4-68話 ロラン組の再始動
アイオライトさんのクエストが終わって次の日。
「じゃあ、出発!」
「おー!」
ロランさんの怪我も治り、私達ロラン組は久しぶりに4人勢ぞろいすることが出来た。
さっそく私達は、クエストに出発する。もちろんフラちゃんも一緒だ。
私達が受けたクエストは、ルテ川高地エリアの『リエナの花』の採取。
奇しくも、私が川に落ちて『赤の依頼』を出されるきっかけとなったクエスト一緒のクエスト……。
それと全く同じ内容のクエストが今日もあったので、私達はリベンジとばかりにその依頼を受けることにした。
「メルちー、いーい? 絶対に無茶しちゃだめだからね」
「は、はい」
私はターシャさんに、きつく念押しされる。
以前と違ってルテ川の水量は落ち着いているし、盗賊も多分もう出ないだろうという事なので安全性は前よりは高いが、それでも何度も何度も念押しされた。
前衛をミリィさんに任せ、ロランさん、ターシャさん、私が後方から支援するという陣形を取ることになった。
また、フラちゃんがパーティーに混じっての初めてのクエストという事もあって、連携の練習に今日は専念する。
川沿いで、マッドクラブとの戦闘。
弱点の魔法を突くため、ターシャさんと私、ルーの火の魔法に加え、フラちゃんの風の刃で倒していく。
森に入って、エアラットとの戦闘。
ミリィさんの格闘攻撃に、ロランさんの弓矢と、私の粘着ボールとナイフ投げ。フラちゃんのくちばし突っつきで倒していく。
久しぶりのみんな揃っての戦闘は、とても順調だった。
「もうこの辺りのモンスターとなら、そんなに苦戦しないな」
「だね。この分なら、深部の大オオカミとも戦えるかもねー。
……あ、でもメルちーは無茶したら駄目だよ!」
「わ、分かってますよ……」
まあ今回は深部エリア方面へ行く必要は無いので、実際に戦うかどうかは後で考える話だ。
私達は高地エリア方面へ急ぐ。
「め、メルちー、ホントに大丈夫? 落ちたりしない?」
「大丈夫ですよ」
リエナの花は、崖に咲いていることが多い花だ。
垂直の崖に、真横に根を張り、茎はぐにゃっと上を向くようにして曲がって生えている。
前回のクエストでは普通に平地でも見つかったが、冬になった今現在、平地に残っている花は少ない。
なので今の季節は、どうしても崖に咲いている花を採取しなければならない。
普通の人間ならロッククライミングをして採取しなければならないが、幸い私はスライム娘。
崖の側面にくっついて這うようにして進めば、重力を無視して移動できる。私向けのクエストだ。
でも、さすがに川の真横の崖には近づかせては貰えないけど。
とはいえ、私一人だけで出来るかと言えばそうでも無い。
さすがに崖にくっついたまま敵に襲われては、私もいつも通り戦うという訳にはいかない。
なので、崖下にロランさん達3人が待機してくれている。
崖の上から敵に襲われる危険性もあるので、フラちゃんが空の上から見張っていてくれる。
幸い、敵は現れず、私は無事にリエナの花の採取を終わらせることが出来た。
採取後の帰り道。
街道を目指してルテ川沿いを歩く私達の前に、1匹のスライムがぴょこんと飛び出してきた。
「あれ、マーくん?」
私は思わず声をかける。
「メルちー、知り合い?」
「あ、はい。スライムのマーくんです。私が記憶を失っている間、私に親切にしてくれたスライムなんです」
思わぬ再会。マー君は私の手の上に飛び乗り、再会を喜び合う。
でもどうして、わざわざ人間やフラッターの子供がいる前に現れたんだろう。
「……えっ、そうなの!?」
「メルちー、どうしたの?」
「えっとその……マー君、私達に助けてほしくて、私達の前に出てきたみたいです。
マーくん達の住処の周りに、大オオカミが現れたって……」
そこは、森の中の小さなほら穴だった。
ほら穴の中には、スライム達が使う、地下洞窟への入口となる隙間がある。
その隙間の前に、大オオカミが陣取ってしまった。そのせいで、マーくんたちは住処へ出入りすることが出来なくなってしまったそうだ。
「数は1匹か。はぐれオオカミなのかな」
「寝ている、冬眠中か?」
ロランさんとミリィさんが、その大オオカミを陰でこっそり見ながら、オオカミを起こさないように小声で呟く。
私達は以前、大オオカミ3体と戦ったことがある。道具屋のトムさんとサラさんを救出したときの事だ。
その時は無事に撃退できた。
今回はそれより少ない1匹だけなので、何とか戦えるとは思う。
だけど……。
「よし、じゃあやっつけよっか!」
「え、ターシャさん……いいんですか?」
今回は、スライムと大オオカミ、野生のモンスター同士のトラブルだ。
なので、同族の私はともかく、人間であるターシャさん達が手を貸す義理は無いはずなのに。
「何言ってんの。いいに決まってるじゃん。
メルちーを助けてくれた恩人なんでしょ?……いや、恩スライムか……。
……ま、とにかく、ロラン組の仲間を助けてくれたんだもん。お礼に、私達も一肌脱ぐよ」
ターシャさんがそう言うと、ロランさんも、ミリィさんも頷く。フラちゃんも、カァと鳴く代わりに、羽根をバサッと広げた。
「あ、ありがとうございます!」
私はみんなにお礼を言った。
「さてじゃあ、どう戦う?」
ロランさんが皆に聞く。
以前勝った事がある相手とはいえ、基本的には格上の魔物。無策で挑むという訳にはいかない。
「あの……実は、試してみたいことがあるんですけど……」
私は、ロランさんに提案した。
私はマジックパックから、あるアイテムを取り出した。
「これ……何?」
「スタンガン、という物らしいです。昨日のクエストで、アイオライトさんにお礼としてもらったものです」
「すたん、がん?」
「あ、はい。簡単に言うと、ここから電気を出して、痺れさせて気絶させる、護身用のアイテムだそうです」
「へぇ……じゃあ、大オオカミを痺れさせるって事?」
「あ、いえ。それもいいかもなとは思うんですけど……」
私は、自分が『試したい事』を説明する。
そして私は、一人、寝ている大オオカミの前に立つ。
左手にはスタンガンを持って。
後ろにはロランさん達が控えている。
万が一の時、すぐに出て来られるように。
ターシャさんが、ハラハラした目でこちらを見ている。
「では、行きます……」
私はスタンガンのスイッチを入れた後……その電撃を、自分の体に付き刺した。
「うっ……」
ビリビリとした電気の感触が、私の全身を駆け巡る。
しかしダメージを受けているという訳ではない。ダメージを受けないように、アイオライトさんが事前に出力を調整してくれていた。
そして、その電気の力を利用して、私は右腕を金属の筒状の形に変える。
以前ヒクイドリ戦でも試してみた、銃だ。
もっとも、以前のような長距離用のスナイパーライフルではなく、この距離からでも使える普通の銃の形だ。
あ、いや、普通じゃないかも。手そのものが筒になってるし。
そして、その筒の先を、大オオカミに向ける。
照準を合わせる。私と一体化した筒なので、筒の先に視界を移動する。私の視界と筒の照準が同期する。
そして、体内で炎の魔法を使い、金属の弾を筒の先から出す!
ばんっ、という大きな音が鳴り響く。
大オオカミはその音でびくっと飛び起きたが……胸にぽっかり空いた穴は心臓を貫いていた。
そのままよろよろと再び倒れ込み、ドクドクと血を流して動かなくなった。
フラちゃんが、すいーっと、大オオカミの上に着地し、大オオカミを突きだす。
動かない事を改めて確認したフラちゃんが、オオカミの肉をついばんで食事を始める。
「ふぅ……」
どうやらうまくできたようだ。
相変わらず、私の右手は吹っ飛んでしまっているけど。
私達は、お礼を言うマーくんとお別れした後、元の道目指して歩き始める。
「じゃあ、その『銃』ってやつ、そのスタンガンがあれば何度も使えるようになったんだね」
「あ、はい。そうみたいです」
アイオライトさんのおかげで、私は他の人に魔法を貰う事なしでも、体をメタル化させることが出来るようになった。
スタンガンの出力を調整してもらっているので、そのたびにダメージを受ける事を恐れなくてもいい。
スタンガンの電力が残っている限り、私は何度でもメタル化、もしくは銃化ができるようになった。
「へぇ、そうなんだ……。
……あれ、じゃあそのスタンガンの電気の補充はどうやるの?」
「これに『雷の魔法』を打てば充電できるようにしたって、アイオライトさんが」
結局のところ、以前悩んでいた『魔導書を買うかどうか』の悩みはそのまま残る。
でも、『1回しか使えないサンダの魔法』だったものが、『何度でも使えるスタンガンの充電用』と言う意味になった。
なので、その悩みの方向性がだいぶ変わる気がする。
もちろん、その都度シェットさんにお願いする方法もアリだとは思うけど、一応自分で充電を賄えるようになれたほうが便利だと思う。
でも、うーん……魔導書は高いしなぁ……いまいち踏ん切りがつかない……。
その日のクエストは、無事に終了。
私達は冒険者ギルドに戻り、完了の報告をし、宿へ戻る。
部屋でゆっくりしながら考える。
そういえば、アイオライトさんとアセルスは今頃どうしているんだろうな。
昨日聞いた話では、アイオライトさんは、今頃異世界渡航船で出発している頃だと思う。
ハルタさん達が行ってしまった、あの『赤の裂け目』の世界に向かったとの事だ。
向こうでハルタさん達を探してみるそうだ。
ただ、異世界渡航船のワームホール航路? っていうやつの都合で、どんなに早くても、こちらの世界に戻るのは来年の春ごろになるという話だった。
アセルスは、今日の午前中に治癒所で足を治してもらった後、次の目的地へ出発するって言ってた。
どこへ行くかは守秘義務があるので教えてもらえなかったけど、今頃は、ハインツさんとシルベーヌさんと一緒に、どこかへ向かっているのだろう。……そういえば、海外って言ってたっけ?
ただ、日程的には余裕があるそうなので、アイオライトさんから貰った地図ポイントのうち近場のところに立ち寄ってみるとの事だった。
もしかしたら、アセルスと次に会う時は、お互いモンスターの姿同士かもしれない。
もしそうなら、見ただけでアセルスだって分かるかなあ。
もしまた会えたら、次も一緒にクエストに参加したりできるかも。
あ、でも、アセルスとは違う支部だし、ひょっとしたら競合クエストの競争相手になるのかもしれないな。
他所の支部との冒険者とは、そういう事もあり得るって誰かに聞いたことがある。
同じクエストを早くクリアするために、お互いライバルとして競い合うのかも。
もしそうならちょっと嫌かもだけど、意外と楽しそうかも……と、思えなくもない。
私は、元のロラン組の一員としての、冒険者としての生活に戻った。
今後もしばらくは、今の生活が続くんだろうな。
……うん、頑張ろう。




