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私、スライム娘になります!  作者: 日高 うみどり
第4章 半透明な瞳に映るこの世界は

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4-15話 人としての戦い

 翌日、週明け月曜日。

 私達は、『レイリー農園』に向かっていた。



「うわ。本当にいっぱいいるよ……」

「キリサキバッタとはいえ、こんなにいると気味悪いねー」


 ロランさんとターシャさんが、畑にいるたくさんのキリサキバッタを見ながら話す。



 今日私達ロラン組が受けたクエストは、畑に現れたキリサキバッタの駆除だった。


 キリサキバッタは、魔物化する前は普通の昆虫だった生き物なので、魔物化後もその性質を受け継いでいる。

 バッタは、寒い冬になる前、卵を産む栄養を蓄えるために、農作物を食い荒らす。

 魔物化し、体が大きくなったキリサキバッタも同様だ。


 でも、普通のバッタと違い、キリサキバッタは体が大きいので、食い荒らす量も多い。

 もう冬も間近で、普通のバッタは寒さでとっくにいなくなっている頃なのだが、魔物化したバッタは生存力が高いらしく、この時期でも普通に現れる。むしろ冬の前に多くの卵をできるだけ産もうと、狂暴化し、こういう人間の農場にも姿を見せるようになる。

 なので、駆除依頼のクエストがギルドに届いたりする。



「では、みなさん、よろしくお願いします」

 農園のレイリーさんにお願いされ、私達は農場に入っていった。



「じゃあ、ロラン組のみんなは左側を。俺達は右側を駆除しよう」

「了解です。ハルタさん、よろしくお願いします」


 今回クエストに参加したのはロラン組だけじゃない。もう1組のパーティーが参加している。

 私達と同じEクラスのパーティー、『ハルタチーム』の4人だ。

 ハルタさん達は今年の4月に冒険者ギルドに入ったそうだ。9月に入った私達の、一期先輩に当たる。

 私達は左右に分かれ、それぞれのバッタを退治する事となった。



「よしみんな、準備はいいか」


 ハルタさん達と左右に分かれた私達は、左側の畑にいる約30匹くらいのバッタと対峙する。


「こっちの畑は既にジャガイモは収穫済みだから、火の魔法は使っていいとレイリーさんに言われている。

 ターシャとメルティちゃんは火魔法で対処してくれ。

 俺は弓で、ミリィは接近戦で」


「了解」

 ミリィさんが頷く。ターシャさんも魔法の構え。

 私も、着ているローブをしっかり着直して気合を入れる。



 皆にとってはなんてことない普通のクエストだけど、私にとっては、今回は別の意味を持つ。

 今回は周囲に、農場主のレイリーさんや、先輩のハルタチームがいる。

 そのため、いつもの『スライム娘通常形態』で戦うことが出来ない。

 水鳥のローブを着用し、人間に変装したまま、この姿で戦わなければならない。



 私達はキリサキバッタに向かって走り出す!

 私とターシャさんは手前で一時停止し、呪文の詠唱の準備を始める。


「火の精霊よ、燃え広がる炎を!」

「酸素、熱を生み出せ!」


 ターシャさんの範囲火炎魔法と、私の初級火炎魔法が同時に放たれる。

 広がる炎が3匹束になったバッタを、火の玉が少し離れた場所にいる1匹の別のバッタを燃やす。

 残りのバッタを弓でロランさんが狙撃。倒しきれずこちらに迫ってくるバッタを、ミリィさんが蹴り上げる!


 最初の集団を無事に一掃した私達だったが、次に迫るバッタたちがこちらに向かってくる。

 両手の鎌を構え、こちらに攻撃してくるようだ。

 名前こそバッタとついているキリサキバッタだが、こういう手の部分……正確に言うと前脚の部分だけ見るとカマキリに近い。

 魔物化する際、カマキリを真似てこういう形に進化したらしい。



「攻撃、来るぞ!」


 振り下ろされる鎌を、ロランさんはナイフで、ミリィさんは手首の手甲で受け止める。

 ターシャさんも、普段はあまり持ち歩かない木の杖を使って、それをガードする。

 それでも数が多いせいか、みんなある程度のダメージは受けてしまう。


「ぐっ……っ!」


「ターシャさん!大丈夫ですか!?」


「アタシはまだ大丈夫! それよりメルちーこそ大丈夫!?」


「わ、私も大丈夫です!」



 ローブで隠れた私のコアまでは、バッタの鎌は届かない。液体の身体とローブの布地が衝撃を受け止め吸収し、ほとんどダメージが無い。なので見た目と違い、全然平気ではある。

 でも、見た目はかなりダメージを負っているように見えてしまう。

 まともな防御手段を持たない私は、基本的には鎌の攻撃を体で受け続けるしかない。

 ターシャさんみたいに杖も持てない。杖で受け止めても、腕が取れてしまう。


 ローブは切り傷が付き、顔や足は刃物で引き裂かれた傷がつく。

 頬や足がすぱっと切り裂かれ……しかし血は出ず、代わりに、一応赤く着色しておいた粘液が漏れ出す。



「見た目はこうですが、痛みは無いですし、コアはノーダメージです。まだまだ全然いけます!」


「わ、分かった……」


 心配そうにこちらを見るロランさんに、私は話しかけながら戦う。



 大丈夫とは言ってみるものの、人間に変装したままの戦いは、いつもとはだいぶ勝手が違う。

 いつもの粘着ボールの足止めは使えない。ローブを身に纏ったままでは粘着ボールを射出できない。ナイフ投げも同様だ。

 一応ローブの合わせを開ければ出せるけど、人目のある戦闘中にそんな事したら、またターシャさんに心配をかけさせちゃう。

 ゴム化体当たりなど論外だ。

 結果、私の攻撃手段は、初級火炎魔法しかない。

 シリコン変装分のMP残量を気にしなくてもいいので普段よりも多く数が撃てるけど、これだけだとなかなかキツい。



「ふう……とりあえずは倒せたかな」


 私が苦戦している間に、他のみんなはキリサキバッタ達を倒していた。




「皆さん、ありがとうございます!」

 レイリーさんがお礼を言う。


「君達、なかなかやるじゃないか」

「あ、ハルタさん……」

 

 ハルタさんが、ひとつ後輩である私達にねぎらいの言葉をかけてくれた。



「ロラン君の弓は素晴らしかったね。

 武道家の君もすごい足さばきだった。

 魔法使いの君、君が一番すごかったね。こういう雑魚戦なら俺達よりも凄いんじゃないかな。

 ローブの君も頑張ってたね」


 ハルタさんは私たちの戦いを遠くから見てくれたようで、私たち一人一人に寸評をくれた。



 

 私は少し離れた場所で、ターシャさんの傷を癒している。


「メルちー、頑張ったね。ハルタさん達も褒めてくれたじゃん」


「……はい」

 そうは言ってくれたものの、私はちょっと元気が無かった。



 数が多いとはいえ、強さ的にはスライムの次くらいに弱いバッタたち。

 皆にとってはなんてことない。

 それなのに、私はかなりの苦戦をしてしまった。


 いつも使っていた技が使えなくなるだけで、こうも戦えなくなるものなのか。


 今こうしてターシャさんに傷を治している『癒しの手』だって、勝手がいつもと違う。

 いつもはスライムの手で直接触れて直していたが、今回は袖口から少しずつ垂らした液体を手に含ませ、手で撫でて塗り込むように使っている。その分回復に手間がかかり、痛みが消えるまでの時間がかかる。

 相手がバッタだったおかげで、みんなの傷はたいしたこと無かった。

 でも、これがもっと大きなダメージを与えられる相手だったら、戦闘中に回復を行わなければならない。

 そうなると、この回復速度では間に合わないかもしれない。



 『ローブの君も頑張ってたね』


 他のみんなは技術的な面をハルタさんは褒めていたが、私だけ、頑張りを褒めていた。

 私が1か月遅れで冒険者になったのはハルタさんも知っているらしいので、気を使ってくれたんだと思うけど……。

 これがもし心無い人なら、「お前だけ足手まといだな」と言われてしまってもおかしくはない。

 今日の私の活躍は、その程度なのだ。



 レイリーさんと別れ、私達は帰路に付く。


「メルちー、服の傷、治さないとね」


「じゃあ、明日は休みにしよっか」


「そう……ですね……」


 今日の戦闘で、水鳥のローブにはたくさんの切り傷が付いてしまった。このほつれも直さないといけない。

 この服は、私が人間に変装するためには無くてはならない服。服の隙間からスライムの身体が見えて、街中で正体がバレてしまわないとも限らない。

 一応、裁縫は何度か子供の頃からやっているので、自分で修繕は出来る。でも、この傷の量は一日休んで修繕しないといけないかもしれない。


「すみません、私のせいで、休まざるを得なくなってしまって……」


「へっ……?

 あ、いやいやいや、メルティちゃんのせいじゃないよ!」


「そ、そうだよメルちー。アタシだって魔法を使いすぎたから明日は休もうかなーって思ってたし!」


「……1日、働いたら、1日、休む。冒険者なら、それが普通。普段の私達は、頑張り過ぎ」


 普段は無口なミリィさんまで私を励ましてくれた。


「あ……はい……すみません……」

 でも私は、なんと言ってらいいか分からず、つい謝ってしまった。




 私にとって、色々と課題が見えてしまったクエストだった。


 今後、私はロランさん達とその多くの行動を共にすることになる。

 時には今日みたいに、人間の姿で戦わざるを得ない場合も多くなるだろう。


 でも、スライム娘通常形態になれるクエストだけを選び続けるわけにもいかない。

 それは受けられるクエストの選択肢を、お金を稼げる手段を狭める事になってしまう。

 私だけならともかく、ロランさん達にもそれを強いるわけにはいかない。



「人間のままでも戦える方法、か……」


 思えば、第23番旧坑道で、ロランさんとイルハスさんは、私が『人間もままでも戦える方法』を身に付けられるように頑張ってくれていた。

 元々はソレーヌさんがそうするように2人に頼んでいたんだけど。

 あの時は『ゴブリンがスライムを誘拐する』事件が発生していたから、その対策のためにという意味ではあったけど……。

 そっか、ソレーヌさんは、その先の事も見据えていたんだ。



 知識は力。必ず自分のためになる。

 

 レイ君が言っていた言葉を、私は思い返していた。


「……うん、私もいろいろ考えないとね」


 人間の姿のままでも、遜色なく戦える方法。

 それを今後考えないといけない。

 考えて、より知識を付けて、さらにもっと考えて……。


 とりあえずは、今使える『初級火炎魔法』をもっと練習する事からかな。

 命中率も威力も、今よりもっと上げられるように……。



 よし、頑張ろう!







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― 新着の感想 ―
[良い点] うーむ…人間モードの戦闘かぁ 融合してるスライムたちを解除して 各所に配置するくらいしか思いつかないですねぇ 右手を振るとミドが粘液を飛ばし 左手を振るとアオがナイフを飛ばす さらに傷口…
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