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掟の同窓会

 希総との結婚式の時、実家に届いていたクラス会の案内を母から渡された掟。当時は周囲から浮いていたので一度も参加したことが無かったが、夫の勧めもあって出席する事にした。

「取り合えず指輪を買いに行こうか」

 結婚式は和式だったので指輪の交換はしていない。

「既婚者であることをアピールしておくのは重要だと思うよ」

 と言う事で取引のある宝石商を呼んで普段使い出来るプラチナのペアリングを購入した。

「実は準備はしていたのだけれど渡すタイミングを逸したんだ」

 リングとセットでネックレスと、それらを入れておく宝石箱も同時に贈られた。

「箱の方が立派な気がするけれど」


 クラス会当日。掟は運転手付きの車で会場に乗り込んだ。

「時間に成ったら迎えに来て頂戴」

「判りました。若奥様」

 会場へ入って受け付けで招待状を提示すると、

「来てくれたのね。片桐さん」

 受付は当時の委員長だった浅井美玲である。

「貴女も大変ね」

 参加名簿に名前と現住所を書き込むと、

「結婚したのね」

 希総の狙い通りに、左手の薬指のリングが目に留まったらしい。

「ええ。今の姓も書いた方が良いかしら?」

「別に必要ありません、わ」

 書かれた住所で察しがついたらしく、敬語になっている。

 会費の五千円を払って自筆の名札を受け取って胸に付ける。会場の入口で飲み物を受け取って中へ進むと、

「見掛けない美女が入った来たと思ったら、片桐さんだったのか」

 と真っ先に声を掛けてきたのがクラスの人気者だった六角英斗である。

「大袈裟ね」

 グラスを持った左手を掲げて挨拶を返す。六角は薬指のリングに目を止めたがそこにはあえて触れず、

「私服を見るのは初めてだな」

 と服を褒め始めた。掟は青を基調とした質素なワンピースを着ている。勿論オーダーメイドの一点ものだ。

「随分と恰幅が良くなったわねえ」

 高校時代は野球部の主将でスラッとした体格だったが、

「野球は二年で辞めて、学業に専念したからね」

 法科大学院を修了して、今は司法試験に向けて勉強中だと言う。彼が法学部に進んだのも、

「野球で喰えるのは一握りだから勉強の方もしっかりしておいた方が良い」

 と言う掟の忠告を受けての事らしい。

「そんな事言ったかしら?」

「君の方は既に司法試験を通っているんだろう?」

「ええ。同じ業界に居ればどこかで会う事もあるでしょう」

 掟は事務所の名刺を渡して、

「試験頑張ってね」

 と言って離れた。


 会場の中央に用意された料理を味わっていると、

「お久しぶりね。サダメさん」

 女子グループの中心だった京極楼蘭である。高校時代は親しくなかった。と言うか何故か敵視されていて、名前を呼ぶ際にも後ろの二文字を強めに呼ばれる。

「お元気そうで何よりです。ローラさん」

 かつては美人でお嬢様タイプな楼蘭に気後れしていた掟だが、神林希代乃と言う上位互換に鍛えられたお陰で苦手意識は消え去っていた。

「サダメさん、()()()()が変わったわね」

 と言われたので、

「ローラさんは、髪の毛の色以外は変わっていませんね」

 あの当時はもっと明るい色だったが、今は黒髪になっている。当時は地毛だと言い張っていたが、

「社会人に成ったら染める時間が取れなくなったのよ」

 と自白した。

「高校時代も話しかければこうして応じてくれたのかしら」

「あの当時は私が一方的にライバル視されていたように思うのだけれど」

 掟の方にも歩み寄る姿勢が無かった訳だが。

「貴女は気が付かなかったでしょうけれど、男子に人気があったから」

 と言われて首を傾げる掟。

「男子の半分くらいは貴女のファンだったと思うわよ」

 裏を返すと残りの半分は自分のファンだったという意味なのだが、

「貴女が来ると知って盛り上がっていた男子たちが絶望の悲鳴を上げていたわ」

 掟の左薬指を指差して笑う。

「絶望は言い過ぎではないかしら」

 と苦笑しつつも、

「魔除けとしての効果はあったみたいね」

「よく見たらシルバーじゃなくてプラチナなのね。こんな高いモノをこの為にわざわざ買ったの?」

 と若干引き気味である。

「どんな男性なのか興味あるわね」

「私の話も良いけれど、貴女の話が聞きたいわ」

 と切り返す掟。

「確かS女に行かれたのでしたね」

「ええ。今は父の仕事を手伝っています」

 楼蘭の実家は地主で不動産業を営んでいる。

「いずれ婿を迎えて家業を任せる事になるでしょうけれど」

「ご自分で家業を取り仕切るお心算はありませんか?」

「貴女のお母さまみたいに?」

 と返されて、

「どちらの?」

 と答えそうになった。初めに思い描いたのは義母の希代乃だが、実母の真実も父の遺した法律事務所を受け継いでいる。

「それにしても意外だわ。昔の貴女は他人に興味が無いように見えたけれど」

 掟が変わったのは、夫となる希総の影響もあるが、

「大きいのは大学で出会った親友の存在かしら」

 大学に進んで初めて対等に話せる友人を得たが、その中でも滝川千種は掟が生まれて初めて勝てないと思った相手だった。彼女は単に頭が良いだけでなくコミュ力も高かった。

「一度会ってみたいわね」

「彼女も忙しいけれど、聞いてみるわ」


 楼蘭が離れた後、三人組が話しかけて来た。

 クラスの女子の半分が未婚、半分が既婚。既婚の半分が子持ちと言う配分なのだが、三人組は未婚のキャリアウーマンと既婚の専業主婦、そしてシングルマザーと多様だ。

 高校時代は仲の良かった三人組だが、今は境遇が違い過ぎて話が合わなくなっていた。そんな不満を三人が一斉に掟にぶちまけてくる。

 要約すると、バリキャリの北海穣の不満は出会いが無い事。専業主婦の赤尾(旧姓)夫人は子供が出来ない事。そしてシンママの天森さんの不満は仕事と子育ての両立である。

「順番に答えるから選んで」

 掟は名刺の裏に数字を書いて引かせた。

 一番を引いたのは赤尾さん。

「私は妊娠出産の専門家では無いけれど」

 と前置きして、

「一つ忠告するならば、子供を産んだ後の事についてパートナーと意思統一しておく事ね」

 今は家事全般を担当しているとしても、子供が出来たらそのままでは回らないだろう。

「それはまさに私の離婚理由だわ」

 と二番を引いた天森さん。

「経済的に余裕があるなら、外注するのも一つの手ね」

「片桐さんのお宅はどうなの?」

 と北海さん。

「うちもまあそんなところよ」

 正確にはメイドが沢山いてやってくれるわけだが、それをここで言うのは憚られる。

「仕事と子育ての両立についても、私の専門では無いけれど、収入を増やして子育てを他人に任せるか、多少収入が下がっても子育てに集中して今を乗り切るかの二択でしょう」

 と無難な回答に留める。

「異性との出会いについては、全くお役に立てないわ」

 と交わすが、

「強いて言えば、仕事を調整して時間を作る事かしらね」


「生真面目ねえ」

 三人組と入れ替わりで委員長で幹事の浅井さんが話しかけて来た。世話好きの姐御肌だったので、クラスで浮いていた掟とも親しい間柄であった。

「あんなの適当に流しておけば良いのに」

「聞いていたの?」

「三人が一斉に話し出して、全く聞き取れなかったけれど」

「聞き取れたいくつかの単語から、相談内容を類推したまでよ」

 と掟。

「弁護士への相談は時間単位で決まるから、ある程度は相手の話を先読みして拾う癖がつくのだけれど、やり過ぎると本音が引き出せないから加減が難しいのよね」

「予測変換みたいなものかしら」

「そうね。彼女達の愚痴は定番ばかりで読みやすかったわ」

 愚痴と判断したから具体的な解決策は示さなかった。

「解決策なんてあるの?」

「弁護士としての私には無いけれど、こっちの肩書なら話は別よ」

 と言って裏の名刺を差し出す。六角に渡したモノとは違って本名の後に旧姓を併記して、連絡先も個人持ちのスマホの番号になっている。

「うちの会社には独身の若い男性社員が沢山いるし、福利厚生も完備されているから子育てにも困らないわ」

「それって、私が社員だと知った上で言っているのね」

 と言って名刺を返してくる。リケジョだった浅井さんの勤務先は神林マテリアルの研究開発部である。

「ここにいる元クラスメートの近況はおおよそ把握しているわ」

 調べたのは夫の希総だが。

「束縛系なの?」

「何事にも対しても綿密な情報収集をして当たる習性なのよ」

「そう言えば、今年の新入社員研修に御曹司も混じっていたらしいわ」

 根幹である重工とそれに直結するマテリアルは希代乃が社長を務めていて、希総はまだ役員にもなっていない。

「あれも将来を見越した情報収取の一環だったのね」

 と笑う。

「ところで御曹司とはどう言うご縁なの?」

「彼の兄。現官房長官が大学の半期後輩で、その紹介で知り合ったのよ」

 矩総の実母、瀬尾前総理夫人が掟の母の事務所に居たのであるが、

「小さい頃から知っていた、とかでは無いのね」

「うちの母は速水家の顧問弁護士もしていて、つまり総一郎小父様の父親である速水秀臣氏とも繋がりがあったのだけれど。速水家と神林家の間には込み入った事情があって」

 希代乃は嫁候補のリストに入れていたらしいが、具体的なお膳立ては何もなかった。

「官房長官の方が年も近いわね」

「矩総くんの方は高校時代から付き合っている美人の恋人が居たしね」

 と言ってスマホから披露宴の写真を見せる。新郎新婦を挟んで矩総と希理華の夫妻が写っている。

「厳しいわね」

 と美鈴。

「こんな美人と並んで撮られるなんて」

 と冗談交じりに言う。

「実物はもっと綺麗よ」

 と掟。

「希理華さんは動いている状態が最も魅力的だから」

「会ってみたいわねえ」

「機会があればね」


 クラス会が終了し、いくつかのグループに分かれて二次会に向かった。

 掟も誘われたのだが、

「近くまで来たから」

 迎えの車から夫の希総が現れた。

「そう言う事なので」

 と言って車に乗る掟。

「いつから待っていたの?」

 走り出すと同時に隣の夫に詰め寄る掟。

「来たばかりだよ。本当に」

 二人のスマホには互いの位置情報を知らせるアプリが入っている。それのデータを追うと、希総が到着したのは会が終わる十分前だ。

「僕が到着した直後くらいにこの車が戻って来たから交代した」

 運転手は希総が乗ってきた車で先に帰ったらしい。

「指輪は効果絶大だったわ」

 と言われて、

「それは良かった」

 とほっとした様子の希総。

「人のモノだと判ると却って欲しがる輩も居るから、逆効果じゃないかと言われたから心配していたんだ」

「そう言う事を言うのは、春真君あたりでしょう」

 掟は苦笑した。


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