4-閑話7 セシルとルーナ(前編)
「え、ルーナさんとセシルさんって、幼馴染なんですか!?」
「そうなんですのよー」
いつもの様に酒場でルーナチームの皆に捕まった私。
今日は、そこで意外な話を聞いてしまった。
セシルさんというのは、宿屋のおかみさんの娘で、ネリーちゃんとザジちゃんのお姉さん。
街の洗浄屋さんに嫁いで、今は宿屋にいないけど、私も良く自分のローブをお洗濯にお願いする時などにちょくちょく会っている。
「ほら、メルティちゃん、公園があるのは知ってるでしょ?
小っちゃい頃は、あそこでよく遊んでたんだー」
席に同席する、戦士のスカイさんも同じく話す。
「ルーナとセシル、そこでしょっちゅう喧嘩しててさ」
「えっ……?」
セシルさんはとっても優しい女の人で、喧嘩したり怒ったりするイメージがあまり無い。なんだか意外だった。
「えっど、どんな子供時代だったんですか?」
「え゛っ……い、いや、別に普通の子供でしたわよ、オホホ……」
何故かルーナさんにはぐらかされてしまった……。
ルーナチームは、全員女性の4人組。現在はCクラス筆頭。
リーダーでプリンセスのルーナさん、戦士のスカイさん、魔法使いのテレスさんに、羊飼いのドーラさん。
今はこの4人だけど、どうやら新人時代から組んでいる4人組じゃないらしい。
子供時代もそうだけど、いったいどんな新人時代だったんだろう……。
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十数年前、アム・マインツの街の公園にて。
「わたし、おっきくなったら冒険者になる!」
公園のジャングルジムの上でそう高らかに宣言したのは、宿屋の娘、セシル・オウルだった。
「えっ? セシル、そそそ、そんな……」
声小さくその言葉に戸惑っているのは、洗浄店の娘、ルーナ・プリシス。
「ま、セシルならなれそうじゃん? ルーナは無理そうだけどさ」
「ちょっと、兄さん、そんな事言わないの……」
そう言って揶揄うのは、双子の兄妹の兄のほう、ブルー・ラヴァース。嗜めたのは妹のほう、スカイ・ラヴァース。
「いいなー。冒険者かー」
「カタリナも冒険者になる?」
「んーどうしよ」
カタリナ・アメリーは、そんなセシルを、ちょっとうらやましそうに見ていた。
5人は、この近所の子供達。年齢は、今のネリーと同じくらいだった。
「なんで、冒険者になりたいの……?」
ルーナが訪ねる。
「だって、冒険者のひとたちって、かっこいいもの!」
セシルはキラキラした瞳で答えた。
その年の春から、セシルの両親は、宿屋を始めたばかりだった。
夫婦は食堂を営んでいた。客入りは悪くなかったが、地域のために薄利で営業していたため、生活はそれなりだった。
しかし次女のネリーの乳離れが済んだのを機に、商売の手を広げることにした。
食堂の隣の共同住宅を購入。改装で自宅の住居兼食堂をくっつけて、宿屋の経営を始めることにした。
老朽化で人気が無く、大通りに面しているため騒音が激しい。人気が無く居住者すらいなかったその共同住宅。
大掛かりなリノベーションをすればそれなりにはなるだろうが、大改装するための資金も無い。まあ人気は出ないのは目に見えていた。
なので、冒険者用の長期宿泊宿にする道を選んだ。
それも、まだ金も無い新人用の宿として。
金がない新人なら、ボロい安宿でも十分満足してもらえる。
冒険者ギルドからは補助金も出るので、格安で拠点を得ることが出来る。
何より、食事は元より経営している食堂を利用してもらえばいい。
夫婦の読みは当たり、宿屋『オウル亭』は、まあそれなりの客入りとなった。
人手が無いので、セシルは幼いなりに手伝いをした。
まだ幼いネリーも、おままごとのようにそれに手伝った。
メルティ達が宿泊する頃にネリーとザジがやっている事を、当時はセシルとネリーがしていた。
新人冒険者達は、セシルとネリーをとてもかわいがってくれた。
そんな優しくてかっこいい冒険者達を、セシルは憧れるようになっていった。
セシルは、両親の食堂や宿屋を継ぐのでもなく、どこかの家のお嫁さんになるでもなく、冒険者になる事を夢見るようになっていった。
「ルーナも冒険者になろうよ!」
「私には無理だよ。大人の人、苦手だし……」
「え~~っ!?
じゃあスカイは!?」
「ぼくも無理……」
気の強いセシルと違い、ルーナは人見知りの引っ込み思案、スカイは兄の影に隠れてべったり。2人はとても冒険者には不向きそうな性格だった。
スカイの兄ブルーは喧嘩っ早い性格で、よく近所のやんちゃな男達と喧嘩していた。一人称が『ぼく』のせいでからかわれる妹を庇うことが多かったので、グループ唯一の男の子ではあったが、女の子4人組とは仲が良かった。
カタリナは、そんなみんなのまとめ役だった。家の事情か、公園で他の子と遊ぶことは少なかったが、彼女がいるといつの間にか喧嘩が収まり、みんなが笑顔になる。そんな存在だった。
セシル・ブルー・カタリナの3人は、共に冒険者になろうと誓い合った。
ルーナとスカイは、自分達には無理だと断り続けていた。
月日は流れ、5人は16歳になった。
「え~~っ!?
セシル、冒険者にならないの!?」
「うん……」
ルーナは大声で、セシルに詰め寄る。
きっかけはルーナの親が経営する洗浄店に現れた、一人の常連客だった。
その客は『プリンセス』というレア職のジョブマニュアルを入手し、話ついでにルーナにそれを見せる。
ひょんな事から、ルーナにそのプリンセスの適性がある事が分かる。
それまで冒険者という職業に消極的だったルーナは、一転、冒険者稼業にあこがれを持つようになる。
正確には、冒険者というものよりも、煌びやかな『プリンセス』の響きにつられた、と言ったところだろうか。
しかし、幼い頃に夢を語っていたセシルは、逆にその夢を諦め始めていた。
「どうしてさ!
あんなに冒険者になりたがっていたじゃない!」
「うん……そうなんだけどさ……」
「セシルが冒険者になりたいって言うから、私は……私だって冒険者になりたいって思えたのに!」
「……ごめんね」
セシルは、諦めた理由を言わなかった。
その日を境に、セシルとルーナは口を利かなくなった。
翌月の冒険者ギルド新人研修の日。
ブルー、カタリナ、ルーナ、そして結局兄にべったりで付いてきてしまったスカイの4人。
ほか20名弱の新人と共に、ルーナ達はEクラス冒険者となった。
セシルは、結局姿を現さなかった。
1か月後。
「え、えっと……『守りの号令』!」
「おい馬鹿! ルーナ、何やってんだ!」
「今は攻撃の場面だろーが!!」
「え、えっと……ごめんなさい!」
その日初めて組んだ他の新人冒険たちに罵倒されるルーナ。
ルーナの冒険者としての立ち上がりは、あまり芳しいものでは無かった。
元々人付き合いの苦手、引っ込み事案、殻に閉じこもりがちのルーナ。
他者に指示を出す事など論外。
そんなルーナのジョブはプリンセス。他人に補助魔法をかけ、他人をサポートする役目。
うまく行くはずが無かった。
「はぁ……今日も失敗しちゃった」
「ルーナちゃん、お疲れ」
新人冒険者は酒場に行く金がない。集まるのは結局、幼き頃から皆で集まる公園。
そこでルーナは、カタリナに慰めて貰っていた。
「やっぱり私、冒険者には向いてないのかな……」
「そんなこと無いわよ」
「だって、ブルーもカタリナも、スカイでさえ、他の同期の皆と上手くやってるのに、私だけ……」
そんなルーナを、カタリナはよしよしと慰める。
「う~ん、ルーナちゃん、プリンセスのジョブが合わないんじゃない?
試しに一度、別のジョブになってみたら?」
「でも……プリンセスになりたくて冒険者になったのに……」
「そっか、そうだったよね……困ったわね……」
こんな我儘にも、カタリナは付き合ってくれる。
4人は幼馴染同士で冒険者になったが、4人一緒のパーティーを組む事は無かった。
馴れ合いでなあなあになるより、別の人達と頑張って組んだ方がいいと思ったからだ。
何より、4人集まってしまうと、『1人足りない』という寂しさを強く感じてしまうから……。
カタリナは弓使い。一歩後ろから見た視点でパーティーを俯瞰できる。
元よりまとめ役の性格。今のメンバーでも仮リーダーみたいなことをやっているらしい。
ブルーとスカイは、兄妹揃って戦士。
兄は問題無かったが、意外だったのは妹のほう。
結局は兄にべったり、普段はその後ろに隠れているが……いざ魔物と対峙し、恐怖が度を越してプッツンすると、武器をめちゃくちゃ振り回すようになる。キルレートは新人達の中でもトップクラスだ。
ルーナだけが、取り残されていた。
「う~ん、あの人に相談してみようかしら」
カタリナはそう呟いた。
「お前らが新人共か」
「こちら、ザガロさん。Bクラスの冒険者です」
カタリナが紹介したのは、ザガロという中年の男性だった。
ザガロはルーナ達を集め、ほぼ強引に共同依頼を受注。
そこで鬼のようなしごきを受けた。
「おうそこの馬鹿姫! もっと周りをよく見ろ!」
「は、はい~~っ!」
毎日勝手にクエストに連れ廻されて、くたくたになるまで酷使され、そして次の日も同じ目に遭う。
他のメンバーは定期的に任意参加させられるだけだったが、ルーナだけは毎回必ず強制招集された。
ルーナは毎日涙を流しながらも、おかげでまあまあ鍛えてもらうことが出来た。
さらに数か月後。
ザガロのしごきがひと段落する頃には、4人はいっぱしの冒険者になっていた。
ルーナは、まだ新人達の中では底辺のほうだが、まあそれなりにパーティの中でも立ち回れるようにはなった。
スカイは、戦士としての頭角をめきめきと現し、性格もどんどん積極的になっていった。
逆に兄のブルーは、そんな妹を過度に心配するようになってきていた。その分タンク役としての立ち回りは上手くなっていった。
カタリナは、ある日クエストに出かけ……そして、そのまま帰ってこなかった。




