港での大立ち回り
マリア達は全速力で走り出したが、意外にもまわりにいる人達に止める様子はない。
(案外このまま逃げられちゃうかも?)
マリアが安心しかけた瞬間、レルが急に止まった。見ると、前方に屈強な大男が立ちはだかっている。
「ここは私が食い止めます!お嬢様は全速力で走って逃げて下さい!」
レルはそう言うと、大男に向かって行った。
「レルーッ!!!」
レルは大男に蹴りを繰り出した。
「ダァッッ!!!!」
レルの得意技、回り蹴りが炸裂する。が、男は肘でガードした。
「これは元気なお嬢さんだ」
大男はボソリと言う。
レルは蹴りが殆ど効いていないことが分かると、何度も大男に打撃を試みた。だが、ことごとく大男に防がれる。その様子は、まるで子どもが大人に挑んでいるかのように見えた。
「はぁっ、はぁっ………お嬢様、なんで立ち止まったままなんです!?あなたは逃げないとっ!!」
マリアはレルが心配で逃げる気持ちにはなれなかった。
「レルがいないなんてムリ!」
「何を言っているんです!1人で逃げるんです!ここはなんとか私が食い止めますから!」
レルが再び、大男に向かって突っ込んで行く。
「レルーッ!!」
レルの捨て身の攻撃は大男にあっけなく止められた。大男はレルの両手首を掴んでいた。
「武術の心得があるのですね、あなたは」
大男は落ち着いた口調で言う。レルは大男の手を振りほどこうともがいた。
「やあ、大立ち回りは終わったかな? 今回のお嬢さん達はとても元気だね?」
気付くと、白地に金の縁取りがついた服装の若い男がすぐ側に立っていた。若い男は、金髪に碧眼でキレイな容姿だ。
「レディ達、長旅で身体を動かしたくなったんだろうか?それとも気が変わってしまったのか……とりあえずは、まずは城でくつろいで頂きたいと思うのだけど」
若い男がよく分からないことを言うので、マリア達は困惑した。
「人攫いが何を言うんだ!」
レルが金髪男を睨みつけた。
「これ、そのような口を聞いてはならない」
レルの腕を掴んでいる大男はたしなめるように言った。
「あんたも腕を離せ!」
「あなたが暴れないなら手を放すが」
「……暴れない。お嬢様も逃げていないし」
すっかりまわりは人に囲まれていた。彼らは鎧を身につけている。もうレルだけではどうにもならなかった。
「君達はなんというか、嫁入りするつもりで来た割に反骨精神が旺盛だね」
「は!?」
若い男の言葉にマリアとレルの声が重なった。
(やっぱりそういった魂胆で攫ってきたのね!)
マリアが考えていると、レルも同じことを考えたようだ。
「人攫いをして、勝手に妻にするとは言語道断!お嬢様と私を元いた国に返せ!」
「人攫い?…どういうことだろう?」
「どうもなにも! 私達はキルト販売をしていただけなのに、勝手に連れて来たのはあんた達の仲間だろう!」
「…………これは一体、どういうことだ?」
若い男が海賊の方を見ると、海賊達は若い男の視線に震えて突然、ひれ伏した。
「そのお嬢様方がキルトを持って現れたので……!神託の女性とは違うようでしたが、キルトを作ったというし、もしかしたら女神様のお導きかもしれないと、お連れしたのです!」
「彼女達は何もこちらの事情を知らないようだが?」
「その、とても話をできるような状態ではなかったので、とりあえずそのままお連れしました」
(“とても話をできるような状態ではなかった”ですって?いきなり攫ったくせに何をいうのかしら!?)
海賊達の言い草にマリアはカチンときた。
「…お前達の話を聞くに、彼女達がキルトと関係していたから勝手に連れて来たというのか?それならば、人攫いと思われても仕方がないではないか。だから、彼女達は暴れたのだな」
「も、申し訳ございません!!」
海賊らしき男達は若い男の前でひれ伏したままだ。
(ひれ伏させるなんて、この人は一体何者なのかしら?海賊の王??)
金髪&碧眼の若い男性は海賊には見えないが、着ているものも上等だしかなりの権力を持つようだった。海賊の王かもしれない金髪男がマリア達を見ると、すまなさそうな顔をしている。
「怖い思いをさせて申し訳なかった。ここに連れられてきた理由についてきちんと説明させてもらいたいので、城にお連れしたいのだが……その警戒具合だとついて来てもらうのはムリかな?」
「ついていくワケがない!ここで説明するべきだ!」
レルが叫ぶと、まわりにいた人達が反応した。
「レル!落ち着いて。あの人、海賊の王かもよ?まわりは囲まれているし、ここは穏やかにいきましょうよ?」
マリアが小声でレルに囁くと、レルも分が悪いので大人しくなった。
「そもそも、ここはどこなのですか?」
「ここはイント国だよ」
マリア達は初めて聞く国の名前に狐につままれたような気分になった。全く聞き覚えのない国名だ。
「えーと、初めて聞きました」
マリアが言うと、金髪男は微笑んだ。
「そうだろうね。我が国は小さな島国だし」
大陸かと思っていたらどうやら島らしい。大陸と間違えるほどだから、彼が言うほど島は小さくはないと思うが。
「簡単に説明するとね、君達はこの国に嫁ぐ女性と間違えられて連れられて来たようだ。非常に申し訳ない」
「申し訳ないと言われても……」
「ならば、すぐにでも私とお嬢様をデルタ国に返して下さい!」
レルが少し丁寧な言い方しながらもう一度、主張した。レルの指先は震えているから緊張しているのが分かる。
「まずは、こちらの手違いを丁寧に謝罪させて頂きたい。どちらにせよ、今日はもう船も出ないので城に来てもらえると助かるな」
確かに今から船を出したとしてもすぐに日暮れになってしまいそうだ。
「……そういうことならば仕方ありません。分かりました」
マリア達は彼の言う提案を仕方なく承諾したのだった。
花嫁として攫われてきたマリア達は警戒心MAXです。
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