イントという国
翌朝、窓から入る眩しい太陽の光で2人は目が覚めた。
「う~ん」
マリアがベッドに入ったまま伸びをすると、レルが横で飛び起きる。
「は!眠ってしまいました!」
昨晩は、ちびっこメイド達を下がらせ入浴を済ませると、広いベッドに腰掛けて今後のことを2人で話していた。レルは万が一のために見張りをする!と言い張っていたのだが、気付くと彼女も寝ていたようだ。
「お嬢様、申しわけございません!」
「も~大丈夫よ。最初は怖かったけど間違いだって言ってたし、待遇も良いからそんなに心配いらないんじゃない?」
マリアは楽観的であるだけでなく、順応性があるタイプだった。キルト販売をする時の町娘の恰好も純粋に楽しんでいた。
「私はお嬢様を守らなきゃいけない使命がありますから」
「それより、お腹が空いたわ。昨日、すっかり疲れて眠ってしまったから今日こそ話を聞かなくちゃいけないし、ベルを鳴らしてくれる?」
「はい」
レルがベルを鳴らすとしばらくして、ちびっこメイド達が元気よくやって来た。マリアはふんわりとしたベッドの寝心地をまだ堪能している。
「おはようございます!」
「あ、お姉ちゃんまだ寝てる~!」
1番年下のタワルは朝からやたらとテンションが高かった。どうせ子ども達がやってくるのだろうと、ベッドでゴロゴロとしていたマリアを見て、なぜだか笑いこけている。
「うちのお嬢様はお寝坊さんなんですよ。一緒に起こしてくださいね」
レルが言うと、ちびっこメイド達は素直に反応する。
「はぁ~い!」
ちびっこメイド達がマリアにまとわりついてきたので、さすがにマリアも起きたのだった……。
「お食事が済んだら、殿下がお呼びですので案内します!」
食事が済むと、ちびっこメイド達がリコラルに会うための身支度を手伝ってくれた。彼らの一生懸命さはありがたかったが、レルが着付けを手伝ってくれる方が断然早い。
ようやく準備が整うと、リコラルの部屋へと案内される。
「おはようございます」
「おはよう。ゆっくりと休めました?」
「はい、おかげ様で。ありがとうございます」
「まあ、そちらのソファに掛けて。聞きたいこともたくさんあると思うから」
「はい」
マリアがソファに腰掛けると、リコラルの目線がレルに行く。
「あなたもどうぞ掛けて」
「私もですか?」
「もちろんです。さあ、どうぞ」
レルは恐縮しながらマリアの隣に座った。
「改めまして、私の名前はマリアと言います。こちらは私の侍女でレルです」
「よろしく。デルタ出身みたいだね」
「はい。あの海賊から聞かれたのですね………それよりも、あの、昨日はお嬢様をお守りしなくてはと、王子様にだいぶ失礼なことを言ってしまい大変、申し訳ありませんでした」
レルがリコラルに謝罪する。
「気にしなくていいよ。こちらの失態で誤解を招いたのだし」
リコラルは王子でマリア達よりもずっと身分が上なのに、本当に申し訳なく思っているようで言葉も態度も丁寧だった。
「お優しい言葉に感謝いたします」
「あまりかしこまらなくていいから。普通に話してくれればいいよ」
「お気遣いありがとうございます。とは言え、敬語の方が落ち着くので……ところで、さっそくですが、私達はいつデルタ国に戻れるのでしょうか?」
マリアは最も重要な質問をした。
「一刻も早く戻りたいと思う気持ちは分かる。ただ、今は海に魔物が出ていて船が出せないんだ。だから、落ち着くまで今しばらくここで過ごしてはいかがかな?」
「魔物、ですか?」
マリアとレルは目を見合わせた。海に出る魔物はかなり強力なタイプが多いと聞いている。
「この島のまわりには特殊な魔物が出る。言い方を変えれば聖獣とも言えるんだけど」
「聖獣?」
「聖獣はイントに近寄る者を退ける役割も果たしている。そんなこともあって、このイント国は訪れる人は少ないんだ。暴れているうちは島を出るのも危ないからね。........ところで、その唐突なんだけど、君達に決まった相手はいるのかな?」
リコラルが突然、突拍子もないことを聞いてきた。マリアは質問の意図が分からず思わずポカンとする。
「私達には婚約者はいませんが………どういったお考えでお聞きになられているんでしょう?」
「いや…せっかくイントに来ることになったのだから、良い縁ができればと……ゴホン、ところで、僕の母上は実はデルタ国出身なんだ。良かったら、同郷の者同士で話してみてはどうだろうか?母上も故郷のことを聞きたいと思うし」
「まあ、王妃様はデルタ国の出身なのですか?」
「ああ。君達に会ったらとても喜ぶと思う」
「私達で良ければぜひ」
マリア達が承諾すると、さっそく王妃の元へと連れて行かれた。重厚な木の扉が開くと、年齢を感じさせない気品ある美しい女性が待っていた。
「まあ、よく来てくれたわね!リコラルから事情は聞いたわ。さあこちらに来て!一緒にお茶をしましょう!」
久しぶりに同郷の者と会ったのが嬉しかったのか、王妃はとても嬉しそうであった。フカフカのソファに座るように勧められる。
「僕の母上のクラリス王妃だよ」
「は、初めまして」
マリアとレルは貴族令嬢の挨拶をする。レルは貴族ではないが、マリアに習って貴族の礼儀は知っている。
「私はデルタ国、ノーラ男爵家の娘のマリアといいます。こちら私の侍女でレルといいます」
「初めまして!懐かしのデルタ国の出身と聞いて楽しみにしていたの! 良く来てくれたわ!」
「いえいえ…」
「まずは座ってちょうだい。間違えられてここに来たとは大変でしたね。リコラルはどこまで話したのかしら?」
「いえ、ほとんど……僕は政務があるのでここからは母上が説明を宜しくお願い致します。では」
リコラルは何だか急ぐようにして去って行った。
マリア達がフカフカなソファに座ると、王妃が手ずからお茶を入れてくれる。まわりに侍女はいないのかと見回したがやはりここでも女性はおらず、アンゴルのような雰囲気の男性がいるだけだった。
「女性が見当たらないことを気にしているのかしら?イントではね、極端に女性が少ないから、女性の身の回りのことをお手伝いする者は彼らみたいな人か子どもになるのよ」
中性的な見た目の人物に目をやりながら王妃は話す。
「そ、そうなのですか。色々と驚きます」
東の国では女性が少ないからという理由ではなく、違う理由で必要とされていると聞く。まあ、女性に仕えるという点では同じだが。
「イントではほとんど女の子が生まれないから仕方ないの。だからあなた達が来て皆、注目しているわ」
「注目を集めるような者ではありませんけれど……」
マリアの言葉に王妃は微笑む。
「それはどうかしら?もう少し時間が経てばはっきりと分かることですよ。ところで、滞在の期間、良かったら舞踏会に参加して欲しいの。今言ったように女性が少ないイントでは女性はとても貴重だから。皆が踊りたがるわ。キレイなドレスもたくさんあるしぜひ楽しんで」
「あの、舞踏会だなんて! 私達はデルタ国でも末端貴族の男爵家ですし…そんな歓迎を受ける身分ではありませんので…!」
王妃が乗り気なので、自分達に過剰な期待を抱かないようにマリアは言う。
「いいのよ、謙遜しなくっても。男爵家でも良いじゃないの。私は子爵家出身よ。それほど変わらないわ。……ところで、あなた達は婚約者や恋人はいるのかしら?」
「いいえ、いませんが…」
「ならば、これはやはり女神様のお導きかもしれないわ。良かった!」
「はい?」
満足そうにうなずく王妃を目の前にして頭の中にハテナが浮かんだマリア達だった。
婚約者がいるかをやたらと気にする王子と王妃です。
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