4-エピローグ&5-プロローグ
モニナ国。
世界で2番目に小さいミニ国家である。
第7地区区都のアム・マインツの街の3分の2程度の面積でありながら、その6倍ほどの人口を有する過密国家でもある。
四方のうち南を地中海に、他をグランディル国の第7地区に囲まれているが、うち東側は、海沿いの街道を馬車で1時間程度走らせれば、東の大国ハングリアへと行くことが出来る。
主な街道は、その東のハングリアへと続く東街道、北北西のアム・マインツへと続く北街道、第6地区へと続く西街道の3本。
そのほか、地中海から船で経由する海路も盛んに利用されている。
都市サイズの小国家のため、首都というものは厳密には存在しないが、中央部にある宮殿地区が事実上の首都とされている。
ほか、東側の住宅地区、西側の港湾地区、そして、宮殿地区と港湾地区の中間に位置するリゾート地区、主にこの4つの地区で構成される。
このうち、リゾート地区以外の3つの地区は、比較的治安は良好。
しかしリゾート地区は、その名とは裏腹に、最も治安が悪い地区とされている。
このリゾート地区で本当にリゾートを楽しめるのは、ボディーガードを雇う余裕のある裕福層のみ。
庶民が旅行に行く際は、港湾地区に出来た新興観光地区を訪れる事を推奨されている。
ただそれでも、観光目的でこの国を訪れるのは、物好きと言う他に無い。
「へえ。じゃあ君達2人は、モニナに新婚旅行に行くんだ」
「いや、全然ちゃいますって。
さっき言った通り、ウチとイル君はカップルじゃなくてただの同僚ですし、行く目的もお仕事なんやって」
「でも、多少は観光して帰るんでしょ?」
「そ、そりゃまあ、多少は……」
モニナに向かう馬車の中、イルハスとマキノの2人は、乗り合わせた他の乗客と話をしていた。
「仕事って、どんな?」
「ああ、俺の兄貴が、今度アム・マインツに学校を作るんすよ。
で、モニナには、その教科書を買いに……というか、教科書の製本の許可を貰いに行くんです」
「そうなんだ。そのついでにお楽しみしに行くんだね」
「いやだから、ウチとイル君は全然そんな仲じゃ……なんでウチら初対面の人にこんなにからかわれんといかんの?」
「あ、ゴメンゴメン。つい、君のノリが良くてさ。
ところで、2人は冒険者なの?」
「ええ、そうです」
「冒険者とはいえ、2人だけでモニナに行くのって危険じゃない?
あの街マフィアとかいっぱいいるんでしょ?」
「まあホテルやカジノ辺りはそうですけど……俺達が行くのは住宅地区のほうですから、まあ大丈夫です。
何度もモニナへ行ってますし、向こうに頼れる知り合いもいますし」
「そうなんだ。楽しんでね」
「アンタまた……いや、今のは普通の返事やな……。
そういうアンタはなんでモニナに行くん?」
「僕? 僕はね、港湾地区にいる僕の顧客に商品を届けにさ。
頼まれていたものがやっと完成してさ。
僕、錬金技師やってるんだけど」
「錬金技師?
それって、錬金術師の道具造りの人の事やろ?」
「あれ、知ってるの?」
「ああ。ウチらの同期に、錬金技師の弟子って言う子がおるんよ」
「あれ?
それってひょっとして、メルっちょの事?」
「メルっちょ……?
ああうん、せや。メルティ・ニルツ。
あれ、って事はひょっとして、オニーサンが……」
「あ、そういえば自己紹介してなかったね。
僕の名前はオパール! 錬金技師さ!
趣味は自己紹介の時にポーズ作る事!」
「何やその変なポーズ」
「お、ちゃんとツッコんで貰えた」
賑やかな3人組を乗せた馬車は、一路、南のモニナ国を目指して進んでいく……。
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「モニナ、か……」
「メルティちゃん、緊張してる?」
馬車の中、私は、マリナさんに話しかけられる。
「は、はい。考えてみれば、私、国の外に出ることも、海を見る事も初めてで……」
「そっか。ま、大丈夫よ。
危ないところもあるけど、一応リゾート地だから。
せっかくの観光地なんだから、楽しむつもりで行きましょ?」
「そ、そうですね……」
「年末の観光地か……
絶対混んでるよね。今回の任務絡みは抜きにしても」
テレスさんも会話に加わる。
「まあ、そうね……」
「混んでる……ヤダなあ……」
「ひょっとしたら、ばったり向こうで観光中の知り合いとかに会うかもな。
メルティちゃんの知り合いもいるかもよ」
「えっ……いやでも、私の場合、流石にそれは無いかなと思います。
モニナに行くようなお金持ちの知り合いって私にはあんまりいないですし」
「アイツは? あのイルハスって男の子」
「イルハスさんは、マキノさんと一緒に年末も仕事って言ってました。
どこで何するかまでは聞きませんでしたけど、さすがにモニナでばったり会うとかは無いかなーと思うんですけど……」
「そっか。……ま、もし会ったとしても、案外気付かれないかもね」
「ま、まあ、そうですね……」
うーん、やっぱり流石に知り合いはいないと思うけど、『あの格好』で出会うと、やっぱり恥ずかしいな……。
「あ、そうだマリナさん。知り合いと言えば……
他の支部の競合相手って誰なんだい?
知ってる人がいたら、それこそ気まずいけど」
「うーん、第2支部のほうは、間違いなくジルベーヌさん達のはずだけど」
「ああ、この間ギルドに来たあの人か。
あの人と、Aクラスのスキンヘッドの……ハインツだっけ?
あともう1人、あの男の子っぽい格好の女の子」
「アセルス……」
あの日の事を思い出す。
あの日、Eクラスのはずのアセルスの事を、ハインツさんとジルベーヌさんが護衛しているかのようだった。
それは間違いじゃなかった。
私やロランさんと同じ、『モンスター職の関係者』として、護衛される立場にいるんだ。
そして、多分私と同じく、オークションに何らかの形で参加する。
アセルスなら、ただ守られているだけなんて、我慢できないはずだから。
この間仲良くなって、一緒に戦ったアセルスと、今度は競合相手として競い合う立場になる。
「競合って言っても、さすがに殺し合ったりはしないはずよ。同じギルドの冒険者だもん。
ちょっとした戦いにはなるかもしれないけど……あ、でも軽めよ、全然軽め!」
私の表情を見て察してくれたのか、マリナさんがそう言ってくれた。
「ま、3人だけってことは無いよな。他にも数人来るんだろう。
同じミッションの競合でも、全く会わずに終わるかもしれないよ」
テレスさんもそう言う。
おかげで、ちょっとだけ気が楽になった。
でも……一応、覚悟だけは、しておかないといけないよね……。
「王都側は……誰が来るんですか?」
ロランさんも会話に加わってきた。緊張具合で言えば私以上だけど、気を紛らわしたいのだろう。
「そっちは全く分からないわね……。
王都ギルドにもいろんな派閥があるらしいから、どの派閥が来るかにもよるけど……」
「出たとこ勝負って事か……」
いったいどんな冒険者が来るんだろう。
私達を乗せた馬車は、街道を南東へ向かって進んでいく……。
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ザンッ!
その斬撃の音と共に、熊の魔物の身体が真っ二つに裂ける。
「あ、ありがとうございます! ありがとうございます!」
商人の男が、大きな剣で魔物を倒してくれたその男性に礼を述べる。
「いやいや、どういたしまして。
でも、商人さんも災難だったね。街道で魔物に襲われるなんて」
男性は、気さくに返事する。
「いやはや、全く……
この時期の主街道は混んでいるから、裏道を通ろうと思ったのが間違いでした。
皆さんの馬車が通りかからなかったらどうなっていた事か……
是非、お礼をさせてください」
「いやいや、良いよ別に。
俺達も先を急がなきゃならないし」
「せめて、お名前だけでも」
「えっと……エクスです。エクス・ヴォーパル」
「エクスさん……
お強いようですが、冒険者の方なんですか?」
「ああ、いや、その……いえ、違いますよ、はは」
「あれ、そうなんですか?
冒険者じゃないのに、そんなにお強いなんて……」
「まあ、色々ありまして……。
じゃあ、先を急ぎますのでこの辺で」
エクスと名乗った黒髪の男性は、先ほど自分が飛び出してきた馬車へと戻る。
商人は、その馬車の中をちらりと見る。
馬車の中には、2人ほど乗っていた。
うち一人は女性。こちらは冒険者のようだ。服装的に僧侶系の上級職だろう。
もう一人は子供だった。十歳ぐらいで、少年のようにも見えるし、少女のようにも見える。
不思議な組み合わせだな、と、商人は思った。
冒険者ではないと名乗る男と、冒険者の女性と、十歳程度の子供。
馬車の装飾を見ると、王都の馬車だ。
観光客では無いようなので、時期的に考えて、例のオークションに向かうのかとは思う。
がしかし、それにしては変わった組み合わせだ。
……まあ、助けてくれた恩人をあれこれ詮索するのは止そう。
そう思い、商人は出発の準備をし、一行と別れを告げる。
「ありがとうございます! どうかお気をつけて!」
「リブさんもお元気で!」
商人はアム・マインツへ向けて出発し、男たちを乗せた馬車は反対側のモニナのほうへ出発する。
出発しすぐ、商人は気が付いた。
あの男、こちらの名前を知っていた。
過去に会ったことのある男だったのだろうか。
がしかし、思い出せない。
思い返してみれば、確かにどこかで会ったことがあるような気はするのだが……。
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モニナ国リゾート地区、カランテイルホテル。
その2階、レストランバーのテーブルに、2人の人物がいた。
1人は、冒険者ギルド第2支部ギルドマスター、ジルベーヌ。
もう1人は、第2支部所属のAクラス冒険者、ハインツ。
2人が現地入りしたのは5日前だった。
「第7はやはり、ソレーヌではなくマリナが来るようね」
ジルベーヌは、ワインをくゆらせながら、向かいの席のハインツに話しかける。
「あの『元天才少女』のお嬢ちゃんか……。
今回みたいなタイプのミッションじゃあ、下手したらソレーヌ嬢よりも厄介なんじゃないのか?」
ハインツもまた、ウイスキーをロックで嗜んでいる。
「あら、ハインツ君、マリナを知ってるの?
あの子の現役時代に組んだことあったっけ?」
「組んだことは無いが、噂は聞いたことある。
あのミゲル爺さんの贔屓っ子だったんだろ?
腕は子供相応だったが、頭の回転のほうは、何度か噂は聞こえてきたぜ」
「ふーん、そうなの……」
「王都のほうは誰が来るんだ?」
「さあ。ポーリンかバルダーのどっちかじゃない?」
「その両方の可能性は?」
「……あるわね。だとしたらより厄介だけど……」
ふぅ、と、ジルベーヌは窓の下を見下ろし、ホテル前に止まる馬車の様子を見る。
オークションは、このホテルの別館で行われる。なので、その参加者のほとんどはこのホテルの正門へ馬車を止め、建物内に入る。
この場所なら逐一参加者を確認できる。
が、何も正面から馬鹿正直に入ってくる連中ばかりとは限らない。
ここから入るのは、何も知らない馬鹿か、挑発的な食わせ者のどちらかだ。
「今日の成果はどう?」
「今日の落札は6件。まあまあの成果ですかね」
オークションは既に2日目の終盤。
ジルベーヌ達は、初日からオークションに参加している。
窓の外の馬車から建物内に入ってくる顔ぶれは、主に3種類。
ひとつは、明らかに悪人面の連中。
まあ盗品を扱うアンダーグラウンドオークションなのだから当然だろう。
ひとつは、詐欺師のような胡散臭い連中。
目的はそれぞれだが、まあ悪人面の連中よりろくでもない事を考えているのは確かだろう。
そしてもうひとつは、見るからに正義の味方のような雰囲気を醸し出す連中。
こういう連中は、ブラックマーケットに流れた商品を、自分達の手元に取り返す事が目的だ。
「あら、第4の人じゃない」
「ホントっすね。まあ今回はウチとは別のものが狙いでしょう。
にしても、相変わらず凛々しいこって」
ジルベーヌ達冒険者ギルドの面々も、一応はこの3番目の顔ぶれに含まれる。
依頼を受けて、現地を訪れることが出来なかった人物に代わり、商品を競り落とすのが目的だ。
まあもっとも、心の底から正義の味方なのか、それとも裏の甘い蜜が本当の目的なのかは、訪れる支部によって様々だが。
オークションの運営側は、こういう『正義の味方面』の連中でも、分け隔てなく会場に招き入れてくれる。
ここで問題さえ起こさなければ、運営側は客を選ばない。
もちろん、悪人のほうもどんどん招き入れるのだが。
問題さえ起こさな開ければ、誰でも平等に扱う。
まさに『天国』の地にふさわしいオークションである。
そして問題を起こすという事は、運営をするマフィア勢力に楯突くという事になり、今度は本当の意味での『天国』に誘われる。
害と見なした存在を、誰でも分け隔てなく排除する。例えどこぞの国の王族でも、救国の英雄だろうとも、世界を震撼させる大魔王だろうとも。
沽券を守るために全力を出して排除する。それもやはり『平等』だ。
治安の悪い国の、最も治安の悪い祭り事ではあるが、ここ数十年、オークション会場内で、参加者が被害に遭ったという報告は1件も無い。
あくまで『会場内』に限定した話ではあるが。
「あら」
窓の外に、一台の馬車が止まる。
冒険者ギルドの王都の装飾の馬車だ。
「これは意外。ポーリンでもバルダーでも無いわ」
「あれは……誰だ?」
「リュカ、ね」
「……どういう事です?」
「さあ」
最高級のミンクのコートに身を包んだ女性が馬車から降りてくる。
そして、ジルベーヌ達がいるレストランのほうを見て微笑み、エントランスの中に入る。
「ねえ、ハインツ君」
「なんすか」
「ミスティは来てるわよね」
「ええ」
「うーん、なら何とかなるか……。
ところで、アセルスはどう? 間に合いそうなの?」
「五分五分と言った所ですかね。
新しい装備にまだ不慣れなようで」
「大丈夫なのそれ……。
ねえ、ご飯はちゃんと食べてる?
お腹出して寝てない?」
「オカンか」
「だって心配じゃない!
もしアセルスが死んじゃったらどうするの!?」
「そんなに心配なら、連れてこなけりゃ良かったじゃねえっすか……」
「連れて来なけりゃって……だって!
アーちゃんにはいい経験させてあげたいじゃない!
美味しいもの食べさせたり! いろんなものを見たり!
いろんな経験させて、立派ないい子になってほしいじゃないの!
せっかくお友達だって出来たのに!」
「わ、分かった、分かりましたって……」
モニナ国リゾート地区、カランテイルホテルのレストランバーのテーブルに、2人の人物がいた。
つい今、酔って大泣きする女性が連れの男に連れられて出ていくまでは。
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「いらっしゃいませ。ようこそ、カランテイル・オークションへ」
裏エントランス側から入った馬車の中から、3人の人物が降りてくる。
招待状を見せると、係員に招かれ、オークション受付へと通される。
ドレスを纏った女性が2人。
タキシードを着た男性が1人。
周囲の目線は、そのうちの1人に強く向けられる。
人間離れした、滑らかな美しい肌。
大きくふくよかな胸。
その胸に対し、腰は細くくびれている。
そのくびれは、それより下の尻と足の豊満さをより強調している。
流行の『理想の体系』とは異なるものの、どこか不思議と魅力的なプロポーションの女性。
そして、そんな体形に反し、顔立ちはやや幼さを残す。
そのギャップもまた魅力を引き出している。
『ある種の美の到達点』を体現するかのような女性だった。
受付のスタッフから署名を求められ、先頭の女性が帳面に名前を記載する。
『マリナ・ココ』
『ウォルト・モーティス』
『ティア・ブレナン』
一行は、オークションのカタログとバッジを受け取り、受付を後にする……。
「……うん、よし、もうお話してもいいわよ。
とりあえず、今日やるべきことはこれで終了ね」
魔道具の使用禁止エリアを離れ、マリナさんは、盗聴防止の小型魔道具を起動させる。
「は、恥ずかしかったぁ……」
私は、思わずそう声を出してしまう。
「ふふ、メルティ……じゃない、『ティア』ちゃん。
会場の皆の注目の的だったじゃない」
「そ、そんな事言われても恥ずかしいですよぉ!」
「ほら、ティアちゃん。まだ人目があるんだから、ちゃんと背筋を伸ばして、堂々としてて」
「は、はい……」
ここ数日、主に私がやっていたのは、『変装の練習』だった。
まあ元々の人間形態も変装ではあったんだけど、今回このオークションに向けて、また違う姿になるための特訓をしていた。
まず、いつも着ている水鳥のローブと同じ素材のドレスを、ソレーヌさんが用意する。
私はそれを着る。
前より多くなった『肌』の出る部分を、頑張ってシリコン化する。
前よりMPを使うので、補助として魔法薬で回復しながら。
肌の色は、絵の具をふんだんに使用した。高級な光沢感の出る絵の具を、これだけで大瓶ひとつ消費しきるほどの。絵の具代はギルド支給で。
ローブで隠れていた以前とは違って、足の露出が増えたので、足とお尻の形を再調整。
歩いても体が崩れないように、そして形が変にならないように。
形について、ソレーヌさんから何度もリテイクを貰ってしまった。
今回も今までと同じで、靴もシリコンで作っているんだけど、ハイヒール部分はメタル化の技術を応用して固くしている。
ごく小部分なら、MP常時減少も起こらないと判明した。
問題はヒールでの歩き方だった。
何度も何度も倒れ、その度に体をバラバラにしながらも、ちゃんと歩けるように特訓した。
胸は、いままでミドが眺め続けて研究した、アム・マインツで一番いいカタチのものを採用。
修行時代の温泉でマリナさんに出来ることを見せてしまっていたので、これもやる羽目になってしまった。
ミドとマリナさん、二人が太鼓判を押してくれたこの胸は、目の位置からは真下が見えないものだった。
そして、その胸を強調するデザインの服。
肘などの球体関節部分を隠せる、袖は長め、首元はスカーフの付いた服だけど、関節部の無い胸元や背中はぱっかり大きく開いている。関節部を隠すため、目線を誘導するためだ。
こんな服装にした理由は分かる。
でも、なんというか……滅茶苦茶恥ずかしい……。
「ほんと、良い女だな。とても15歳には見えねえな」
「うう、ウォルトさんまで……」
ウォルトさん、こういう事は絶対に言わないキャラだと思ってたんだけど……。
「うふふ。ウォルトさんだけじゃない。男の人達はみんな大注目だったわよ。
女の私でもドキッとしちゃうもの」
「大注目って……目立っちゃ駄目だと思うんですけど……
一応命を狙われてるんですよね?」
「だけどよ、こんないい女と、あのちんちくりんな子供が同一人物だとは、誰も思わねえぜ」
「ち、ちんちくりんって言わないでください!」
「まあまあ……」
「もうヤダ……こんな姿、誰か知り合いにでも見られたら……ん?」
私は、後方の視界に何かを捉えて、後ろを振り返る。
「どしたの?」
「えっと……誰か、知ってる人がいたような気がしたんですけど……」
マリナさんとウォルトさんが、後ろを振りかえる。
「気のせいじゃない?」
「俺もだいたいの冒険者の顔は覚えているが……そんな奴はいねえな」
「そ、そうですか……」
誰か、会いたかった人がいたような気がしたんだけど……。
って、この姿で会っても駄目じゃない!
「ああもう、とにかく、人目が無い場所へ行きたい……。
こんな姿、もし誰かに見られたら……ううう……」
「ゴメンね、メルティちゃん。とにかく、2日間の辛抱だから。ね?」
「わ、分かってます。分かってますよ、もう……」
『ミノタウロス』のジョブマニュアルが出品されるオークションは、明日の3日目と、明後日の最終日。
恥ずかしいけど、これもジョブマニュアルを手に入れるため。そして私が、私達魔物職の人達が、無事にこれからを生きることが出来るために。
うん、頑張ろう。頑張らなきゃ……。
こうしていよいよ、モニナ国でのミッションが始まろうとしている。
これは今までの、人と魔物との戦いとは違う。
人と人との戦い。
長い長い、運命の48時間が……今、始まる。
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「ウソ、だろ……」
オークションの受付脇の廊下で、一人の男が、柱の陰に隠れながら様子を見ていた。
「どしたの、エクスくん」
「あの女の人……メルティだ」
「えっ?」
男のその様子を恥ずかしそうに見ていた女性が、受付が見える位置に移動し、男の指差す方を見る。
「あ、マリナさん。やっぱり第7支部の人も来てたのね。
男の人はウォルトさんで……えっと、もう1人の事よね。
あれ、でも、あなたから聞いてた容姿とは違うわよ。
メルティちゃんって、15歳の小柄な女の子のはずよね?」
「いや、間違いない。間違いなくあれはメルティだ。俺には分かる。
だって、メルティは胸の大きさとか変えられたし……」
「まあ……あなたがそう言うのなら信じるけど」
「なんで、メルティがここに……?」
「なんでって……オークションに参加するんでしょ?」
「えぇ……じゃあ、メルティが競合相手? なんでメルティが?」
「よく分かんないけど、リーフくんとおんなじ事情なんでしょ。
ほら、変な格好してるから目立ってるわよ、クルスくん」
「ちょ……エリーゼ!
男の時はエクスって呼ぶって決めただろ?」
「それを言うなら私の事も『リザ』って呼ぶ決まりでしょ。今回は」
「あ……いや、その……」
「ほら、行くよ。バルダーさんとリーフくんが待ってる」
男は、女に腕を掴まれて、マリナ達とは反対側の廊下へと歩きだす。
「ちょ……くっつくなよ……」
「いいでしょ。今回は『恋人役』って設定なんだから」
「初耳だけどそんな話……それにジョルジュに見られたら……」
「いーのよアイツは。
さっきまた他の女の子見つけてデレデレしてたんだから。お返しよ」
「そ、そういう問題じゃあ……」
腕を組み、女に引きずられながら、男は廊下の奥へと進む。
男に指さされていた『ティア』という女性が振り向くその直前、2人は廊下の曲がり角の向こうへと消えていった……。
作者の日高うみどりです。
第4章はここで終了となります。
続きの第5章も執筆していきたいと思いますが、これまで同様に、完成までしばらくお時間を頂ければと思います。
今回は多分時間がかかりそうな気がするので、気長に待っていてくだされば嬉しいです。
ただ、あんまり長くお待たせするのもなんですので、お休み期間中も時々、短めのミニエピソードをちょこちょこ投稿していければと思います。
多分思いつき次第突発的に投稿するかと思いますので、たまにでいいですのでチェックしてくださると嬉しいです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!




