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私、スライム娘になります!  作者: 日高 うみどり
第4章 半透明な瞳に映るこの世界は

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4-55話 冒険者ギルドのお手伝い

 次の日の朝。


「そういえば、上のクラスへの昇格試験があるんだってな」


 オウル亭の食堂で朝食中、一緒に食事を取っていたイサクさんがそんな話題を出してきた。


「ああ、来週からだっけ」

 ロランさんが、イサクさんの話に相槌を打つ。


「てか、なんでイサやんがここでご飯食べてるの~?」


「別にいいだろ。今朝は忙しかったんだ」


 イサクさんがターシャさんにからかわれている。

 オウル亭の食堂は、普段は夕食の時間のみの営業だけど、街が何かと忙しい12月は、朝も営業している。メニューは1種類だけだけど。

 イサクさん、実家暮らしのはずだけど、年末はご実家の皆が忙しいらしい。なので今日はここへ食べに来たとの事だ。




「んで、皆は昇格試験受けるのか?」


「俺達にはまだ無理だろ。Dクラスへの昇格条件はまだ満たしてないしな」


「ま、そりゃそうか」


 イサクさんとロランさんの言う通り、まだ新人の私達は、Dクラスへの昇格条件を満たしていない。

 まず、レベルが足りない。

 Dクラスに上がるためには『一番高いジョブのレベルが10以上』か、『上位3つのジョブのレベルが合計15以上』のどちらかが必要。

 そのレベル条件を満たしたうえで、年3回行われる昇格試験に合格しなければならない。

 

 私達同期の中でそのレベル条件を満たしているのは誰もいないので、私達には縁のない話だ。


「そういえば……ルーナさん達は間に合うんでしょうか。

 Bへの昇格のために遠征しているんですよね?」

 

 私はイサクさんに訪ねる。第8地区に出かけていたときに一緒になったらしい。


「う~ん、どうだろうな……けっこうポイントを稼がなきゃならないみたいだし、次回の試験になるんじゃないのか?

 ま、ポイントを満たしたかどうかに関わらず、そろそろ1度帰って来るみたいだけどな」


「そっか……」

 という事は、ルーナチームの昇格はもう少し先になるのかな。




「んじゃ、そろそろ出発しようか。イサクは今日は個人なんだっけ?」


「ああ、イルハスとマキノが家の用事で忙しいからな。コーストも実家の刀鍛冶の手伝い中。

 だから俺は治癒所に行くよ」


「メルちーも、今日はギルドに行くんだよね?」


「あ、はい!」


「そっか、じゃあそこまで一緒に行こっか」


 そんな感じで予定を話しながら、私達は席を立つ。

 イサクさんも立ち上がると、お店にいるネリーちゃんと目があい、イサクさんは手を振り、ネリーちゃんは恥ずかしそうに手を振り返した。

 あれ、いつの間にそういう感じになったの?




 出発の支度を済ませ、狩りに出かけるフラちゃんを見送った後、私達はみんなで冒険者ギルドへ行き、そこで私は皆と分かれた。

 

「メルティさん、お仕事がないなら、冒険者ギルドでバイトしませんか?」

 昨日帰る時、ソレーヌさんに誘われた。

 謹慎期間中で無収入な私を気遣って、今日1日、ギルドのお手伝いに誘ってくれたのだ。


 冒険者が受けるクエストではなく、職員のお手伝いなので、クエスト扱いではないらしい。

 なので、今の私でも受けることが出来るそうだ。

 



「冒険者ギルド、新規冒険者募集中でーす!

 みなさんも冒険者になりませんか!」


「募集中でーす……」


 冒険者ギルド前の大通りに立ち、私とシィナさんは2人でビラ配りをする。

 

 平日とはいえ、街の南門付近の大通りには、人通りが多い。

 とはいえ、ビラを受け取ってくれる人はあんまりいない。


「あまり、受け取ってくれませんね……」


「そそ、そうですね……」


 私はシィナさんとちょこちょこお喋りしながらビラ配りをする。

 私、自分ではけっこう引っ込み思案なほうだと思ってたけど……シィナさんもどうやらそうみたい。お喋りしていてもなかなか視線が合わない。


 そういえば、シィナさんが冒険者ギルドの職員になってから1か月ちょっと経つけど、こうして2人きりになるのは初めてな気がする。

 いつもマリナさんかソレーヌさんの陰に隠れちゃって、あんまりお喋りしてくれない。

 人とお喋りするのが苦手なのかな?



「冒険者になりたい人って、けっこう少ないんでしょうか?」


「そ、そうですね。モンスターと戦う危険なお仕事ですから……」


「そっか……他のお仕事に行っちゃうんでしょうか?」

 

「鉱山夫とか工場勤務とか、いつも募集してますから……」


「あー確かに……」


 鉱山夫も工場勤務も、キツイ職業と言われているけど、それでも魔物と戦うよりは安全度は高く、お金もそれなりに貰える。

 

 冒険者は夢のあるお仕事だ。

 ダンジョンに潜って、お宝を入手して一獲千金を手に入れたり。

 たくさんのモンスターと戦って、いろんな素材を集めてお金に変えたり。

 クエストを受けて、街や周辺の村の安全を守って感謝されたり。


 ダンジョンに潜るとか等の危険なものはまだともかく、他のいろんな事は、私にとってはとてもワクワクするような内容ばかり。


 でも、他の人々にとって、わざわざ危険な冒険者になりたがる人は少ないのかもしれない。

 みんな、夢よりも、今日の暮らしのためのお金を稼ぐだけで精一杯なんだ。

 


 それでも、こうしてビラ配りしていると、数人はビラを貰ってくれる。

 

「冒険者か……一応貰っておくよ」


「う~ん、友達がこういうの好きかも」


「……ください」


 そんな感じで、通りを歩く人はビラを貰っていく……。

 



 午前のビラ配りを終え、私とシィナさんはギルドの中に戻る。

 

「2人ともお疲れ様。寒かったでしょう?」

 カウンターのマリナさんが、私達に気遣ってくれる。


「い、いえ……」


 そう言いながら私は隣のシィナさんを見ると、結構寒そうだった。

 私はこういう体だから寒さは感じないけど……そういえば、また首の付け根が緩い気がする。前みたいに取れちゃうほどじゃないけど。


「シィナさん、すみません。シィナさんの事、もう少し気遣ってあげれば良かったですね」


「ううん、大丈夫。一応こういうのは慣れてるから……」


 午前一緒にお仕事したおかげか、シィナさんは私とこんな感じで普通に喋ってくれる感じになってくれた。

 こうして見ると、なんだかシィナさん、妹みたいだな……。

 ……あれ、でも年上なんだっけ。確かシフさんと同い年って言ってたような……まいっか。



 時間的には、お昼休みのちょっと前。


「まいどー」


 隣の酒場のほうから、男の人の声がした。

 出入りする業者さんみたいだ。


 少しの後、その人はこっちの冒険者ギルドのほうにも顔を出した。


「あ、ギザさん……じゃなかった、えっと確か……」


「……ウッズです。ども」


「あ、そうでした。すみません」


 以前にも会った、アイヒェ村のギザさんとそっくりなパン屋さん。

 うーん、何度会ってもギザさんってついつい呼んでしまう。


「ま、もう慣れましたから。

 けっこう街の人に『ギザ』って人に似てるって言われるんスよ。

 まあお陰で贔屓にして貰えてるんで悪い気はしないっスけどね。

 それより、パン、おひとつどうですかい?」


 どうやらお昼休み前に、昼食用のパンを売るためにこっちにも来てくれたらしい。どうやら商売上手な人みたい。


「メルティちゃんもひとつどう? このパン屋さんのパン、美味しいのよ」

 

 そう言いながら、マリナさんは自分が買ったパンをひとつ、私に渡してくれた。


「え……そんな、申し訳ないです!」


「いいのいいの。お昼の賄いって事で」


「そ、そこまで言うのでしたら……」


 マリナさんの強引さで、ついつい私は断り切れず、パンを受け取ってしまった。

 

 

 その後ギズさん……じゃなかった、ウッズさんは、階段を登り、2階のギルドマスター室へと入っていく。

 ギルマスさんにも売りに行ったのかな。でもその割には、ちょっと険しい表情に見えたけど。


「さ、皆、お昼にしましょ」

 マリナさんの言葉で、お昼休憩が始まった。




「え……なにこれ、美味しい!?」


 ウッズさんのパンをひとくち頬張った私は、思わず驚いてしまった。


「そうでしょ!?」

 マリナさんが嬉しそうに私に聞いてくる。


「ウッズさんのパン、とってもおいしんですよ!」

 シィナさんも、まるで自分が作ったかのように自慢げに話しかけてくる。

 なんか、ずいぶん一気に距離が縮まったな。



「ほんとおいしいです。なんだかモチっとしていて柔らかくて……体の中でしゅわしゅわ溶けていきます……」


「ん……体の中で?」


「あ、そっか、メルティちゃんはスライム娘だから、そうなるのね」


「あ、はい。

 それにしても、スライムの身体でもこんなに柔らかさを感じるなんて……。

 この食感は、是非人間の時に、自分の歯でも味わいたいです!」


 本当に、こんなパンは初めて。

 例えるなら、修行中に食べた、オパールさんが出してくれたパンに近い。

 でもそれよりも遥かに柔らかくて美味しいパンだ。

 こんな美味しいパンを作れるウッズさんって、いったい何者なんだろう……。



「そういえば、ソレーヌさんとロアさんはいないんですね」

 私は事務室を見渡しながら、マリナさんに聞く。


「うん。ソレーヌ先輩は外で食べる事が多いわね。

 多分今日は憲兵隊のコーディさんと会ってるんじゃないかな。

 ロアさんは、いつも2階の資料室で食べてるわ」


 なるほど……まあ、ロアさんは男の人だし、女子の集まりには混じり辛いのかな。

 ソレーヌさん、コーディさんと仲がいいのかな。そう言えば昨日も結構親しげだったし。



「そうそう、そういえば、ビラ配りのほうはどうだった?

 ……あ、ゴメンね、お昼休み中に仕事の話して」


「あ、いえ。けっこう受け取ってくれましたよ。

 たぶん、30人くらいかな?」


 私はシィナさんと目を合わせながらそう答える。


「でもマリナさん、実際に冒険者になる人って、どのくらいいるんでしょうか?」


「う~ん、まあ実際のところ、そんなにいないのよねえ……」


 冒険者ギルドの新人冒険者受付は、年に3回。

 1月、4月、9月に募集される。

 時季外れに入る新人も稀にいるけど、基本的に新人講習会がこの年3回なので、それに合わせて新人が増える。

 私は9月の募集で冒険者になった。諸々の事情で、正式に活動を始めたのは10月からだったけど。


「毎年4月が一番多くて、1月が少ないわね。

 今の時期は寒い冬だから、どうしても新人は少ないのよね……。

 毎年1月の新人は3~4人だから、次もそうなんじゃないかな」


「そうなんですね。けっこう頑張って配ったと思ったのに……

 冒険者ってお仕事、そんなに不人気なんでしょうか……」


「う~ん、まあこの街じゃあ、あんまりやりたがる人はいないわね。

 みんなどっちかって言うと、男の人は鉱山に、女の人は工場とか、東地区のお店のほうに行っちゃうから」


 午前中にシィナさんとお話ししたときと同じ流れになった。


「あれ、じゃあ他の地区は多いんですか?」


「そうね。王都地区は広くて人も多いから、冒険者もその分多いわね。

 次に多いのは、多分第2地区かな」


「第2地区……」


「確か、マリナ先輩が昔いたところでしたよね」

 シィナさんも気になったのか、会話に入ってきた。


「うん。第2地区はかなり多かったわ。

 ここみたいに大きな産業が少ないって言うのもあるけど……

 まあ、ギルドが積極的に募集をかけていたからね」


「そうなんですね……あれ、じゃあここでは、そんなに力を入れて無いんですか?」


「まあ、うん……ね。

 ……ところで、2人とも、ビラ配りの感触はどうだった?」

 

 マリナさんは、なんだかとても言い辛そうにしながら、話を戻した。

 

「う~ん、どうなんでしょう……初めての事なのでなんとも……」

 私はそうとしか答えられない。なので、シィナさんのほうを見てみる。


「冒険者になってくれそうな人は少なかったかなと思います。

 一応受け取っただけとか、好きそうなお友達に渡すとか、そんな感じの人が多くて……」


「ああ、確かに……」

 私はシィナさんの言葉に相槌を打つ。

 

「んー、まあそんなものよね。

 100枚ビラを渡して、1人冒険者になればいいほうだと思うわ。

 ほら、メルティちゃんの時もそうだったでしょ?」


「そう言われてみれば、そうですね……」


 私の同期は、私を含め8人。

 でも、イルハス組とターシャさんは、学校で戦闘経験とかを積んだ後で冒険者になった、所謂『スクール組』と呼ばれるグループだ。マリナさんの話では、スクールの卒業時期である9月は、スクール組の人が多いらしい。

 ミリィさんも道場経由で冒険者に入ったとの話だった。

 だから、ビラを見て冒険者ギルドに入ったのは、私とロランさんだけ。

 マリナさんの話では、あの時もたくさんたくさん、1000枚くらいビラを作って配ったけど、ビラ経由で実際に冒険者になったのは2人だけ。

 そういうものらしい。


「じゃあ、ものすごく効率が悪い事なんですね……」

 そりゃあバイトに頼むよねと、思ってしまった。


「まあ、確かに効率は悪いかもだけど、それでも大事な事よ。

 『冒険者になりたい』って思ってる人を取りこぼさないためにはね」


「そう、ですね……」


 確かに、そのおかげで私は、こうして冒険者になれたんだ。

 ……うん、大事な事だ。


「う~ん、でも、さすがに寒い中くばった人の中に誰もいないなんて、ちょっとヘコむかも……」

 シィナさんが落ち込みながら言う。

 

「……あ、でも、もしかしたら1人だけ、冒険者になってくれるかも……」

 私はシィナさんに語り掛ける。


「え? そんな人いたっけ?」


「ほら、1人いたじゃないですか。

 『ください……』って言いながらビラを受け取った女の人が」


「あ……そういえば。

 黒髪の三つ編みの、私達と同じくらいの背格好の女の子だったっけ。

 でもあの子が冒険者になるのかな……?」


「きっと、なると思います。なんとなくですけど……」


 なんとなくとは言いながらも、私はそう確信してしまう。

 だって、なんだか私と似ていたから。

 自分には他のお仕事が出来そうに無い。冒険者しか生きていく道がない。そう思っている、思い込んでいる。

 生きたいのに、どこか死に急いでいる。

 そんな雰囲気を身に纏っていた、かつての自分と……。




 ソレーヌさんも戻って来て、お昼休みが終わり、午後の業務に戻る。


 午後は雨が降ってきたので、外でのビラ配りは止めて、室内に入る。

 シィナさんは事務所での内勤に戻り、私は受付カウンターの、マリナさんの隣に座る。

 一応はここでビラ配りを続けるという感じになる。


 でも、お昼過ぎの冒険者ギルドの中はとっても暇だ。



「暇ですね……」


「そうね……」


 

 カウンターで書類を書くお仕事があるマリナさんはともかく、私は特にやる事がない。

 ただぼーっと、誰かが来るのを待っている。


 あまりにも暇なので、私はうずうずする。

 ……気が付くと、私の身体から、ぴょんとミドが飛び出してきてしまっていた。


「あ、こら、ミド!?」


 ミドは、暇だからお散歩してくる、と言っている。

 

「え、でも……」


「いいんじゃない? みんなは暇でしょ?」


 マリナさんは、ミドのお散歩を許可してくれた。


 そういう事ならと、アオもルーも外に飛び出してしまった。


「もう……みんな、誰かに見つからないようにね」


 私がそう言うと、はーいという返事をした後、みんな好きな場所へと向かった。



「いいなー、みんな遊べて……」


「メルティちゃんも遊びたい?」


「い、いえっ! 私はお仕事中ですし!」


 マリナさんは、フフフッとおかしそうに笑った。


 

 そうは言うものの、本当に暇だ。

 みんな何やってるんだろう……。

 そう思いながら、ミドの事を思う。


 ミドは、隣の酒場にいた。

 ウェイトレスのシェリーさんが働く様子をじっと見ている。

 いや、シェリーさんの胸を見ているんだなこれは。いいなー。

 って、何考えてるんだろう私。


 ……あれ?

 ミドと私はけっこう離れているのに、何故かミドの見ていることが分かる。

 ミド自身も、私がミドを通じて胸を眺めているのを理解している。

 

 なんかいつの間にか、自分が知らない能力が増えてるな……。



 他の2匹はどうだろう。

 ルーは、修行場にいた。

 真面目に魔法の練習をしている。

 ルーはほんと偉いなあ。



 アオは、どうやらギルドの事務室にいるようだ。

 室内にいる、ソレーヌさん、シィナさん、ロアさんが、事務作業をしている様子が見えている。


 アオは物陰から、気づかれないようにその様子を眺めているようだ。


 

 事務室から通じている裏口のドアが、どんどんとノックされる。

 ソレーヌさんが裏口に行く。

 扉を開けると、どうやら近所の子供らしき小さな男の子と女の子がいた。


 ソレーヌさんはがにっこり笑って挨拶すると、2人の子供は元気よく挨拶してくれた。

 外は小雨が降っているのに、2人とも元気だ。


 子供たちがソレーヌさんに何か耳打ちしながらひそひそとお話している。

 ソレーヌさんは、そうなんだ、ありがとうと言って、2人にポケットから取り出したお菓子を渡した。

 子供たちは、ありがとうとお礼を言って、去って行った。


 へぇ~。ソレーヌさん、けっこう子供好きなんだなあ。




 私は3匹の視点を切り替えながら様子を見て、暇を潰した。



「あれ、メルティちゃん」


 ミドと一緒に酒場を見ていた私は、突然自分の名前を呼ばれ、慌てて意識を自分に戻した。


 

「あ、テレスさん!」


「やあ、バイト?

 なんか楽しそうだったけど、何か考え事してたの?」


「い、いえっ、何でも無いです!」


 慌てて取り繕うと、マリナさんはくすくすと笑っていた。

 ま、マリナさん……どこまで解かってるんだろう……。

 

 

 今日一番最初に戻ってきた冒険者グループはテレスさん達『銅の硬貨』だった。

 カウンター内にいる私を見て、私に挨拶してくれた。


 クエスト完了の報告を済ませた後、私とテレスさんはお喋りする。他の2人は早々に酒場へと消えていった。

 バイト中の無駄話だけど、暇すぎるせいか、マリナさんは見て見ぬふりしてくれた。



「そういえば、昨日の殺人事件だけど、どうやら解決したみたいだよ」


「ほんとですか!?」


「うん。若い男と女が痴話げんかして、女が男をナイフで刺しちゃったみたい。

 派手な事件になっちゃったけど、蓋を開けてみたら良くある話だったみたいだよ」


「そう、だったんですね……」


 西地区の事情はあんまり詳しくないけど、テレスさん曰く『良くある話』だそうだ。

 加害者と被害者、どちらも私が知らない人だけど、とりあえず事件が解決したようで、ほっとする。



「メルティちゃん、今日はバイト?」


「あ、はい、そうです」


「そっか~。ビラ配りか~。私もEクラスの時やったな~」


「そうなんですか?」


「あれ、覚えてない? メルティちゃんにビラを渡したの、私なんだよ」


「えっ!?」


「まあ覚えてないよね。

 だけど嬉しいな。あの時ビラを渡した子が、ちゃんと立派な冒険者として残ってくれて」


「あ、えっと、ありがとうございます、エヘヘ……」


 なんだかテレスさんに褒めてもらえて照れてしまった。

 冒険者になった事よりも、今日まで無事に生き延びて来られた事を、テレスさんは特に喜んでくれたみたいだ。




 雑談をしていると、冒険者ギルドの扉が開いた。

 中に人が3人入ってくる。

 

「全く、寒いわねぇ」


 どこか尊大な雰囲気で、2人の間に守られるように入ってきた女性がそう話しながら入ってきた。



「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこ……」


 入ってきたお客様に応対するために挨拶したマリナさん。

 がしかし、その人の顔を見たマリナさんの表情が固まる。



「あら、久しぶりね。マリナ」


「…………ジルベール、さん」



 ん?

 あれ、マリナさんとこの女の人、知り合いなのかな?

 


 その女性の声は、奥の事務室にも聞こえたらしい。

 奥から、ソレーヌさんとロアさんも出て来た。



「ソレーヌさんもお元気そうで。まだこんな所にいたのね」


「……お久しぶりです。先輩」



 えっ?

 先輩?


 どういう事なんだろうとその様子を見ていたら、ロアさんが私のほうへ近寄ってくる。

 そして、3人から距離を離すように、私をカウンターから遠ざけた。


「ロアさん、あの人って誰なんですか?」

 小さな声で、私はロアさんに聞く。


「あの人は、アデラ・ジルベーヌ。

 ソレーヌさんが第2支部にいた頃の先輩。

 冒険者ギルド第2支部の、現ギルドマスターだよ」


「第2支部の……ギルド、マスター……?」




 そんな人がどうして、この第7支部に……?







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― 新着の感想 ―
[良い点] 狙われまくりのドロ子w まあ明らかにきな臭い第二支部ですもの 現在確認できる生きたモンスター職とか、 そりゃ戦力になるかの確認くらいしますよねぇ まあ今回は平和に勧誘だと良いけど 捕まり…
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