12 盗賊たちの売り上げ
「ん〜〜っ」
朝日に充てられ目が覚める。
久しぶりの野宿とはいえ、よく寝たなぁ。
起きて周りを見渡すと、焚き火に枝を放り投げているアウルにルチアちゃん。
それにカレン……と、離れているところにユルバンさん。
すでにみんな起きていたのか。
「おはようございます、姉さん」
そう思ったところ、隣に座っているカレンから声がかかる。
「ん。おはよ。ちょっと寝過ごしたかな」
挨拶を返しながら大きく伸びをして身体をほぐす。
「うぅん、やっと明るくなってきたからね。これから朝ごはんの用意かな」
アウルの視線をたどると、昨日作ったかまどにも火がくべられ、スープが温まっているようだ。
「りょーかい。何か手伝おうか?」
「んにゃ、コトミは朝に弱いんだし休んでいていいよ」
朝に弱いって……いつの話をしているんだよ。
確かに睡眠時間が少ないからちょっと……いや、かなり眠たいけど、まぁ、大丈夫。
……今夜は柔らかいベッドで眠りたいなぁ。
そんなことを考えながら、アウルの言われたとおりに、その様子をぼーっと眺めている。
昨日余った肉を焼きながら、スープをみんなに配って回るルチアちゃん。
「ん。ありがと」
寝起きに焼き肉は重たいが……まぁ、仕方がない。
とりあえずスープでお腹を暖めながら、次にやってくる焼き肉を身構えるのであった。
「アウル、準備はいい?」
「いつでもどうぞー」
朝ごはんを食べ終えたあと、手際よく後片付けし、出発の準備に取りかかる。
準備と言っても、縛り付けた盗賊を引きずり、再び馬車へと繋ぐ程度だけど。
一夜を縛り付けられたまま過ごした盗賊たちは、案の定悲惨なことになっていた。
私とアウル、それにユルバンさんも予想していたことのため、さほど驚きはしなかったが、カレンとルチアちゃんはその場を一歩も二歩も離れていった。
まぁ……臭いが凄いからね……。
そんな汚れ仕事は当然のようにアウルへ任せる。
もう、わかりきっていたからか、アウルは嫌そうな顔をしながらも淡々とこなしていった。
ま、時間が経てば立つほど悪化していくしね。
さっさと済ませた方がいいだろう。
そうやって、昨日と同じく馬車に引っ張られて進む盗賊たち。
時たまヒュンヒュンと音が聞こえるのはアウルが剣を振っているんだろう。
あと半日の辛抱だ。頑張ってもらおう。
心の中で声援を送りながら、私は御者台でまったりと空を眺めている。
風が心地よく、いい天気だ。
隣のユルバンさんと他愛もない話をしながら馬車に揺られ、街へと向かっていく。
「お、やっと見えてきたね。コラコールの街だよ」
ユルバンさんに言われ遠くへ視線を移すと、うっすらと建物のような影が見えてきた。
この速度だとあと一時間程度かな。
思ったより早く着きそうで一安心。
「コラコールの街ってどんな街ですか? 行ったことないんですよ」
「うーん、そうだね。ラスティの街ほど大きくはないけどかなり栄えているよ。この周辺じゃ一番大きな街かな」
へー、少し時間があるなら街を見て回るのもいいかな。
カレンとルチアちゃん、それにリンちゃんへこの世界のことについても説明したいし。
……リンちゃん、早く良くなるといいな。
「あっ、ところで、ユルバンさんの商会で目覚草って取り扱っていたりしますか?」
「目覚草? ……あぁ、あの子のか。うん、取り扱うことはできるよ。ただ、滅多に扱うことがないから、手に入れるまでに一ヶ月ほどかかるかもしれないけど……。コトミちゃんたちなら、自分たちで採取しに行った方が早いかもね」
一ヶ月か……。
さすがに長い。
それならユルバンさんの言うとおり自分たちで採取しに行った方が早いだろう。
問題はどこに生息しているのか、であるが……。
「生息場所とかの情報は冒険者ギルドに行った方がいいよ。十年前の事件以降、ギルドも冒険者育成に力を入れていてね、無料相談窓口のようなものもできたんだ」
へー、そうなんだ。
十年も経てば色々と変わっているんだな。
「はい。ありがとうございます。早速行ってみますね」
そうやって、コラコールの街について話をしながら目的の街へと向かって馬車は進んでいく。
ユルバンさんの話しによると、コラコールの街は周囲を壁で覆われており、通行するための門が複数設けられているそうだ。
門番はいるが、出入りについて特に制約はない。
ただ、日が沈んでいる間は出入りができなくなるため、依頼等で街の外へ出るときには注意が必要なのだと。
大きさは……まぁまぁ大きく――比較するとしても何と比較したらいいものやら――衣食住、なにも困ることなく何でも揃いそうな街ではある。
……お金さえあれば。
そう。お金だ。
私たちはこの世界の通貨を一切持っていない。
そりゃ、別世界からやってきたばかりでお金も何もない。
換金できそうな宝飾類は持っているが、できればそれは最後まで取っておきたい。
……みんなとお揃いの品をわざわざフランコリタで作って来たのだから。
「あの、ユルバンさん。ちょっと路銀が乏しく、盗賊たちの引き渡しを先に行いたいのですが……」
昨日、積み荷を急いで届けるといっていたから大丈夫かな。
「あぁ、いいよ。荷物は今日中に配達できればいいしね。まずは警備隊の詰め所へと向かおうか」
警備隊の詰め所は門から入ったすぐの所にあるらしい。
街の中へも馬車のまま入れるらしく、門番さんへ会釈だけして、門の付近にある警備隊の詰め所へと向かって進む。
だけど、ぞろぞろと馬車に連れられている盗賊は目立った。
それはもう非常に目立った。
そう、警備隊のお偉いさんが飛び出してくるぐらいには……。
「また盗賊ですか! ここ最近何人もの盗賊を引き取っているのに、今回は六人も! いったいどれだけの盗賊を引き取ればいいんですか!」
馬車に引き連れられている盗賊たちを目にした瞬間叫ぶ、警備隊の制服に身を包んだ男性。
歳は三十後半だろうか。
線は細く、最前線で戦うよりも中間管理職が似合いそうな感じではある。
「はははっ、リュファスさん、盗賊は商人にとって天敵ですからね。根絶やしにしますよ」
ユルバンさんがそんな男性の様子を見て御者台から声をかける。
「おや、ユルバンさんじゃないですか。珍しいですね。次期商会長さんが自ら御者をされているなんて」
眼鏡の奥の瞳がユルバンさん、そして私へと移ろう。
「まだしばらくは番頭のままですよ。御者をやっているのはちょっと理由がありましてね。それより、リュファスさんの方こそ盗賊程度にこんな所まで出てきて大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。昨日も一昨日も、そして今日も盗賊処理です。さすがに三日目となると、どこのどいつが連れて来たのか、直接顔を拝んでやろうと思いましてね」
何やら不穏なことを言うリュファスと呼ばれている男性。
眼鏡が少しキラリと光ったような、そんな気がした。
「はははっ、今日は私です。引き取っていただけますか?」
「……ここでノー、っと言えるのであれば気が楽なんですがね。でも、そうしたら困るのは市民の方々ですから。渋々引き取りいたしますよ」
言葉では嫌がっていても、正義感が強い人だからなのか、仕方ないとばかりに近くの警備隊の人に指示を出していく。
私たちも御者台から下り、その様子を眺める。
「ほぼ、無傷で捉えられているところを見ると、いい護衛の方を雇われたんですね」
そう言って私の方へ視線を向けるリュファスさん。
「えぇ、そうなんですよ。おかげさまで積み荷も無事でしたしね。そのお礼もかねて盗賊の引き取り費用をこの子に渡したいのですが、いくらとなりますかね」
「そうですね……年齢や病気の有無で多少金額は変わりますが満額お出しできるでしょう。一部だけでも即金で用意しますか?」
「えぇ、お願いします」
リュファスさんはそれだけ言うと、詰め所の中へと戻って行った。
お金を取りに行ったのだろうか。
「いいのですか?」
二人の会話を聞いていた私はユルバンさんへ尋ねる。
「うん。コトミちゃんたちに運良く出会わなければ報償金どころではなかったしね。それに、ここで恩を返せなければ商人の矜恃にも関わるしね」
私たちがあそこに居合わせたのは偶然だ。
もし、出会わなければユルバンさんの言うとおり、それどころじゃなかっただろう。
「そういうことなら……ありがたくいただきます」
「お礼を言うならこっちの方だがね」
あっはっはっ、と豪勢に笑うユルバンさん。
……いい人だな。
私たちがワケありということも知っているのに、それには触れず、できるだけのことをしてくれている。
今回はここでお別れだけど、もしまた出会うことがあれば恩返しをしよう。




