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11 王都の現状

「ポスメル国の王都、リリガルはね……十年ほど前に壊滅したよ」

「…………」


 いま、なんて?

 王都が、壊滅、した?

 ポスメル国の中でも冒険者の数は多く、Sランクの冒険者も数多く住んでいる街……王都が壊滅?

 そんな、まさか……。

 聞き間違いかと思いアウルの方に視線を向ける。

 しかし、ユルバンさんの言葉にアウルも驚きを隠せないようだ。

 まさか、本当に……?


「あ……。ラ、ラスティ……ラスティの街は……?」


 ふと、昔住んでいた王都に隣接する街、ラスティの安否が気にかかった。

 あの街は長いこと住んでおり、知り合いも多かった。

 当時の私はあまり人付き合いが多いこともなかったが、それでも顔見知りは数多くいる。

 その街は――。


「あぁ、ラスティの街は無事だよ。王国第二の都市だと言うこともあって、政の機関もそちらに移ってね。現在ラスティの街は実質第二王都になっているね」


 そうなんだ。それはよかった……。

 静かに安堵の息を吐く。


「ただ、王族の血がほとんど途絶えたようでね……。今は第二王妃や側室が作った子供、孫の消息を必死に探しているところだよ。とは言っても、あれから十年以上経っているから望みは薄いけどね」


 王族もそんな状態か……。

 王都が壊滅というのは本当のようだ。

 いったい何が起きたんだろうか。

 アウルの方を見ると、何やら真剣な表情で俯いている。

 何か思い当たる節でもあるのかな?


「……リリガルの街は魔物の大群に襲撃されたと聞きましたが、魔物の大群程度でリリガルがどうにかなったとは思えないです。あの街でいったい何があったのでしょうか」


 アウルの質問に、ユルバンさんが説明するように口を開く。


「そうだね。ただの魔物程度であればなんてことはなかったんだろうね。だけど、生き残った人の話では普通の魔物とは違ったらしいよ」


 普通と違う魔物――?

 その言葉を聞いた瞬間、頭の奥深く、脳裏の片隅にチリッとした違和感が生まれた。

 それはいったい――。


「魔物のほとんどは死霊(リッチ)系だったらしくてね。それに、見たこともない魔物がいたようだよ。話では魔法の効かない個体も現れたとか……。そんな魔物が相当数リリガルに雪崩れ込んだようだからね。数日もしないうちに、街は魔物に飲み込まれてしまったらしい」

「…………」


 私とアウルはきっと()()に居た。

 テスヴァリルで死んで、フランコリタへ生まれ変わって、そして――再び戻ってきた。

 その死んだ原因が、リリガルを滅ぼしたという魔物の大群。

 魔法の効かない個体。

 そして――。


「コトミちゃん?」


 ユルバンさんの声で考えていた思考を切り替える。


「……ごめんなさい。少し、考えごとをしていました。それで、リリガルは……いえ、リリガルの跡地はどうなっていますか?」

「今は魔物の巣窟(そうくつ)となっているね。何度か討伐隊を送り込んだようだけど、ことごとく失敗したみたいでね。最終的にはこちらから手を出さない限り害はないから、今は放置されている状態かな」


 魔物の巣窟……か。

 魔物の大群が押し寄せることも異常だけど、それ以上に魔物が同じ場所へ留まること自体も異常だ。

 いったい、あの街で何が起きているのだろうか。


「逆に貴重な素材の取れる魔物が多いから、一種の狩り場として冒険者たちが集まっているね。まぁ、生半可な冒険者じゃ命がいくつあっても足りないんだけどさ」


 なるほど……。それはそれで、商魂たくましいな。

 リリガルのおかげ……というには少々不謹慎だが、そのお陰でラスティの街は栄えているらしい。

 それに、王都が滅んで衰退すると思われていた王国も、貴重な魔物の素材で外貨を獲得し、案外儲かっていると。

 なんじゃそりゃ……。



「…………」


 焚き火の弾ける音だけが静かな夜闇に溶け込んでいく。

 火の勢いを落とさないよう、拾ってきた枝を一本投げ入れる。

 パチン、と大きく跳ねた勢いで火の粉が上へと――夜闇へと舞って消えていく。


「…………」


 あのあともユルバンさんに色々と話を聞いた。

 リリガルの話は衝撃的だったけど、それ以外のことは十年前とさほど変わっていないらしい。

 王都が滅んだが王国は健在だし、帝国も変わりない。

 いや、王都が滅んだタイミングで帝国が侵略を開始したようだが、溢れかえった魔物が帝国兵にも襲いかかり、それどころではなかったらしい。

 国境付近まで魔物が謳歌していたのに周辺の街や村は無事だったのだろうか。


 ……いや、ユルバンさんの話だけで全てを決めつけてはいけないな。

 落ち着いたらコラコールの街で少し情報収集するか。

 それよりもまずはリンちゃんのことをどうにかしないと。

 シロの話では魔力に充てられて眠っているだけという話だけど、本当に大丈夫だろうか。

 起こすだけで元通りになるのであればいいんだけどな……。

 それに、眠ったままでは身体が衰弱していくだろうし、なるべく急がなきゃ。


 目当ての物は……目覚草(めざめそう)

 どこに生息しているのか、今はまったく情報がない。

 コラコールの街で一緒に情報収集するか。


「ふぅ……」


 考えが一区切りついたところで、夜空を見上げ星の位置を確認する。

 十年振りに眺めた星空は空気が澄んでいるからか、フランコリタよりもはっきりと見えた。


「……もう少しか」


 視線を落とし、大木に縛り付けた盗賊の様子を確認する。

 寝ているのか、特に変な動きをするでもなく静かにしている。

 さっきまでは唸り声や、モゾモゾとした動きはしていた。

 まぁ、ずっとあのままだから色々と悲惨なことにはなっているのだろう。色々と。

 明日、手を出すの嫌だなぁ……。

 それでも街まで連れて行かなければならないし、警備隊へ差し出さなければならない。

 正義感のためというより、犯罪者を引き渡したことによりもらえる報償金目当てなのだが……。


 この世界、元の世界(フランコリタ)と違って、犯罪者に人権はない。

 悪いことをすれば当然のように捕まるし、情状酌量じょうじょうしゃくりょうの余地がなければそのまま犯罪奴隷となる。

 今回のケースだと間違いなく犯罪奴隷行きだな。

 市民の生活を支える商隊を襲ったのであれば重罪だろう。

 罪が重ければ重いほど、極悪人であれば極悪人であるほど、もらえる報償金その額は多い。


 ……その分、犠牲になった人が多いということで、あまり喜ばれないことではあるが。

 ちなみに犯罪奴隷と言っても一般的な奴隷とは違い、前世界の懲役刑に相当する。

 ただ、前世界と違うのは、労働は任意ではなく強制であるため、基本的に環境は劣悪である。

 三食付きの人間らしい生活なんて送れるわけでもなく、死なない程度に食事を与えられ、病気や怪我をしたとしても、まともな医療を受けさせてもらえることもなく、罪の重さによっては死ぬまで働かされることになる。

 そんな状況であればよっぽど死んだ方がマシなのであるが、テスヴァリルでは死刑になることが少ない。

 死刑にするぐらいであれば犯罪奴隷として死ぬまでこき使った方が国のためになるからである。

 そんなことを考えながら、再び星の位置を確認する。


「……そろそろか」


 コートの土埃を払いながら立ち上がり、隣で寝息を立てているアウルの身体を揺する。


「アウル。交代だよ」


 少し離れて休んでいるユルバンさんや、荷車の中にいるカレンやルチアちゃんを起こさないよう、声を潜めて起こす。


「……むにゃむにゃ」


 コイツは相変わらずに……。

 さすがにいつも通りの電撃を放つわけにはいかないし。


「はぁ……」


 仕方がなく、指先に水玉を作り、アウルの顔面めがけて落下させる。


「わひゃ……。コ、コトミか……。もう時間? 珍しく優しいね……」

「他に寝ている人がいるからだよ。あんただけだったら容赦はしないよ」


 あからさまにため息をついて、アウルに水の入ったコップを渡す。


「あ、ありがと。……なんか懐かしいね」


 コップを受け取ったアウルが中身の水を見ながらそんなことを漏らす。

 ……確かに、以前もテスヴァリルで野営をしたとき、同じような状況があったか。

 あの時は二人だけの野営ということもあり、起こすのに容赦はなかった。

 けど、今は同行者……仲間がいる。


「はぁ、ほら、交代だよ。静かにね」

「わかっているよ……」


 アウルがノソリと起き出したのを見届けながら、私はその横で毛布に(くる)まる。

 夜の見張りは私とアウルで回すことになった。

 カレンとルチアちゃんにとってこの世界での野営は初めてのことだし、戦闘力のないユルバンさんに夜の見張りをお願いするわけにもいかない。

 必然的に私たち二人でやる必要があった。

 まぁ、テスヴァリルでは日常茶飯事だったし、さほど苦ではないんだけど。


「おやすみ」


 昔と違って穏やかな空気が流れる中、優しげな声をかけられ、ゆっくりと意識を手放していく。

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