1 一つの物語の始まり
長らくお待たせして申し訳ありません。
第一部をご愛読いただきありがとうございます。
第二部、続編の投稿です。
更新頻度は遅くなりますが、一話辺りの文章量を増やしていきます。
★評価をいただけましたら次の創作活動への糧ともなりますので、何卒よろしくお願いします★
燻った何かが不快な臭いとともに煙を上げている。
それは一つだけに限らず、二つ、三つ、と数え切れないぐらいの線となって空へと消えていく。
火事のように大規模な火災があったわけではないが、複数の家屋と、人であったものがいくつも煙を上げていた。
これは夢でもなんでもなく、間違いなく現実だ。
元の世界でもここまでの惨状は見たことがない。
だけど、この世界ではよくありえることだ。
その違いが別世界――テスヴァリルへと足を踏み入れたんだと、あらためて実感する。
「……カレン。どう?」
目の前で銀髪緋眼の少女が村の中を見回している。
「見る限り……生き残っている人はいないようです。姉さん、これは……魔物の仕業ですか?」
振り返った顔は特に感情を含んでおらず、この惨状に大して特に思うところもないようだ。
爛々と輝く緋色をした魔眼だけが、役目を果たそうと静かに主張している。
「いや、死体が綺麗だしね。恐らく盗賊の類かな。もし魔物の仕業ならもっと激しく、食い散らかすようになっているだろうからね」
性別年齢がわからないほど黒焦げにはなっているけど、死体自体の原形は留めている。
魔物の仕業というより、どちらかというと人間――魔法によるものだと思う。
この村――というより、家屋も十ほどしかないから集落に近いか――が襲われた理由はわからない。
さほど裕福に見えないから金品目当てということもないだろうに。
「犯人探しをするつもりはないけど、視えるかな? 情報は多い方がいいしね」
「はい」
カレンは返事をすると再び村の中を見回す。
村の奥から入り口へ、左右へと視線を移していく。
しばらくそうしていたカレンは、目的のものを見つけたのか静かに口を開く。
「黒色……全員が黒装束に身をまとっています。性別はわかりませんが、全部で……十人はいます」
十人……また微妙な人数だな。
組織で動くには少な過ぎるし、パーティーの組み合わせだと多過ぎる。
軍や兵士だと分かりやすかったのに、黒装束の集団か。
「ありがと。正体不明だけど、黒装束の人間に気をつければいいかな」
とはいえ、黒装束なんて街にはそこら中いるし、あまりあてにはならないかも。
かくいう私たちも黒色のロングコートに身を包んでいるし。
まぁ、気休め程度か。
「あまり長居しても仕方がないから行こうか」
私たちはただの通りすがりだ。
もし、生きている人たちがいたら……と思って立ち寄ったけど、この状況じゃ仕方がないよね。
変に疑いをかけられても嫌だし、さっさと立ち去ろう。
そう思って歩き出そうとカレンの方へ視線を向ける。
「ん? どうしたの?」
その表情に感情は表れていないが、ほんの少し嫌悪感が見てとれた。
「……姉さん。子供が……連れ去られています」
……子供?
「それは、黒装束に?」
コクリと頷くカレン。
子供の誘拐が目的で村を襲ったのか。
そして、子供以外は皆殺しか……。
なんともまぁ、胸クソ悪い話だな。
それにしても、子供か……。
「姉さん……」
カレンが心配そうに私を見ている。
……この世界は残酷だ。
安全で安心な生活が保証されている前の世界とは違う。
その中で力なき者が犠牲になるのは仕方がない。
仕方がないのはわかっている。
わかってはいるが――。
「それでも、目の前で困っている人を見捨てられるほど、大人にはなりきれていないんだ」
「姉さん……」
「カレン、手伝ってくれる?」
「はい。姉さんの仰せのままに」
子供のようにちっぽけな正義感。
昔の私じゃ考えられなかった、他人を想うこの気持ち。
一人で過ごしてきた私は周りがどうなっていようと知ったことじゃなかった。
それでも、生まれ変わって、色々な人と出会って、大切なことを教わった。
大切な人や居場所を見つけてしまった。
その気持ちが痛いほどわかるから、私は――。
「子供たちが連れ去られた方向はわかるかな?」
「はい。追いかけられます」
「それじゃ早速向かおう。それに、あまりここに留まるのもよくないしね」
状況が状況だし、変な疑いをかけられてもよくはない。
そう思い、歩き出そうとしたところ――。
「あ、姉さん」
「ん? どうしたの?」
声をかけられ振り向くと、カレンは遠くを見つめていた。
「少し、遅かったようです」
「……え?」
そうつぶやくカレンの視線を辿って村の入り口に目をやると――遠目にも分かるぐらい、多くの人が……。
「あちゃー……。あれは王国の兵士、かな? 鎧を着込んでいるし」
私たちのことはすでに気がついているだろう。
それなら変に逃げたり隠れたりしない方がいいかな。
……あまり王国にはいい思い出がないんだけどね。
仕方がない。とりあえず話だけするか。
できれば話の分かる人たちだといいなぁ。
そんな希望を持ちながらカレンと共に王国兵の元へと向かう。
「そこで止まれ! 貴様らは何者だ!」
あと数メートルというところで、先頭に立っている兵士から声が上がる。
「私たちはただの通りすがりですよ。この先にあるフェネオンの村へ向かう途中、煙が上がっていたから寄っただけです」
変な摩擦を生まないよう、言われたとおりに立ち止まり、答えを返す。
「……しばし待て!」
その答えに対して特に言及することもなく、一人の兵士が後方へと下がる。
そのまま言葉を交わすことなく数分経過。
目の前の兵士たちは統率されているかのように一列に並び一言も発しない。
しかし、その視線は監視するかのように私たちを見つめてくる。
……あまり居心地のいいものじゃないなぁ。
そんなことを思っていたところ、兵士たちに動きがあった。
向こう側から徐々に人垣が割れていく。
奥から誰か歩いてきているのかな?
そのまま目の前の兵士も同じように横へずれ、その間を一人の男性が歩いてきた。
「やぁ、驚かせてすまない。この村――ラエムンが襲われたと聞いてね。みんな気が立っているんだ」
そう言って現れたのは金髪長身で細身の若い男性だ。
装いは他の兵士たちと違ってかなり軽装で、戦いの最前線に赴くような格好ではない。
だけど、腰には剣を携えているあたり、兵士の一人ではあるのかもしれない。
「イリエス様。相手はこの惨劇を引き起こした張本人かもしれないのですよ。そういう軽率な行動は慎んでいただきたい」
イリエスと呼ばれた男性の斜め後ろに付いてきた女性からそう声がかかる。
こちらも軽装であり、男性と同じように剣を携えている。
「カロリーヌ、見たところまだ子供じゃないか。こんな子供にこのようなことができるのかい?」
咎められた男性は反論するかのように、手を大きく振り言葉を続ける。
「伝令を受けてから随分と時間が経ってしまった。見渡す限り、家屋は燃え尽きているように見えるが、そんな中、我々が来るのを悠長に待っていたとでも? 普通に考えればさっさと引き上げるものだと思うが、違うのかね?」
「それは……」
男性の言葉に反論できず、口を閉ざす女性剣士。
その様子を確認した男性は私たちへと向き直り、視線を合わすかのように腰を落とす。
「すまないな。君たちはこの村の子供じゃないのかい?」
「えぇ、旅の途中に煙が上がっていたのを見かけたので、立ち寄っただけです」
「ふむ、そうか……」
私の言葉に男性は少し考える素振りを見せる。
「カロリーヌ、君たちは村の中を調べてくれ。もしかしたら生き残っている人がいるかもしれない」
「……御意」
少し不服そうにしながらも、私に一瞥をくべ、後ろを振り返って兵士たちへと指示を出す。
その様子を横目に見ながら男性が再び口を開いた。
「すまないが、少し話を聞かせてくれないかい? まだ細部まで調べたわけではないが、手がかりは多い方がいいからね」
私たちの後ろ――村の方に視線を向けながら男性は言葉を続ける。
まぁ、村がこの状態じゃなぁ……。
たまたま居た子供とはいえ、このまま帰してくれるとは思えない。
正直面倒くさいけど……。
「いいですけど……。日が沈む前にはここを発ちたいので、なるべく早くして欲しいです」
「わかった。……ところで、君たちは二人で旅をしているのかい? 見るからにまだ子供のようだが……」
まぁ、そう見えるよね。
黒髪黒眼の女の子と、銀髪翠眼の女の子。
私は見た目十歳そこそこにしか見えない。
いや、黒髪黒眼という珍しい風貌のお陰で、実年齢よりさらに若く見えるのかもしれない。
私より背の高いカレンはもう少し大人に見えるけど、それでも成人しているとは思えない年齢だ。
そういえば、結局カレンは本当の年齢を教えてくれなかったな。
ギルド登録の時は十二歳って言っていたけど嘘っぽいし。
「大丈夫ですよ。こう見えても簡単な魔法は使えますし、弱い魔物や盗賊程度であれば返り討ちにできますから」
「そうか。それは――」
「ただ、さすがに、この村を焼き払うだけの火力は出せませんよ」
「…………」
考えていることが読まれてか、警戒するように目を細める男性。
村で焼け焦げた人たちを見ればわかるけど、あれは高火力で一気に燃やさないと、ああはならない。
そんな高火力持ちなんてそうそうはいない……って身内に一人いるわ。
ただまぁ、その子はここにいないし、そんなことをする子でもない。
わざわざ言う必要もないだろう。
「ふっ……。子供の割に理解が早いし察しがいい。悪党のようには見えないし、そんなに力があるようにも見えない。……村の件とは無関係でいいかな」
考えごとをしていた私の心はいざ知らず、男性は自分自身に言い聞かせるように深くうなずく。
「引き留めて悪かったね。コラコールの街まででよければ僕たちが同行するけど、どうだろうか」
そう言って立ち上がり手を差し伸べてくるが――。
「お気持ちはありがたいですけど、私たちはフェネオンの村へ向かっていますので」
「そうか……。それじゃ、逆方向になってしまうな。わかった。念のため君たちの名前を聞いてもいいかな?」
「えぇ。私はコトミで、こっちの子はカレンと言います」
紹介されたカレンは無言で軽く会釈する。
「ありがとう。僕の名前はイリエス・ルクレールだ。またどこかで会うことがあるかもしれないからね。何かあったら頼ってくれてもいいよ」
そう言って男性――イリエスさんは村の中へと入っていった。




