4-12話 ルテ川のクエスト・リベンジ
私達の風邪は、風邪用ポーションのおかげで、次の日にはすっかり治った。
私のせいで倒れてしまったロランさんとターシャさんにものすごく謝り、そしてルーの面倒を見てくれたミリィさん、風邪用ポーションをくれた宿屋のだんなさんとおかみさんにお礼を言って、私達ロラン組はギルドへ向かった……。
私は冒険者ギルドの会議室で、久しぶりにスライム娘に戻る。
「マリナさん、ありがとうございます!」
転職の祭壇の前で、私はマリナさんにお礼を言う。
……が、マリナさんも、隣にいたターシャさん達もちょっと微妙な表情だ。
私に聞こえないように、みんなでヒソヒソ話し出す。
「ねえみんな、結局、服装の件はどうなったの?」
「そ、それが、それ以上に解決しないとヤバい事がいっぱい出てきてしまいまして……」
「結局メルちーの服装の件に関しては、現状維持って事で……」
……最近思うんだけど、スライム娘って意外と聴覚がいいみたい。こういうヒソヒソ話も聞こえる。
でも何がそんなに問題なんだろう。
「ね、ねえメルティちゃん……恥ずかしくは、無いの?」
マリナさんが聞いてきた。
「えっと、まあトムさん達に指摘された時は恥ずかしかったですけど……
私は結局は人間じゃないスライム娘ですから、そう考えたら、なんか気にするのが変な気がして。
だから大丈夫です!」
「そ、そうなの……はぁ、結局振り出しに戻ったのね……
ところで、記憶障害の方はもう大丈夫なの?」
深いため息を付いた後、マリナさんに訪ねられた。
「はい! そっちはもう完璧です!」
「そ、そう……ホントに?
ま、まあ、それなら良かったけど……今度また似たような症状が出たら、ちゃんと申請してね。
私もちゃんと力になるから」
「あ、はい!」
そうだよね……私ももっとマリナさんを頼っても良かったんだよね。
スライム娘になる前も、クルスさん達との修行の時も親身になってくれたんだ。
今度から、もっとマリナさんに相談しようと思う。
「じゃあ、今日もクエスト頑張ろう!」
「おー!」
転職とクエストの受注を済ませ、私達はクエストに出発する。
出かける先は3日前と同じ『ルテ川沿岸』。
3日前に普段とは違う場所に大オオカミが出現したけど、私達がお休みしている間に生態調査が行われたらしい。
その結果、深部にさえ入らなければ大丈夫という事だそうだ。
トムさん達の件は例外中の例外で、トムさん達が持つ薬品の匂いを嫌った大オオカミ達が、深部の外まで出てきてしまったらしい、という結論だそうだ。
なので、今回のクエストには問題無いという事で、リベンジも兼ねて再び同じ依頼をすることとなった。
「メルティちゃんは子供、まだ子供……」
ロランさんがブツブツ呟いている。
「あの、前にも言いましたが、私は15歳で……」
「あ~、メルちー……止めないであげて。
ロラン君もそれは分かってるけど、あの暗示は必要な事だから……」
「え……あ、はい」
訂正しようと思ったけど、ターシャさんに止められた。
よく分からないけど……まあ、ターシャさんがそう言うならそうなのかも……。
クエストは『フロギスオークの枝』の採取。
フロギスオークの枝は、フロギストンの成分を多く含んでいる枝で、火が付きやすく、薪の着火剤などに使われる。
私がビビアンさんとの修行で、生活魔法の練習の時に使っていたのがこの枝だ。
火の魔素の成分を多く含んでいるので、普通の場所では燃えやすく、成木まで育ちきる事は少ない。
でも水が多いルテ川付近では、大気中に水の魔素の成分が多いので、発熱や発火の恐れが少ない。結果、大きな成木に育つことが出来る。
もう11月も中盤。暖房用の薪が大量に必要となり、そのぶんフロギスオークの枝の需要も増え、クエストも多くなる。
この時期ならではのクエストだ。
「正面、マッドクラブ2匹!」
「了解! アタシがやるよ!」
「あ、私も!」
硬い甲羅のマッドグラブ戦は、魔法攻撃の出番。
1匹はターシャさんに任せ、もう1匹の相手を私が立候補する。
いつもならターシャさんの『範囲火炎魔法』で一掃するんだけど、ターシャさんのMPも温存したいし、あたしの魔法練習の成果も試してみたいので、1匹ずつ分担する事となった。
「酸素、熱を生み出せ……えいっ!」
私の放つ『初級火炎魔法』は、3日前と違い、まっすぐマッドクラブの方へ飛んでいく。
相変わらず威力は低く一撃では倒せなかった。でも、とどめをロランさんとミリィさんが引き受けてくれて倒せた。
もう1匹はターシャさんの放った『初級火炎魔法』で倒せていた。
「おー。メルちー、ちゃんと飛ばせるようになったじゃーん」
「エヘヘ……がんばって練習しました」
「へ~。すごいね~。……あれ、でも、いつ練習してたの?」
「え、いつって、昨日ギルドで…………あ」
しまった。ギルドで練習してたのは『ルー』だった。『メルティ』はずっと風邪で寝ていたんだった……。
「え……どゆこと?」
「え、えっとその、あの……」
「メルちー、何か隠してる……?」
「そ、そのあの、その……」
その様子を見て、ミリィさんが目を見ながら聞いてくる。
「ルー、なの……?」
「うっ…………」
どうやら、もう隠し切れないみたい……。
「つまり、ルーちゃんが修行したおかげで、ルーちゃんと『合体』したメルちーも魔法を使えるようになった、と」
「はい……」
結局誤魔化しきれず、私達の秘密を、みんなに教える事となった。
まあ、『同化』の件はあんまりうまく説明できなかったけど……。
とりあえず、『他のスライムと合体するとその特技を使いこなせるようになる』という感じで、皆は理解してくれたみたい。
「あの、お願いです。この事はどうか、ご内密にお願いします!」
「え、うん、いいけど……なんで?」
「『同化』は、スライムという種が持つ秘密と言いますか……他種族に教えてはいけない『秘伝』なんです!
もしこれが他の人間達に広まってしまったら、種の存続に関わる事になってしまうんです!
そうなったら私、他のスライムのみんなに顔向けできません!
だから、どうかお願いです! どうか、どうかご内密に……」
「わ、分かった……ごめんね、しつこく追及しちゃって……」
ターシャさんが気まずそうに謝ってくれた。
ミリィさんも頷いている。
「ちなみにだけど……もし広めてしまったら、どうなるのかな……」
「えっと、ロランさんが広めた場合ですか?
その時は、ロランさんの口を封じて、広まった人の口も封じて、私も……」
「え……は、はは、そんな……メルティちゃん、流石に冗談だよね?」
「え、冗談……ですか?
冗談ってなんでしたっけ?」
「…………えっ?」
「冗談、冗談……すみません、知ってるはずなんですけど思い出せません。
私、まだ記憶障害があるんでしょうか……」
「……じゃあ、さっきの言葉は本気って事?」
「…………?」
「……いや、何でもない。メルティちゃん、さっきの質問は忘れて……」
「えっ……あ、はい」
ロランさんが怖いものを見る目で私を見ている。
あれ、私なにか変な事言っちゃった? 口を封じるのって別に普通の事だよね。
でも、もしそうなったらどうやって秘密にしてもらおう。
ご飯を奢るとか、お金を渡すとかして口を封じるのが普通だよね。でも4~5人に広まったのなら何とかなりそうだけど、それ以上に広まったらお金が足りるかな……。
で、他のスライムに迷惑が掛からないように、私もどこか遠い違う町に行って……うん、こうするしかないかな。
まあ、さすがに今のはもしもの話だよね。ロランさんはそんなことしないよね、うん。
「……何か、かんちがい、してない?」
ミリィさんが、私とロランさんにそう言った。
その後も採取場所へ向けて移動する。
戦闘は順調。
私の戦い方は、いつもの粘着ボール、ナイフと小石射出に、時々ゴム化体当たり、回復用の癒しの手。
それに一応は使い物になってきた初級火炎魔法のおかげで、なんとか様になってきている。
懸念していた大オオカミは出なかった。
大オオカミはこの前は3匹だけだったけど、本気の大オオカミはそれ以上にもの凄い数で襲ってくる。そうなったら勝ち目はない。
でも、生態調査の結果通り、深部から出てくることは無いようだ。
採取場所は深部では無いので、とりあえずは問題無かった。
「採取場所、こっちです」
森の中に入ると、そこで再会したスライムのみんなに案内してもらえた。
スライム達の言葉をロランさん達に伝え、私は道案内する。
森に住んでいるスライム達は、こう言う時は頼りになる。
「スライムって、すごいよねー」
「本当。俺、もうスライムには逆らわないようにするよ……」
ロランさん、何故かスライムの事を怖がっている。
最弱モンスターだから怖がらなくてもいいと思うんだけど、何でだろう。
時々出てくる敵と戦い、採取場所に付いたら、落ちているフロギスオークの枝を拾って集める。
集めるのは落ちている枝だ。
生木は水分が多いし、フロギストンの含有量も多いので使うのは危険だからだ。
採取が終わったらまた移動。次の採取地を目指しながら、敵と戦いながら進む。
そんな感じで、私達はクエストを進めていった……。
「みんな、お帰りなさい!
じゃあ採取品を確認しますね。
……はい、オーケーです。お疲れさまでした!」
冒険者ギルドに戻り、私達はマリナさんに報告と納品を済ませる。
「……クエスト、終わったんですね」
「……? メルティちゃん、どうかしたの?」
「ほんとに、ほんとに無事にクエストを終わらせられたんですね!」
「そ、そうだけど……」
嬉しそうに喜ぶ私を見て、不思議そうな顔をするマリナさん。
思えば、私がこの『ロラン組』に入って以来、クエストを無事に終わらせられたのは、これが最初なのだ。
初めて組んで南南西の森に出た時は、ゴブリンが出現し、ボロボロの状態での帰還となった。
その後の23番坑道では、イルハスさん達と組んでいた。
その後はしばらく、個人個人で活動。
ロラン組としては2回目のクエストだった3日前は、救助活動のために中断してしまった。
そう、特にアクシデントも無く、無事に終わらせられたのは、これが初めてだったのだ。
「アタシのMP、使い切らないうちに帰ってきた……」
「道に迷わず、日が沈む前に帰ってこれた……」
「傷らしい、傷も、無い」
しばらくぽかんとしていたロランさん達だったが、その少し後で、
「やったー!」
「すげえ、すげえよメルティちゃん!」
「メルティの、おかげ」
一斉に喜び出した。
どうやら、私以外の3人にとっても、今回のクエストは喜ぶべきものだったみたい。
皆にとって欠けていた最後のピースが、どうやら私だったようだ。
4人一緒に喜ぶ私達を見ながら、マリナさんが微笑んでいる。
何事かとこちらを眺める先輩冒険者達の視線の中、私達は喜び続けた……。




