白亜の城
「ところで、あなたは誰なのですか?城をお持ちだそうですが」
「ああ、まだ名乗っていなかったね。僕はイント国の王子でリコラルだよ。宜しく」
「イント国の王子!?」
「ああ、そうだよ」
「海賊の王じゃないんだ……」
「海賊の王??」
金髪&碧眼の若い男はなんとイント国の王子らしかった。よく見れば、彼のまわりには多くのかしずく人達がいる。
「何か勘違いをしているようだけど、まあとりあえず、あちらの馬車に乗って」
リコラルが白地に金があしらわれている馬車を指した。馬車はデルタでもなかなか見たことがないぐらい豪華な仕様だ。財力も相当ありそうだから、彼が言うように本当に王子様なのかもしれない。
とりあえず、マリア達は言われるまま馬車に乗る。王子は別の馬車に乗るらしかった。別々の馬車でホッとする。
馬車の中でさっそくマリア達はさきほどの王子と海賊のやりとりについて話し合った。
「さっき、海賊が私達を攫ったのは“キルトを持っていたから”みたいなことを言っていたわよね?それってどういうことだと思う?」
「分かりませんが、キルトはイントの人にとって意味があるものなのかもしれませんね」
「ふうん。じゃあ、何で海賊がイントに花嫁になる人を運んで来るのかしら?」
「あの船にいたヤツらが海賊かどうかは分かりませんが……確かにあんなガラの悪い連中が女性を連れて来るのはおかしな話です。王子と話す態度は180度違いましたが......。お城に着いたら、詳しく事情を聞かせてもらいましょう」
「そうね!」
しばらくすると馬車が停まった。城に着いたらしい。馬車の扉が開くと、使用人らしき男性が手を差し伸べてくれる。手に掴まりながら馬車から降り立つと、目の前には白亜の宮殿が建っていた。
「白くて美しい城だわ」
「ホントですね」
イントの城は海から近いのに白くキレイな外観を保っていた。城内に入ると、所々に上品な金細工もされていてより美しい。
(品のある内装や調度品を見るに……これは本物の王子様みたいね)
思わずまわりをキョロキョロと見ていると、一足先に到着していたリコラルが声を掛けてきた。
「まずはゆっくりと休んで下さい。食事の用意などもすぐさせるので。話は明日それからでも」
「ありがとうございます。お腹が空いていたんです」
案内された部屋はとても豪華な部屋だった。ホワイトを基調とした優美なデザインで、天井まで届きそうな大きな鏡が部屋のアクセントになっている。
「まあ、スゴイお部屋だわ」
「ホントですね!」
クローゼットにはドレスまで用意されていた。
しばらくすると食事も運ばれて来る。島国らしくソテーされた白身魚に琥珀色のソースがかかっている料理や、見た目がケーキのようにオシャレに盛り付けられた肉料理がテーブルに所狭しと並ぶ。
「料理もスゴイわ。とっても豪華で凝ってる!」
「ホントですね……!美味しいですし」
考えていたよりも丁重なもてなしをされたので驚いた。
「イントって聞いたことが無かったけど、随分と豊かな国なのね」
「確かに。島国ならば資源も乏しいかと思えば、そうでもないようですね。これならば、嫁ぎたいと思う女性が大勢いてもおかしくはありませんが」
「そうねぇ。それなのにイントが全然知られていないのが不思議ね」
そんなことを話していると、扉をノックする音が聞こえた。
「お嬢様方にご紹介いたします。しばらくこちらで滞在されることになると思われますので、専属のメイドを紹介いたします。お前達、入りなさい」
執事らしき男性から呼ばれて部屋に入って来たのは、なんと男の子3人だった。
「え、子ども??」
「はい。まだ、詳しいご事情をお話できておりませんが、我が国では女性の手が非常に足りておりません。したがって、身の回りのことはこちらの者達をお使い下さいませ」
「え……この子達を?」
“子どもにお世話させるってどういうことよ…?”とマリア達が思っていると、ちびっこ達は自己紹介を始めた。
「僕はグラムと申します。7歳です」
「僕はピースと言います。6歳です」
「ボクはタワルで5歳です!」
どの子も目がクリクリして可愛らしい男の子だった。
「あの、とてもカワイイのですが、どうして子どもたちがメイドに?」
「彼らはピュアですから丁度良いでしょう」
「そういうことではなくって……」
女性の手が足りていないとは聞いた。だからって、子どもに世話をさせるなんてよく分からない考えだった。戸惑っていると、執事らしき男性はさっさと部屋を出て行った。
「ねえ、ボク達。さっきの人は執事かしら?」
「あの人はアンゴル様といって殿下の従者のお一人です!女性がいらした時は男性でも女性でもないあの人が対応するんです!」
グラムが当たり前のように答える。
「え、それってどういう……?」
「アレがないってことだよ!」
タワルが下半身を指さしながら元気よく答えてくれた。
「………」
意味を察したマリア達は唖然とした。はるか遠い東の国にはそういう人達がいるというのは聞いたことはあるが、見るのは初めてだった。
「は、初めて見たわ」
「わ、私もです。確かに線が男性よりも細かったかも……」
ちびっこメイド達は気にした様子がなく、慣れているらしかった。
「明日、改めてお聞きしたいことが増えたわね」
「そうですね……」
マリア達はちびっこメイドが用意してくれたお風呂を有難く使わせてもらった。タワルが入浴をお手伝いする!と申し出てくれたが、丁重に断ってレルに手伝ってもらったのだった。
メイドはまさかのお子様.......。
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