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14 いい食べっぷり

「これからのことを決めようか」


 テスヴァリルへ来る前に、ある程度の方針は決めていた。

 だけどイレギュラー――リンちゃんのことがあったため、今後の予定を見直す必要がある。

 シロが居なくなったのも想定外だけど……あの子は、まぁ、大丈夫だろう。

 元の世界(フランコリタ)と違って、この世界には()()()()()()()()()()()のだから。



 ま、あの子のことは置いておいて――私たちのこれからのことだな。

 本当はテスヴァリルで冒険者登録して、のんびり過ごそうと思っていたんだけど……さて、どうしたものか。


「まずは目覚草(めざめそう)の入手だけど……生育場所がわからないから、冒険者ギルドで確認かな」

「そうだね、ついでに冒険者登録もする? 早めにしておいた方がいいよね。リンさんだけはできそうにないけど……」


 私の言葉にアウルがそう返す。

 アウルの言うとおり、冒険者登録はなるべく早い内にやっておきたい。

 身分証を持っていない私たちが唯一身分を保証してくれるのが冒険者ギルドなのだから。


「先にやっておこう。リンちゃんは目が覚めてから、あらためて登録すればいいや」


 シロもいないしね。

 そういえば妖精って冒険者登録できるんだろうか。

 まぁ、それはその時に考えればいいや。


「そうだね……。それじゃ、とりあえず冒険者ギルドかな? ついでに何か割のいい依頼でもあればいいんだけど、この時間じゃ難しいかな」


 時刻は昼前に差し掛かったところ。

 依頼票は朝に張り出されるため、遅い時間になればなるほど条件のいい依頼は無くなっていくのである。

 今の時間じゃいい依頼は残っていないだろうなぁ。

 そんなことを思いつつも、二、三点話し合いベッドを立つ。

 そうやってとりあえずの方針を決める。

 冒険者ギルドは来る途中にあったから一旦そこまで戻るかな。


「それじゃまずは冒険者ギルドに――」


 クルクルクルゥ〜。


 ――行こう。っと締めようとしたところ、久し振りに可愛い鳴き声を聞いた。


「…………」

「…………」

「……あの、ごめんなさい……」


 カレンが萎縮(いしゅく)するように、ポツリと零す。


「……先にお昼ご飯としようか。そろそろいい時間だろうだし」


 この世界、時計のようなものは無いけど、時報のように鐘を付いて、ある程度の時間を知らせてくるものはある。

 カレンの時報――お腹の虫が鳴くということはそろそろお昼なんだろう。

 私たちに鐘の音は必要ないな。



「カレンは何か食べたいものある?」

「いえ……さすがに来たばっかりの世界では何があるかわかりませんので、姉さんが選んだ物でいいですよ」


 隣を歩いているカレンが表通りをキョロキョロ見回しながらそう答える。

 完全にお上りさん丸出しである。

 いや、格好は冒険者そのものであるが、田舎から上京してきた娘というよりか、地方貴族がお忍びで冒険者をやっているような、そんな雰囲気がある。

 装備もほとんど汚れておらず、新品同様であるから尚更だ。

 うーん、なんか嫌な予感がするけど、心配しても仕方がないか。

 結局、リンちゃんを一人残すのは心配だということで私とカレンだけ最初に出てきた。

 お昼ご飯と冒険者登録が終わったら、アウルとルチアちゃんへバトンタッチの予定だ。

 そんなわけで、なるべく急いで戻ろう。


「それじゃ、手頃なお店に入ろうかね」


 そう言って、表通りに面している定食屋の扉を開ける。



「――えぇと、これとこれとこれ、それとこれとこれも、あとこっちもお願いできます? あ、全部二つずつでお願いします」


 顔を引きつらせながら小さく頷き、厨房へと消えていくネコ耳の獣人さん。


「……色々な人が居るんですね」

「そうだね。でも、あまりジロジロ見ないでね。人によっては不快に思うこともあるから。それより、適当に頼んだけど足るかな? 十人分ぐらいだけど」

「あ、ありがとうございます。もし、足らなければ追加で頼みますので大丈夫です」

「…………」


 カレンはたくさん食べる。

 たくさん……というより大量に。

 この細い身体のどこに入るのだろうか……。


「ま、まぁ、見慣れない食べ物もあるし、名前だけじゃ想像できない料理もあるしね。わからなかったら聞いて」

「はい。ありがとうございます。姉さん」


 ニコッと華の咲いたような笑顔で笑うカレン。

 それだけ切り取って見れば上品なお姉さんのようにも見える。

 身長も私より高いし、出るとこは出ている。

 というより、少々出過ぎている……年齢の割りに……。

 ホント、どっちが姉なのやら。

 気付かれずに小さくため息を吐いた私たちの目の前に、まずは大盛りサラダが現れた。



「…………」


 食後のお茶を(たしな)む私の目の前で、いまだに食べ続けるカレン。

 私は別に食べるのが速いわけではない。

 カレンの食べる量が少々……いや、かなり多いだけだ。

 そして、また一枚、空いたお皿が積み重なった。


「……けふ。お腹いっぱいでふ」


 こら、はしたないぞ。

 何度同じやり取りをしたのか数えていないが、相変わらずカレンの食べっぷりは見事だ。

 周囲のお客さんも無言でチラチラとこちらを見ているし。

 ……もう、慣れたものだ。


「食後のお茶はどうする?」

「あ、いただきます……」


 少々気まずそうにうなずくカレン。

 ま、これだけ食べるのは今に始まったことじゃない。

 あまり気にしないでおこう。

 ちなみに、今私たちが飲んでいる『お茶』はこの街特産のお茶らしい。

 鼻に向ける健やかな香りはハーブのようなものを思わせる。

 脂っこい料理のあとにはちょうどいいお茶だ。

 その後、お会計。

 ネコ耳の獣人さんに見送られて、お店をあとにする。


「毎度ありがとうございますー。またよろしくお願いしますねー!」


 ブンブンと手と尻尾を振り回す店員さん。

 お店にとって迷惑かと思ったけど、案外良客だったらしい。

 しかも美味しいわりに意外と安かったな。

 もしかしてサービスしてくれたのかな?

 カレンと一緒でこの金額ならまた来てもいいかもしれない。

 そんなことを考えながら目的地である冒険者ギルドへと足を運ぶ。



 カラランッ。

 冒険者ギルドの扉へと手をかけ、中に入ると懐かしい、お出迎えのベルが鳴った。

 変わらない久し振りの音が昔を思い出させる。

 ……十一年振りかな。

 その音とともに、ギルド併設の居酒屋からこちらへ振り向く数名の冒険者たち。

 入ってきたのがただの子供だと気付くと、すぐに興味を無くしたかのように、そのまま食事へと戻った。

 そんな雰囲気さえも懐かしく感じる。

 初めて冒険者登録をしたのはもう二十年以上前か。

 ……はて? そういえば何か忘れているような……。


「あら、いらっしゃい。可愛らしいお客さんたちだね。今日はどうしたんだい?」


 受付のお姉さんが元気よく声をかけてきた。

 ウサギの獣人……ではなく、普通の人族のようだった。


「冒険者登録をお願いします」

「……いいよ。だけど、ずいぶん若いね……。ま、事情は人それぞれだし、ギルドに貢献してくれるなら拒むこともないかな。でも、一応規則だからね。年齢は見させてもらうよ」


 ……あ。


「それじゃ、『鑑定』っ、と」


 お姉さんは何やら手のひらサイズの水晶を私にかざし、ポツリとつぶやく。

 忘れてた……。

 確か、ギルド登録にも年齢制限があったんだった。

 前回登録したときは十二歳になるのをまだか、まだか、と待ちわびていたのだけど……。

 今回は――。


「……まだ、規定年齢に到達していないようだね」


 やっぱりダメか〜〜っっ!

 精神年齢は二七歳だけど、肉体年齢で見られるのか……。

 くそっ、いったいどうしたら……。


「あー……。で、でも大丈夫だよ。十二歳未満でも登録自体はできるようになったから。……ランクは最低ランクのさらに下のG。見習いランクになるけど……」


 受付のテーブルに両手を付いてうなだれる私を哀れと思ったからか、焦ったかのように追加で説明してくれるお姉さん。

 ……Gランク。

 初めて聞いたな。

 最近できたのかな。


「あの十年前の出来事で冒険者もだいぶ減っちゃってね。少しでも人員を確保したいこともあって、新しいランクが創設されたんだ。当然、正規の冒険者と違って危険な依頼を受けることができないけど、それでも薬草採取とか街掃除とかで募集はしているよ。あ、残念ながら素材買い取りとかにも制限があってね。無茶してもらっても困るから、魔物系の素材買い取りはできないようになっているんだ」


 なるほど……。

 私が昔居たときはFランクが冒険者のスタートラインだったけど、今はGランクもあるのか……。

 って、Gランクじゃ素材買い取りもできないではないか……。

 いったいどうすれば……。


「えーっと、そっちの子も登録するのかな?」


 再び私がうなだれると、話題を変えるかのようにお姉さんが言葉を続ける。

 そっちの子……カレンか。


「はい……。ほら、カレンもね」

「あ……。いえ、ワタシは、いいです……なんて」


 珍しく困っている、というより、曖昧な笑みを浮かべ一歩後ずさるカレン。


「なんでよ。登録ぐらいしておいた方がいいよ。今の私たちには身分を証明する物なんて何も無いし。それに、何かあったときはギルドが全面的にバックアップしてくれるんだから、登録しても損はないよ」

「あはは……そうなんでしょうけど……。ワタシは、その、冒険者よりも違った……例えば商業ギルドとか、そんなのありませんかねぇ……」

「あるけど、いきなりどうしたのよ」


 今まで片時も離れようともしなかったカレンが、私と別のギルドに登録する?

 ……いや、ないな。ないないない。

 いきなり姉離れとか、そんなわけないだろう。

 あ、もしかして……。


「……ちなみに、商業ギルドへの登録も、年齢制限はあって、年齢は見られるよ?」

「うっ……」


 私の説明に言葉を詰まらせるカレン。

 やっぱりか……。

 前の世界からそうなんだけど、この子は一切自分のことを教えてくれない。

 年齢もその一つであるのだが……。


「はぁ、今更年齢を気にしても仕方がないでしょ。そもそも、そんな立派な物を持っているのに、私より年下ってのは無理があるよ」


 そう私が指を差した先には片手では収まりきらない二つの塊。

 正直うらやましい……。くそっ。


「一つ、二つ年上だからって、私たちの関係が変わるわけじゃないんだから、さっさと見てもらうこと」

「姉さん……わかりました」


 多少、憂いが無くなったからか、だけど渋々といった感じにお姉さんの前まで来るカレン。

 そして――。

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