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私、スライム娘になります!  作者: 日高 うみどり
第4章 半透明な瞳に映るこの世界は

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4-76話 ダンジョン内のスライム娘

「ウッズ氏殺害容疑で逮捕させていただきますよ、メルティ・ニルツさん。

 それとも、今この場で殺処分するべきかな、人食いスライムさん?」


 冒険者ギルドに突然現れた、憲兵隊の女性、ジネットさん。

 私は自分の正体が『スライム娘』だという事をバラされ、そして殺人事件の容疑者として詰め寄られている……。



 ジネットさんは……すらりと腰の剣を抜く。

 逮捕するんじゃないの?

 私、このまま殺されちゃうの?


 

「メルティちゃん、逃げろ!」

 ロランさんが大声を出し、そして自分を押さえつけている憲兵隊の人を振り払おうと暴れ出す。


「や……やってません! 私じゃないです!」

 私は腕を使って後ずさりしながら、必死でそう訴える。


 私の腰から下は無い。

 水鳥のローブに隠れて千切れた面は見えないが、とても立ち上がれる状況じゃない。

 このまま腕だけで這いずって逃げるしかない。


「あ……」


 ふと、周囲の冒険者達の視線に気づく。


 そう……だ。

 そうだよ。

 バレちゃった。

 私が人間じゃない事が。

 こんな公衆の面前で、私が、人間じゃないって……。



「何をなさっているのですか!」


 大きく響く女の人の声。

 ソレーヌさんの声だった。


「おや、ソレーヌさんじゃないですか。

 私はただ、殺人事件の容疑者を逮捕しようとしているだけですよ?」


「メルティさんが犯人だと仰るつもりですか!?」


「だってそうでしょう?

 この子は御覧の通り、人間じゃないのですから」



 そこに、マリナさんの声が響く。


「メルティちゃんは人間です!

 スライム娘の姿ですけど、れっきとした人間です!」



 カウンターのほうを見ると、マリナさんの隣にいるシィナさんの顔も見える。

 いつものおどおどした表情とはまるで違う、殺気だった、まるで殺し屋のような表情だ。



「……なるほど。

 まあいい。ならば、『人間』の容疑者として扱いましょう」


 そう言うとジネットさんは、首で周囲の憲兵に合図を合図をしながら、


「逮捕しろ」


 そう指示した。


「うっ……?」

 不意に、私の身体を何かの魔法がかけられた感覚が来る。


「何をしている、睡眠魔法だ!」


「かけています、ですが、効きません!」


「なら、効くまでかけ続けるんだよ!」


 2発目、3発目の睡眠魔法が私を襲う。

 その度に、コアの中の意識がひとつずつ消えていく。


 そして4発目。


「う……っ……」


 私の意識は、そこで途絶えた……。





 白く冷たい、殺風景な部屋。

 意識が戻った私は、その部屋にいた。


「なあスライム人間くん。

 君、ウッズ氏を殺したんだろ?」


「違います」

 

 テーブルの向かい側の椅子に座るジネットさんがこちらを見ながら聞く。

 服も、ウィッグも、腰に付けたマジックパックも取り上げられ、私は尋問されている。



「そうは言うけどね、目撃証言があるんだ。

 血の色に染まった、バケモノみたいなサイズのスライムが、男を引きづって連れ去っていったってね」


「それは……確かに私だと思いますけど……」


 今の半透明な姿では、否定のしようがない。

 

「……私は、殺していません」




「じゃあ、何故君の身体は、血の色に染まっていたんだ?」


「治療しようとしたからです。

 その時に、体に血が混じっちゃったんです」


「スライムが、人間の治療を?

 そんな真似ができるだなんて聞いた事もない」


「普通のスライムには無理かもですけど、私にはできます。

 私、パーティーではヒーラーなんです」


「なら、どうして連れ去っていったんだ?」


「それは……どこか、もっといい場所で治療したほうがいいと思ったから……」

 

「どこか暗がりで人を食うためなんじゃないのかい?」


「違います」


「なら、何故ウッズ氏は未だに見つかっていないんだい?」


「それは…………分かりません」


 そう、答えるしかない。



「ハッ……まあいい。

 じゃあ質問の仕方を変えよう。

 君が犯人じゃないとすると、犯人は誰なんだい?」


「……分かりません」


「『刺された直後だった』と言うのに、君は犯人の姿を見ていなかったという訳かい?」


「走り去る誰かの姿は見たような気がするんですが……

 大雨で、視界が悪かったので……」


「男か? 女か?」


「分かりません」


「あんな大前の日に、ウッズ氏とその犯人は、あんな所で何をしていたと言うんだい?」


「私に聞かれても困ります」


「ウッズ氏も、誰に刺されたとかは言わなかったのかい?」


「はい」


「じゃあ、本当にそんな『犯人』がいるかどうかも分からないじゃないか」


「………………」



 駄目だ……。

 完全に私が犯人だと決めつけている……。

 

 

「この間会った時、おかしな話だと思ったんだよ。

 どうしてこんな少女が『魔物との通訳』なんて出来るんだろうってね。

 なんだ、蓋を開けてみれば簡単な事じゃないか。

 通訳者も実は魔物だったんだから」


「…………」


「ひょっとして、例の誘拐事件も君が関わっていたのかい?

 実は、ゴブリンの彼女とグルだったんじゃないのかい?」


「違います」


「ゴブリンになれる彼女は、裏でワルイコトをしていた。

 なのに、スライムの君は、清廉潔白に生きていたとでも言うのかい?」


「そうです」


「そもそも、君は本当に人間なのかい?」


「……私のジョブマニュアルは、さっき調べたんですよね」


「まあね。

 でも内容はトンチンカンな文字で書かれていた。

 本物かどうかなんて分かったモンじゃない」


「…………」


「あれが本物かどうかはさておくとしても、それを君が使ってその姿になったという事も定かではない。

 君、本当は本当に人間じゃあないんじゃないのか?

 実はスライムとして生まれて、人間に化けて、『ジョブマニュアルで魔物の姿になった』と言い張っているだけなんじゃないのかい?」


「そんなはずはないです。私、確かに人間です」


「君はアイヒェ村の出身だと主張していたけど、あそこは廃村になっているよね?

 君の両親も死亡しているし、君が本当にその村に住んでいたのかは定かではない」


「………………」


「それどころか、教会の記録によると、『メルティ・ニルツ』という子供はお墓の中に眠っているそうじゃないか」


「……それ、は…………」


「まあ、無くはない話だよ?

 鬼籍に入った子供と同じ名前を、後で生まれた子供にも付けるのは。

 でも、君の母親には2番目の子供の出産記録は無い」


「……私は、母の、子供です。血は繋がっていなくとも……」

 

「本当にそうかい?

 死んだ子供の名前を乗っ取って、普段は人間のフリをして……

 実は、人間を食べる隙を伺っていたんだ。違うかい?」


「……何、言ってるんですか……そんな訳……」


「実はね、この街、けっこう失踪者が多いんだ。

 最近特に多い。

 君がこの街で冒険者活動を始めてから特に多いんだ。

 君がバリバリ食べてたんじゃない?」


「……決めつけないでください」


「君、お肉は好きかい?」


「……食べ物なら好き嫌いなく、ひと通りは」


「じゃあお肉も好きなんだ。

 やっぱり生で食べるの?

 人間の部位で一番好きなところはどこ?」


「……私が食べるのは、普通の、街のお店で売られているお肉です。人間は食べません」


「そうなんだ。引っかからなかったね。つまーんない」


「………………」


 なんだ、この人。

 なんでこんな不快な事、私に聞くんだろう……。




 意味の分からない尋問終えた私は、牢屋に入れられる。


 その牢屋の中で、私はぼーっと過ごす。



 ここは地下牢。

 薄暗い、冷たい石造りの牢屋だ。

 まるで、ダンジョンみたいな雰囲気。


 そういえば、ダンジョンって、『地下牢』っていう意味もあるんだっけ?


 人生初の本格的なダンジョンが、冒険者が行くほうじゃなくて、こういう地下牢のほうになるなんて、思ってもみなかったな……。

 

 ……ほんと、どうしてこんな所にいるんだろう、私……。



 牢屋の鉄格子のほうを見る。

 私が液体だと分かり切っているはずなのに、隙間だらけのこういう牢屋に入れられている。


 上を見ると、通気口から外の光が漏れている。

 私なら、壁にくっついて登って、あそこから出られる。

 なんなら、ネズミが出てきそうな穴まである。


 あえて私が、こういう所に入れられた理由。

 意図が簡単に読み取れる。


 脱走して見せろと言われている気がする。

 そうすれば、私を『魔物』として、簡単に処分できてしまうから……。



 もし仮に、誰にも見つからずに逃げ出せたとしても……

 もう、私が『スライム娘』だって、冒険者の人達にバレちゃってるんだよね……。


 ひょっとして、街は今頃大騒ぎになっているのかも。

 人間の街に、魔物が人間に化けて住んでたって、バレちゃったんだもん。


 逃げ出して、ジョブを辞めて、人間として生活するなら……

 ううん。それでも、殺人容疑と脱走の事実は残ったままだ。



 ……ああ。何考えてるんだろう、私。

 脱走なんか考えちゃだめだ。

 ここでちゃんと、ジネットさんに分かってもらうしかない。

 私が犯人じゃないって。

 私は殺していないって。


 まずは、私の殺人容疑を晴らさなきゃ。

 スライム娘だってバレちゃっている件は、その後考えるしかない。

 今はとにかく、どうにかして容疑を晴らすしかない……うん。



 そんな事を考えていると、地下牢に一人分の足音が響く。

 誰かがこちらに向かっているようだ。


「やあ、メルティちゃん」


「あ……」


 やってきたのはコーディさんだった。

 いつもの優しそうな表情をしている。


 コーディさんは、律儀にも牢屋の扉を鍵で開け、そしてこう話した。


「釈放だよ」


「…………へっ?」




 いろいろ考えていたのが馬鹿馬鹿しいくらい、もの凄くあっさりと外に出ることが出来た。


「あの……どうして私の容疑が晴れたんですか?」


 私は返してもらった着替えをしながら、コーディさんに質問する。

 一応私が女性だからか、コーディさんは後ろを振り返って、見ないようにしてくれた。

 代わりに女性の憲兵隊の見張りは付いていたけど。ものすごくまじまじと見られながら。


「ああ。真犯人が自首してきたんだ」


「……えっ?」


「ついさっき逮捕されたよ。

 犯人は、ウッズ氏と同じ店で働いていた、店員のコニーって言う女の人だったよ。

 彼女は、自分が殺したって言う趣旨の証言もしているらしい」


「そう、なんですか……」

 

 色々複雑な気分だったけど、とりあえず私はほっとすることが出来た。


「実はさ、冒険者ギルドのギルドマスターさんが、捜査に協力してくれたんだ」


「え、そうなんですか?」


「犯人の居場所を特定したのも、自主するように説得してくれたのも彼なんだよ。

 いい人だね。君を助けるために動き回ってくれたんだよ」


「そう、ですね……」


 後で、お礼言わなきゃな……。




 憲兵詰め所の外に出ると、そこにマリナさんがいた。

 どうやら身元引受に来てくれたらしい。


「あ、メルティちゃん!」


「マリナさん……」




 私とマリナさんは、街を歩きながら話す。


「メルティちゃん、災難だったわね」


「いえ……」


「でも、偉いわ。

 街中で刺されちゃった人を救助してあげようとしたんでしょ?

 その、助けられなかったのは残念だけど……」


「い、いえ、そんな……

 あの、皆さんは……どうしてますか?」


「あー、その件なんだけどね……実はロランさん、逮捕されちゃったのよ……」


「えっ!?」


「あの、ほら、憲兵隊の前で、メルティちゃんに『逃げろ』って言っちゃったでしょ?

 だから容疑者逃走幇助の現行犯で……」


「え、えええ……」


「あ、でもメルティちゃんが無実だったんだし、今日中にお咎めなしで釈放されるはずって、ソレーヌさんが言ってたわ。

 その、ジネットさんのやり方もアレだったし……」


「そうだったんですね……ロランさんに後で謝らなくちゃ……」


「ターシャさんとミリィさんはオウル亭で待機してもらっているわ。

 メルティちゃんが無事だって言う話は伝えてあるから安心して」


「は、はい……」


 ロランさんの話には驚かされてしまったけど……

 さっき私は、違う事を聞いたつもりだった。

 私がスライム娘だという事は、ほとんどの冒険者にバレてしまった。

 このまま、マリナさんと一緒にギルドに戻ってもいいものか……。

 

「……あの、私……」


 聞こうと思っても、言葉の続きが出てこない。


 するとマリナさんは、にっこり笑ってこう答えた。

 

「心配しなくてもいいわよ。早くギルドにいる皆に、無事な姿を見せてあげて?」


「えっ……」




「あ! おーい、メルティちゃーん!」


 2階から、間延びした朗らかな声が聞こえてくる。

 ギルドで私に最初に声を掛けるのは、ルーナチームのドーラさん。

 今日も全く同じ呼び声だった。


「メルティちゃん!」

「おー」

「来た来た」


 ルーナさん、スカイさん、タイムさんも2階から私に声を掛ける。

 そしていつも通り、2階席のテーブルへと私は誘われる。



「よお。災難だったなー」


「初めての『ダンジョン』はどうだった?」

 

「ダンジョンデビューたぁ、大人の女になったなー ガーッハッハッハ!」

 

 2階席への通路を歩いていると、テーブルに座る冒険者達が私に話しかけてくれる。

 いつもより話しかけてくれる人は多いけど、みんないつも通り。

 驚くほど、普段通りだった。


 え、どういう事?

 みんな、今朝の私の姿、見たんだよね……。



 ルーナさんが、テーブルに近寄る私をにまにま笑いながら見ていた。

 隣のテーブルには、『銅の硬貨』のテレスさんもいた。私と一緒に、ルーナチームのテーブルに加わる。


 私の正体を知っている、ルーナチームとテレスさんなら、この反応も理解できる。

 でも、他の人達は……?



「あの、一体どういう事なんでしょうか……」


「ん? なにが?」


 私は、私の肩に手を掛けながら飲むルーナさんに質問した。


「私、スライム娘だってバレちゃったのに……

 なのに、みんないつも通りで……」


「あー、なるほど?」


「殺人容疑で逮捕されて……人食いスライムとまで言われちゃったのに……

 みんな普段通り過ぎて、なんていうかその……」


「うんうん。あの発言はひどかったねー。

 ジネットのババアには毎回私達もムカついてんだー。

 あ、失礼。おクソババアさまにはいたくおムカつきになられあそばりましたのよ?」


「みんな、私の事……怖くないんでしょうか……」


 私がそう聞くと、テレスさんが言った。


「だってさ。みんな知ってるよ。

 メルティちゃんがいい子だって事をさ。

 それだけで充分」


「え……」



 その言葉に、私は、涙が出てきてしまった。


「あー。テレスが泣かしたー」

 

「いけませんよテレスさん。女の子をお泣かせになられるなんて」


「え、いや、ちょっ……!」



 私が泣いていると、オウル亭から駆け付けたらしいターシャさんとミリィさんがやってきた。


 ターシャさんは私に会うなり、飛びついてわんわんと泣き始めた。


「ちょっ……ターシャさん、苦しいです」


「だってー。メルちーにもーばえばいとおぼったんだからー!」


 そんな私達を見て、ミリィさんがどや顔で笑っている。


「メルティは、どこからでも、何があっても、帰ってくる。

 私の言った通り」


「そうだけど、そうだけどぉー!」


 わんわんと泣きながら話すその後のターシャさんの言葉は、それ以上は聞き取れなかった。



 しばらく後、ロランさんも酒場に入ってくる。

 ロランさんの身元引受に行ったらしいイサクさんも一緒に来てくれた。

 ついでにリリーボレアさんも、さらにネリーちゃんも、ザジちゃんも一緒に来た。


 ロランさんもまた、お前も大人になったなーとからかわれながらこちらにやってくる。



「ロランさん、私のせいで、その、本当にすみませんでした……」


「いいって、気にしないで。またこうして会えるだけでも嬉しいよ」


「ロランさん……」


「あー、今度はロラン君が泣かしたー」

 


 こうして、大いに盛り上がりながら、酒場の夜は更けていった……。







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― 新着の感想 ―
[良い点] 釈放されて良かったねメルティ( ´∀`) 前回のコメでは抑えたけど、危うくジネットさんを◯してしまう所だったわぁ…。 こう、ドロッとゴボッとジュワッとね…(^ν^) [一言] やはりポイ…
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