窮地から助けてくれた人を好きになってしまったけれど、その人が全ての黒幕だったことを知ったあとの話
書きたいとこだけ書いたのでツッコミ所は見て見ぬふりをするか大いにツッコミ入れてお読みください
私はある同級生を放課後の教室に呼び出した。最近、私の身の回りで起きたことについて問い質したかったからだ。私の考えではきっと彼が関係していると踏んでいる。
「やあ、えみりちゃん。こんなところに呼び出してどうしたの?」
私の呼び出しでやってきたのは柔らかそうな茶色の髪をしたタレ目のイケメンで、実は私の好きな相手でもある相馬雪人くんだ。
クラスでも男女問わず人気が高く成績優秀で先生たちからの評価も高い。
図書室でたまたま会った時にわからなかったところを教えてもらってから仲良くなって今はそれなりに親しい友達、と言ったところだろうか。
でも、彼と友人関係になってから気になることがいくつかあった。それを聞きたくて私は彼を呼び出したのだ。
「ごめんね、急に呼び出して」
「ううん。えみりちゃんの話ならいくらでも聞くよ。それで、話したいことって……なにかな?」
笑い方も柔らかな雪人くんの表情に勇気を貰いながら、私は気になっていたことを尋ねた。
「あのね……――――」
黙って私の話を聞いていた雪人くんは、聞き終えるとふっと、俯いて、微かに震え出す。
「雪人くん……?」
「そっか、えみりちゃん、気づいちゃったんだ」
「それって、やっぱり……」
「そうだよ。君の疑っている通りさ。全部俺の仕業だよ」
「そんな……!」
「それで? 例え君が真実を知ったところで今更俺からは逃げられないよ。どんなに君が嫌がって俺を遠ざけて拒絶しようとも絶対に離さない。もう君の意思なんて関係ないんだから。君は俺だけのものだよ」
昏い瞳で、普段の穏やかな雰囲気をかき消した雪人くんを見つめて、私は考え込む。
「……」
「……」
「…………」
「…………あ、あれ? な、何か言うことは無いの?」
「今ちょっと考えてるから黙ってて」
「エッ、あ、はい、ごめんなさい……」
「……………………」
「……」
「……あの、全ては雪人くんがきっかけってことでいいんだよね」
「そっ、そうだよ、君から周囲を遠ざけて孤立させて俺をだけ頼るように仕向けた。君の目に映るものを俺だけにするために! こんな俺を君はきっと許さないだろう」
「そこ! それそれ、さっきから気になってたのはそこ!」
「えっ、どこ……? ……全部?」
「いやだから、私の話を聞きもしないのにどうして決めつけるようなことを言うの?」
「え、いや、だって、突然友達に無視されるようになったり、孤立するのは嫌だったろう? そうなるように仕向けた俺に嫌悪感を抱いたっておかしくないはずだ!」
「別にそんなこと思ったことないけど」
「エッ」
「だって……ぶっちゃけ友達とかいなくていいし、むしろ孤立したおかげでどうでもいい周囲のこと気遣う必要なくなったし、その分雪人くんが周囲の揉め事に巻き込まれてて悪いなーと思ってたくらいだし」
「じゃあ悪い噂を流すように誘導したことは!?」
「ああ、なんか、素行不良になって急激に成績が低下したとかどうとかって? あれもむしろ助かったーと思ったよ。だってだんだん私のレベルじゃ追いつけないくらいハードル高くなってたから。本当は勉強だって別に好きじゃなかったけど、どうしても自分に張り付いたイメージを壊せなくて無理してたんだよね。試験前とか何日も眠れなかったし、そのせいでご飯もまともに食べられなくなったりしてたから……。あの噂のおかげで私の成績を気にする人が居なくなってホッとしたよ。期待されないってこんなに楽だったんだね」
「そ、それじゃあ気味の悪い男が付き纏ってるって噂は!? ストーカーされてるなんて不名誉だろう!?」
「それなら、自称正義のヒーローもどきがやっといなくなってくれて助かったよ」
「ど、どういうこと?」
「一緒にクラス委員をやってた人がなんかよく知らないけどメンツのために? 私と付き合ってるってことにしたくて付き纏ってきてたんだけど、本人も周りもそれをただの友達、もしくは恋人未満の相手だと思ってたらしくて。私はめちゃくちゃ嫌だったのに拒否だってしたのに聞いてもらえなくて、勝手に家に迎えに来たり、塾の時間とか教えてないのに出待ちしてて気持ち悪かったなぁ。でも『あの噂あんたの事だよ』って証拠付きでバラそうとしたら怯えて逃げちゃったからラッキーって思った。証拠って言っても夜中に人の家の前に突っ立ってる写真だったからそんなに証拠能力あるかわかんなかったし。向こうは私と違って外面かなり気にしてたみたいだから良かったよ」
「えっと、それじゃあ俺のしたことって……」
「雪人くんがどんなつもりでしたのかはわからないけど、大体全部私のためになってたね。私のことを精神的に追い詰めて依存させたかったのかな?」
「……けど君はそれ以上に精神を追い詰められてたって、こと?」
「まあ、そういうことになるかな!」
「ってことは、俺のしたことは全部無駄だった……?」
「うーん、依存、はまだだけど。雪人くんのことは…………その、好きだよ」
「え、……えええ!!?」
「そっかー、でも助けようとしてたわけじゃなかったんだねぇ。どうりで見返りを要求されないなぁと思ってたんだよ。私に好意を持つ人って大体見返りが欲しい人だからさー、なんでこの人何も言わずに助けてくれるんだろうと思ってたんだ。目的が違ったからだったのかぁ……なるほどねぇ」
「た、助けるなんて……俺は君が困ってることにも気づいてなかったよ……こんな俺が君に何をできるって言うんだ……君にとっては謝られることじゃないのかもしれないけど、ごめん。俺、ほんとに自分のことしか見てなくて……情けない……俺もう二度と君の前には現れないから、どうか忘れて欲しい」
「えっ!! なんで!!!!???」
「な、なんでって言わなくてもわかるだろ。俺はまともじゃないんだ。それに好きな人の窮地にも気づかなかった馬鹿な男だよ。そんなやつがそばにいられるわけないだろ」
「いや、だからなんで?! さっきまで君の意思は関係ないとか言ってたのに!? 最後まで自分本位!!! 私の事好きなら死ぬまで側にいてよ!!!」
「……ぴぇ」
謎の鳴き声をあげると彼は顔を真っ赤にして涙目になってしまうのだった。あれ、どうしてこうなった?
おまけ。
「それで、雪人くんの口からまだ好きって聞いてないんだけど……私のこと好き?」
「めちゃくちゃ好きだよ。君のこと追い詰めて囲いこんで絶対に逃げられないようにしたいくらい好き」
「ふふ……そっか。じゃあ私は雪人くんが頑張って頑張って作った檻の鍵が開いていたとしても逃げ出さないくらいには君のことが好きだよ」
「……! 俺のこと殺す気なの!?」
「そんなことになったら私も追いかけちゃうから死なないでね」
あああ、雪人くん……また涙目になっちゃって可愛いなぁ。口元を抑えて真っ赤になってる雪人くんを見つめながらこんなに可愛い人が自分を好きだなんて幸せだなぁと思うのだった。
ヤンデレが好きな子に押せ押せされてあわあわしてるのが好きです。
お読みくださりありがとうございました。