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13 コラコールの街並み

「お待たせしました。盗賊たちの引き取り費用ですが、体格等加味し一人当たり最低金貨五枚となりますので、六人で三十枚となります。残りは健康状態その他で追加の査定となりますので、また後日受け取りに来ていただけますか?」


 リュファスさんが膨らんだ麻袋を手に、詰め所から出てきた。

 金貨……三十枚!

 そこそこの大金に顔が綻びそうになるが、気を引き締めてユルバンさんたちのやり取りを眺める。


「ありがとうございます。それじゃ、コトミちゃん……ひっ」


 ……ん?

 ユルバンさんとリュファスさんがこっちを見て顔を引きつらせているが……。


「……姉さん。真顔になると途端に目付きが悪くなるんですから、少し力を抜いてください」


 斜め後ろで私たちのやり取りを傍観していたカレンからひっそりと声がかかる。

 ずっと無言だったのは私たちの邪魔をしないためだろう。

 近くにいたのは、万が一にでも危害を加えられそうになった時、身体を張ってでも私を守るためだ。

 うん。カレンはそういう奴なんだ。でも――。


「……目付き?」


 ……って、そう言うことか!

 久し振りに目付き悪いって言われたわ。

 最近じゃそんな風に言う人なんていなかったのに……。


「最近はワタシたちとしか一緒に居ませんでしたからね。初対面の人には少々刺激が強すぎるのかと」


 うっさいわ!

 カレンの辛辣(しんらつ)な言葉に肩を落とす私。

 そんな様子を見てか、同じくため息をつき肩を落とすユルバンさんにリュファスさん。

 ……うん、なんかゴメン。


「えぇと、とりあえず金貨三十枚で、後日追加査定分が受け取れるけど……」


 ユルバンさんがおっかなびっくりで、私に恐る恐る話しかけてくる。


「……いえ、これだけいただければ十分ですので、残りはユルバンさんが受け取っていただけますか? ここまで運んでいただいていますし」

「あ、あぁ……。いいのかい? それなら、ありがたくいただこうかな……」


 自分でやっておいてなんだが、こんな子供にあまりおどおどして欲しくない。

 そんな気持ちを込めてやんわりと伝えるがどうもぎこちない。

 はぁ……まあ、いいや……。


「コトミー、こっちの準備は整ったよ」


 声のした方へ振り向くと、そこにはリンちゃんを背負ったアウルにルチアちゃん。

 二人が準備万端という風に待っていた。


「ん、もうちょっと待っていてね」


 ユルバンさんから金貨の麻袋を受け取り、自分のバッグへとしまう。

 ……振りをして収納へとしまう。

 あまり多くを入れられない収納魔法だけど、金貨くらいならなんとか入る。

 その分、魔力の上限が減ってしまうけど、多少は仕方がない。

 こんな大金を持ち歩くなんて怖くてできないんだから。


「ところで……この街でどこかゆっくりと過ごせる宿屋はあるでしょうか。できれば女性が安心して泊まれる所で」


 コラコールの街は初めてだからよくわからない。

 何件もの宿屋をハシゴして探すこともできるけど、商人さんであれば街の宿屋にも詳しいはず。

 なんせ、貴族相手の取り引きもあるだろうし、普段使いする手頃な宿屋以外に、私たちみたいな女性が泊まれるような宿屋にも精通しているはずだ。

 せっかく街に詳しい商人さんがいるんだから聞かなきゃ損だ。


「あぁ、それなら……つばめの亭なんてどうかな。大通りから一本裏の通りにあるけど、価格の割りに綺麗だし、女性客も多かったはずだよ。場所はね――」


 そう言って懐から小さく折りたたんだ紙を取り出すユルバンさん。

 覗き込んだそれは、大きな円を複数に細切れしたような、幾何学的な模様が描かれていた。

 ――この街の地図かな……。


「この大通りを真っ直ぐ行って……赤い屋根の家が右手に見えるから、その手前の路地を曲がって――」


 地図を見ながらユルバンさんの手を追いかける。

 ふむふむ、さほど遠くない所にあるね。


「ありがとうございます。それじゃ、私たちはこの場で失礼しますね。ユルバンさん、ここまでありがとうございました。また機会がありましたらよろしくお願いします」

「あはは、こちらこそ助かったよ。何かあればグランジュ商会を訪ねてね」


 お互い別れの挨拶をすまし、その場を立ち去る。

 そのまま、ユルバンさんに教えてもらった赤い屋根の家を目指す。

 街に踏み入れると、元の世界とは違った雰囲気の景色が広がっていた。

 全体的にレンガ造りや木造家屋が多くあり、道もアスファルトではなく、レンガが敷き詰められている。

 歩いている人たちもこの世界での人族以外に、ウサギやネコ、イヌなどを彷彿(ほうふつ)させる獣人族がチラホラと見られる。

 服装も軽装な人から、武器防具を身につけた冒険者のような格好の人もいる。

 さすがに刃物類を剥き出しにして歩いている人はいないけど、元の世界の常識とはかけ離れた世界が目の前に広がっている。


「とりあえず当面の資金は確保できたし、まずは宿屋に向かおうか」


 そんな思いに浸りながらも、次の行き先に向けて歩き出す。

 リンちゃんをゆっくりと休ませてあげたい。

 それに、このままじゃ移動もままならないし。


「コトミがほくほく顔だけど、そんなにもらえたの?」


 アウルが隣にやってきて疑問の声をあげるが……アウルには聞こえていなかったのか。

 それに、なんだよほくほく顔って。

 確かに金貨三十枚は大金だけどさ。

 昔と貨幣の種類が変わっていないのであれば、金貨一枚は小金貨十枚分、小金貨一枚は銀貨十枚分となる。

 その他に、小銀貨、銅貨があり、普通の宿屋だと一人あたり小銀貨五枚ほどで泊まれるかな?

 五人だと、銀貨二枚と小銀貨五枚だね。

 そう考えると、金貨三十枚は大金だ。

 単純に宿代だけで三ヶ月以上は滞在できる。


「んー、そうだね。それでも、何かしらの収入源は欲しいよね。リンちゃんのことも心配だけど、早めに冒険者登録しちゃおうか」


 冒険者登録さえすれば依頼を受けて報酬を得ることができるし、魔物の種類によっては討伐しただけで報酬を得られる。

 もちろん討伐証明の提出は必要だけど、そこそこの実力さえあれば生活には困らない。

 アウルは元々Bランク冒険者だし。

 ……ただ、昨日は一人で討伐ランクCの魔物を倒していたな。

 本人の実力はAランク以上あるかもしれない。


「冒険者かー、懐かしいね-」


 隣のアウルが遠くを見るようにポツリとつぶやく。

 生まれ変わる前は冒険者として生計を立てていた私とアウル。

 この街と違う所にいたけど、それでもこの雰囲気や街並みに懐かしいなにかを感じる。


「話に聞いていた冒険者ギルドですね。ワクワクします」


 そう話に入ってきたのは、長い髪を風でなびかせながら隣に並ぶルチアちゃん。

 元々身体が弱く、魔法の世界に憧れていた少女は、夢が叶ったかのように瞳がキラキラと輝いていた。

 見るものすべてが新鮮であり、街中を見て回るだけでも楽しんでいそうだった。


「うん。ただ、最初に宿屋だからね。リンちゃんを休ませられる場所を探そう」


 そう説明して大通りを歩いていると、ユルバンさんに教えてもらった赤い屋根の家が目に入った。

 その手前の路地を曲がり、さらに左手に沿って進む。


「お、あったあった」


 道なりに進むと店前に看板が掲げてあった。


『つばめの亭』


 表通りの宿屋と違って(きら)びやかさはないけど、雰囲気の良さそうな宿屋だ。

 裏通りとは言ってもそんな危ない場所ではなく、女性が一人で出歩いても大丈夫そうな、そんな安心感はある。

 そのまま扉に手をかけ、ベルの音と共に中へと入る。


「いらっしゃいませ〜」


 軽快な挨拶とともに、カウンターの向こうから挨拶を交わす女性店員。

 元の世界では考えられないピンク色の髪色と笑顔が印象的な女性である。


「えぇと、五人ですが、部屋空いていますか?」

「大丈夫ですよ〜。五人なら六人部屋で宿泊された方がお得ですがどうしますか〜? お一人小銀貨六枚ですが、六人部屋なら一部屋銀貨三枚です〜。頑張れば八人は寝れますよ〜。追加の布団貸し出しは無料です〜」


 六人部屋……って、外見からはそんな大きな宿屋に見えなかったけど、奥行きがあるのかな?

 ま、いっか。


「あ、じゃあそれで」

「承知しました〜。あと、お風呂はありませんが〜、身体を拭くためのお湯は〜、桶一杯で銅貨五枚となります〜」

「お湯は出せますので大丈夫です」


 残念ながらお風呂はないか。

 まぁ、お風呂がある宿なんて高級宿の部類だから街に何件かあるだけだろう。

 もう少し安定した収入を得られるようになったら、宿を変えてもいいし。


「そうなんですね〜。魔法使いさんですか〜、いいですね〜。あ、こちら宿帳になります〜」

「私が書くよ」


 アウルはリンちゃんを背負っているから手が出せないし、カレンやルチアちゃんは……そういえば文字はわかるのかな?

 言葉は転移してきた影響……というよりお陰なのか、この世界の言葉も自然と理解できるようで少し安心した。

 私やアウルみたいに元の世界(フランコリタ)この世界(テスヴァリル)の言葉を理解できるのと違い、カレンとルチアちゃんは、言葉は理解できないけど、意味は理解できるという。

 それに口を開くと、自然とこの世界(テスヴァリル)の言葉が発されるという。

 なんとも不思議な現象である。

 そんなことを考えながらテスヴァリルの文字で、コトミ、アウル、カレン、ルチア、そしてリン……と枠内に書いていく。


「ありがとうございます〜。何泊のご予定ですか〜?」

「うーん。とりあえず一泊で、続けて泊まる場合は明日の朝にお伝えします」

「は〜い。わかりました〜。それでは部屋の鍵です〜。お部屋は二階の突き当たりですね〜。どうぞごゆっくり〜」


 間延びした声が私たちを受け入れる。

 なんかこの感じ、どこぞやの先生を思い出すな……。

 そんなことを思いながら、鍵を受け取った私たちはそのまま部屋へと向かった。



「ここかな」


 階段を上って突き当たりまで進み、鍵を開けて部屋の中に入る。

 中には六人分のベッドが並んでおり、想像よりも広い部屋だった。

 足を踏み入れると天日干しをした布団の匂いが鼻孔(びこう)をくすぐってくる。

 内装は普通の部屋のように見えるけど、清掃が行き届いており、小さいながらも窓がある、いい部屋であった。

 相場より若干割高なのかもしれないけど、これなら十分許容範囲だ。


「いいね。しばらくはこの宿でもいいかも」


 後ろに付いてきたみんなへそう声をかけると、特に異論も無いようで、各々ベッドへ荷物を置いているところだった。

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