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「着いたよ~」


 耳元でアイリの声が聞こえてくる。意識が戻っていく中で仰向けになってクッションか何かに包まれているようだった。体を動かそうにも、この気持ちよさに動けないでいる。


「ここ………どこだよ」


 アイリの方へと転がると、目の前には先ほどの姿とは全く違い、耳は少し長くなり、白銀の髪がキラキラと輝き、瞳は、炎のように燃えているように赤い。白い肌は相変わらずきれいだ。


「………私達の寝室………」


 その言葉に思わず体を起こす。すると巨大なベッドを中心に、愛娘であるイアの絵が壁に飾られていた。


「戻ってきたのか」

「うん」


 コンコンっとノックが聞こえてくると、部屋の中に先ほどの吸血鬼が入ってきた。


「失礼しま………すみません、失礼いたしました」


 俺たちを見た途端、すぐ部屋の外へと出て行ってしまった。

 なんだったんだと思っていると、上半身裸であることに気づいた。


「えへへ、ごちそうさまぁ~」


 どうやら、俺たちが転移した途端にすぐ俺に襲い掛かり血を飲んだらしい。まぁ対価としてと言ったが気絶させられるまで吸われたのは、久しぶりかもしれない。

 ベッドの下に落ちていた服に着替えると、アイリも一緒に出てきた。


「待たせた」

「いえ、先ほどはすみませんでした」


 寝室の扉を開けて外に出ると、吸血鬼が立つっていた。

「案内頼む」というと、そのまま「はい」と言って歩き始める。

俺たちは、その後ろを着いていくだけだ。


「そういえば、魔王様はあの鎧つけないのですか? この先皆がおりますし、襲われる危険性も」

「あ~構わん。調子乗ってるやつ全員半殺しにするから」

「は、はぁ………」


 吸血鬼も表情が引いているように思えた。

 足を進めると、魔族と呼ばれる異形の者たちが俺たちをじっと見つめていた。

 だが、襲いに来ない。


「つまんねぇ………」

「戦闘狂は黙ってて」

「うっせぇ………てかどっかからそんな言葉知ったんだよ」

「教えなーい」


 アイリと会話が弾んでいると影で魔族たちが話し込んでいる声が聞こえてきた。


「なんだあの人間、女王陛下と並んで歩きやがって」

「ただの人間だろ? やっちまおうぜ?」

「しかし、あの声どこかで………」


 いい感している奴もいるようだ。だが、ほとんどは俺自身で集めた戦闘狂ばかりでほぼ脳筋である奴らにはわからないだろう。


「あの子たち殺していい?」


 プルプルと小さなこぶしをあげるアイリ、俺はその手を自分の手で重ねて抑え込む。


「なぁ、お前らかかってくるなら来いよ」


 俺は思わずそう言ってしまった。中庭に出たことで広さは十分その上でアイリを守りつつ戦う位置で合っている。まぁこの態勢で勇者に殺されたけど。


「うおおおおおおお!」


 雄たけびを上げて何十人の魔族が俺に襲い掛かる。殴ろうとしている奴には背後に回ってこぶしを打ち、魔法を唱える者には、無詠唱でやり返す。そんなことをしていると気づいたらこう呼ばれていた。


「化け物だ! 勇者がせめてきたぞおおお!!」


 魔族の山の上で座っているとそんなこと言われてしまった。まぁ元勇者ですけど。

 アイリが、綺麗な漆黒の羽で俺の前で止まる。


「部下を殺すつもり? ちょっと反省してきて」


 目の前に白い綺麗な肌のアイリの腕が俺の腹を直撃する。体は建物を壊しつつ、城外へと出て行ってしまう。


「あ~久しぶりアイリの拳食らったわ………こうだったか?」


 俺は、飛行の魔法を使い、勢いを沈め、そのまま城の中庭へと戻る。場内は、「化け物が戻ってきた」とはしゃいでいる。


「おかえり、反省した?」

「あ、ああ」

「なんなんだこの人たち………」


 先ほどの戦いのせいか、誰一人俺の悪口を言うことがなくなった。目が合うなり、そのまま逃げだすことが増えたような気がする。そういえばどこに向かっているんだ?


「どこにいくんだ?」

「あ、いえもう着きました」


 会議室と書かれた見覚えのない扉が目の前にあった。いやなにこれ。吸血鬼は、扉を開けると、目の前から青いやりが、彼の頭を貫き、アイリの顔が少し刃に触れ、赤い血が流れだす。


「今度こそその首もらったぞ!ゆう………しゃ………あ、女王さまああああ」


 老人ような魔族が尻もちをついて床に倒れこむ。


「日に焙られるか、彼に殺されるか、どっちがいい?」

「じょ、女王さま………」


 ふふふっと暗い笑みを浮かべるアイリが、老人へと近づいている中で、奥の席から、漆黒の羽を生やしたイアが俺に抱き着いてきた。


「勇者とか化け物とか聞いたけど、全部パパでしょ?」

「はは………アイリにお仕置き食らったが………」

「やりすぎだよ!」


 そんな様子を見ているほかの職員はポカーンとしているような表情で二つの場面を両方見ていた。その中の一人が、声を出す。


「姫様、そのものから離れてください! ただの人間ですよ!」


 俺は、目の前で作った紋章を見せる。それにアイリが合わせ、魔王の刻印へと変化した。


「「「「へ、陛下ああああああああ」」」」


 そんな声が魔族領全体に響き渡り、俺の復活のことが広まったのである。


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