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インド人vsクロマニョン人

 今日はオリンピックの大事な初戦。種目はサッカーで、侍ジャパンの威信をかけた一戦だ。俺とチームメイトは今回の大会に向けて血の滲むような練習を積み重ね、国民の声援と代表という責任を背負ってこの大舞台に挑もうとしていた。

 ニッポンのいるグループは強豪のドイツ、ブラジル、フランスがいる魔のグループと呼ばれ、初戦のインド戦は何としても勝ち点3を取りに行かなければならない試合だった。負けるわけにはいかない。次の試合に備えて、良いスタートを切るためにも、敗北は許されなかった。

 あっという間に時は過ぎ、日本代表のユニフォームに着替えた俺たちは、国歌斉唱を終え、対戦相手であるインドの選手たちと向かい合った。インドは戦力的にも未知数であり、サッカーはあまり注目されておらず、監督の指示も専ら次戦のドイツ戦へ集中しており、緊張感もそれほど張り詰めてはいなかった。

 インド国家の斉唱が終わり、ホイッスルが鳴り、試合が始まった。

 しかし、その時不思議なことが起こった。日本ボールから始まり、キックオフと共に警戒と走り出したフォワードの北野と木村もその光景に唖然とし、ドリブルを止めて呆然としていた。そう、対戦相手のインド人がホイッスルと同時に背を向けて自分のゴール側へと駆け出したのだ。

「どういうことだ。」

「試合放棄か?」

チームメイトも、観客もあまりに異様な光景にザワザワとしだした時、相手のゴール側から何か乗り物に乗った黄色のユニフォームを着た選手がこちらへ向かってくるのが見えた。それは、田んぼを耕す機械だった。

 機械は、ピッチの芝を刈り、土を耕しながら中央へと向かってくると、そこで折り返してまたゴール側へと走り出した。完全に、土を耕していた。

 あまりの光景に唖然としていた日本人選手だったが、ふと我に帰ると、フォワードの北野が身振り手振りを交えて、レフェリーに抗議した。

「どうなってる?反則だろ!?」

するとレフェリーは少し考えて、胸ポケットをガサガサとまさぐると、やがて緑色のカードを取り出した。

 日本人選手たちが意図を掴めないでいると、やがてレフェリーが言った。

「これはグリーンカードです、地球環境にやさしい選手に対して与えられます。」

「いや、フェアプレーとかした時に与えられるやつじゃないの?」

「それ以前にどう考えても全員レッドだろ」

北野と木村が不安になっていると、監督がタイムの指示を出して、皆ベンチに集まった。

「監督!奴らはどう考えても日本を馬鹿にしています。抗議の意味も込めて、早く帰りましょう」

「いや…しかし審判陣も観客も何も異議もせず成り行きを見守っているんだ、このまま続行するしかないだろう。いや、むしろこれは日本の農産業に対する挑戦と捉えて良いだろう。みろ、彼らはきっかりコートの半分を耕して、田植えを行なっている。半分は我々へのスペースとして残しているのだろう。どちらがより美味しくて安全な稲を作り、米を炊けるか、その勝負だ。お前らもはやくクワと苗を持ってきて田植えに取り掛かるんだ!」

監督はそういうと、踵を返してクワを取りに行った。

「どうする?」

「いや、しかし代表を外されるのは嫌だ、やるしかないだろう。」

 選手たちは渋々ながらクワを受け取ると、自分達側のピッチを耕し始めた。


 前半35分が過ぎ、両者の田植えは佳境に入り始めていた。機械を使い、先に稲を植え始めたインド側は、既にピッチを覆い尽くすように苗が植えられており、今は各自ジョウロを片手に日光の下水をやっていた。日本側も少し遅ればせながらも、雑草(芝)を刈り、苗を植え、水をやっていた。

その時、動きがあった。インド側のピッチから、インドの歌が流れ始めたのだ。すると、みるみる間に苗は成長し背を高くし始めた。

「どうなっている」

「植物は音楽を聞くと刺激を受け、成長を早めるらしい。その習性を使った促成栽培だ。さすがインド人。」

「こちらも対抗しよう。」

北野はスピーカーを持ってくると、今流行りのJPOPを流し始めた。

 すると、苗はみるみる間に成長し、背を高くすると、音楽に合わせて左右にリズミカルに揺れ始めた。縦乗り横乗り、稲はノリノリの音楽が好きらしい。

そこで、前半が終了し、ハーフタイムに突入した。

監督はチームを集めると、今後の作戦を伝える。

「土を耕し、苗を植えて、今はまだ緑色だが、苗は成長し始めている。温暖な気候と水が揃っているが、次に必要なのは肥料だ。実ができ始めると、一年でいう秋がやってきて、イナゴなどの害虫駆除が必要になる。農薬を使うのが手っ取り早いが、農薬はイネを痛める。地道だが、無農薬で育てるのがいいだろう。あと、カラスにも気をつけろ。使わなくなったDVDとか、カカシとかを置いておくといいだろう。」

「くそっ、農業は何で大変なんだ。シュートの練習してるだけじゃダメだったのか。」

「俺もシザースの練習してる場合じゃなかったぜ…」

いや、サッカーをしろよ。俺は心の中で呟いた。

 ホイッスルが鳴り、後半戦へ突入した。

案の定、鳥や虫がピッチへ迫って来て、稲穂に齧り付こうとしたが、ディフェンス達が巧みな技でそれを防いだ。インド側も、どうやら苦戦しているらしい。最終的な結果は収穫されたイネの量で決まるだろうから、ここで盗まれるわけにはいかなかった。

 ピピーッ

 その時、鋭いホイッスルの音がした。見ると、インド側のフォワードが日本側の稲を刈り取って自分のサイドに持って帰ろうとしていたのだ。審判は、レッドカードを取り出すと、その選手は身振り手振りで必死に抗議したが、審判は判定を変えなかった。そこで、インド側の監督はビデオ判定を要求した。しかし、どうみてもナタで稲を刈り取っていたのでその選手は退場となった。

 その後、刈り取った刈り取ってないの醜い論争が何度かありつつ、インド側の選手が5人退場になるなど、さまざまな過程を経て、ついに試合も終盤へと突入した。

 稲穂はもうすっかり色を変えて収穫の時期へ突入しており、両者は稲の収穫を始めた。見た目の量では、インド側が圧倒的に上回っており、かなりのリードを許していた。

 アディショナルタイム15分の表示が出て、観客の大ブーイングが巻き起こったが、両者は炊飯器を持ってきて、やがて米を炊き始めた。しゃもじを片手に睨み合いながら、炊いた米を器によそっていく。勝つのは日本か、インドか、刻一刻と試合終了のホイッスルが迫っていた。

 その時、1人のインド人選手が炊飯器を抱えると、猛ダッシュで日本ゴールへと駆け抜けた。ゴール数メートル前まで来ると、選手は炊飯器からサッカーのボールを取り出すと、地面に置き、思いっきりシュートした。

!?

「なに!?」

「くそっ、そう言う事だったのか!?」

ピーッ!

審判が笛を鳴らした。


「ハンド!」


そこで試合は終了した。

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