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私、スライム娘になります!  作者: 日高 うみどり
4章閑話集

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4-閑話7 セシルとルーナ(前編)

「え、ルーナさんとセシルさんって、幼馴染なんですか!?」


「そうなんですのよー」


 いつもの様に酒場でルーナチームの皆に捕まった私。

 今日は、そこで意外な話を聞いてしまった。

 

 セシルさんというのは、宿屋のおかみさんの娘で、ネリーちゃんとザジちゃんのお姉さん。

 街の洗浄屋さんに嫁いで、今は宿屋にいないけど、私も良く自分のローブをお洗濯にお願いする時などにちょくちょく会っている。


「ほら、メルティちゃん、公園があるのは知ってるでしょ?

 小っちゃい頃は、あそこでよく遊んでたんだー」


 席に同席する、戦士のスカイさんも同じく話す。


「ルーナとセシル、そこでしょっちゅう喧嘩しててさ」


「えっ……?」


 セシルさんはとっても優しい女の人で、喧嘩したり怒ったりするイメージがあまり無い。なんだか意外だった。



「えっど、どんな子供時代だったんですか?」


「え゛っ……い、いや、別に普通の子供でしたわよ、オホホ……」


 何故かルーナさんにはぐらかされてしまった……。



 ルーナチームは、全員女性の4人組。現在はCクラス筆頭。

 リーダーでプリンセスのルーナさん、戦士のスカイさん、魔法使いのテレスさんに、羊飼いのドーラさん。

 

 今はこの4人だけど、どうやら新人時代から組んでいる4人組じゃないらしい。

 子供時代もそうだけど、いったいどんな新人時代だったんだろう……。




 **********************************




 十数年前、アム・マインツの街の公園にて。


「わたし、おっきくなったら冒険者になる!」

 

 公園のジャングルジムの上でそう高らかに宣言したのは、宿屋の娘、セシル・オウルだった。


「えっ? セシル、そそそ、そんな……」


 声小さくその言葉に戸惑っているのは、洗浄店の娘、ルーナ・プリシス。


「ま、セシルならなれそうじゃん? ルーナは無理そうだけどさ」

「ちょっと、兄さん、そんな事言わないの……」

 

 そう言って揶揄うのは、双子の兄妹の兄のほう、ブルー・ラヴァース。嗜めたのは妹のほう、スカイ・ラヴァース。


「いいなー。冒険者かー」


「カタリナも冒険者になる?」


「んーどうしよ」


 カタリナ・アメリーは、そんなセシルを、ちょっとうらやましそうに見ていた。


 5人は、この近所の子供達。年齢は、今のネリーと同じくらいだった。




「なんで、冒険者になりたいの……?」

 ルーナが訪ねる。


「だって、冒険者のひとたちって、かっこいいもの!」

 セシルはキラキラした瞳で答えた。




 その年の春から、セシルの両親は、宿屋を始めたばかりだった。

 夫婦は食堂を営んでいた。客入りは悪くなかったが、地域のために薄利で営業していたため、生活はそれなりだった。

 しかし次女のネリーの乳離れが済んだのを機に、商売の手を広げることにした。

 食堂の隣の共同住宅を購入。改装で自宅の住居兼食堂をくっつけて、宿屋の経営を始めることにした。


 老朽化で人気が無く、大通りに面しているため騒音が激しい。人気が無く居住者すらいなかったその共同住宅。

 大掛かりなリノベーションをすればそれなりにはなるだろうが、大改装するための資金も無い。まあ人気は出ないのは目に見えていた。


 なので、冒険者用の長期宿泊宿にする道を選んだ。

 それも、まだ金も無い新人用の宿として。

 金がない新人なら、ボロい安宿でも十分満足してもらえる。

 冒険者ギルドからは補助金も出るので、格安で拠点を得ることが出来る。

 何より、食事は元より経営している食堂を利用してもらえばいい。


 夫婦の読みは当たり、宿屋『オウル亭』は、まあそれなりの客入りとなった。


 人手が無いので、セシルは幼いなりに手伝いをした。

 まだ幼いネリーも、おままごとのようにそれに手伝った。

 メルティ達が宿泊する頃にネリーとザジがやっている事を、当時はセシルとネリーがしていた。


 新人冒険者達は、セシルとネリーをとてもかわいがってくれた。

 そんな優しくてかっこいい冒険者達を、セシルは憧れるようになっていった。


 セシルは、両親の食堂や宿屋を継ぐのでもなく、どこかの家のお嫁さんになるでもなく、冒険者になる事を夢見るようになっていった。

 

「ルーナも冒険者になろうよ!」


「私には無理だよ。大人の人、苦手だし……」


「え~~っ!?

 じゃあスカイは!?」


「ぼくも無理……」



 気の強いセシルと違い、ルーナは人見知りの引っ込み思案、スカイは兄の影に隠れてべったり。2人はとても冒険者には不向きそうな性格だった。

 スカイの兄ブルーは喧嘩っ早い性格で、よく近所のやんちゃな男達と喧嘩していた。一人称が『ぼく』のせいでからかわれる妹を庇うことが多かったので、グループ唯一の男の子ではあったが、女の子4人組とは仲が良かった。

 カタリナは、そんなみんなのまとめ役だった。家の事情か、公園で他の子と遊ぶことは少なかったが、彼女がいるといつの間にか喧嘩が収まり、みんなが笑顔になる。そんな存在だった。

 


 セシル・ブルー・カタリナの3人は、共に冒険者になろうと誓い合った。

 ルーナとスカイは、自分達には無理だと断り続けていた。




 月日は流れ、5人は16歳になった。


「え~~っ!?

 セシル、冒険者にならないの!?」

 

「うん……」


 ルーナは大声で、セシルに詰め寄る。



 きっかけはルーナの親が経営する洗浄店に現れた、一人の常連客だった。


 その客は『プリンセス』というレア職のジョブマニュアルを入手し、話ついでにルーナにそれを見せる。

 ひょんな事から、ルーナにそのプリンセスの適性がある事が分かる。


 それまで冒険者という職業に消極的だったルーナは、一転、冒険者稼業にあこがれを持つようになる。

 正確には、冒険者というものよりも、煌びやかな『プリンセス』の響きにつられた、と言ったところだろうか。



 しかし、幼い頃に夢を語っていたセシルは、逆にその夢を諦め始めていた。


「どうしてさ!

 あんなに冒険者になりたがっていたじゃない!」


「うん……そうなんだけどさ……」


「セシルが冒険者になりたいって言うから、私は……私だって冒険者になりたいって思えたのに!」


「……ごめんね」


 セシルは、諦めた理由を言わなかった。

 その日を境に、セシルとルーナは口を利かなくなった。



 翌月の冒険者ギルド新人研修の日。


 ブルー、カタリナ、ルーナ、そして結局兄にべったりで付いてきてしまったスカイの4人。

 ほか20名弱の新人と共に、ルーナ達はEクラス冒険者となった。

 

 セシルは、結局姿を現さなかった。




 1か月後。


「え、えっと……『守りの号令』!」


「おい馬鹿! ルーナ、何やってんだ!」

「今は攻撃の場面だろーが!!」

 

「え、えっと……ごめんなさい!」


 その日初めて組んだ他の新人冒険たちに罵倒されるルーナ。

 

 ルーナの冒険者としての立ち上がりは、あまり芳しいものでは無かった。


 元々人付き合いの苦手、引っ込み事案、殻に閉じこもりがちのルーナ。

 他者に指示を出す事など論外。

 そんなルーナのジョブはプリンセス。他人に補助魔法をかけ、他人をサポートする役目。

 うまく行くはずが無かった。



「はぁ……今日も失敗しちゃった」


「ルーナちゃん、お疲れ」


 新人冒険者は酒場に行く金がない。集まるのは結局、幼き頃から皆で集まる公園。

 そこでルーナは、カタリナに慰めて貰っていた。



「やっぱり私、冒険者には向いてないのかな……」


「そんなこと無いわよ」


「だって、ブルーもカタリナも、スカイでさえ、他の同期の皆と上手くやってるのに、私だけ……」


 そんなルーナを、カタリナはよしよしと慰める。


「う~ん、ルーナちゃん、プリンセスのジョブが合わないんじゃない?

 試しに一度、別のジョブになってみたら?」


「でも……プリンセスになりたくて冒険者になったのに……」


「そっか、そうだったよね……困ったわね……」


 こんな我儘にも、カタリナは付き合ってくれる。



 4人は幼馴染同士で冒険者になったが、4人一緒のパーティーを組む事は無かった。

 馴れ合いでなあなあになるより、別の人達と頑張って組んだ方がいいと思ったからだ。

 何より、4人集まってしまうと、『1人足りない』という寂しさを強く感じてしまうから……。


 カタリナは弓使い。一歩後ろから見た視点でパーティーを俯瞰できる。

 元よりまとめ役の性格。今のメンバーでも仮リーダーみたいなことをやっているらしい。


 ブルーとスカイは、兄妹揃って戦士。

 兄は問題無かったが、意外だったのは妹のほう。

 結局は兄にべったり、普段はその後ろに隠れているが……いざ魔物と対峙し、恐怖が度を越してプッツンすると、武器をめちゃくちゃ振り回すようになる。キルレートは新人達の中でもトップクラスだ。


 ルーナだけが、取り残されていた。



「う~ん、あの人に相談してみようかしら」

 カタリナはそう呟いた。




「お前らが新人共か」


「こちら、ザガロさん。Bクラスの冒険者です」


 カタリナが紹介したのは、ザガロという中年の男性だった。


 ザガロはルーナ達を集め、ほぼ強引に共同依頼を受注。

 そこで鬼のようなしごきを受けた。

 

「おうそこの馬鹿姫! もっと周りをよく見ろ!」


「は、はい~~っ!」


 毎日勝手にクエストに連れ廻されて、くたくたになるまで酷使され、そして次の日も同じ目に遭う。

 他のメンバーは定期的に任意参加させられるだけだったが、ルーナだけは毎回必ず強制招集された。


 ルーナは毎日涙を流しながらも、おかげでまあまあ鍛えてもらうことが出来た。




 さらに数か月後。

 

 ザガロのしごきがひと段落する頃には、4人はいっぱしの冒険者になっていた。


 ルーナは、まだ新人達の中では底辺のほうだが、まあそれなりにパーティの中でも立ち回れるようにはなった。


 スカイは、戦士としての頭角をめきめきと現し、性格もどんどん積極的になっていった。


 逆に兄のブルーは、そんな妹を過度に心配するようになってきていた。その分タンク役としての立ち回りは上手くなっていった。



 カタリナは、ある日クエストに出かけ……そして、そのまま帰ってこなかった。






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