第5章 襲撃
「あれ? 神条君は?」
「さっきまで居たはずだけど、トイレじゃない?」
三苫と高島が呑気に会話をしていた頃、俺は屋上からの
景色を、ぼんやりと眺めながら立ちすくんでいた。
(何で彼女がこの学校に?)
気持ちを切り替え、頭の中を整理する為に深呼吸して
気分を落ち着かせようとした瞬間だった。
「わっ!!!」
いきなり後ろから女性に、声を掛けられた。
「あれ? びっくりした~~!!
っていうのを期待したけどなぁ」
声の主は、泉 沙絵。そもそも誰かが近づいてくる気配
を、既に察知していたので特に驚きはしなかった。
彼女は屈託のない笑顔を、向け俺を見つめてる。
昨日の今日でどうして、穏やかな表情をしていられるのか
、まったく理解できなかった。
「熱烈歓迎だったけど、相手しなくて良かったのか?」
1時限目の終了と同時に、まるで脱兎の如く
彼女の回りをクラスメイト達が囲んでいた。
矢継ぎに質問をしている様子を冷めた目で観察しながら、
授業が終わると俺は、屋上へと移動していたのだ。
「な~んか、思いつめた表情で教室を出て行ったのが
気になって付いてきちゃった」
(オイオイ、勘弁してくれよ)
1人で考えごとをしたいときに限って、誰かの邪魔が入る
のはあるあるだと思いながらも、この場を冷静に
対応しようと集中する。
「俺の相手なんかするよりも、クラスの連中を相手してる
方がよっぽど有意義だど思うぜ」
「う~ん・・・今はどうしても貴方とお話がしたくて」
彼女は聞きたい内容がありすぎるのか、うずうずしている
ようだ。だがそんな姿を見ていても、何の感情も沸いては
こない。大抵の人間なら、2人きりのこの状況に緊張する
のだろうが、こっちは、むしろウンザリしていた。
「俺と?」
「そう。後、お兄ちゃんからの質問でもあるから」
「お兄さん?」
「ほら昨日、わたしと一緒にいた人よ。正確には
叔父なんだけどね」
勿論知ってる。実は、三苫が知らない内容もだ。
「良いのかい? 俺の前でそんな個人情報を
ペラペラと喋って」
「うん、それがね、あなたにだけはOKだって。
まるで、知ってるかのような口ぶりだった」
「へ~~」
(正直、こちらから話したい内容は何も無い。それどころ
か今は、そっとしておいてほしいぐらいだ)
「それで聞きたいことだけど・・・・・・」
キ~ンコ~ン、カ~ンコ~ン!!!
彼女が話を始めようした瞬間、2時限目を告げるチャイム
が鳴り響く。この時ばかりは、かなり有難いと感じなから
、自分のクラス3-Aへと戻るべく屋上を立ち去る。
「ワリィ、質問はまた今度」
「ちょ、ちょっと待ってよ~~」
彼女も、慌てて追いかける。普通かどうかは知らないが、
芸能人に声をかけられるのは舞い上がるのかもしれない。
だが、はっきり言って俺は違う。
あんな奴にうろうろされたせいで、マスコミに私生活を
探られたくないし、荒らされたくもないのが本音だ。
足早に歩きながら、うんざりした想いを抱え教室へと
向かう。2時限目が終わってからも、1人になるべく
教室を出た。だが何故かは分からなかったが、彼女は
俺の後を、ずっとしつこく付け回す。
「ねぇ、待ってよ~~~!!!」
(しっこい奴だな)
彼女を振り切り再び、自分のクラスへと戻ってきた。
「ど~しちゃったの?」
三苫が俺を見るなり、呆れた表情をしている。
余程、間抜けな姿に見えたのかは分からないが、滑稽に
映ったのだろう。しかし、自分がどうして逃げているのか
、しっかりと理解しているつもりだ。
「泉さん、何か話したいことがあるって探していたよ」
反対に高島は俺が、突然戻って来たことに驚いていた。
彼の心境なら、赤面したり年相応の反応を見せるだろう。
出来るなら、もう一度、何も知らないあの頃の自分に戻り
たかった。だが今は、この面倒な状況をどうにかしたい。
「まぁ・・・その何というか今日も早退するわ」
「「えっ!!」」
入れ違いにやって来たであろう摩璃子と陽斗が、驚きの声
を発する。コイツらは、さも当然のように居座っているが
、昔は授業が終了する度に俺のクラスにやって来ていた。
そのおかげで、貴重な休憩時間が台無しだった。来るな、
と何度も訴えてもこちらの要求は、当然のように無視
される。俺自身1人の人間である以上、のんびりしたい
日もある。だが、ありがたいことに最近はその回数も
徐々に減っている。
「もしかして、敵?」
「まぁ、何というかそれ以上に、厄介な奴だな」
「「???」」
揃って首をかしげながらも、小声で摩璃子は俺に
話しかけ、続けて陽斗も声を潜めて尋ねる。
「いったいどういうわけ?」
「そういう訳で、じゃあな」
身支度を手早く済ませ、ダッシュで教室を後にした。
4人があっけに取られたすぐ後に、泉 沙絵が戻って来た。
「か、彼は何処!?」
息を切らせながら、辺りを見回しても目的の人物を探すが
、既にもぬけの殻だった。
「あっ君なら、もう帰ったよ」
「帰った!? 何よアイツ!!
わたしが何をしたというの?」
「もし良かったら、あっ君がひいきにしてる
喫茶店、教えて上げようかぁ?」
摩璃子は沙絵に話しかけながら自身の心に、ちょっとした
イタズラ心が芽生えたのか、自然と笑みがこぼれていた。
「えっ? あっ、ありがとうございます。え~と・・・」
すかさず、沙絵は三苫、高島に訪ねた。
「泉さんと入れ違いに来たの。あっ、紹介するね
隣のクラス3-Bの飛鷹 摩璃子さんに皇 陽斗君」
三苫がそれぞれに自己紹介をしてあげている最中に
沙絵は固まっていた。
「ヨロシクね!」
「よぉ、まさか芸能人が転校してくるとは思わなかったよ」
「は、初めまして」
余りに存在感を放つ美男美女を前に、沙絵は
茫然自失に陥っていた。
その頃俺は、O公園のベンチに座りぼんやりと佇んでいた。
正直、連続で早退するつもりは毛頭なかった。
今いるこの公園は、一周すると2kmの規模もある公園で
外周枠はウォーキング、ジョギング枠がある。
現に運動に励んでいる人達や通行人がいて、
そんな中でぼんやりと漂う雲を眺めていた。
「一体、何をやってるんだ俺」
制服のポケットに入れているスマホのバイブが唸りを上げ
、着信履歴を見ると摩璃子からだった。
そのまま着信が、終了するのを待って電源OFFにする。
(ダメだ、考える気力が湧いてこない)
おまけに何だか少しだるい。
昨日は余り良く眠れなかった。外は快晴でも俺の心は
どんよりしていて、まるで身体中を鎖で縛られてる
ような感覚だ。要するに疲れてる訳。
何故、彼女が俺のクラスに転校したのか、後から後から
疑問が湧いてくる。故郷がここ、F県ということは三苫
からの情報で知っていた。
何よりも首都圏で活動していた彼女が戻って来たことに、
作為的な何かを感じずにはいられなかった。
(こんなにモヤモヤしていたらダメだ)
幸いなことに今、座っているベンチの後ろに、喫茶店が
あるからコーヒーを味わいつつ考えごとをしながら、軽く
仮眠でもしようと歩きだす。幸いなことに外のテラス席が
空いていたのと、レジ前も平日であり大した混雑もなく
支払いを済ませる。ここに来たときは、いつもデカフェ
での注文。つまりカフェインレスのブラックにしている。
目的の席に座り、漂う芳醇な香りを胸いっぱい吸込み、
コーヒーを口に含んだ瞬間、聞き覚えのある声がした。
(まさかな、そんな訳あるはずがない)
再度味わおうとした瞬間、よりはっきりと男女の声を
聞き取ったと思ってたら案の定、公園の外周枠を
歩いている陽斗と摩璃子が近づいてくる。
「あっ、やっぱりいた。あっ君」
別のテラス席にいた客が、何事かと声の主である陽斗に目
が向けられ、おまけに俺に向かって満面の笑みを浮かべ
ながら手まで降っている。
隣にいる摩璃子までなら、まだ良かった。
すぐ後ろから、歩いてくる人物を見るまでは。
(あいつら泉 沙絵まで連れて来やがった)
思わず含んでいた、コーヒーを吹き出しそうになる。
「お、お前らどうして?」
「へっ、へっ~~。その~私達も早退してきちゃった」
摩璃子が笑顔で片目を閉じ、舌ベロを出している隣で、
彼女がすかさずツッコミを入れてくる。
「わ、私は違うからね。元々、午前中で
早退するつもりだったから」
ふて腐れる彼女の横で、陽斗が陽気に話し始める。
「でもまさか1件目で、あっ君を見つけられるとは
思ってなかったよ! ホント、ラッキーだね僕達」
(こっちは、ツイテねーよ)
思わず心の中で毒づく。
これからの事を、考えようとした矢先の展開だった。
3人はそれぞれ注文した品を、俺が座っているテーブルの
前に置いて、遠慮なく椅子に座った。
他の客が一斉に、俺達を見ているのが気配で分かる。
突き刺さる視線がイタイ。店内にいる客達の視線も、
集めていたに違いない。
目立った事が無い&目立ちたくない俺しては、注目される
心境というのが、どうにも理解できないからだ。元より
人目を引かない並以下の顔立ちが、相まっていることも
更に拍車をかけている。
(折角の午後の、ひと時が台無しだ)
「しっかしこの店、平日でもお客さんまあまあいるね」
「ホント、ここに来るのもずいぶんとご無沙汰だよ」
言われてみれば、こうやって集まったのは久し振りだ。
俺達は、平凡とは言えない状況にいる。
「へ~え~~、喫茶店が出来てたんだ。良い雰囲気ねぇ」
泉 沙絵は一通り店内を観察しつつ、O公園の変化に
半ば嬉しいそうに語りながら会話に加わる。
「あっ、そうそう、実は泉さんがど~してもあっ君に、
話があるっていうから連れて来たんだ」
「それで、わざわざ俺に何の用が?」
陽斗が話しを切り出すと、一瞬だったが不機嫌そうな
表情をのぞかせた。だが気を取り直し会話を続ける。
「その・・・昨日は助けてくれたのに、あんな事して
ごめんなさい。本当に感謝しているわ」
(なんだその話しか)
「あの時は、偶然あの場に鉢合わせただけだから、
気にしなくて良いさ。
まぁ、その・・・怪我が無くて本当に良かった」
更に救助後のアクシデントついては、気にしてないと
念押す。それを聞いた途端に彼女は、赤面し俯きながら
照れていた。そんな俺と彼女とのやり取りに、すかさず
摩璃子が身を乗り出し、何があったか尋ねてくる。
仕方なく昨日の事故現場の詳細を軽く話すと、彼女との
出会いの経緯に驚く。当然ながら、その後の些細な
トラブルについては、一切話すつもりはない。
陽斗も摩璃子と同様、何かあったのか知りたがってたが、
これ以上、話を広げるのが困難と感じたのか早々に話題を
変え、ニュースにまでなっていた現場について訪ねる。
奴らの襲撃じゃないかと疑っていたようで、気配は
なかったかと遠回しに聞いてきた。
「いや、特に変わったことはなかったと思う。多分」
「そっか。ならいいんだ」
俺は現場で辺りを窺った限りだと何事もなく、偶発的に
起きた事故と伝える。
俺達の話が、一区切りしたと判断した泉 沙絵は
真っ直ぐ、俺を見て会話を再開する。
「それで聞きたい話なんだけど、貴方は
お兄ちゃんの事知っているの?」
「昨日が初対面だけど、どうして?」
「あの後その、まるで知っているような口ぶりで、
貴方の話をするからてっきり知り合いかと思って」
「間違いなく、昨日が初めてだ」
今のところはと、心の内で訂正する。
しかし俺の返答に納得いかなかったのか、浮かない表情を
みせる。この際だ、こっちも聞きたい事があったので、
ぜひ聞いてみた。
「俺からもいいかな。今まで首都圏で芸能活動
していたのに、どうして地元に?」
それから彼女は、これまでの経緯を説明した。
10年前、世界中を震撼させたウイルスの影響で、今も
芸能界にも傷痕を残し仕事量が減る一方だと。
このままでは埒が明かないと判断し、地元で
再起するため帰ってきたらしい。これまで一番大きな
トラブルといえば、撮影現場での機材の爆発があって、
そのせいで危うく死にかけた過去らしい。
その時は社長でもありマネージャーでもある叔父に、
間一髪のところを助けられ、危うく命がなかったかも
だそうだ。これまでも小規模なら、事務所への脅迫文や
ストーカー、SNSでの悪態といったトラブルは、日常
茶飯事にあったそうだ。だがそれらは、彼女や事務所に
とっても大したことではなく芸能人なら、よくある
嫌がらせだそうだ。
もしかしたら、彼女は前途の話した内容が積み重なった
結果、首都圏での生活に疲れたのかもしれない。
というのが、現時点での俺の結論だ。
「やっぱり芸能界というかメディアに自分を晒すと、
トラブルも比例して増えてくるもんだんね」
「ああ、しかも有名になればなるほど」
陽斗、摩璃子も話を聞きながら、それぞれ
神妙な表情をみせる。
だが、それらを上回る出来事が起きたと語りだした。
そのことについて聞くと、何故か語ろうとはしない。
それどころか、身を寄せ小刻みに震えている。
彼女の様子に敢えて、それ以上の追及は控えた。
そういった経緯もあり活動拠点を、地元へと移したが
大きな仕事があれば首都圏へ行く必要があるため、
学校へはあまり出席できない可能性もあるそうだ。
(なるほどね)
少し考えをまとめようとした矢先に、陽斗が
中野の件を切り出す。
「それと、彼のことだけどね」
話を聞くと、あの事件が起きた当日、中野を虐めた連中
の処理を任せてくれと言い出していた。
どうしても許せなかったのか、陽斗しては珍しく不機嫌な
表情を隠そうともせず、中野を追い詰めた連中に対して
男らしい語り合いをすると言った事を思い出した。
ついでに、好奇心で連中の家庭環境や勤め先を聞き出すと
、偶然にもほとんどが劉星の統括する企業に務めている
事実が判明し、更に摩璃子はそいつらに経済的措置をして
もらうよう頼みこんでいたようだ。
俺は凄い事を言ってると、真理子を見て驚いていた。
「当然よ、あの子はずっと苦しんでいたんだから」
内容を聞いた劉星は二つ返事で引き受け、速やかに行動
してくれたようだ。俺が竹林の件で、中野にまで手が
回らないと思っての行動なのだろう、この時ばかりは
素直にありがたいと感じながら、その話を黙って聞いて
いた泉 沙絵はあっけにとられてた。
どの程度の時が経過したのか、雑談を繰り返してるうちに
、混雑し始めたので店を出ようとして騒動になった。
客の誰かが芸能人を見つけたと騒ぎだし、泉 沙絵は引き
留められサインと写真まで求められ店は大混雑になった。
おまけに喫茶店の店員からは、色紙を店内に飾りたいので
是非にと、せがまれる始末。
だが彼女は全てに対して、やんわりと断っていた。
流石、芸能人。あしらい方が慣れていると、感心しながら
ようやく店を後にする。
それから陽斗と摩璃子は、それぞれ夕方にバイトがある
ので一旦、自宅へと帰って行った。俺はどうしようかと
考えてる最中に、彼女が話しかけて来た。
「それにしても、内緒でバイク通勤してる
なんて思わなかった」
「えっ? あ、ああバイトでも使ってるんだ。
おまけに、朝の通勤ラッシュは苦手ときてね」
「ふふっ、でもあの人達、貴方がバイク持っているなんて
、思ってなかったみたい。かなりびっくりしてたね」
「でもまさか、君に目撃されているとはな」
雑談の中で目撃されているとは気づかず、その話を彼女に
バラされた際の、あいつらの反応はかなりのモノだった。
どうしても公園の駐輪場に止めているバイクを見たいと
駄々をこね、摩璃子なんかは特にあからさまだった。
シートにまたがりエンジンをかけアクセルまで回す始末。
陽斗からは何故、俺が1人で通勤しだしたのかようやく
理解した次第。黙っていたお陰で色々と問い詰められ、
もう平謝りするしかなかった。
お詫びに、それぞれリアシートに乗せる約束で、
なんとか機嫌をとりそれぞれ解散した。
「う~~ん・・・なんだか久しぶりにのんびりした~~」
彼女は背伸びをしながら放課後の学生らしい、
一時を過ごせたようだ。
「君はこれからどうするんだ?」
「うん、私はまだ話があるんだけどいい?」
朝、質問しようとした内容の続きだろう。
話を聞くしかないと腹をくくった。取りあえず
ベンチに座って内容を聞いてみた。
「ねぇ最初、話しを聞こうとした時にどうして
逃げたりその後、急に帰ったりしたの?」
「あぁ、あれは2時限目が始まるチャイムが鳴って教室
に戻る途中、知り合いからのメールで急遽、早退しなきゃ
行けなくなった。ただそれだけだ」
「ホント~~に~~?」
彼女はいたずらっぽい表情で訊ねる。半分はウソだ。
本当は夕方に、流壱さんから懸賞金についての連絡がある。
「仕方なくな」
「まぁ、いいわ。ここからが本題だけど、お兄ちゃん
だけど実は、他の人にはない特殊な力があるの」
段々と深刻な内容になりそうで場合よっては、
長引く覚悟も必要と感じた。
「でも話を聞いてもらう前に、絶対に誰にも
喋らないと約束して欲しいの」
先程とはうって変わり、悲痛な表情に黙って頷き、
話しを聞こうと身を乗り出す。
俺の態度に安心したのだろう。
わずかに微笑を浮かべたが、語り口は重々しかった。
「知ったのはつい最近。わたし実は殺されかけたの。
・・・でもお兄ちゃんが助けてくれた」
余程怖い思いをしたのか、喫茶店で
見た時と同様に震えていた。
「あり得ない光景だとしても、目の前で起きた状況を否定
する程バカじゃ無いわ。ほ、本当はこっちに帰ってくる
つもりは全然無かったの。表向きは仕事の都合という事情
で戻って来たけど、人口が多すぎる首都圏だと誰に命を
狙われるかわからないから、逆に人口が少ない都市に
引っ越すよう幾つかの候補を提案してくれたの」
語りながらも半信半疑なのか、一瞬だけ間があった。
「それはお兄さんの反断なのか?」
「違うわ。最終的には私が決めたけど、普通の暮らしが
出来て安心して過ごせた地元が良いと、決めたのは私よ」
なるほど、仮に命を狙われたとしても人口が少ない都市
なら犯人を特定するのが容易だからな。
だが引っ越しをしたからといって、上手く犯人からの追撃
を回避出来るとは限らない。
多分、彼女の叔父もそのことを分かっているはず。
「それにお兄ちゃんも社長として社員の生活を守る
義務がある以上、どうしても動きに制限があるから
知り合いの紹介で、貴方がいる学校に転校するよう
紹介してくれたの」
知り合いと聞いて思い当たる人物は、1人しかいない。
神代 劉星だ。
(昨日言っていたのは、この件だったのか)
アイツの悪戯っぽい表情を、思い出しただけでもハラが
立ってきた。だが、何となく彼女が俺に話があると
いう理由が分かりかけてきた。
「その知り合いが言うには、貴方にもお兄ちゃんと
同じ様な力を持っているって・・・・」
その時だった。僅かだが風切り音が聞こえ、何か得体の
知れない悪意が迫ってくる感覚があった。
「危ない!!!」
とっさに彼女を突き飛ばし、何者かの攻撃をかわした。
「怪我はないか?」
「だ、大丈夫」
「済まない。いきなり突き飛ばしたりして」
無言で首を横に振って、それから恐る恐る破壊された
ベンチを見て震えていた。
ざっと見ると、ほとんど原型を留めていなかった。
何が原因で、破壊されたのか調べようと観察していると、
直径2cm程の穴が幾つもある。
しかもこの痕跡には、見覚えがあった。
「くそっ! 俺とした事が!!」
「ど、どうかしたの?」
まだ敵がいないか辺りを、窺ったが気配がない。
(どこだ、どこにいる・・・)
今度は突然、目の前にクナイが無数に襲い掛かって来る。
とっさに覚醒を取り出し、素早く剣に変え、全ての攻撃を
受け流す。
跳ね返した攻撃はジョギングしていた人の目の前を危うく
かすめたり、近くに居た鳩達の頭上をかすめ地面に
めり込んだり、辺りに生息する樹木にまでめり込んでいた。
ざっと見回したが、どうやら怪我人はいないようだ。
ほっとするのも束の間、彼女を見た。両手で口を抑え
目の前で起きた出来事に気が動転し震えている。
「な、何なの一体!? それに手に持っているのは何?
いつの間にそんなものを?」
「それよりも、今は安全な場所に避難する方が先決だ!!」
「う、うん!!」
「まずは君のお兄さんがいる、場所まで一緒に行こう」
俺の提案に彼女は頷く。夕方に約束した、懸賞金の
使用用途の件についてはキャンセルするしかない。
話し合いの結果、叔父がいる事務所へ向かう事となった。
O公園を足早に出て、近くにある地下鉄から彼女の案内の
もと、事務所がある場所へと向かった。
前回から投稿が、遅れてしまい大変申し訳ございません。
今後ともご愛読、温かい目で見守って頂ければ有難いです。
何卒よろしくお願い致します。