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私、スライム娘になります!  作者: 日高 うみどり
第4章 半透明な瞳に映るこの世界は

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4-46話 温室にて

 アイヒェ村跡を去る日の朝。

 

 昨夜はフラちゃんと一緒に寝たので、私は普通のスライム姿に戻っていた。

 昨日来た乗合馬車の人達は寝るときは教会の別室だったし、今は馬車の確認に行っているので不在だ。私の姿はたぶん見られていないはず。


 肌をシリコン化させ、ローブとウィッグを付けて、教会に残っていた鏡を使って自分の姿を確認する。

 イルハスさんから貰ったブローチをついつい眺めて、顔が緩んでしまう。

 ……いけないいけない。冒険者に復帰するんだから、真面目に頑張らないと。じゃないと、またイルハスさんに馬鹿にされちゃう。




「みんな、忘れ物は無いー?」

 コルネットさんの言葉で、一応みんな荷物の最終確認をしている。


 私は、自分のマジックパックを確認している。


「ルテ川で、拾ったままだから、一応確認、しておいて」

 ミリィさんの言われる通り、私は中身を確認していた。


 マジックパックの中には、大量の泥水が入ってしまっていた。そのせいでだいぶ中身が汚れている。

 でも中身はみんな無事のようだ。

 いつも使っていたナイフは錆が付いていて、後で研がないといけないかもしれない。


「あれ、本が光ってる……」

 中からジョブマニュアルを取り出してみると、裏表紙の紋章が光っていた。

 

「ああ、そうそう。村に来る途中で光ったんだよ。そのおかげでメルちーの無事を確認できたんだよねー」


「そうだったんですね……」


 私の手元から離れても経験値が増えるだなんて初耳だった。

 皆に聞いてみても、どうやらそういう例は無いらしい。私のジョブマニュアルは、やっぱり色々と特殊なようだ。


「そういえば、レベルアップしてるんだよね」


 私は本の中身を確認する。


「そうみたいですね。レベル5になってたみたいです。……あれ、魔法が増えてます……」


「え、ほんと? どんな?」


 ターシャさんが食いついて聞いてくるので、私はそれに答える。


「えっと……『魔力探知魔法』って、書いてあります」


「魔力探知?」

 ターシャさんが聞いてくる。どうやらターシャさんも聞き馴染みが無い魔法みたいだ。


「どういう、魔法なの?」


「えっと、マニュアルの説明文によると……

 『魔力の流れが見えるようになる』って、書いてあります」


「ふ~ん?」

 ターシャさんは、分かったような分からないような表情でそう答えた。


「探索系の、魔法、ってこと?」


「そうみたいです」


「う~ん、どういう魔法なのかいまいち分かんないね……。メルちー、試しに使ってみたら?」


「そうですね」



 ターシャさんの言う通り、魔法を使ってみる。


「わ、すごい」


「え、どんな感じ?」


「えっと、なんか紫色の光の粒みたいなものが見えます。

 ターシャさんの体の周りに粒がいっぱい付いていて、ミリィさんにもちょっとだけですけど付いてます」


「ふむふむ……魔力が多いといっぱい光るって事なのかな?」


「多分そうですね。

 ちょっと離れた場所で光っているのは……シェットさんとイサクさんかな?」


「そうだね。イル君もいるけど、戦士だから見えて無いのかな。……あれ、どっちが誰かは分からないの?」


「あ、はい。この魔法を使っている間は、普通の視界は逆に見えなくなるみたいです。

 多いほうがシェットさんかなーっていうのはなんとなく分かりますけど」


「そっか、それはちょっと不便かもね……」


「えっとでも、これはこれで普段は見えないものが見えて面白いかもです。

 空気中に漂っている魔力も、なんていうか、霧というか、細い線というか、風の流れみたいに見えていて……」


 そう言いながら、私は這いずって進む。

 壁や地面なんかの位置は、その部分で魔力の風の流れが変わっているので判別できる。


「結構このままでも分かりますね。ここが壁で、ここが窓で……ここに椅子が合って、そこから向こうまでが渡り廊下で……」


「うん、合ってる合ってる」


「ここにも魔力の流れがありますね」


「え、そこは本棚だよ」

 

「えっ? 私には何かがあるようにに見えるんですけど……」


 そう話しているうちに、魔法が切れてきたようだ。視界が通常通りに戻る。


「…………本棚、ですね」


 目の前には、本が無くなった空っぽの本棚がそこにあった。


「おかしいな……ここに魔力の流れがあるように見えたんだけど……」


 私はそう呟きながら、本棚の側面に触れてみる。


「あれ……?」


 本棚の裏側を見ると、僅かに隙間があるように見える。そこから空気の流れを感じる。


「メルちーどしたの?」


「あの、ここに隙間が……わっ!?」

 説明しながらその隙間に触ったとたん、私は吸い込まれるように、すぽっとその隙間に入ってしまった。



「え……な、なに……?」

 私の目の前に突然、本棚の裏側が見える。


「メルちー、メルちーどしたの!?」

 本棚の向こうから、ターシャさんの声が聞こえる。


「あ、えっと、私今、本棚の裏側にいます」


「え、どゆこと?」


「ここ……隠し通路になっているみたいです」



 周囲を見渡す。

 通路内部は暗かった。

 私は、おおスライムさまの洞窟の時のように、僅かな光を増幅させて、暗視の状態にする。


 通路の脇のほうに、小さなボタンがあった。

 私はそのボタンを押す。

 すると、本棚がずずずと音を立てながら横に動いた。



「…………」

 ぽかんとしている、ターシャさんとミリィさんの顔が見えた。どうやら脱出できるようだ。



「ん? どうした?」

「なんだここ……」


 近くにいたらしい、イルハスさんとイサクさんもこちらを見ている……。




 イサクさんが光魔法で暗い通路を照らしてくれた。

 

「おい、ドロドロ女、この通路は何だ……?」

「私にも、分かりません……」


 私も初めて知る通路だった。

 子供の頃、私は勉強のため、この教会に2年間通っていた。学校を辞めてからも、安息日にはお祈りに来ていた。

 でも、こんな通路があるなんて知らなかった。


 本棚の裏は、下へと降りる階段になっていた。

 私達は、興味本位でその階段を降りる。


 階段を降りると真っすぐな廊下になっていた。だが、そこで行き止まりだった。


「どこにも繋がっていないのか?」

 

 イサクさんが、光魔法をあちこちに照らして調べる。どこにもボタンみたいなものはない。

 

「あ、もしかして……」

 私はもう一度、『魔力探知魔法』を使ってみる。

 

「お、おいドロドロ女、目が急に紫色になったぞ」

 そっか、みんなからはそう言う風に見えるんだ。


 私は周囲を、魔力探知の視界で見てみる。

 すると、通路の一部に魔力の流れを見つけた。


「ここに、道があるみたいです」


「……何にも無いぞ」


「え、ありますよ、ここに」


「……おい、ドロドロ女、手が壁にめり込んでいる」


「えっ?」

 

 魔法が切れる。

 改めて見てみると、私の手首から先が壁に埋まっている。


 イサクさんが同じように壁に触れてみると、イサクさんの手も同じように壁に埋まった。


「ここ……通れるみたいだな。

 一見すると壁に見えるが、そう見えるだけの幻覚だ。

 見えるけど触れない、そういう魔法で作られている壁だ」


 そう言いながら、イサクさんはその壁の中に進む。

 イサクさんはすっぽりと壁の向こうに消えてしまった。

 私達も、同じようにその幻の壁の中に入る。




 壁の中に入ると、手前の通路はまるで違う景色の場所だった。


 まず、暗くない。地下なのに何故か明るい。

 壁はガラスのようなもので出来ている。その向こう側から光が差し込んでいる。


「なんだここ……温室か?」

 イルハスさんがそう言った。


「温室?」

 

「まあなんと言うか……貴族がここで植物を育ててたりする場所だ。ガラスで囲まれていて、冬でも暖かくできる部屋だ」


 あ、そういえば、修行したクルスさん達の家にも似たようなものがあった気がする。

 入ったことは無かったけど、確か、エリーゼさんが植物を育てていたって言ってたような……。



「なんでこんな部屋が、教会の地下にあるんだ?」


「……分かりません」


 私とイルハスさんがそう話していると、イサクさんがつぶやいた。


「分かった。ここは種苗保管所か……」


「種苗保管所? なにそれ?」

 ターシャさんがイサクさんに聞く。



「ああ。どこから説明したらいいかな……。

 えっと、教会の神父の活動のひとつに、希少な植物の保護というものがあるんだ。

 大昔、『世界樹』っていう木があったらしいんだけど、その世界樹の葉っぱは、もの凄い回復力を秘めた薬草になったらしい。

 それこそ、その葉っぱで死人すら生き返らせることが出来るくらいにな。

 でも、何かの原因で、世界樹は枯れてしまった。

 だから、昔の教会組織の中には、そういう植物を今後絶やさないようにするために、希少な植物を見つけては保護するっていう使命を授かった人が居たらしいんだ」


「じゃあ、ここがその植物を保護する場所だったって事?」


「ああ、そうだと思う」

 イサクさんは、その温室内部を眺める。私も一緒に眺める。


「でも、植物、何もないね」

 ターシャさんも眺めなら言う。


「まあ、廃村になったしな。それに管理する人ももういないんだろ?」

 イサクさんがそれに答えた。


「じゃあ多分……ネモ神父って人がここを管理してたんだろうな……」

 イルハスさんも話す。


「ネモ先生が……」

 私はつぶやく。

 先生が、そういう活動をしていた……?

 私が知る先生のイメージとはちょっと違うが、言われてみればそんな気もする。


「じゃあ、管理していたネモ神父が死んじまって、ここも閉鎖されちまったんだな……」

 


「……えっ!?」

 私はイルハスさんのその言葉に、声を出してしまった。

 イルハスさんは、しまった、という表情をした。


「先生が死んだって……どういう事ですか?」

 

 イサクさんが、イルハスさんの事を睨んでいる。どうやらイサクさんも何か知っているようだ。


 私はイルハスさんからお話を聞いた。

 第8地区で、私の先輩だったロシェさんに会ったという事。そしてロシェさんから、ネモ先生が死んだという話を聞かされたことを。

 ちゃんと話を聞いてみると、亡くなったのは第8地区へ行った後の事らしいけど。


「そう……だったんですね……」


「言うべきかどうか迷っていたんだが……言わないほうがいいと思っていたんだが……その……」


 私もいろんなことがあった後なので、そういう精神状態で恩師の死を知ってしまったとあれば動揺するだろうと思い、イルハスさん達は言わないようにしていたらしい。

 でも、うっかり口に出してしまったようだ。



「その……すまなかった」


「あ、いえ……」


「……ショックじゃないのか?」


「え、えっとその、なんと説明したらいいものか……言っても良いものなのか……」


「……?」

 

「その……イルハスさん、ロシェさんに騙されたんですよ」

 

「…………は?」


「あ、いや、ロシェさんというより、ネモ先生にかな……」


「どういう事だ?」


「なんて言うかその、ネモ先生ってそういう人なんです。

 私達、授業を受けていた頃に何度も言われたことがあるんです。

 『もし村の外で自分の事を聞かれたら、死んだことにしておいてくれ』って」


「はあっ!?」

 イルハスさんとイサクさんが揃って声を上げる。


「そもそも、釣りをしていて川に溺れて死んだって話でしたけど……。

 ネモ先生は釣りはしませんよ。神父さんなんですから、殺生はしません」


「そ、そう言われれば確かに……」

 イサクさんは納得したようだ。


「ネモ先生って、そういうお茶目な人だったんです」


「お、お茶目って……それお茶目って言っていいのか……?」

 イルハスさんがブツブツ呟いていた。


「じゃあ結局、ネモ神父ってひとは、生きてるのか死んでるのか分かんないって事なんだね」

 ショックを受けている2人に代わり、ターシャさんがそうまとめた。



「……ん?」

 会話に加わらず、周囲を見渡し続けていたミリィさんが、突然声を上げた。


「ミリィさん、どうしたんですか?」


「植物が、残ってる」



 温室の隅に、木製の小さな箱があった。

 その中に、小さな鉢植えに植えられた植物がひとつだけあった。

 少しだけ背の高い、葉っぱの付いた植物が。



「なんで、これだけ、残っている?」


「……なんででしょう……」


 私はその植物を眺める。

 どこかで、どこかで見たことがある植物だ。


 思い出してみる。

 記憶を、キオクを整理してみる。



 ……いや、違う。私の記憶じゃない。

 おおスライムさまだ。

 私があの魔水晶の洞窟に行った時、私はおおスライムさまに触れた。その時行った記憶のやり取りの中で受け取ったキオクの断片だ。


 

 そうだ、この植物だ。

 私は3歳の頃、大病を患った。

 私のお父さんは私を救うために、私を背負って飛び出し、途中で命を落とした。

 でも、途中で知り合った親切な冒険者さんがお父さんの思いを引き継いでくれて、薬草を探してくれた。そのおかげで私は助かった。

 残念ながらキオクの映像が劣化していて、その冒険者さんの顔は分からなかったけど。


 私はてっきりその冒険者さんが薬草を飲ませてくれたものだと思っていたが、おおスライムさまから受け取ったキオクはちょっと違っていた。

 冒険者さんが薬草の群生地にたどり着いた時、薬草は毒で全滅していた。

 でも、おおスライムさまたちが洞窟に案内してくれた。そこに残されていた薬草を私に使ってくれた事で、私は助かっていたんだ。



「あの時の植物だ……」

 

 私は病で寝ていたはずなので、これを知るはずはない。

 なのでこれは、おおスライムさまのキオク。その記憶によると、これは私の病を治したものと同じ植物だった。


 どうしてその植物がここに?

 ……いや、さっきのイサクさんの話だと、ネモ先生は希少な植物を保護する活動もしていたみたい。

 じゃあ、これも先生が保護していた植物なのかな。


 でも、どうしてこの植物だけがここに残されていたの?



 

「何か、ついてる」

 ミリィさんが、植物の根元近くの茎に、タグのような紙がくくりつけられていることに気付いた。


 私もそれを見る。

 それには、文字が書かれていた。



 『メルティへ 万が一の時のために、これを残す』



「………………えっ!?」


 そのタグに書かれた文字を読んで、私は思わず言葉を失ってしまった。

 タグには、そう書かれている。


 

「なんて、書いて、あるの?」

 

 ミリィさんは、そのタグの文字を読めないようで、私に訪ねてきた。

 でも私はうまく説明できない。


 だって、そのタグの文字は、魔物文字で書かれていたんだから……。




 どうして、ネモ先生が魔物文字を知っていたの?

 どうして、この植物だけがここに残されていたの?

 どうして、この植物が私のために残されていたの?

 どうして、私が魔物文字を読めるという事を、ネモ先生は知っていたの……?


 どういう事なんですか、ネモ先生……。








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[良い点] うーん、良いですねぇ! 幼少から世話になった恩師は謎だらけだった! 王道だけどやはりワクワクする展開です。 それにしても青男もですが 魔物言語を使いこなしてる人間がいるのも謎 なんらかの…
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