チェンジング・プライマリー!!!
生存報告兼ネタの吐き出し
生まれたときから、他人とは世界の色が異なっていた。
青い空も青い海も、どれだけ美しいものでも全て黒と白でしか認識できない。
どこまで行っても、皆とは別の世界に生きている。
美しいはずの世界を美しく感じられない。
愛しているはずなのに、愛していると言えない。
そんな自分が嫌いだった。
生まれたときから、耳から情報を取り入れることが苦手だった。
何を言われても、何を命令されても、何故か身体は別の行動をしてしまう。
聴いてみようって、何度も頑張った。
でも、駄目だった。
何度試してもうまくいかない。
病気のせいにしてしまう。
そんな自分が嫌いだった。
生まれたときから、運が悪かった。
世界に嫌われてるみたいに、全て奪われていく。
母も、父も、自分の脚だって。
立ち上がろうとした。前を向こうとした。
でも、全く力が入らない。全く動かない。
何もできずに崩れ落ちてしまう。
そんな自分が嫌いだった。
気紛れに開いた、とあるベンチャー企業のホームページ。
切っ掛けは友人の紹介だったり、街の広告だったり、ネットの掲示板だったり、様々だった。
『理想のあなたになれる!』
胡散臭い、ありふれたメッセージに、なんだか心が引き寄せられて。
わけもわからない会社に連絡を取った。
仮想世界なんて、微塵も知らないくせに。
そうして集まった、たった三人の子どもたち。
年齢はばらばら。
でも、心に宿すものは皆同じだった。
『変わりたい』
ただ、それだけの想いを抱いていた。
幕の外から歓声が聞こえる。
暗闇に輝く八色のペンライト。
少しズレた場所にある現実。
会場と画面の前に観客がいる、皆が見ている。
ここに至るまでに様々なことがあった。
嬉しいことも、楽しいことも、辛いことも、悲しいことも。
それ全てが積み重なって作り上がったのが今日の舞台だ。
「見える」
シアンの少年とも少女とも言える人物が呟く。
「聞こえる」
マゼンタの少女が呟く。
「動ける」
イエローの少年が呟く。
互いの顔を見合って、笑い合って、手を繋ぎ合って、そして息を吸った。
そして、閉ざされていた幕が上がっていく。
彼ら彼女らの舞台が始まる。
これから先は全て、三原色に染まった世界。
止めるものは、もう何もない。
────『プライマリー!!!』
心いっぱいに自分たちの名前を叫ぶ。
事実と虚構の混ざりあったこの世界を、自分たちの色で染め上げるために。
星を繋ぐ者たち、その原点たる三人は今果てしないほどに輝いている!
1名無しの観測者さん
ここは株式会社コスモスが運営するバーチャルタレント事務所『アステリズム』の1周年記念ライブの感想スレです
現地、ネチケ問わず好きなように語ってください
2名無しの観測者さん
うおおおおお!!! アステリズム最高────!!!!!
3名無しの観測者さん
初めて参加したライブだったけどマジ良かった
大画面で推し見れるだけじゃなくて、音響もライティングも最高
4名無しの観測者さん
マイナー箱の1周年ライブのクオリティじゃねーよアレ
5名無しの観測者さん
リアライズもやばかったけど、規模に比べたらこっちのほうがやべーわ
6名無しの観測者さん
新オリジナル曲×6とか嘘だろ……?
7名無しの観測者さん
>>6
各ユニット1つ+コラボ曲2つ+全体曲1つの合計6つ
しかもそのうち2曲は所属タレントが作りました
8名無しの観測者さん
>>6
>>7
やっぱおかしいよこの箱
9名無しの観測者さん
そもそも男差別やばかった時代に男女混合ユニットやらかした箱だ
面構えが違う
10名無しの観測者さん
>>9
懐かしい
アホほど炎上したし延焼したやつ
11名無しの観測者さん
炎上中にオフコラやらかすとは思わないじゃん
12名無しの観測者さん
その大炎上した男、曲めちゃくちゃ作って箱内外コラボしまくってたんですが……
13名無しの観測者さん
最初期ファン俺氏、イオの炎上とゲラに情緒を乱されすぎて胃潰瘍できた
ライブで号泣して今クソほど体調悪い
14名無しの観測者さん
>>13
胃潰瘍ニキ?! 生きとったんかワレ!
15名無しの観測者さん
>>13
胃潰瘍ニキ現場でファンサもらって死んでなかった?
16名無しの観測者さん
>>13
お大事にしてもろて……
17名無しの観測者さん
>>15
よく分かったな
ほんと許さんからな黄月イオ
18名無しの観測者さん
>>13
胃潰瘍ニキコテハン付けて
19名無しの観測者さん
>>17
逆に両手三本黄色ペンラ男で分からんやついるか……?
20名無しの観測者さん
ネチケ参戦組ワイ、開演の白フワボイスで脳が溶ける
21名無しの観測者さん
>>20
安心しろ、現地組も溶けてた
22名無しの観測者さん
その後の赤ポン緑ゲラボイスで鼓膜ないなった
23名無しの観測者さん
>>22
おまおれ
24名無しの観測者さん
>>18
付けない
25名無しの観測者さん
正直トリコローレ初っ端だったのびっくりした
26名無しの観測者さん
まあ一番安牌ですしおすし
27名無しの観測者さん
プライマリー、トリコローレ、グラディウスどれ出すかって言ったらトリコローレだろ
28名無しの観測者さん
グラディウスは一番新人だし、プライマリーは最後に出したいしって考えたら当たり前なんだよなあ
29名無しの観測者さん
そのグラディウスから半年経って新人来ねえかなって思ってたら爆弾落とされた
ライブの後に流すもんじゃねーよ
30名無しの観測者さん
7人ユニット来るとは思わねーだろ
31名無しの観測者さん
トリコローレで発狂し、グラディウスで発狂し、プライマリーで発狂し、コラボ曲で発狂し、全体曲で発狂し、新人発表で発狂する
SAN値直葬ですねクォレワ
32名無しの観測者さん
そらちが激推ししてたから無料公演見てたんだけど沼りそう
33名無しの観測者さん
>>32
新規だ囲め!!!
34名無しの観測者さん
>>32
アステリズムはいいぞ
35名無しの観測者さん
>>32
リアライズ推しやつならトリコローレ見ろ
そらじゃなくてサニーだが、コラボしたことあるぞ
36名無しの観測者さん
>>32
ユニコーン?
37名無しの観測者さん
>>36
ユニコーンではない
38名無しの観測者さん
ならいいだろ
プラとグラも見ろ
39名無しの観測者さん
マイナー箱の新規は囲まれる法則
40名無しの観測者さん
仕方ない
炎上時はファンスレに荒らししか来なかったから新規には優しいんだ
41名無しの観測者さん
アステリズム、炎上で避けてたけどクソおもろい
42名無しの観測者さん
>>41
炎上商法だったのは否定できないが、更に炎上させたからセーフ
43名無しの観測者さん
>>41
>>42
事務所オフコラで界隈外まで広がったからな
44名無しの観測者さん
>>43
あれがあったからプライマリーの楽曲の再生数跳ね上がった感はある
45名無しの観測者さん
寧ろ混合ユニってだけで燃えるのがおかしいだろ
46名無しの観測者さん
>>45
あの頃のV界隈ユニコーンしかいなかったならなあ
47名無しの観測者さん
プラが焼け野原にした
48名無しの観測者さん
ライブの話に戻るけど、どれが一番興奮した?
俺はトリコのファンファーレ
49名無しの観測者さん
>>48
ジャッジメント
50名無しの観測者さん
>>48
グラ新曲のチェックメイト
51名無しの観測者さん
>>48
コネクト
52名無しの観測者さん
>>48
チェンプラ
っぱ原点よ
53名無しの観測者さん
>>48
Star Alive
カバーとは思えないほど合ってる
シノが応募したときに歌った曲なんだったか?
54名無しの観測者さん
>>48
ドリナイ
55名無しの観測者さん
>>48
全部
56名無しの観測者さん
>>52
わかる
プライマリー出てきた瞬間めちゃくちゃ泣いた
57名無しの観測者さん
ワイ、青ペンラ振ってたんだけどシノ見えてたのかな
投げキスしてくれた
58名無しの観測者さん
マナ愛してるぞー!!!って言ったら私もー!!!!!って言われて死んだ
ちゃんと聞こえてたんだなって
59名無しの観測者さん
イオが立ってるだけで俺は崩れ落ちたよ
60名無しの観測者さん
3Dモデルと新規衣装良かった
61名無しの観測者さん
>>60
サプライズ過ぎたわ共通衣装
62名無しの観測者さん
>>60
モデルお披露目配信より改良されてた?
なんかデティール細かくなってた気がする
63名無しの観測者さん
共通衣装のデザインねむのきママらしい
64名無しの観測者さん
>>62
やっぱ?
綺麗になってたよな
65名無しの観測者さん
マナちゃんのパンツ覗こうとしたけどスパッツあって見えなかった
66名無しの観測者さん
>>65
スパッツのほうが興奮するだろ
67名無しの観測者さん
シノの歌声やっぱ天性のものがある
68名無しの観測者さん
>>67
流石アステ登録者数1位でミリオン達成経験者
69名無しの観測者さん
今回マナがバク転やってたのフィジカル強者感じたわ
70名無しの観測者さん
>>69
バク転黒犬もやってたろ
71名無しの観測者さん
>>70
男がやるのと女がやるのじゃインパクトが違う
72名無しの観測者さん
白猫の運動音痴っぷりで笑った
73名無しの観測者さん
イオくんだって頑張ってたのに白猫はさあ……
74名無しの観測者さん
白猫マジ運動できないのステップで丸分かりで草だった
隣に黒犬いる分更に際立っとる
75名無しの観測者さん
グラディウスはかっこいい闇堕ち天使と光堕ち悪魔のコンビです!
決して犬と猫ではありません!!!
76名無しの観測者さん
>>75
いつもの
77名無しの観測者さん
>>75
駄犬と駄猫なのよね……
78名無しの観測者さん
トリコの方便いつにも増して強くて笑ったの俺だけ?
79名無しの観測者さん
>>78
赤ポンの博多弁も青ゲラの関西弁も白フワの北海道弁も全く分からなかった
80名無しの観測者さん
>>79
アリティ王国語だっつんてんだろ!
81名無しの観測者さん
アリティ王国異世界にしては日本過ぎない?
82名無しの観測者さん
ナーロッパと変わらんやろ
83名無しの観測者さん
そういえば登録者数どうなった?
ライブで増えたんじゃないの?
84名無しの観測者さん
>>83
まだそこまで
もう少し時間経ったら増えるかも
85名無しの観測者さん
まだ8時間しか経ってないってマ?
86名無しの観測者さん
!!!!!
87名無しの観測者さん
うあ
88名無しの観測者さん
日付変わった瞬間に村燃やすな
89名無しの観測者さん
あっあっあ
90名無しの観測者さん
ひぃ〜〜〜
91名無しの観測者さん
ひめいしかなくてくさ
92名無しの観測者さん
>>91
変換できてないぞ
93名無しの観測者さん
今日の新曲MV付きで全曲投下されたか
94名無しの観測者さん
は〜〜“良”〜〜
95名無しの観測者さん
ストリーミングも同時配信だって
96名無しの観測者さん
通勤中ループ決定
97名無しの観測者さん
グラの配信始まった
感想配信
98名無しの観測者さん
リアタイするかぁ
99名無しの観測者さん
興奮で寝れん
100名無しの観測者さん
アステリズム最高!!!!!
ファンスレッドの流れが遅くなった。
待機していた後輩の配信画面から声が聞こえる。
レスの通り、彼らの配信が始まったようだった。
配信タイトルは『【ネタバレ注意】1周年ライブの感想を飲酒しながら話すぞ!!!【グラディウス】』。
詩音たちと違って成人している彼らは、酒を飲める。
未成年で構成されたプライマリーと、一人十九歳がいるトリコローレではできない配信だ。
こう考えると、随分箱の人数も増えた。
来週には更に七人の新人が入ってくる。
タレント同士で顔合わせは済んでいるが、皆目を輝かせていた。
一年振りの男女混成ユニットということで、ファンの間ではかなりの盛り上がりを見せている。
数分前に公開された公式の投稿は、かなりの数のいいねがついていた。
詩音たちプライマリーの時は、男女混成なんておかしいと直ぐさま炎上してしまったが、今回は大丈夫だろう。
なんたって一度焼け野原にしたのだ。
他でもない詩音たちが。
これからもっと盛り上がっていく。
アステリズムだけではなく、リアライズや他の箱、界隈全て。
取り残されないように頑張らなければ。
アステリズムの原点、『プライマリー』として。
ああ、今日はいい夢が見れそうだ。
東京二十三区、とあるマンションの一室にて。
音は鳴らさず、しかし素早く動く者が一人。
「ねえねえ、見てよこれ!」
勢い良く扉を開けて、ある女性が部屋に入ってくる。
手に持つのは起動済みのノートパソコン。
どうやら表示されているサイトを部屋の主に見て欲しいようだった。
「……寝させてよ彩、まだ十時くらいだろ」
「それがもう十二時なんだよなあ。
休日とはいえ寝過ぎじゃないですかね詩音さん」
詩音は彩を無視し、布団の温もりを放すまいと頭まで潜り込んだ。
ヤドカリのように包まり、二度寝を決め込もうとする。
「……ふーん。
そっちがその気なら、こっちも本気を出すしかないなあ」
ノートパソコンを机に置き、服の袖を捲り、そして詩音が包まる布団を掴む。
大きく息を吸い込んで、力一杯引っぺがした。
「いっつもいっつも私に起こさせるんじゃなーい!」
「彩が怒ったー!!」
「怒らせるようなことしてるからでしょ!!!」
恒例化した押し問答。
二人が同居を始めてからまだ一日も経っていないというのに。
いや、やり取り自体は十年以上続けているのだから、二人にとってはいつものことであるのだが。
大学生になっても────入学式は一週間以上後であるため、正式にはまだ大学生ではない────詩音の怠惰癖は治る兆しを見せなかった。
そもそも二人が同居を始めた理由が『詩音に独り暮らしはさせられない』というものであるから当然だ。
二人は東北のとある片田舎に生まれ育った。
親同士が友人同士であり、生まれた病院も同じ、家も隣。
クラスは一度も離れたことがなく、出席番号も藤咲と菱科で前後しているという、腐れ縁を超えたド腐れ縁だ。
更に進学先も同じ大学の同じ学部という、奇遇を通り越して最早運命であった。
『もうこいつら結婚していいんじゃないかな』というのは、高校三年間同じクラスだった友人の弁だ。
上京するにあたって危ぶまれていた詩音の生活能力は、全く同じ場所へ進学する彩の存在によって解決した。
もう親公認の夫婦と言っても差し支えない。
そうして早めに引っ越した二人は、悠々自適な二人暮らしを始めた────までは良かった。
良かったのだ。
問題は受験後から輪をかけて酷くなった詩音の怠惰癖。
毎日毎日やることもなく泥のように眠り、起きたら起きたで最低限の動きしかしない。
俗に言う、燃え尽き症候群だった。
仕方ないじゃない、受験めっちゃくちゃ頑張ったんだもん。
そう言い訳する詩音を叱る彩の苦労は、計り知れなかった。
せめて、受験前くらいまでに戻ってくれたら。
何か目標が見つかったら。
そう考える彩のもとに、一筋の光が差し込んだのが十分ほど前のことだった。
「はい、取り敢えずこれを見て!」
「……なにこれ」
机に置かれていたパソコンを詩音の前に掲げる。
そこにはデザインセンスの欠片もない、学生が授業の一環で作ったようなホームページが表示されていた。
「『理想のあなたになれる!』
……今時の詐欺でも使わんよそんな常套句」
「これが企業の求人募集ってんだからびっくり」
「……え、マジ?」
「マジのマジ。しかも会社ホームページはちゃんとしてる」
カーソルを弄り、彩は別のタブを表示させた。
先程のホームページを作った企業とは思えないほど精巧なサイト。
担当者の技術力に天と地、月とスッポンほどの差がある。
「うへ〜マジだこれ。どこの……株式会社コスモス?」
「の、運営するバーチャルタレント事務所アステリズム」
詩音が会社名を読み上げれば、件のクソダサホームページを再度表示させる。
何度見てもアホみたいな完成度の低さだ。
求人募集で使うものではない。
ただ、本題はこのホームページを見せることではない。
もっと別のものだ。
そして、その答えは彩の発言で示されていた。
「……バーチャルタレントって、あれだろ。
ユアライブで配信する、Vライバーとかいうやつ。
最近よく聞く。
なんで急にそんなもの……もしかして」
「そのもしかして。詩音にはVライバーになってもらいます」
曇りなき眼で詩音の思考は肯定された。
この幼馴染は詩音に死ねと言っているらしい。
「無理無理むりむり、ほんっとうにムリ。
ボクにそんなのできっこないって分かってるだろ」
「初めっから無理って言わない!
前から言ってたじゃない『変わりたい』って」
「それは言葉の綾といいますか……叶うはずがないと思ってたといいますか……」
詩音は言い淀む。
自分にVライバー、配信者なんてできるわけがなかった。
性格的にも、精神的にも、身体的にも。
他人前に立つのは詩音が苦手とするうちの一つだった。
誰もが詩音を奇異の目で眺め、くすくすと嘲笑う。
藤咲詩音という人間を否定するように。
詩音だって自分が異端であることは分かっていた。
女であるのに女であることを嫌い、また男と扱われることを嫌う。
他人と関わることも避け、一人で音楽を聞くことを好む。
極めつけは────
「ボクは色の判別がつかない。色が分からない。
輪郭を正確に認識することすら難しい。
そんな人間が他人の前に立ってアイドルみたいなことをするなんて、できやしない。
彩だって分かってるだろ」
「当たり前じゃない。何年一緒に居たと思ってるの?」
「なら……!」
「それでも、貴方になってほしいの」
ずい、と詩音との距離を詰める。
絶対に己の意見を曲げない。
長年付き添ってきたから分かる、彩の鋼鉄の意思。
「……なんで」
詩音の問いに答えるように彩はページをスクロールし、とある文面を画面中央へ誘導する。
応募資格と銘打たれた場所に書かれたある一文。
『老若男女問わず、変わりたいという確固たる意思がある者』
そんな、馬鹿げた文だ。
胡散臭く、ありふれたメッセージ。
しかし、それが何故か詩音の心を引き寄せた。
もっとよく見せて。
そう言おうとした詩音の思考を読み取ったように、彩はページの一番上から下までゆっくりと動かしていく。
株式会社コスモス。
四月一日に設立したばかりのベンチャー企業であり、目玉技術はトラッキング。
運営するバーチャルタレント事務所アステリズム。
応募人数は制限なし、応募資格は先程の通り。
現在の活動者は零名。この募集が最初のようだ。
現在、西暦ニ〇一八年。
ニ年前にとある一人が巻き起こしたVライバーブームによって、いくつもの会社と個人がᐯライバー事業を始めた。
まだまだ下火でありながらも、着実に人気は上がっている。
アステリズムは、そういう意味では後発と呼んでもいいのだろう。
しかし、これから盛り上がりを見せる可能性のあるVライバー界。
今から始めるならば、まだ間に合う。
どうする、どうすればいい。
そう思案する詩音の脳内は、応募する方向へ天秤が傾いていた。
とても魅力的に思えたのだ、あのメッセージが。
否定され続けていた自分を受け入れてくれたかのような、居場所を提示されたような安心感。
胡散臭く、ありふれて、詐欺のような言葉だとしても、確かに心に届いた。
届いてしまったのだ。
ああ、なりたい。変わりたい。理想の自分に。
そう思ったら、直ぐに身体は動いていた。
「彩、応募フォーム」
「はいはい、ここ」
名前、年齢、学歴、住所その他諸々。
ある一つの項目を残して、詩音は全て入力し終わった。
残ったものは、『アピールポイント』。
布団から飛び起きるように詩音は立ち上がった。
クローゼットから衣服を取り出して、今までのぐうたら具合は陰もなくなり、素早く着替えていく。
「で、どこ行くの? 下調べは?」
「カラオケ、近場で設備しっかりしてるところ!
場所はこっち来る前に確認済み!」
呆れたように溜息をついて、駆け出そうとする詩音の寝癖を整えた。
「ついでに写真も撮って来なさい」
「了解」
ショルダーバッグに財布とスマートフォン、ヘッドホン。
そして眼鏡を掛けて詩音は家を飛び出した。
帰ってくるのは日が暮れてからになるだろう。
「あんな楽しそうな顔見たの、いつぶりかなあ」
小さな身体で一生懸命に歌う詩音の姿が、彩の記憶に焼き付いていた。
ずっとずっと昔から、詩音のファンであり続けていた。
紡がれる声が、音が、全て心地良くて。美しくて、大好きだった。
あの天性の歌声は、ここで燻っていていいものではない。
もっと広く、大きな世界で羽ばたくものだ。
だから、彩は詩音に渡したのだ。
まだ未完成で不完全な世界への片道切符を。
────きみが幸せで居続けられるためなら、私は何だってしてあげる。
遠い昔、夜空に輝く一番星に誓った一生を掛けて果たす約束。
その初めの一歩は、今踏み出されたのだ。
「帰りたい」
「駄目に決まってるでしょ」
ビルの前、二人の人影が佇んでいた。
「さっきまでのやる気はどうしたの?」
「宇宙の彼方に飛んでった」
「……ほんとに本番弱いなあ。ほら行くよ」
背中を向けて立ち去ろうとする詩音の首根っこを掴んで、彩はビルへとずかずか歩を進めていく。
後ろから聞こえる喚き声はこの際無視だ。
こいつは多少強引にいかないと踏み出せないチキンなのだから。
エントランスに入れば流石に詩音も諦めが付いたようで、彩に引っ付きながらも自分で歩くことができていた。
「ひぃ〜、やだやだ。
何で面接というものがこの世界には存在しているのか」
「そりゃあきみみたいな奴を選別するためじゃない?」
「おゔあ」
潰された蛙のような声を上げる詩音を引き連れて、彩は会場へ向かう。
このビルの二階、第一会議室がそうだ。
しかし、直接向かうわけではない。
隣の控え室である第二会議室に向かうのだ。
エレベーターに乗り、二と書かれたボタンを押す。
がこんがこんとなる起動音と浮遊感、到着を知らせる音声。
扉が開けば、当たり前にそこは二階だった。
詩音の顔は青褪めていて、宛ら処刑台に向かう囚人のようであった。
「そんな怖がらなくても……」
「怖がるに決まってるだろ!
どうしよう……変な奴とか、気持ち悪い奴とか言われたら」
「そんなこと言う人ならここの募集来ないでしょ、と」
そんなこんな言っているうちに、第二会議室の前に来てしまった。
「じゃあ、私外で待ってるから。後は頑張ってね。
詩音ならできるよ」
「この薄情者ぉ!」
詩音の罵る声を聞き流し、雑に手を振りながら彩は道を引き返していく。
付いていきたい気持ちも山々だが、ここまで来て帰るのもみっともない。
ビビリのハートに火をつけて、詩音はドアノブを捻った。
特有の軋みを上げて開いたドアの先には、一人の少女が座っていた。
癖のある長い髪を側頭部の高い位置で結び、どこかの高校の制服を身に着けている。
詩音が半身を扉から覗かせれば、少女は花が開いたような笑顔を見せた。
「あの、もしかして面接受けに来た人ですか?!」
「……あっはい、そうです」
「良かったあ! あたし以外誰も来ないから不安で……。
あたし、桜庭愛歌って言います!
よろしくお願いします!」
「……藤咲詩音です、よろしくお願いします……」
何なのだ、この超絶コミュ強少女は。
詩音の脳内は軽くパニックを起こしていた。
面接って他の受験者と話していいものなのか?
これが普通なのか?
答えてくれる者は誰も居なかった。
桜庭と名乗った少女の導くまま、予め用意されていた席に付く。
「藤咲さんって、どうやってここの募集見つけました?
あたしはバイト帰りの街の広告です!」
「……その、友達の紹介で……」
「お友達のですか!」
ぐいぐい来るよこの子! 女子高生怖いよお!
助けを求める詩音。
しかし、誰も助けはしない。
ここにいるのは詩音と愛歌の二人だけなのだから。
その後も愛歌のマシンガントークに圧倒されながら、辿々しく話し続けていく。
出身地の話やら、特技やら様々。
十五分ほど経っただろうか。
外から誰かが近寄ってくる音がする。
やっと救いの手が差し伸べられたのだ。
「さ、くらばさん。誰か来たみたいです」
「ほんとですか?! どんな人でしょうか?」
詩音と同じように、軋みを上げて扉が開く。
現れたのは車椅子に乗った少年だった。
ハンドリムを動かし、会議室内に入ってくる。
少年が身に着けているのはフォーマルな衣服。
しかし、詩音より年上には見えない。
愛歌と同年代か、それより年下のように感じる。
「……こ、こんにちは」
「ほんにちは!」
「……こんにちは」
緊張しているのだろう。
小さく、震えた声で少年は挨拶した。
正反対に明るい愛歌の声と、少年と同等に小さな詩音の声が返答する。
「あたしは、桜庭愛歌って言います! こちらは藤咲さんです!」
「藤咲詩音です……」
「ご丁寧に、どうもありがとうございます。
俺は、桂いろはです」
車椅子に乗ったまま、いろはは頭を下げた。
その動きにどこかぎこちなさを感じる。
やはり、どこか身体が悪いのだろう。
「あの、椅子って……」
「ああ、すみません。
こんな身体なものでして、これがあるので大丈夫です」
この空間に用意されていた椅子は二つ。
それ以外は見当たらない。
まるで、初めから少年の分を除いていたように。
これは、少しおかしい。
大学の面接の時だって二席しか用意されていない、なんてことはなかった。
書類選考で何人か落としたとしても、五席くらいはあるものだろう。そうではないということはつまり────
「応募者は、ボクたち三人しかいない……?」
その音が耳に入った瞬間、詩音は口を塞いだ。
巡らせていた思考の一欠片が、咄嗟に出てしまったのだ。
「それって……」
いろはと話していた愛歌が詩音の言葉に疑問を呈すそうとした、その時だった。
会議室の扉がノックされる。
入ってきたのは、二十代前半ほどのスーツ姿の女性。
恐らく、コスモスの社員だ。
「応募者の皆様、隣の第一会議室へ移動をお願いします」
そう一言だけ告げて、女性は扉の前で待機する。
時計を見れば、針は十時を指していた。
女性の言う通り、面接時間となったのだ。
三人は互いに顔を見合わせて頷いた後、一斉に動き出した。
先導する女性の後ろを付いていく三人。
そのうち、詩音は一歩進むたびに心拍数が上がっていた。
ぐるぐるぐるぐる不安が巡り、呼吸が浅くなっていく。
汗が止まらず、視界が暗くなっていく。
そんな詩音の手を握るものがいた。
「大丈夫ですよ藤咲さん! 桂さんもそう思いますよね?」
「ええ。きっと大丈夫ですよ」
太陽のような少女が笑いかける。
月のような少年が声をかける。
二人で励ましてくれる。
詩音は一人ではない。共に戦う仲間がいるのだ。
「……そう、ですね。頑張ります」
手をぎゅっと握る。
そうだ、彩も言っていただろう。
『詩音ならできるよ』と。
ここで躓いてはいけない。変わるんだ、今ここで。
女性が扉を開ける。太陽の光が差し込んでくる。
眩しさに目を細めながらも、三人は戦場に踏み出した。
「ええ、応募者の皆様こんにちは。
株式会社コスモスの代表取締役を務めさせていただいている、菊楽琴羽と申します」
詩音たちが席に付くと、年若い青年が自己紹介をする。
詩音より三つか四つ年上ほどの男だ。
その他にもバーチャルタレント部門総括だという男性が一人、イラストレーターとマネージャーだという女性がそれぞれ一人ずつ。
マネージャーの女性は三人を案内した者であった。
「そうですね……藤咲さんから順にお名前と年齢、志望理由を話していただいてもよろしいですか?」
面接官が名乗り終われば、菊楽は詩音にそう促した。
軽く深呼吸をして、詩音は話し始める。
「藤咲詩音、大学一年生の十八歳です。
志望理由は……応募サイトにあった一文に惹かれ、興味を持ったからです」
「そうですか、では次に桜庭さん。お願いします」
ほっと胸を撫で下ろす。特に悪い部分はなかったはずだ。
次に話す隣の少女に、詩音は視線をちらりと向けた。
「はい、桜庭愛歌です!
高校二年生になりました。十六歳です!
志望理由は藤咲さんと同じで、街で見た広告の言葉がいいなあって思ったからです!」
「元気でいいですね。最後に桂さん」
「桂いろはと申します。
十五歳、高校一年生です。
志望理由は皆さんと同じく、キャッチコピーを素晴らしいと感じたからです」
「ありがとうございます」
やはり、皆年下だ。
年下に励まされた自分の不甲斐なさに顔が熱くなるが、必死に堪える。
菊楽は視線を手元の書類に落としながら、話を続けた。
「本題に入ります。
皆様は我らが運営するバーチャルタレント事務所、アステリズムの最初のタレントとして活動していただくことになります。
これは決定事項ですね。
ぶっちゃけますと、皆様以外に応募者はいませんのでもう採用決まってるんですよ。
面接とかもう要りません。
デビューは一ヶ月後、ゴールデンウィーク後半の五月五日からになります」
三人は耳を疑った。
何を言っているんだ、この御仁はと。
「いやまあ、不思議に思うのも無理はありません。
普通ではありえないことですから。
順を追って説明致します」
菊楽が語ったのは、以下の通りだ。
一月一日から三月三十一日までの約三ヶ月の募集期間中、応募した者は詩音、愛歌、いろはの三人のみ。
三十一日に滑り込みで申し込んだ詩音が居なければ、二人だけだったのだ。
あんな怪しげなサイトに三人も応募したと考えれば十分かもしれない。
そうして書類選考はすぐ終わり、問題もないということで三人のデビューが決まった。
今回の面接は人柄を見ることと、アバターとなるキャラクターの打ち合わせも兼ねているらしい。
そのためにイラストレーターも呼んでいたのだ。
「ご理解いただけましたか?」
「……理解はできたのですが……可能なのですか?
その、配信機材とか……」
詩音は事前に調べていた中で、自身に不足しているものがあることを知っていた。
パソコンはともかく、マイクやフェイストラッキング機材などは持っていない。
「ああ、そこは気にしないでください。
マイクやら何やら買うお代は経費から出しますし、トラッキングはうちの技術でどうにかなります。
片桐さん、あれをお願いします」
片桐と呼ばれた女性は三人のマネージャーを務める女性だ。
彼女は一人一人にスマートフォンを手渡す。
「それは皆さん専用の仕事用スマートフォンになります。
SNSや仕事のやり取りなどは、それでしていただきます。
で、見慣れないアプリが一つ入っていますよね? 起動てください」
指示のとおり、詩音は星座を模ったアイコンをタップした。
cosmos、asterismと表示され、何かの選択画面へ移り変わる。
「そこにテストモデルのぎんがくん……蛸だか烏賊だか蝙蝠だかよく分からない生物がいますよね。
それを選択して右下の青いマークを押してください」
同じ指示通り動く。
そうすると画面が拡大し、ぎんがくんと呼ばれた謎の生物が画面一杯に映し出された。
それは詩音の合わせて動くようで、詩音が右を向けば左を、左を向けば右を向く。
「できたみたいですね。それが我が社が誇る技術になります。
どうです、面白いでしょう?」
中々高度な技術だ。
認識されていれば反映されるシステム。
スマートフォンでできるものとして破格の性能だった。
「藤咲さんの疑問が解消されたところで、他に質問がある人はいますか?
……いないようですね。
では次に皆様にはユニット名とライバー名を決めてもらいます」
「ユニット名、ですか?」
いろはがオウム返しに質問する。
アバター名はともかく、チーム名ということは三人はユニットとして活動するということだ。
「はい、ユニット名です。
皆さんには三人一ユニットとして活動してもらいます。
その方が色々都合がいいんですよ」
ユニット名、ユニット名か。
詩音は頭を悩ませた。
随分話したとはいえ、三人は今日が初対面なのだ。
互いのことをそれほど分かっているわけでもない。
そんな中で決めろ、なんて難しいというのは菊楽も分かっているはずだった。
「皆様の言いたいことも分かります。
しかしながら、私はそこまで難しいことだとは考えておりません。
片桐に聞きましたが、会って数分で談笑していたことは事実でしょう?」
菊楽の言う通り、三人は初対面だというのに打ち解けるのが異様に早かった。
愛歌のコミュニケーション能力の賜物かもしれないが、それ以上に互いに何かを感じていたのだ。
「ここでは話し辛いでしょう。一度控え室へどうぞ。
決まったらこの紙に書いてから、呼びに来てください」
面接会場から戻ってきた三人は、沈黙に包まれていた。
何から話せばいいか足踏みをしていたからだ。
意を決して、それを破ったのは愛歌だった。
「ええっと、皆さん!
取り敢えず知るところから始めましょう!
応募フォームにアピールポイントってありましたよね。
あそこどうしましたか?
あたし、ダンスを撮って送りました」
「……ボクは歌を録音して」
「俺は自分で作った曲です」
歌、ダンス、曲。
こう考えると皆音楽関係ではあるのか。
詩音にとって唯一の長所である歌。
アピールポイントと言われれば、それ以外は考えられなかった。
「歌に曲……凄い」
「桜庭さんも凄いですよ。
……俺は踊れないので」
いろはは目を伏せて呟く。
彼は確かに何か障害を抱えていたのだ。
「……でも、俺。
桜庭さんみたいに踊ってみたい、立ってみたくてここに来たんです。
事故で脚が動かなくなってしまって、今は上半身しか動かせない。
何度頑張っても、治らない。
なら、もうそれでいいやって半ば諦めていました。
だけど、心のどこかで思ってたんです。
ずっと殻に篭ってばかりじゃ嫌だ。
何か変わりたいって」
「……あたしも同じ」
いろはは変わりたかった。
いや、いろはだけじゃない。
愛歌も詩音も変わりたくてここに来たのだ。
「昔っから落ち着きがなくて、忘れっぽくて。
特に話を聞くことが苦手でした。
注意欠如……何とかっていうやつらしいです。
何度直そうとしても、できませんでした。
途中で諦めちゃうんです。
どうせ直らないって。
でも、完全に諦めたくなかった。
できない理由にしたくなかった。
どう考えても自分ができないことが悪いんです。
落ち着きがないのも、忘れっぽいのも、話を聞けないのも。
自分で直せることだと、思うんです。
あたしは、きっかけが欲しかった。
きっかけがあれば頑張れる気がしたから。
一生懸命になれる目標を探していた。
そうして見つけたのが、ここでした」
「……ボクも二人と同じだな」
皆悩みを抱えていた。
「皆に言うのもあれかもしれないんですけど……ボク、色覚障害なんです。
それも重度の。
だから、色がモノクロでしか捉えられないし、視力だって悪い。
……あともう一つあって、こっちはあまり気にしてないんです。
自分のことを男とも女とも思えないってだけなので。
よく変な奴とか、気持ち悪い奴って言われても、まあ仕方ない。
それが普通だ。
そう、思ってました」
一息吐く。
ずっと燻っていた想い。
彩以外に話したことのない想い。この人たちになら伝えられるんだ。
「でも、違う。
本当は、もっと広く大きな世界にいたい。
小さく狭い世界に生きるボクじゃなくて、広く大きい世界で生きれるボクになりたい。
だからここに来たんです」
同じなんだ、詩音も愛歌もいろはも。
『変わりたい』
それだけの想いを抱いてここまで来たのだ。
自然と口角が上がる。
詩音は嬉しかった。
同じ悩みを、同じ志を持つものを見つけられたことが。
二人もそうなのだろう。
三人は一斉に笑い出した。
「初めて、かもしれません。ここまで気が合う人たち」
「ボクも。
……あ、敬語なしにしない? その方が楽だ」
「じゃああたし、藤咲さんじゃなくて詩音って呼びたい!」
「いいよいいよ。ボクも愛歌といろはって言うから。
いろはは?」
「お言葉に甘えて。愛歌もいい?」
「もちろん!」
ばらばらな年齢の友人。その絆はここから紡がれ始めた。
「ああ、そうだユニット名。二人はどうしたい?」
「こういうのって、好きなものから決めるのがセオリーなのか?」
「好きなもの……色とか?」
打ち解け合えば、すぐに話は進む。
「色、色ねえ……」
「あ、詩音は難しい?」
「いや、そんなことないよ。強いて言えば青かな」
「あたし赤、ピンク寄りの!」
「俺は黄色かな……綺麗に三原色だ」
いろはの言う通り、三人の好みは三原色そのものだった。
それも、色の三原色。
「三原色……英語だとプライマリーカラー?」
「プライマリーには最初のって意味もありますね」
「めちゃくちゃぴったりだね!
アステリズムの始まりであるあたしたちに!」
もう、決まったようなものだった。
それほどまでに三人にとって『プライマリー』は当て嵌まる。
「異論は?」
「なし!」
「次はライバー名か」
三原色に則るなら、名前に色を入れたほうがいいのだろう。
各々どんな名前がいいか、考えていく。
「紅に日で紅日、愛歌からまなを取って……紅日マナ!
どう思う?」
「いいんじゃないかな? マゼンタと音も似てるし」
「じゃあ俺は……黄月イオとか?
黄色い月で黄月、いろはを分解してイオ。
こじつけだけどイエローっぽくもある」
「おお、お揃いだ」
青、青か。詩音は頭を悩ませる。
日、月ときたら次は火か?
しかし、音的に愛歌と被りそうだ。
天体と考えたときの統一感もない。
とすれば星、が丁度いいのだろうか。
「蒼星、蒼星シノ」
咄嗟に呟いた言葉。
だが、どうしてか言い慣れた名前のように感じる。
「あおせ……蒼い星で蒼星?」
「うんうん、いいと思うよ!」
「なら決まりだ。
蒼星シノ、紅日マナ、黄月イオ。
三人合わせてプライマリー」
さらりとバインダーに挟まれた紙へと記入する。
とてもしっくりくる。
初めから自分の名前を書いているみたいだ。
詩音たちは立ち上がり、第一会議室へ向かう。
そこに先程までの緊張はなかった。
「いや、早いな君たち。
一時間くらい掛かるものだと思ってたんだけど」
三人は愛想笑いで誤魔化した。
一時間どころか十五分あれば足りたのだ。
改めて指摘されると、少し気恥ずかしくなってしまう。
「早く決まってくれると嬉しいのは山々ですが……いいのですか?」
「はい、皆これ以上良い案は出ないってことで決まりましたから」
「じゃあ見せてもらいましょうか。
……なるほど、良いね。ああ、ぴったりだ」
菊楽はバインダーを受け取り、記入された文字を読む。
そして、三人にも見せた。
何秒経っても反論は何もない。
彼らも納得したのだろう。
「被りもありません」
「ならこれで決まりだ。
合歓垣、デザインよろしく」
「はいはい」
合歓垣は片桐の隣に座っていた、もう一人の女性だ。
職業はイラストレーター、ペンネームはねむのき。
菊楽の古い友人らしい。
「じゃあ色々聞かせてね」
そうして、いくつかの質問に答えていく。
趣味や特技、好きなもの。
三人の共通イメージである色の三原色も伝えた。
「……うん、おっけー。
今直ぐ描き出したい、いい?」
「どうぞ。いつ頃完成しそうだ?」
「一週間あれば確実に」
「榊、モデリングの時間は?」
「総動員なら、二週間あれば十分だ」
話はどんどん纏まっていく。
詩音の調べた通りならモデルの作成に一ヶ月は掛かるらしいが、彼らはもっと早くつくれるのだろう。
「彼らが話し合っているうちに、こちらはこちらでやるべきことをしましょうか」
片桐の指示に従って、メールアドレスの作成や必要な書類等のタスクを熟していく。
一時間もすれば全ての作業が終わり、菊楽たちも話し終えたようだった。
「本日はありがとうございました。
アバターの完成次第、連絡致します。
また、デビュー前にも講習がいくつかありますので、そちらの受講もお願いします」
長い面接はそうして終わった。
面接会場から戻った三人は連絡先を交換し、それぞれ帰路に就いたのだった。
「詩音! どうだった?」
「上々だよ。これ以上ないほどに、ね」
連絡をして、ビルから出れば直ぐに彩の姿は見つかった。
どうやら周辺の店で時間を潰していたらしい。
「きみがそう言うってことは、とても良かったってことだね」
「うん。同期、って言えばいいのかな?
その子たちと凄い仲良くなったんだ」
二人は今日の出来事を話しながら家へと帰っていく。
昼下がりの空は、雲一つない晴天であった。
風呂上がり、何気なく触っていたスマートフォンに通知が入る。
日本で最多シェアを誇るメッセージアプリ《ᒪINK》の通知だった。
確認すれば、差出人は桂いろは。
今日出会ったプライマリーの一員、詩音の同期となる少年だった。
メッセージが送られてきたのはプライマリーのグループチャット。
どうやら何か相談事があるようだ。
『実は、帰ってすぐにデモを作ったんだ。
プライマリーをイメージした曲の。
デビューする時、一緒に出さない?
皆で歌って』
同時に送られてきた音声ファイル。
直ぐさま再生すると、アップテンポなサウンドが鼓膜を揺らした。
『いいね! やりたい!』
詩音が聞き終わるまでに愛歌が返信していた。
同意を示すと、いろはからまたメッセージが送信される。
『良かった!
片桐さんたちには曲ができてから言う。
三日あれば作れそう』
新曲を三日で作るとは、どんなペースで作業しているんだ。
最年少の彼を不思議に思いながら、詩音は心を踊らせた。
どんな曲になるのだろうと。
数分間を置いて、またメッセージの通知が来る。
今度はいろはから詩音に個人チャットで送られてきたようだった。
『詩音にお願いがある。
今まで俺が作ってきた曲、全部歌ってみてほしい』
急な要求に、詩音は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。
どうして自分に頼むのだろう。
それを伝えれば、即座に返信が来る。
『歌が得意って言ってたから』
たったそれだけの理由で?
本当に自分でいいのか、念を推した。
『詩音がいい。
詩音は俺の歌、歌いたくない?』
そんなわけがなかった。
彼の音楽は、詩音の心を鷲掴みにしたのだ。
歌詞もない、ただのサウンドだけで。
それを歌いたくない、なんて思うはずがなかった。
是非やらせてほしい。
そう返せば、直ぐに七曲のファイルが送信されてくる。
『歌、撮り終わったらミックスするから頂戴。
完成したら愛歌に踊ってもらおう』
それは妙案だ。
それにしても、いろははとても多才らしい。
最年少だとは思えないほどだ。
「何にやにやしてんの?」
「ん……ふふ、何でもない」
「気になるじゃない、教えてよ」
「まだ駄目」
彩と他愛もないやり取りをする。
彩は詩音がVライバーになることを知っている。
初配信も絶対見ると言質を取った。
だから、それまでのお楽しみにしたかったのだ。
ああ、二人に出会えて本当に良かった。
人生がこんなにも楽しい。
巡り合わせてくれた彩にも、感謝しなければ。
「……ふはははは! 凄いな、これ!」
菊楽は大口を開けて笑った。
片桐が見せたのは先日マネージャーを務める少年少女たちから送られてきた、とある曲だった。
「いや、本当に凄い。
彼、高校生だろ? しかも一年生。
ちょっと前まで中学生じゃないか。
アピールポイントにも曲は載せてあったが、これにはもっと情熱を感じる」
「『やることなくて暇だから』と言っていましたね。
通信制らしいですし、時間は余っているのでしょう。
情熱に関しては……あの二人の影響が大きいんじゃないでしょうか?」
「つくづく優秀なライバーだな。いいものを見つけたよ」
藤咲詩音、桜庭愛歌、桂いろは。
三人がVライバーとしてデビューする際に同時に楽曲を出したいと提案し、送ってきた曲。
完成度はアマチュアのそれではなく、プロに至るほど。
作詞作曲はいろは、歌っているのは詩音だ。
今は詩音のソロであるが、投稿する際は三人で歌ったものが良いとの注意書きもある。
「で、どうします社長?」
「どうするも何も、やらせるに決まっているだろう?
こんなものを腐らせるなんて、俺の性に合わない!」
「ですよね。スタジオの使用許可取ってきます」
「任せた」
片桐は社長室を駆け出して行く。
冷静に見えて彼女も興奮していたのだろう。
送られてきて直ぐに菊楽にみせるほどだ。
ああ、楽しみだ。プライマリーが原初の星々として輝き出す、その日が。
「なあ、響。彼らは、君のお眼鏡に必ず敵うよ」
離れたところに居る一番旧い友人に向けて、菊楽は想いを寄せた。
五月五日、こどもの日。
東京都内某区に存在するとあるビルの一室。
そこではある少女によって配信が行われようとしていた。
同時接続者千人。
マイナーどころか、初めての箱なのに規格外の数字だ。
炎上中であるという点を除けば、だが。
────────────────────
◯始まる
◯ktkr
────────────────────
待機所から配信画面へと移り変わる。
画面上にはマゼンタの少女が一人、バストアップで映っていた。
癖のある長い髪を左側頭部で纏めた姿は、中の人である愛歌の容姿からインスピレーションを受けた、と合歓垣が語っていたのを思い出す。
ただ纏めただけではなく、編み込みのアレンジが入っているのは、キャラクターとしての情報量を上げるためなのだろう。
詩音といろはは息を呑む。
これがアステリズムという箱の初配信。
愛歌ならば、マナならば心配ないと思っているのと、緊張することは別問題だった。
「みなさーん、こんにちはー!
アステリズム所属バーチャルタレントチーム『プライマリー』マゼンタ担当、紅日マナでーす!!!」
────────────────────
◯かわいい
◯胸デカいな
◯ねむのきさんがママになったと聞いて
◯うるさ
◯元気
────────────────────
流れていくコメント。
少し辛辣な言葉もあるが、荒らしと言えるものはまだない。
荒れると思っていたが、杞憂だったのだろうか。
「今日はですね、初配信ということで!
じゃーん、自己紹介をしていきたいと思いまーす!」
可愛らしく装飾されたスライドが映し出された。
マナは話しながらスライドを進めていく。
「紅日マナです、紅日ってこう書くのでちゃんと覚えて下さーい!
性別は女の子。身長は一六ニセンチ、結構高いんですよ!
体重は秘密です、乙女なので。
年齢もですよ、女性に年齢を訊くのは失礼ですからね!」
身長のデータは愛歌と同じだ。
そうでなければ立体モデルにしたとき、違和感が出てしまうらしい。
バーチャル世界でなら、と身長を盛ろうとした詩音といろはの野望は打ち砕かれたのだった。
「次、趣味ですね。私の趣味は……動くこと!
特にダンスが好きです!
ロンダートとかバク宙とかもできます」
────────────────────
◯フィジカル強者?!
◯つおい
◯ゴリラ?
────────────────────
「ゴリラじゃないです!」
しっかりコメントを拾うこともできているようだ。
その後もつつがなく配信は進んでいく。
手筈通りなら、もう“あれ”を言うのだろう。
愛歌は、マナとして生きる上で“あれ”は隠したくないと言っていた。
それが、紅日マナとしての誠実さなのだ、と。
あたし一人だけでも。
マナはそう言っていたが、詩音もいろはも同意見だった。
ファンには嘘を吐きたくない。
偽りたくない。変わりたいことを隠したくない。
だから、三人は隠し通すことよりも、公にすることを選んだのだ。
「ここで、重大発表があります。
あたしがあたしとして生きていく上で、絶対に言わなきゃならないことです!
だからどうか、聞いてください」
────あたし、紅日マナは注意欠如・多動性障害。所謂、ADHDです。
────────────────────
◯は?
◯初配信で言うことか?
◯萎えたわ
◯何言ってんの?
────────────────────
言葉の弾丸がマナを貫く。
初配信で言うことではない。
その考えは当たり前だ。
めでたい門出の場。その暖かい場の温度を下げる言葉。
しかし、マナは決意していたのだ。
どんなことを言われたって、紅日マナを全うすると。
「皆さん、色々思うことはあると思います。
あたしがこれを言おうと思ったのは、皆さんに隠したくなかったからです。
あたしのマイナスの面、暗いところ。
でも、それだけじゃ終わらない。終わらせたくない」
マイク越しに聞こえるほど、マナは大きく深呼吸した。
吸って、吐いて、また吸って。
はっきりと言い放った。
「あたしは、理想のあたしになります! ここで、この世界で!
だから、皆さん見守ってください。
私が変わっていくところ。そして、これから先の未来まで!」
ああ、強いな。愛歌は、マナは。
ボクなんかとは、違う。
詩音は今にも逃げ出したかった。
少女の太陽のような光を見た。影すら焼き尽くす光を見た。
だから、自分は彼女のようにできないと解ってしまった。
でも、逃げない。諦めない。決めたことを曲げたくない。
「……大丈夫、みたいだね」
隣のいろはがそう呟いた。
「え、なんで?」
「いや、詩音って緊張しやすいじゃん。
逃げたいとか思ってそうだなって」
「そうだけどさ。
でも、逃げたくない。皆頑張ってるから」
「……そっか」
画面上ではマナの決意表明に対し、賛否両論が巻き起こっていた。
『頑張れ』と肯定する者。『下らない』と否定する者。
今のマナにとって、ある意味どちらの主張も意味はないのだろう。
彼女は何と言われてもやる、と決めたのだから。
「何か暗い雰囲気になっちゃいましたね。
と、いうことで明るくします。ダンスで」
マナがそういった途端、画面が暗転する。
カミングアウトすれば、雰囲気が暗くなる。
それは予め分かっていたことだった。
だから、場を暖める方法を用意しておくことにした。
マナの特技で。
マナの特技、ダンス。
ジャンルは問わず、ありとあらゆるダンスを得意とする。
ジャズ、ヒップホップ、社交。
そんなマナがダンスで明るくしようと思いついたのは────『パズルダンシングゲーム』だった。
画面が明るくなる。
そこにいたのは冒涜的な怪物であった。
蛸や烏賊に似た、複数の目玉を有する頭部。
髭のように生やされた無数の触手は鋭く、赤黒い。
背から飛び出す一対の翼は、竜にも蝙蝠にも思える。
鉤爪と水掻きを備えた手足は、緑の鱗と瘤に覆われたグロテスクな胴体を支えていた。
某有名な旧き神、それを模したぎんがくんだ。
「はい皆さん、見えますか〜?
今から『パズルダンシングゲーム』しまーす!
あっそうだ。立体モデル、まりもみたいだなっていう苦情は受け付けませーん!
かわいいですよね、ぎんがくん」
────────────────────
◯?!
◯ま り も
◯か わ い い
◯冒涜的な見た目では……?
◯くとぅくとぅしてきた
────────────────────
パズルダンシングゲーム。
ルールは単純。
お題が書かれたカードを用意し、一定の枚数を組み合わせることで一つの課題とする。
課題を入れたダンスを即興で熟し、審査員の基準をクリアできれば成功、というものだ。
マナが考案したゲームであり、これを行うには立体モデルが必要になる。
しかし、かなり修羅場であったスタッフに紅日マナのモデリングを行う余裕はなかった。
だが、立体モデルが無いわけではない。
テストとして作っていたモデル、ぎんがくん。
彼だか彼女だか分からぬ生物には、立体モデルもあったのだ。
「ルールも分かったところで、始めまーす!
スタッフさーん、お願いします!」
恐らく、スタッフであろう声が入る。
内容は『イタリアンフェッテ』『ダブルエリオ』『ジャックハンマー』
「簡単ですね! それではミュージックスタート!」
────────────────────
◯簡 単 で す ね
◯あの……プロでも難しいやつ……
◯できるわけないだろ
────────────────────
音楽が流れ出す。
事前にいろはが作り、スタッフへ渡していたものだ。
マナは床を爪先で二回蹴り、そして踊りだす。
イタリアンフェッテ、ダブルエリオ、ジャックハンマー。
課題の三つをそれぞれ違和感なく繋げるように、間にもいくつか技を入れて舞う。
重力が存在しないと思わせるほどに軽やかな動きは、皆を魅了した。
コメントの動きが止まる。
止まったコメント欄の中で気になるものが一つ。
────────────────────
◯調子乗ってんじゃねーぞ非処女のくせに
────────────────────
遂に来た。
男女混成チームであることの懸念、その理由。
男性Vライバーを嫌悪する者が。
「皆さん楽しんでくれましたかー!
名残惜しいですけど、そろそろ紅日マナの初配信は終わります!
次の配信は黄月イオくん!
よろしくお願いします!」
数秒後、配信は終了する。
帰ってきた愛歌はとても笑顔で、やりきったという表情をしていた。
次はいろは、黄月イオの番だ。
「じゃ、行ってきます」
「……頑張れ」
「頑張ってねー!」
二人に見送られ、イオは配信スタジオへ向かう。
その背中に、詩音は一抹の不安を感じていた。
初配信、一週間前のことだ。
いつもの会議室。
詩音の隣には表情は殆ど動かさず、声だけ大爆笑する少年が一人。
肩は激しく震え、げらげらと笑っている。
はずなのだが、全く表情が動かない。
「初めてあった時は気付かなかったけど、いろはって表情筋死んでる?」
「生きてるよ、動かないだけで」
「それは……死んでるのと一緒じゃない?」
そもそもこの状況で笑えるのも少しおかしいのだが。
詩音は手元の業務用スマートフォンを見る。
そこあるのは《REvealER》というSNSの蒼星シノ公式アカウント。
そして、大炎上中のアステリズム公式アカウントの投稿だった。
アステリズム公式の投稿が炎上していることには理由があった。
それはデビューするユニットが“男女混成”であることだ。
一年前、Vライバー界ではとある大事件が起こった。
とある男性ライバーが様々な犯罪行為で逮捕されたのだ。
それだけならば、まだ良かった。
一人のライバーが逮捕された、というだけなのだから。
問題は────犯罪行為の中に性的なものもあった、ということだ。
詳細は伏せられたが、ネット上ではどこからか情報を入手した者たちが匿名掲示板等であれやそれと書き込んでいた。
超えてはいけない一線を超えた情報が集まっていく。
不運だったのは、そのVライバーが個人勢でありながらも有名だったことだ。
Vライバー同士のコラボというのいうのはよくあることであり、件の男性も当たり前にコラボしていた。
その中には女性Vライバーもいたのだ。
そうして、炎上は界隈全体を巻き込む大火災となったのだ。
一ヶ月以上トレンドに乗り続ける炎上の後、男性Vライバーへの世間の目は軽蔑ばかりになった。
元々七対三ほどだった男女比は九対一になり、絶滅危惧種扱い。
生き残っていた者も荒らしにより心を痛め、去っていく。
残っているのは、ほんのひと握りだった。
一年経った今でも、男性Vライバー差別は強く残っている。
そこで投下された燃料、アステリズム最初のバーチャルタレントユニット《プライマリー》。
炎上するのは、必然であった。
投稿に次々と書き込まれていく見るに耐えない罵詈雑言の嵐。
荒らしとも言う。
攻撃対象は主に黄月イオ。
中の人たる少年はきっと心を痛めて────いなかった。
寧ろ笑っていた、無表情で。
「いろはさんが平気ならばいいのですが……」
「……これ、返信欄閉鎖したりしないんですか?」
詩音は最もな疑問を上げた。
炎上した際、よく取る手だ。
しかし、その考えはいろはに即座に否定される。
「いや、このまま燃やしておきたい。
どうせ鎮火するのは大分後になるんだ。
一回盛大に爆発炎上すれば、後発のダメージは減る。
炎上商法って言われるだろうけど、知名度は大事だよ。
いいですよね、榊さん?」
「いやまあ、君たちがいいならいいんだが……。
二人はどうなんだ?」
バーチャルタレント部門総括の榊は、詩音と愛歌の意見を訊く。
「いいんじゃないですか?
燃えるとこまで燃えてみましょう!」
「いろはがいいなら、ボクは別に言うことはないです」
「……おう、そうか。最近の子って強いな……」
リバーラー自体のシステムの作用もあり、プライマリーの炎上は投稿後数時間でかなりの範囲まで広がっているようだった。
「ここまで注目が集まれば、来週の初配信は荒れるだろうな」
「当日はスタジオからで、他二人は別室待機なんですよね?」
「ああ、一人三十分。合計一時間半だ」
来る五月五日、準備は全て終わらせた。
煩く喚く者を黙らせるものも、勿論。
その一端は詩音に掛かっていた。
午後十二時三十五分、配信開始まであと五分。
だと、いうのに。
黄月イオの初配信には信じられない量の低評価が付いていた。
その数、千五百。
マナの配信中、着実に増えていた同時接続者と同数だ。
コメント欄に刻み込まれる言葉の刃。
彼は、これをどんな気持ちで見ているのだろうか。
脳に浮かぶのは、苦しそうに俯いて、目を伏せて、涙を流して────大爆笑している少年の姿。
大丈夫だわ、あいつ。
詩音はもう心配しないことにした。
だって強いんだもん、あの男。
かちりと時計の長身が八を指す。開始時間だ。
「……あれ?」
「……喋ってる……よな?」
黄色い髪と瞳を持つイエローの少年、黄月イオはちゃんと口を動かしている。
ちゃんと動いている。
ラグというわけではない。
もしや、これは─────
「や、やりやがった! 初手ミュート芸だ!」
「リアルにやる人いるんだ、これ!!!」
嘘だろおい、と慌てる詩音と愛歌。
この異常事態にスタッフが気付いていないわけがなかった。
直ぐに配信待機画面になり、アバターの姿は見えなくなる。
そして、十五分後、イオは帰ってきた。
「……皆様、こんにちは。
アーカイブの方はおはようございます、こんばんは。
アステリズム所属バーチャルタレント、『プライマリー』イエロー担当の黄月イオでございます。
……はいええ、分かりますよ。言いたいことは」
────誠に申し訳ありませんでした!!!
音割れしない最大の声量で、イオは謝罪した。
彼ができるならば、土下座でもしていたと思う。
「経緯を説明させていただきます。
前提として皆様に知っていただきたいのは、私黄月イオはとても不運だということです。
おみくじ、大凶しか出たことがありません。
……お察しになった方も多いかもしれません。
そうですね、私が配信開始した瞬間不調になったんですよマイク。
嘘だろと私も思いました。
スタッフも思いました。マジでした」
恐る恐る二人でコメント欄を覗く。
────────────────────
◯草
◯ええ……
◯大凶だけって逆に運良くないか?
◯Vライバーやめろよクソ野郎
◯荒らす気失せるわこんなん
◯こんなにアバターの表情動かないもん?
◯運こやんけ
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「わあ」
「……うーん。結果オーライ、かな」
先程まで荒れに荒れたコメント欄は、超常的現象により勢いを削がれていた。
荒らしにも人の心はあるのか、なんて謎の関心をする程度には格段に量が少なくなっている。
「配信時間、残り十分ちょっとしかないので圧縮してやります。
耳と目の準備はいいですね?
あっ言い忘れてました。俺、後天的に下半身麻痺してます」
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◯は?
◯今?
◯さらっと言うことじゃねえ!
◯お腹痛くなってきた
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不運にも二十分遅れで本題に入った黄月イオの初配信。
マナと同じように、爆弾発言をすれば直ぐに場の加熱用の行動を始めた。
途端、鳴り響くグリッサンドの音。
イオの手にはエレキギター。
画面上には用意されていた自己紹介用のスライド。
「と、いうことで残り十分でギターでサビメドレーやります。
選曲はスタッフと同期の皆。
自己紹介用のスライドは流していくので、曲聴きながら見てください」
そうして、イオのソロライブが始まった。
一曲三十秒ほど、それを十四曲。
ぎりぎりまでやるつもりだ。
流れていくスライド。
ギターで両手が塞がってしまっているから、スタッフの誰かがマウスを押しているのだろう。
性別は男、年齢は秘密、身長は百六十四センチメートル、体重は秘密、趣味は作詞作曲ミックスその他諸々。
マナと同じ形式だった。
そして、曲の終了と同時に表示されるグリーンバックに虹色フォントのスライド。
そこに書かれているのは『幼少期の事故により、下半身不随』。
そんなコミカルに書けるもんじゃないだろ、と散々突っ込まれていた。
「ご清聴、ありがとうございました」
聞こえる、呼吸の音。
高鳴る心臓を抑えるための深呼吸。
────俺、黄月イオは下半身不随です。
「ずっと、諦めていた。
もう自分で立つことも、走ることもできない。
頑張っても無駄なんだって」
再び大きな深呼吸。
はっきりと、その決意は電子の海に轟く。
「でももう、諦めない。
俺は立ってみせる、走ってみせる。
この世界で、俺は理想の俺になる。
だから、皆これからよろしくお願いします」
画面の向こうで頭を下げたのだろう。
がすりとマイクに頭らしきものが当たる音が入った。
「……締まらないな。
まあ、そんなところで、今日は来てくれてありがとうございました。
我らがプライマリー初配信、トリを務めるのは蒼星シノ。
皆よろしく」
そうして波乱万丈の黄月イオの初配信は終わった。
次はいよいよ、詩音の番だ。
最後に確認した低評価とコメント欄。
イオの不運で停止していたそこは、再び荒れ始めていた。
いろはが帰ってくる。
愛歌と同じ、やりきったという顔。
無表情だが。
「ラスト、任せたよシノ」
「頑張って、シノ!」
思い返す、ひと月前の光景。
少年少女が詩音を励まし、背を押してくれたこと。
詩音は、シノは一人ではない。
共に戦う仲間がいるのだ。
「……ああ、任された。頑張ってくるよ、ボク」
二人と別れ、詩音は準備を整える。
この日のために調整した喉は絶好調だ。
マイクも、先程のイオのように不調になる気配はない。
いける、大丈夫。そうして、自分を鼓舞する。
開演まであと十分。刻々と時は迫っていた。
机上のマイク、マウス、キーボード、モニター。
角度も、調子も、全て確認済みだ。
アプリを通して投影されるアバター。
シアンの少年とも少女とも区別が付かない小柄な人物は、詩音の希望通りにデザインされた蒼星シノの姿だった。
我ながら難しい注文をしたものだ。
男にも女にも見えないデザイン、なんて。
配信が終わったら合歓垣、ねむのきママと呼ぶべき女性にもう一度お礼を言いに行こう。
段々と強張っていく身体を誤魔化すように、詩音は考え続ける。
ここまで色んな人が関わってきた。
まとめ役として様々な業務を熟した菊楽、モデリングを担当した榊とその他のスタッフ。
三人のデザインをしてくれた合歓垣、マネージャーとして相談に乗ってくれた片桐。
他にも色んな人が詩音を支えてくれた。
特に同期の二人と彩。
そして、今の詩音を形作ったとある少女。
彼ら彼女らがいなければ、詩音はここにいなかった。
蒼星シノという人間は存在しなかった。
腕につけた星のブレスレット、あの時貰ったお守り。
もう怖くない、緊張しない。
────皆への感謝を今、全身全霊この歌で伝える!
開演のブザー、閉ざされていた幕が上がる。
ここから先は、蒼き一等星によるリサイタルだ。
《Star Alive》、蒼星シノの始まりの歌。
あの日、外に駆け出して撮りに行った一番好きな歌。
出会いは十歳のとき。
当時、詩音はいじめられていた。
『変な話し方だ』『色が分からないんだ』。
どれだけ嫌がっても、それが止むことはなかった。
そうして、彩と一緒に泣きながら家に帰れば、母と年配の親戚が話していた。
通り過ぎて家に入ろうとした詩音を、その親戚は引き止める。
初対面の人であり、詩音は人見知りであったから、いつものように母の後ろに隠れて様子を伺っていた。
この人はどうして自分を呼び止めたのだろうか、と。
そうして、詩音を頭の天辺から爪先まで眺めた親戚が言い放った言葉は、ささくれていた心を酷く傷付けた。
────女の子なら女の子らしい格好をしなきゃ駄目よ。
そうじゃなきゃ、お嫁さんになんてなれないわ。
ただでさえ、ちょっとおかしいんだから。
お前はそう生きなければいけない、と決めつけられた気がした。
次の瞬間、詩音は飛び出していた。
星空の下を、行き先もなく走り続ける。
どうしてボクらしく生きちゃいけないの?
どうしてボクをおかしいって言うの?
そう、世界に問い続けながら。
遠く、遠くへ走り続けて、ある音が聞こえた。
誰かが歌っている音。
哀しくて、それでいて元気が出るような音。
あなたらしく生きていいって言われているような歌。
引き寄せられるように音の主を探した。
公園に入って、噴水を通って、そうして見つけたのだ。
ジャングルジムの一番上で、一人で歌う少女を。
少女は最後の一小節を歌い終わる。
揺れのないロングトーン。
機械的なまでに完璧な終止符。
数分間だけてで、詩音はその歌の、その少女の虜になったのだ。
ジャングルジムを登って、少女の隣に座り、希う。
どうか自分に歌を教えてほしい、と。
詩音よりいくらか年上の少女は、そんなこと言われるなんて思ってもいなかったようで目を見開いた。
そして、思い切り笑った。
────いいだろう。きみに僕が歌を教えてあげる。
そこから長く短いレッスンが始まった。
声の出し方、音の取り方、姿勢の大事さ。
そして、少女が歌っていた曲、『Star Alive』。
乾いたスポンジのように詩音は技術を吸収していく。
そこには天性の歌声、センスもあった。
だが、天性のものがあったって、少女が教えるまで自覚すらしていなかった。
少女が教えたことで詩音の才能が開花したこと明白だ。
────詩音! どこにいるの?!
遠くで詩音を探す彩の声が聞こえた。
────時間みたいだね。
少女は目を伏せて、詩音を諭した。
言ってあげなさい。探してるんでしょ、きみを。
だが、詩音は離れたくなかった。
どうしてか、少女ともう会えない気がしたから。
────また、会えるさ。
同じ七月七日、天の川の下で。
少女は約束だ、と腕につけていた星のブレスレットを詩音に手渡す。
────次に会った時、これを返してくれ。
それまではきみのお守りになってくれるはずさ。
遠くで聞こえていた彩の声が段々近くなってくる。
────見つけた、探したんだから!
振り向けば、肩で息をする彩がいた。
彩は一人で何してるの、と詩音に問う。
疑問に思いながらも、一人じゃないよ、先生といたのと答えようとした。
しかし、先程までいた少女の姿はどこにもいない。
右を見ても、左を見ても、はたまた上にも下にも前にも後ろにも、どこにもいない。
夢、なったのだろうか。
いや、そんなことはない。
詩音の手には変わらずブレスレットが握られていた。
あれは、夢じゃない。現実だったのだ。
────ねえ、彩。一曲だけ聞いて。
忘れないように、詩音は歌う。
一人だけのリサイタル。
一番星が輝き、煌めき出す天の川の下で。
肺から息を吐き出す。
次は、名乗らなきゃ。
自分の名前を。
「蒼星シノ。
『プライマリー』のシアン担当、蒼星シノ。
よろしく」
ちゃんと言えた、大丈夫だ。
自分を励ましながら次へと進んでいく。
「自己紹介。
性別なし、年齢不詳、身長一四八、体重不明。
特技は歌、以上」
次、次は────
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◯もっと細かくやれや
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そんなコメントがシノの目に入る。
はっと、息が詰まった。
今まで、なんて言ってたっけ。
どう話してたっけ。
わからない、わからない、わからない。
目の前がぼやけていく、何も聞こえなくなっていく。
白と黒の世界に囚われていく。
────頑張れ、詩音。
ちゃり、とブレスレットの音がなった。
一気に現実に引き戻される。
色の無い世界に透明な色が着く。
できる、頑張れる。皆が背中を押してくれる。
「歌は、歌うのも、聞くのも好き。
一番好きなのは、さっき歌った『Star Alive』。
知ってる、かな」
ちらりとコメントを眺める。
知ってるという答えが七割くらい。
「知ってるんだ、いいよね。
暗いけど明るくて、哀しいけど元気が出るような不思議な歌」
最初と比べ、比較できないほどの速さで流れていくコメント欄。
そんな中、ある一つの単語が目に入った。
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◯アリアみたいな歌い方
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アリア、アリア。
あの、《アリア》のことだ。
今のVライバーブームを生み出した、孤高の歌姫アリア。
彼女は一年ほど前に失踪してしまった。
自分がアリアの歌声に似ている、か。
シノは調べている時に聞いた、彼女の歌を思い返した。
だけど、何かが違う。
言い表せないどこかが違う。
一体どこが違うのだろう。
彩あたりに、帰ったら聞いてみるか。
そうして、数分間詳細説明のようなものをし続けた。
そろそろ、シノも二人のように話すべき時間が来た。
「……先、二人の配信見てたら分かるよね。
ボクも二人と同じだよ」
ゆっくり、一音一音丁寧に音を伝える。
────ボク、蒼星シノは一色型色覚だ。
「色を認識できない。
赤も、青も、黄色も分からない。
全てが黒と白の世界に生きている。
綺麗なものを綺麗なものと思えないんだ」
溢れてくる記憶。
蔑まれ、疎まれた記憶。
それらはシノの膝を折ろうと襲い掛かってくる。
負けない、折らせない。絶対、諦めてやるものか。
「だけど、だけど、分からないままやのは嫌だ。
ボクは変わりたい。
ボクは、ボクらは変わるためにここにいる」
マイクを切り、画面を暗転させる。
隣には、ずっと後ろで聞いていた二人がいた。
「聞いてくれ、《チェンジング・プライマリー!!!》」
三人で作ったこの曲。
変わりたい想いを音にしたこの歌。
届け、ボクらの想い。響け、ボクらの歌。
「……これで『プライマリー』初配信を終わる。
次の配信をお楽しみに」
「じゃあねー!」
「またな」
マイクを切り、配信終了ボタンを押す。
しっかり終わらせたことを確認して、詩音は一息ついた。
「お、終わった……」
「お疲れ様、詩音」
「すごい良かったよ!」
「ありがとう……」
片手ずつ差し出す二人とハイタッチする。
「あ、そうだ。リバーラーどうなってる?」
「変わらず炎上中」
「面白いことになってるよー!」
愛歌の画面を覗き込めば、件の投稿が目に入る。
詩音は目に写った景色が信じられず、一度目を背けた。
「ちょ、ちょっと待って」
「分かる」
「やっぱそう思うよね」
そこに示されていたのは十万いいね、二万再リバール。
そのうち約一万が引用。
今日から始まった企業ᐯライバーの箱として、規格外の数値であった。
「明日オフコラボするんだよね?」
「うん」
「ボクたち、デビュー一日目だよね?」
「そうだね」
「……見られすぎじゃない?」
「ふはは、知らん」
「流石にここまでと行くは思ってなかったよ、あたし」
無言になる三人。
炎上商法と言っても、ここまで広がるとは予想してなかったのだ。
「……再生数五桁行った」
「……低評価と高評価同じぐらい付いてる」
「……あ、やべ。連続投稿のこと言い忘れてた」
「あ……ま、大丈夫じゃない?
毎日零時でしょ、今から告知すれば間に合う」
どうするんだこの空気。
殆どお通夜と同じレベルだ。
困り果てる三人の元に、菊楽が歩み寄ってきた。
「お疲れ様、皆。上出来だよ。
リバーラーやユアライブの方はあまり気にしなくていい。
そのうち収まるさ」
「……収まります? これ」
「……収まるはずさ、多分」
もう駄目なんじゃないか、この箱。
この歌声、この歌い方。ああ、憶えている。
仄かな光が差し込む病室で、とある女性が配信を聞いていた。
蒼星シノという少年か少女か分からない人物が歌う曲、『Star Alive』。
────変わりないな、きみは。
あの日の約束は、未だ果たされることはない。
A■■■■■ルート
2018年
◇藤咲詩音/蒼星シノ
性別迷子な歌好き大学生。
重度の色覚障害持ち。
最近の悩みは、小学生に間違えられること。十八歳なんですけど。
色々あったけど歌と彩友達がいるから大丈夫。
昔出会った恩人を探している。
◇桜庭愛歌/紅日マナ
陽キャ女子高校生。
動きが落ち着かない。
最近の悩みは、振り付けした動画の編集が面倒臭いこと。段々手抜きになる。
色々あったけど友達もいるから大丈夫。めげないしょげない諦めない。
◇桂いろは/黄月イオ
無表情ゲラな通信制の男子高校生。
超不幸体質で下半身不随。
最近の悩みは、リハビリがきついこと。でも頑張る、超頑張る。
色々あったけど友達がいるから大丈夫。
曲作るの楽しい(脳汁ドバドバ)。
◇菱科彩
正妻幼馴染みな女子大学生。
仕方ないなあ詩音は(激甘)。
最近の悩みは、詩音が配信ばっかりで遊んでくれないこと。そのうち一緒に遊びに行く。
詩音が笑顔でいてくれることが一番。
星の輝きに灼かれている。
◇菊楽琴葉
大学卒業後起業したチートスペック男。
幼馴染みのある女の子のために色々している。
最近の悩みは、睡眠時間がないこと。
カフェインが取れない体質なので基本水を飲む。
◇片桐美笛
琴葉の大学からの友人。
秘書みたいなもん。
最近の悩みは、忙し過ぎて推しの配信を見る時間がないこと。リアタイしたい。
◇合歓垣鈴/ねむのき
琴葉の中学からの友人。
イラストレーター。
最近の悩みは、初めて(初めてではない)の子ども────ここで言う子どもとはデザインを担当したバーチャルタレントのこと────が可愛過ぎること。
だいちゅき♡ がんばって♡。
本人たちが知らない間に新衣装が増えてる。
◇榊弦次郎
琴葉の高校からの友人。
モデリング担当。
堅物そうだけど面白いこと大好き。
最近の悩みは、立体モデルのバランスが難し過ぎること。スカート破損する……どうして……。
◇まだ見ぬ後輩たち
星の輝きに焦がれた人たち。全員癖が強い。
◇■■■■/■■■
とある子に会いたがっている。
しかし、会っても落胆してしまうかもしれないと避けている。
歌えない僕なんて僕じゃないよ。
最近の悩みは、病院食が美味しくないこと。もっと美味しくならないの? アレ。
普段はこんな作品を書いています。
ご一読いただけますと幸いです。↓
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