でしたので」
「何がよ。私たちの間には何もないでしょ」
隙あらばベタベタとしてくるカレンだが、この世界に来てからはしばらく自重していた。
遂に姉離れでもしたのかと思っていたが、どうやら考えが甘かったようだ。
「たまの姉妹水入らず、仲良くしましょうよ」
「……姉妹と言う割にはカレンの方が年上だよね」
「うっ……。せ、精神年齢は姉さんの方が年上なので、問題はないかと……」
確かに。
テスヴァリルで十八年、その後転生して十一年、精神の年齢はカレンよりも上だ。
「って、実際何歳なのよ。まさか二十歳超えているとかないよね」
「さすがにそれは……」
視線を外し言い淀むカレン。
怪しい……。
でも、さほど背が高いわけでもないし、顔も私と同じくらい童顔だ。
ま、何歳であろうとカレンはカレンか。
年齢が上であろうとなかろうと、私たちの関係が変わるわけじゃないし、いいか。
「って、それとこれとは別で、狭い。一つのベッドに二人は無理があるって」
「それならベッドをくっ付けましょうよ。アウルさんが戻ってきたら手伝ってもらいます。力ありそうですし」
「いや、そういう問題じゃないんだけど……」
あーだ、こーだと続ける私とカレン。
新しい世界に来て年上と判明したカレンだけど、私たちの関係は変わりないようだった。
ホッとしたような残念なような、そんな気持ちを胸に、会話は続いていく。




