第2話 魔法の石
すでに日は落ちて辺りはすっかり暗くなってしまっていた。
数ヶ月前までは元気に合唱をしていたカエルも、今は土の中で眠っている。しっかりと身の程をわきまえて、年を越す準備をしているのだ。
それに比べてボクは、自分の力量も分からないで、闇雲に飛び出して。ほんと、なにやってるんだろう……。
ボクはあれから知らない男の家に連れて行かれ、一緒に王様ゲームをさせられたり、神経衰弱に参加させられたりした。当然負ければ罰ゲームもあって、ボクは何回も男たちから渡されたコスプレ衣装を着させられたり、目の前で猫のポーズをさせられて、挙げ句の果てには「にゃーん」なんて言わされて。涙目になっているボクを見て男たちは盛り上がった。
あいつらは、情けないボクを見て嗤っていたんだ。
挙げ句の果てに「さっきは怒鳴ってごめんな」だって。ボクの頭を撫でながらあいつらは言った。完全にバカにされてた。
ボクがもっと、男らしければ……。
腕の中に抱えたお菓子の山を睨んで、奥歯を軋ませた。
これはボクが帰る際、男たちが持たせてくれたものだ。
いちご味のポッキーから、ホワイトマシュマロ、一口サイズのマカロンに中身ぎっしりのタピオカ。あ、これ前から気になってたやつだ。わーい!
……じゃなくて!
「なんでこうなっちゃうんだろう」
小さい頃から可愛い物が好きだったボクは、よく女の子用の服を着て学校に行っていた。小学校の頃はなんにも言われなかったけど、中学にあがるとちょっとずつ友達との距離は離れていって、逆に女の子の方が近づいてくるようになった。
それまで友達だったはずの男の子は、ボクを見ると気まずそうに目を逸らして離れていって、ボクの交友関係は女の子が主になっていった。今思えばそれがいけなかったのかもしれない。
中学時代はずっとクラスの女の子と遊んでいたせいもあって、趣味や、好物までに偏りが出てしまった。高校生になるとそれが浮き彫りになり、また友達と離ればなれになるのが嫌で、ボクは女の子と遊ぶのをやめて、これまで好きだったものも全て捨てた。
好きなように生きていいのは、小さいときだけなんだというのを、高校に入って初めて知ったのだ。
その成果もあって、今はそれなりにクラスへは溶け込めているけど。
「もっと男らしくならないと」
最近は筋トレも始めたし、それなりに体の線は太くなった……はず。
それにハードボイルドな映画もたくさん観たし、佇まいとか雰囲気もだんだんと男らしくなってきたと思う。
家へと帰る道、いろんなカッコいい男の人とすれ違う。髪が短くて爽やかな人。まゆげまで髪を垂らした甘いマスクの人。堀が深くてつい見惚れてしまう人。身長が高くて足が長くて頼もしい人。
あんな風になれたらなぁ、とボクもちょっとだけ胸を張って歩いてみる。
人通りの多い道を抜けて田んぼ道に出る。風が吹き抜けて、もうじきやってくる冬の寒さを肌で感じる。冬物、新しいの買わなきゃ。
今年は茶色に挑戦してみようかな、大人っぽく見えるし。靴もパステルカラーのものじゃなくて、グレー寄りにしてみたり。
そうやってつま先を見ながらコーディネートを考えていると。
「あれ?」
なんだろう、今。何か光って。
よく見ると、茂みの中で、紫色に光っているものがある。
日常生活ではあまり見ない輝きの色に、ボクは惹かれるように近づいた。
「宝石?」
おもちゃかな。
でも、手に取ってみると結構重い。それになんだか、不思議な感じ。ただの光というよりは、細かい粒が集まったように見えて、幻想的だ。この世のものとは思えない。
もしかしたら魔法の石なのかも。
ボクの願いも叶えてくれたりしないかな。
男らしくなりたいです。
流れ星に祈るように、目を瞑った。
なんてね、どうせ子供が落としていったおもちゃの石だろう。こんなところで道草してたら晩ご飯まで間に合わないや。
そう思って目を開けた次の瞬間。
「うわっ!?」
ピカッ! と激しく光ったかと思うと、石は粒子のようになって、ボクの胸を突き抜けていった。
「え、え?」
一体、何が起きたの?
さっきまで持ってた石はいつのまにかないし、特に体に変化があったわけでもないし。
目の前には、見慣れた田んぼ道が広がっている。
まるで夢だったみたい。
「帰ろう」
なんだったんだろう。
妙な不安に駆られながらも、ボクは家を目指して帰路に就いた。




