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私、スライム娘になります!  作者: 日高 うみどり
第4章 半透明な瞳に映るこの世界は

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4-59話 アウストラリス家の一族

 赤の依頼のお休みが終わった私は、アイオライトさんのクエストに参加する事となった。


 クエストに参加する冒険者は、私の他に、『ワムオー』のビターさん、シェットさん、コルネットさん。

 それにカルディさんに、第2支部から来た、アセルスさんの6人。

 さらに依頼者のアイオライトさんとフラちゃんを加えた、総勢7人と1匹で行うクエストとなった。

 調査クエストなので人手は多いほうはいいけど、それでもかなりの大所帯だ。


 私達は馬車に乗りながら目的地へと向かう。



 馬車の中は特にやる事も無いので、景色を見たり、雑談したりする。

 私はなんとなく、年恰好の近いアセルスさんとお話をすることになった。

 


「それじゃあメルティさんは、今年9月に入った新人なんですね!」


「は、はい……」


「じゃあ僕とほぼ一緒ですね!

 僕も8月の末に冒険者になったんです!

 僕たち同期ですね!」


「そうなんだ……」


「年齢も同じ15歳みたいですし、『メルティ』と呼んでもいいですか?」


「あ、うん。じゃあ私も……『アセルス』で……」


 そんな感じで、お互い名前呼びで、会話も敬語じゃなくて普通に話そうという事となった。



「じゃあメルティは、同期の皆には敬語なんだ?」


「うん、みんな年上だから。15歳で冒険者になるって、結構珍しいらしくて」


「僕もそうだったよ。みんな年上だったから、敬語で話してた。

 だからいつも敬語で話すのが癖になっちゃって……だからこうして普通に話すのは、まだなんだか慣れないや」


「あ、私も!」



 最初のうちはお互いぎこちなかったが、次第に慣れてくる。

 こうして話をしてみると、とっても気が合いそうだ。



「あ、そういえば!

 メルティって、『モンスター職』なの!?」


「……えっ!?」

 アセルスは、それまでと同じく大きな声で、そう私に聞いてきた。


「あ、ごめん! ひょっとして皆には秘密にしてた!?」


「あ、ううん大丈夫。ここにいる人達はみんな知っている人ばかりだから……」


 馬車の御者さんは幌の外にいるから、多分聞こえてないよね?

 アセルス、すっごい声が大きかったけど……うん、多分、大丈夫そう。


「それよりも、どうして分かったの?

 というか、どうして『モンスター職』の事を知っているの?」

 私はアセルスに質問する。


「第7支部に『モンスター職』の冒険者がいるって事は、ジルベーヌさんに聞いてたから!

 それに、僕も『モンスター職』を目指しているからね!

 だから、僕にはひと目で分かったよ!」


「…………そうなんだ」


 なんか、一気に情報量が増えた気が……。


「えっと、いろいろ聞いてもいい?」


「いいよ!」


「じゃあ、順番に……ジルベーヌさんから聞いたって言ってたけど、ジルベーヌさんは知ってるの?」


「うん。冒険者ギルドには通信端末があるでしょ?

 その情報は、他の支部と共有されるんだ。

 だから、第7支部にモンスター職が登録されれば、他の支部にも共有されるんだって。

 だからモンスター職のうち『スライム』と『ゴブリン』がいるって事は知ってたよ」


「じゃあ、アセルスはジルベーヌさんに教えてもらったんだ」


「そうだよ。でも、『モンスター職』の存在自体は以前から知ってたけどさ」


「どうしてアセルスは、私がそうだって分かったの?

 ひょっとして、おととい会った時にもう分かってたの?」


「うん! 僕にはひと目で分かったよ!

 情報を踏まえたうえでよくよく観察すると、皮膚とか立ち姿とか、メルティは人間じゃないって分かったよ!」

 

「そうなんだ……」


 最近は、意外と私の正体について勘付いている人はけっこう多いんだなって思えてきていた。

 でも、初見の人に見破られたのは、流石に初めてかも。


「ま、僕と一緒に来たジルベーヌさんやハインツさんは、気が付かなかったみたいだけど」


「……どうして、アセルスにはひと目で私の正体が見破れたの?」


「う~ん……ぶっちゃけ直感だったけど……

 強いて言うなら、僕には事前の知識がかなり前からあったからね」

 

「事前の、知識?」


「うん!

 僕もね、目指してるんだ。モンスター職!」


「……そうなんだ……」

 

 さっきもそう言ってたけど……モンスター職を、目指している……?



 

「自己紹介の時にも言ったけど、僕は第2位地区の貴族、アウストラリス家の一族なんだ。

 アウストラリス家には宿願があるんだ。

 それは『モンスター職』の復興!

 今は失われた技術のモンスター職を、再び現在に蘇らせる!

 これがアウストラリスに産まれた者が目指すべき宿願なんだ!」


「へ、へぇ……」


 なんだか、不思議な家系なんだな……。


「我がアウストラリス家には、先祖代々伝わる『モンスター職のジョブマニュアル』が存在していたんだ。

 理論上、そのジョブマニュアルを使えば、モンスター職になることが出来ると言われていた。

 でも、長い歴史上、モンスター職になることが出来た一族のものは、誰一人としていなかった。

 だから、昔から伝わる話自体が眉唾物のおとぎ話の類だと思われていた。

 だけど、しかし! ここ最近、証明されたんだ!

 『モンスター職』が実在する事!

 僕の一族以外にもモンスター職とそのジョブマニュアルがある事!

 しかも、既にモンスター職になった人間が実在していて、実際に活躍していたという事が!」


「…………」


 私に思い当たるのは、『ザジちゃん誘拐事件』のときかな。

 あの時は私とシャンティさんが関わっていたし、市内でも大きな騒ぎになった。

 『モンスター職』の事は伏せられてはいたはずだが、冒険者ギルドの職員なら報告書などで事件の真相を知ることが出来たはずだ。


「我がアウストラリス家の者達は一気に沸き上がった!

 伝承が眉唾では無いという事が証明されたんだから!

 でも……だからと言って、すぐにモンスター職になれるという訳じゃない。

 アウストラリス家の中で、モンスター職に適性のある人間は、今のところ誰もいないんだ。もちろん僕も……」


 興奮気味に語っていたアセルスが、無念そうだと言わんばかりに、急に声のトーンを落とす。

 

「でも、だからこそ!

 僕は『モンスター職』になりたいんだ!

 モンスター職になって、今までウチを馬鹿にしていた本家筋の連中や他の貴族たちをギャフンと言わせてやるんだ!」


「は、はあ……」


 なんか、いろいろ私怨も混じってるっぽいな……。




「というわけでさ、メルティ、今度は僕に色々と教えてほしいんだ!

 現役の、先輩モンスター職として!」


「あ……うん、いいけど……」


 アセルスの勢いに、私は押され気味にそう答えた……。




「というわけで、メルティ。まずは教えてほしいんだけど、君はどっちなんだい?

 『ゴブリン』じゃないみたいだけど……やっぱり『スライム』のほう?」


「うん、スライムだよ。一応私は普通のスライムと区別するために『スライム娘』と名乗っているけど」


「スライム娘……なるほど! カワイイ名前だね!

 じゃあえっと、今のその『人間の姿』は変装だよね。普段からスライム娘として生活しているのかい?」


「うん。時々ジョブを辞めて人間に戻るけど」


「えっとじゃあ、変装を解いて、本来の『スライム娘』の姿を見せてもらってもいい?」


「あー、街道だとまだ、誰か通行人に見られるかもしれないから……現地に着いたら見せてあげるね」


「ありがとう!

 それで、スライムのジョブマニュアルはどうやって入手したの? やっぱり家に伝わる物なの?

 ジョブに就く条件はどうやって満たしたの? スライム娘になって長いの?」


「い、いっぺんに聞かれても……

 えっとまず、スライム娘になったのは今年の10月だったっけ。

 クルスさんっていう人から、ジョブマニュアルを譲ってもらったんだ」


「クルスさんて、王都のAクラスの『勇者』クルス?」


「そう、その人」


「よく譲ってくれたね。こんなレアな物……」


「その当時は、『何にもよく分かっていない本』だったから、格安で譲ってくれたんだ。

 それに……私、他のジョブに適性が無い『ジョブ無し』だったの。

 この『スライム娘』以外に、適性が一切無かったの。

 だから、それを知ったクルスさんが、たぶん不憫に思ってくれて、譲ってくれたの」


「ジョブ無し……? そうだったんだ、そんな物もあるのか……。

 あれ、でもじゃあ、ジョブに就く条件は、どうやって満たしたの?」

 

「う~ん、それは逆に私にも分からないな。

 そもそも『ジョブになれる条件』というのも初耳だし……。

 本を貰った時点で……貰う前からスライム娘のジョブになれる条件を満たしていたみたいで……」


「じゃあ、他のジョブが一切ない代わりに、モンスター職になれることが出来たって事?」


「うん」


「じゃあ、モンスター職になるためには、ひょっとして……普通の、人間側のジョブになれる権利を捨てないといけないって事?」

 

「それは……多分違うと思う。

 シャンティさん……あ、もうひとりのモンスター職になれた人だけど、その人は『ゴブリン』にも『魔法使い』にも、どっちにもなれるよ」


「そっかぁ」

 アセルスは、ちょっとほっとしたように見えた。


「……その、シャンティさんという人は、どうやってゴブリンになったの?」


「う~ん……私も又聞きなんだけど……

 シャンティさんは、どこかの神殿に迷い込んで、その神殿でゴブリンのジョブマニュアルを見つけたんだって。

 その神殿に祭壇があって、そこでゴブリンになったみたい」


 言った後で気が付いたけど……あれ、この話って、しても良かったんだっけ?

 ……まあ、ここまで喋っちゃったのなら、いっか。


「……神殿……?」

 アセルスが考え込む。そして考えながらブツブツ呟く。


「神殿でジョブマニュアルと『祭壇』を見つけて、その祭壇で転職できた……。

 ……じゃあ、その神殿に入ることが転職条件?

 あるいは、その祭壇を使う事が……」


「あ~、もしかしたらそうかも……」


「あれ、でもメルティは、そういう神殿に行ったこと無いんだよね?

 ジョブチェンジも、ギルドの祭壇で普通になれたんだよね?」


「あ、そうだ。じゃあ違うか……」


「う~ん……もしかして、条件に満たし方には複数の方法があるのかな?

 あるいはたまたまで、本当は別の条件が……」


「……ごめんね、役に立てなかったよね……」


「あ、ううん! 全然そんなこと無いよ!

 むしろ情報を知れて良かった!

 今まで、本当に全くの情報なしで探してたんだから!」


 アセルスはわたわたと否定しながら謝ってくれた。

 う~ん、アセルスっていい子……。

 

 

 

「そういえば、アセルスの家のジョブマニュアルって、何のモンスターの本なの?」


「それがまだ分からないんだ。変な言語で書かれていて」


「あ、魔物言語か……。

 現物はあるの?

 私なら読めると思うけど」


「それが無いんだよね。本家筋の人が持っているけど、僕には渡してくれなかったんだ。

 前に本家に行ったとき見せてもらっただけで」


「そっか……」


「あっでも、だいたい何のジョブなのかはわかるよ」


「そうなの?」


「自己紹介の時にも言ったけど、アウストラリス家は、『巨蟹座の守護者』なんだよね」


「きょかい、ざ?」

 

「うん。巨大な蟹って書くんだ。

 空に浮かぶ『星座』ってあるでしょ。

 どうやらジョブマニュアルには、そういう星座にまつわる昔話が遺されているみたいなんだ。

 で、ウチには『巨蟹座』っていうおとぎ話の伝承が遺されている。

 だからウチに伝わるジョブマニュアルの職業も、それに関係したものだって言われているんだ」


「おとぎ、話……」


「うん。『スライム』にもそういう話はあるよ。

 スライムは『水瓶座』。

 水がめの中によくスライムが寝ていたから、たぶんそういうおとぎ話になったんだと思うよ」


「なるほど……」

 確かに私も、水がめの中が寝心地がいいけど……まあ、偶然かな。



「……あれ、じゃあ、アセルスがなりたいモンスター職って、カニの魔物なの?

 カニの魔物って……なんていうかこう……」


 私が知っている限りでは、カニの魔物って、ルテ川にいた『マッドクラブ』だ。

 この小柄で男装の麗人風で、私から見てもかっこいいアセルスが、マッドクラブに……?



「あ、ううん。多分だけど、カニそのものの魔物じゃないらしいんだ。

 空の星座にむりやり結びつけるために『巨蟹座』ってつけているだけで。

 確かゴブリンも……名前は忘れたけど、なんとかっていう星座だったけど、『ゴブリン座』なんて星座は無いでしょ?」


「あ、確かに……」


 星座に関してはそこまで知識があるわけじゃないけど、確かにそんな星座は聞いたことがない。



「だから、『巨蟹座』のモンスター職も、カニとは違うモンスター……と、推測されているんだ。

 家に伝わる伝承から考えた推測だと、多分『騎士関係』の魔物じゃないかなって言われているよ。

 硬い甲羅を持つカニと、硬い甲冑を身に纏う騎士とを引っかけたんじゃないかなって」


「へぇ~」


「まあ……あくまで推測だから、本当はマッドクラブとかのほうだったって可能性はなくは無いけど……」


 アセルスがまた暗くなる。

 アセルスは、大きな声で溌剌に話していたかと思えば、急にこんな風に暗くなる。テンションの落差が激しくて、なんだかちょっと面白いなって感じちゃった。





 私達を乗せた馬車は、目的地へと向かう。


 アイオライトさんが目指す目的地は、アム・マインツの西部にある『ロブ・オーリンの森』という場所だった。

 ロブ・オーリンの森は、魔物は出るけど、Eクラスの上位帯以上なら問題なく行ける程度の場所。

 第23番旧坑道の最深部くらいの難易度だそうだ。


 私やアセルスにとっては、ほんの少しだけ敵が強いけど、『ワムオー』やカルディさんが加わったこの面子なら大丈夫っていう感じの場所だ。

 ソレーヌさんの見立てでも特に問題は無く、こうして私もアセルスも参加させてもらっている。


 とはいえ、最近はこの森に行くEクラスはほとんどいない。

 最低でも、Dクラス以上の冒険者が行くようになっている。


 というのも、この間あんな事があった、いわゆる『いわくつき』の場所だから……。







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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど、騎士系の魔物。 私が知ってるのは首の無い有名なやつか あとは龍のクエストのさまようやつですかねw [一言] 騎士の鎧、そして手にはおおばさみ… 剪定バサミ的なものをイメージしてま…
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