第5話 ランドメア王国“王都ゼフォルト”
--ランドメア王国 王都ゼフォルト--
「エルフにドワーフに獣人までいる!本格ファンタジーって感じだぁ!」
ブラッカの町から馬車に揺られて1週間…王都ゼフォルトに到着した。王都と呼ばれるだけあり、のどかな雰囲気のブラッカの町とは打って変わって多くの人で賑わっていた。それに王都に生活しているのは通常の人間の姿をした者だけじゃなく、ファンタジーに出てくるエルフやドワーフや獣の特徴を持つ人たちで溢れていた。
正直、サーシャとフェシリーと出会っていたので、ファンタジー寄りの異世界なんだろうなとは思っていたが、ここまでファンタジーってのは期待を120%を上回るレベルだ。
王都に入り、サーシャとフェシリーについていくと、ある場所に辿りついた。
「冒険者ギルド?ファンタジーによくあるあれですね」
「ファンタジー?ちょっと何を言っているのか分からないけど、ここは冒険者にとってもっとも重要な場所よ」
僕たちは冒険者ギルドに入って、まずは冒険者登録というのをした。冒険者登録を行う事で、ライセンスカードというモノを貰える。
各冒険者はクラス分けされており、最初はDから始まりAとなり、Aの更に上の最上位Sとなる。
このライセンスのクラスはそのまま挑戦出来る迷宮の難易度を示している。
ちなみに、危険度Eの迷宮は冒険者じゃなくとも出入りする事は自由なので、ライセンスにもEが存在しないのだそうだ。つまりは、危険度D以上の迷宮を探索するには冒険者登録をする必要があるってことなのだ。
冒険者ギルドには他にも多くの冒険者が集まっていた。僕と同じように冒険者なりたての人や、いかにもベテランって人までピンキリだ。
そんなベテラン風の“いかにも”な獣人種がフェシリーに声を掛けてきた。
「おいそこのねえちゃん。オレたちのパーティーに入らないか?オレたちと一緒なら危険もないし安全だぜ。そんなひょろガリと一緒じゃあ命がいくつあっても足りないぜ、ガッハッハー」
まさに“いかにも”な感じだ。まあ確かに僕も筋トレ等はしていないので筋肉も最低限のレベルで彼らに比べればひょろガリだろうけど、改めて言われると頭にくるものだ。
「ほら、悪いようにはしないから一緒にいこうぜ」
獣人種の男はフェシリーの腕を掴んで強引に引っ張ろうとした。
「ちょっとあんたたちいい加減に―」
僕は獣人種の男の太くて赤毛がふさふさしている腕を掴んだ。
「お、ひょろガリやろうってのか!?」
獣人種の男は強引に引っ張ろうとするも、僕の腕を振りほどけないでいた。
「見かけの割になかなかやるじゃねえか」
僕は更に男を握る手を強めた。
「痛てえ!ってこの野郎!!」
男は僕の顔面に向けて左拳を振り下ろした。
「ギャアアアアアア!!」
男の拳が僕の顔面に当たると、骨が砕ける音がした。男はフェシリーの腕を話、悶絶しながら床を転がっていた。
「ダン!やり過ぎよ!」
「すみません。こういう人って昔から苦手なのでつい力が入ってしまって」
男の仲間と思わしき4人組が近寄ってきた。
その中の長身で猫耳が頭についた女性が話しかけてきた。
「うちのレッソが迷惑を掛けてすまない」
獣人種の男はレッソというようだ。
「ははざまあないぜ!いつも調子に乗ってるからこうなるんだ!」
男を罵倒しているのも仲間のようだった。
「シュタイナー、その辺にしておいてやれ」
猫耳の女性が、シュタイナーなる小柄なドワーフをいさめた。
猫耳の女性は僕たちの方に振り向き、頭を下げた。
「私の名前はマルティナ=ブランド―と言います。弟のレッソがご迷惑を掛けて申し訳ないことをした」
猫耳女改め、マルティナは礼儀正しく謝罪をしてきた。
「しかしながら、弟が先にちょっかいを出したとは言え、弟の腕をあんなにされて黙ってみている分けにはいきませんね」
話が分かるやつかと思えば、そうでもないようだった。
「ケンカをしようって訳ではありません。ここは私と手合わせをして頂けませんか?」
「手合わせ…?決闘的なやつですか?」
「まあそんなところです」
「拒否した場合は?」
「拒否するのは自由ですが、その時はその時です」
含みのある言い方だ。つまりは強制って事じゃないか。弟も弟なら、姉も姉だな。
僕はしぶしぶ手合わせをする事になり、僕たちは冒険者ギルドを出て、王都の外へと向かった。
--王都ゼフォルト 城壁外--
なんだかんだで結構な数のギャラリーが集まっていた。
王都には様々な種族や様々な理由を持った冒険者が集まるため、こういう“いざこざ”は日常茶飯事なのだという。ある意味では娯楽の一種にまでなっているとか。
賭けの対象にもなったり、出店的なのも開かれている。王都には冒険者のみならず、商人等も数多く集まるとのことで決闘するって決めてから半刻も経っていないってのにこの対応力には関心する。
手合わせにはルールがあり、降参するか、気を失うか、明らかに止めを刺される状況になった方が負けだというシンプルなものだ。大前提として相手を殺してはならないとの事。それ以外ならば何をしてもいいとの事だ。
ちなみに何故か司会とコメンテーターまでいる。エンターテイメントしてるなぁ。
「さあやってまいりましたゼフォルト名物“野外決闘”。今回の挑戦者はこの二人。豪獣義団団長“マルティナ=ブランド―”。弟のレッソは野外決闘の常連だが、姉のマルティナが出るのは珍しい!」
やっぱりあの弟はトラブルメーカーのようだ。
「相対するのは、本日冒険者登録を済ませたばかりのルーキー“タケダ=ダンジョウロウ”?えっとこれってなんて読むの?」
「ダンでいいです」
「では改めて“ダン”だ!ルーキーということもあり、その実力は未知数。見た目からするとひょろっとしているため、正直大丈夫か?って心配になるレベルだが、レッソの事を一発ノックダウンしたって話も入ってきているため、ある意味では隠し玉とも言えるか!?今回の対戦カードに関して解説のセスタスさんはどう思いますか?」
「豪獣義団のマルティナと言えば、毎年恒例のゼフォルト杯の上位ランカーの一人ですね。いくら弟のレッソを倒した未知数のルーキーとはいえ、マルティナに勝つという事はまずないと思いますね」
「ということはマルティナが勝利するということですね」
「まあそうとも言えますが、そうじゃないとも言えます」
「結局どっちつかずのご意見ありがとうございます!では決闘開始へと移りたいと思います!」
なんだか良く分からん状況になってる。僕としては正直目立ちたくなったが、こうなってしまっては仕方ない。特に決闘で負けたからと言って何か取られる訳じゃないし、程よく負けよう。
「尚、皆さんご存じだとは思いますが、決闘の敗者には勝者に対して服従の誓いを立てて頂きます」
ちょっと待て、そんなこと聞いてないぞ!今からクーリングオフは可能でしょうかって絶対に無理でしょうね。
とにもかくにも、王都に来るまでの間にサーシャから受けた特訓を思い出して対応する他ないだろう。
--数日前 ブラッカの町 郊外--
「ダン、あなたは膨大な魔力量による筋力強化の恩恵によって、筋力や俊敏性が常人離れしているとはいえ、今後危険度D、C、Bの迷宮を探索するには力だけでは不十分と言えるわ」
「ではどうしたらいいでしょうか?」
「そこで私があなたにランティス流剣術を指南してしてあげようってわけよ」
「ランティス流剣術?」
ランティス流剣術とは、剣神ランティスが生み出したとされる対魔物に限らず、対人戦にも応用が聞く剣術だという。基本的に己の力を持って相手を制すのではなく、相手の力を利用して戦う剣術との事だ。
迷宮の探索で重要なのは体力をいかに温存するかだそうだ。魔物の対応にしても、歩き方にしても、体力を温存することによって緊急時に即座に対応出来るって算段だ。そのためにも、力任せに戦っていては体力を無駄に消費するだけになるので、ランティス流剣術を覚える事で、迷宮探索の役に立つってことだ。
--現在--
ということで僕はサーシャにランティス流剣術を教わっていたという訳だ。と言っても向こうの世界では武術等の心得は無かったし、社会人になってからは身体を動かしたりは殆どして来なかったから、型を教えてもらっても上手く覚えられなかったりした。とりあえずは基本だけって感じだ。
そんな事を考えていると、マルティナが槍を構え臨戦態勢に入った。
「冒険者登録をして早々にこのようなことになってすまないとは思う。しかし、私も弟の手前黙っている訳には行かないのでね」
「そういうのならば今からでも決闘をやめにしませんか」
「この状況でそれをやればそれこそこの王都にはいられなくなると思うがね」
確かにそうだ。どっちにしても今更面倒事になるって事なのだろう。
「ダン、私が教えた事を思い出して戦うのよ」
物覚えは悪い方ではないが、それでもぶっつけ本番が対人戦で、更には上位ランカー?って人だとすると破れかぶれでしかない。
猿熊の隠れ家の一件以来、身体の一部が変化する魔法?も使えていないし、とりあえずはサーシャとの特訓の日々を信じて戦うしかなさそうだ。
周囲は僕たちの戦いを見物している人たちの野次によって騒然としていた。そんな中でも僕は相手の全身に集中していた。集中、それこそがランティス剣術の基本中の基本なのだ。周囲や相手の動きに集中する事によって、自分も動きを決めるのだから。
「両者見合っています。いよいよ野外決闘開始です!!」
「ダンくん、準備はいいかい?」
「よくはないですけど、どうぞ」
「苦しめないためにも、一瞬で決めさせてもらうよ」
僕とマルティナは対峙して、お互いの動きに集中していた。そんな中、マルティナが先に動き出した。
マルティナの動きは長身だというのに素早く、10mは離れているだろう僕との距離を一瞬で詰めてきた。マルティナの放った槍の切っ先が僕の腹部を目掛け飛んできた。
僕はマルティナの放った槍を剣でいなすと、そのままマルティナの懐へと入った。槍はリーチは長いが、懐に入ってしまえば対応が遅れる欠点がある。と思っていたが、マルティナは槍の柄を使い僕の足に一撃を加えてきた。
僕はそのままバランスを崩し地面に倒れてしまう。その隙を突くようにマルティナの槍の切っ先が倒れている僕に襲いかかる。
僕も地面を転がるようにして槍から逃げるが、すかさず僕目掛けて切っ先を何度も突くようにして追ってくる。
何とかマルティナとの距離を取って、立ち上がった。
「ルーキーにしてはなかなかの動きですね」
「お世辞を言ってくれるぐらいならば手を抜いてくれませんか」
「そうはいきませんよ。常に真剣勝負が私のモットーなので」
これだから生真面目人間は嫌いだ。
--数日前 ブラッカの町の宿屋のレストラン--
「回復魔法で出来ること?」
僕はフェシリーに回復魔法について質問していた。回復魔法についてしることで、どこまでやれるのかが気になっていたからだ。
「回復魔法っていうのは、根本的には対象者の本来の治癒力を魔力によって強化することで、回復を手助けするってイメージなんです。例えば、身体の一部、腕とかを欠損してしまったとして、回復魔法によって新しい腕を生やすってことは無理です。あくまでも自己回復できる範囲での対応になるので。あ、でも腕とか切られたとしても、切断面が綺麗ならば切断面同士をくっつけて回復魔法を行えば治せる場合もあります。もちろん、完全には治せない可能性もありますし、術者の魔力の問題だけでなく、対象者の体力的な問題も関係してきますけど」
「つまりは腕や足を切られたりしても、すぐにくっつければ回復魔法で治せるってことですね」
「まあ可能性の話をすれば可能ですけど、そこは確約はできません」
--現在--
ということで、僕はある戦術を考えた。
このまま普通に戦っていても、付け焼刃の剣術では勝ち目はなさそうだし、一生奴隷生活を送るぐらいならば賭けにでる価値はあるだろう。
今度は僕の方からマルティナに向かって行った。マルティナはすかさず槍で僕を間合いに入らせないように攻撃を仕掛けてきたが、僕はマルティナの放った槍を左手で掴み、マルティナごとぶん投げた。
マルティナは上手く受け身を取り、すぐに僕からの攻撃に備えて槍を構え、僕に向かって低い態勢から槍を放ってきた。
その槍の切っ先が、僕の左手を貫いた。貫かれた左手を即座に引き抜くと、大量な血が吹き出てマルティナの視界を奪った。その隙を逃さず、僕はマルティナの背後に回り、剣先をマルティナの首筋へと当てた。
「勝負あり!勝者ダァァァァァン!!」
周囲に司会者の勝利を伝える声が轟いた。
僕は何とか決闘に勝利したが、血がドバドバと流れて止まらない。そんな姿を見てフェシリーが駆け寄ってきて回復魔法をかけてくれた。
「ダンさん!切っ先を手で防ぐなんて無茶ですよ!」
「僕にはフェシリーがいるから大丈夫かなって思いまして」
「いくら回復魔法があっても無茶が過ぎます!そういう戦い方は良くないと思います!」
フェシリーが普段は見せないような形相で僕を叱りつけてきた。
「本当に無茶が過ぎるわよ」
サーシャもあきれているようだった。
とにもかくにも、僕は決闘に勝利した。これで服従生活を送らなくて良くなったわけだが。
「まさか私が負けるとは。君の実力を見誤っていたようだ」
マルティナが顔に付着した僕の血を拭いながら近寄ってきた。
「いえ、窮鼠猫を噛むって感じで、必死だったので」
「キュウソ?なんだねそれは?」
「ああ、僕の出身地の教え?的なやつです」
言葉が通じるので、ことわざも通じるかと思えばそういう訳ではないらしい。そもそもどうして日本語が通じているのかが不思議だが。
マルティナは僕の前で突然ひざまづき、頭を下げてきた。
「私はこれより、あなたに服従致します。なんなりとお申し付け下さい」
「いやいや、服従なんてとんでもない!」
「決闘の決まりは決まりだ。私はもうダン様の物だ」
「姉ちゃんが服従なんて!元はと言えばオレ様のせいだっていうのに!」
本当にそうだ。その自覚があるのならば元から揉め事を起こさないで欲しかった。
「という事なので、私は今日からダン様の従者となる故、豪獣義団は今日で解散だ」
「団長それはないぜ!」
「団長考え直して下さい!」
「決闘で敗北するとはこういうことなのだ。分かってくれお前たち…」
団員のにらみつけるような目線が痛い。そもそも僕のせいではないのに、悪者みたいに扱うのはやめて欲しい。
「いきなり従者を従えるなんて流石じゃないダン」
サーシャが僕のことをからかってきた。そういうノリは苦手なのでやめてほしい。
「これからよろしくお願いします、ダン様」
勘弁してくれ。
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