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私、スライム娘になります!  作者: 日高 うみどり
第4章 半透明な瞳に映るこの世界は

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4-9話 人間性の欠落

 夕方のギルドのカウンター業務。

 その日もいつも通り、滞りなく進む。


 そんな時、ばたばたとギルドに飛び込んでくる一行が。


「あら、お帰りな……」

「マリナさん! その、今すぐお願いが!」


 メルティとターシャがものすごい剣幕でマリナに近づき、そして奥の会議室へと連れて行ってしまった……。


 残されたロラン達に私は話しかける。


「な、何かあったんですか? あら、そちらは……」

 ロランの隣には、商店街で見かける2人が立っていた。確か、道具屋を営んでいる兄妹だったはずだ。


「ええと、どこから報告するべきなのか……」

 ロランは、困った顔をしていた……。




 夕方の業務が終わり、本日二度目となる、夜の緊急会議が行われていた。


「……という訳で、ロラン組のルテ川の採取クエストはキャンセルとなりました」

 本題の前に、私は先程のロラン組の騒動の件を報告する。


「大オオカミというと……深部のほうにいるというアレか」

 ジェイクの発言。


 ロラン組は採取クエストが出来なかったが、それは人命救助と護衛のため。

 失敗扱いにはならず、貢献度に減算はない。むしろプラスになった行動だ。


「この間のゴブリン騒動と、何か関係があるんでしょうか……」

 ロア君の問い。


「いえ、トムさん達が持っていた薬品の匂いにつられて出てきたのかもしれません。

 あるいは、冬が近いせいで森の食料が不足しているせいもあるのでしょうが……」

 私は答える。


「となると……ルテ川付近の閉鎖は?」


「まあ、『南南西の森にゴブリンが出た』という類のものとは違い、奥から手前に出てきただけですし……閉鎖するほどじゃあないでしょうね。

 冒険者と市民への注意喚起、というのが妥当かと思いますが……一応、調査クエストを出しておきましょうか」


 

「しかしまあ、ゴブリンと言い今回と言い……よくこの手のトラブルに巻き込まれるチームだねえ。

 さっきも血相を変えていたようだし」


「あ、いえ、その件は……」


 ジェイクの言葉を私は否定し、マリナのほうを見る。


「……まあ、今件とは無関係だと思います」


 何も言わないマリナに代わり、とりあえず私はそう答えておいた。




「……さて、今日の緊急会議の本題に入ろうか。

 ロア君、憲兵隊からの報告は?」


「あ、はい、ギルマス。

 予定通り、明日の夕方からとの事です」


「冒険者への連絡は済んでいるのかい?」


「あっはい。今日カウンターに来た人たちには連絡しました。

 後は掲示板ボードへも張っておいたので、大丈夫です」

 シィナがたどたどしくも報告する。

 

「あ、ロラン組の皆さんには伝えられませんでした」

 ……しまった、私も忘れていた。


「……大丈夫です。ロラン組は明日は休みにすると言ってましたから」


 今日の会議ではものすごく静かだったマリナがやっと発言する。

 さっきのロラン組の件以来、明らかに心ここにあらずの様子だったが、どうやら話はちゃんと聞いていたらしい。

 

「そうか。なら良かった。

 しかし、憲兵隊からの連絡もいきなりだったね。

 普通こう言うのは、もっと前に伝達があるものなんじゃないのかい?」


「確かにそうですね……何か事情があったんでしょうか」


「……ま、余計な詮索は無用か」


 ジェイクとロア君はそう会話するが、ジェイクがシィナに目線を送っている。

 調べるつもりらしい。

 2人は仕事熱心だが……多分ろくでもない理由だと私の勘が告げている。



 今日の午前、突然憲兵隊から連絡があった。

 明日の昼頃、冒険者ギルドを一時閉鎖してほしいと。

 

 まあこういう要請自体は特に珍しいものでも無い。

 前日に連絡というのも、実際のところ、たまにある事だ。



 内容は、先日の『あの』一件絡みだった。

 

 あの一件の功労者、ルーナチームとイルハス組は不在。

 ロラン組も、偶然ではあるが明日は休み。

 

 まあ確かに、タイミング的には今が一番いいだろうなとは思う。



「じゃあそういう事で、今日の会議はこれまで。お疲れ!」


 短いながらも重要な会議はこうして終わった。いつもそうだが、最後だけはジェイクの言葉は元気だ。

 さて私は……久しぶりに、マリナを飲みにでも連れていくか……。

 




 **********************************




 翌日の朝。


 部屋の扉がノックされる。


「メルちー、入るよー。……お、アオちゃん元気してたー?」

 

 

 『アオ(ワタシ)』は、部屋に入ってきたターシャさんが挨拶してくれた。

 ワタシは今は言葉を発せないが、とりあえずぴょんと飛び跳ねて返事する。


「アオちゃん、メルちーは……」


「……ここです」


 こんなにいい天気だというのに、メルティは、ベッドの毛布の中にくるまっていた……。

 



 昨日の事だった。

 ターシャさんと『メルティ』は、ギルドに戻るなり、速攻でマリナさんに声を掛けた。


「マリナさん! その、今すぐお願いが!」



「……はい。メルティちゃんのジョブは『なし』に戻ったわよ……何があったの?」

 

 恥ずかしさのあまり何も話せないメルティに代わって、ターシャさんが説明する。

 マリナさんの表情がみるみる曇る。こんな顔見たこと無いってくらいに。


 そしてダッシュで宿まで戻り、メルティは引きこもってしまう。


 最初ワタシは、ルテ川でトムさんとお話ししたとき、メルティが何か恥ずかしい事を思い出して、それで部屋に引きこもっちゃっただけだと思っていた。

 でも、どうやら何かが違うらしい……。

 そう、メルティが忘れていたのは、それだけじゃなかったのだ……。




「メルちー、久しぶりのベッド、よく眠れた?」


「は、はい、なんとか……」


「そっか、良かった……」


「…………最初」


「うん?」


「最初、いつもの癖で、水がめのほうに入って寝ようとしちゃいました……」


「……そっか」



 昨日の夜は大変だった。

 メルティが間違えて水がめの中に入ってしまったのだ。

 今のメルティは人間。

 にもかかわらず、メルティこっちで寝ようと、水がめの中に入っていた。……1時間くらい。

 

「狭くて硬くて冷たくて寝苦しくて……それでやっと、気が付きました。人間の身体だって……」


「そっか……うん、重症だね、これは……」


 今朝からずっとメルティはこんな感じだ。

 どこか上の空でぼんやりし続けている。

 でも時々、何かを思い出したように突然悶え、大声を上げながらジタバタする。そしてまたぼんやりする。



 こうしてメルティの、人間としての久しぶりの休日が始まった。

 ターシャさんの介護の下で……。



 

 ワタシはとりあえずやる事も無いので、2人の様子を眺める。


「じゃあ、メルちー。クイズです。これは何でしょ~か」

 ターシャさんがメルティにクイズを出す。


「えっと……………………パンツです」


「できれば即答してほしかった……」


 ターシャさんがメルティのクローゼットから、ひらひらした薄い布……下着と呼ばれる布を取り出して、メルティにクイズを出していた。

 メルティはかなりぼんやりしながら、そのクイズに答える。


「じゃあメルちー、これはどうやって使うものでしょ~か」


「…………………………?」


「……じゃ、じゃあ、3択にしようね。

 1番、足から履くもの。2番、腕に付けるもの。3番、頭にかぶるもの。さあどれでしょう」


「えっと…………3番?」


「……よ、よしメルちー、残り2択になったよ! 一歩前進だね!」



 ……かなり、苦労しているようだ。




「えっと、メルティちゃんの容体はどう?」

 廊下からロランさんの声がする。

 なんだかとても申し訳なさそうにしている声のようだ。


「まだ、見ないであげて。30分くらい、散歩してきて」

 ミリィさんの声もする。ドアの前で見張り?に立ってくれている。


「わ、分かった。お大事に……」

 ロランさんは去っていった。




 人間に戻ったメルティ、以前はもちろんこうじゃなかった。

 若干怪しい部分はあったものの、まだ人間としての常識は確かにあった。


 どうしてこうなってしまったのか。

 レイ君に聞いてみた。


 ――多分、ザジちゃん誘拐の時に、たくさんのスライムと混じったせいだね。



 レイ君の推測によると、こうだ。

 

 あの時メルティは、改造マジックパックに捕らえられた、たくさんのスライムと接触してしまった。

 その時、大量の記憶がメルティの中に流れ込んだが、多数のスライムとリンクしたことによるメモリ増加効果もあって大丈夫だった。

 ちゃんと自我も維持できていたし、会話も戦闘も問題なかった。……少なくとも、表面上は。


 戦闘終了後、大量のスライムとのリンクを切り、元の状態に分離。

 しかし『メタル化』の副作用もあって、体の状態すら維持できない日が3日間続いた。


 体の回復を待つ間、記憶系統……人間でいう所の脳内の、その最適化も行われた。

 大量の記憶と精神を、ひとつの身体では維持できなかったので、不要な記憶などは最適化によって消去された。

 

 問題はその時だったんだと思う。

 最適化の際、必要な記憶はちゃんと残されたはずだった。

 しかしそれは『スライム娘』として必要だった記憶だけだったんだ。

 表面上は問題なかった。日常生活は全く問題なかった。

 『スライム娘』としての日常生活はね。

 ただ、『人間』としての日常生活の常識は、幾つか『最適化』されちゃったんだろうね。

 特に『スライム娘になった時の裸に対する羞恥心』とかは、メルティが頑張って『気にしない、考えない』ように勤めていた部分だった。

 その結果、恐らくクルスさんとの修行が終わる頃には、羞恥心は心の奥底に封印されてしまっていた。

 だから、優先的に最適化の対象として選ばれる事になったんだよ。


 

 レイ君の解説はよく分かった。

 なるほどな~。

 人間って大変だな~。




「メルちー、そういえば、いつものローブはどうしたの?」


「あ、お休みなので、セシルさんにお洗濯をお願いしました。今日はお洗濯の集荷の日だったそうなので、一緒にお願いしました」


「うんうん、そういう常識は大丈夫なんだね。

 ……でも、じゃあ何で何も着てないの?

 下着はともかく、上着は? なんで裸なの?」


「え、いやだって、スライム娘は人間の服が着られないので……」


「……仮にそうだとしても、今は人間でしょ?」


「………………?」


「寝るときはどうしてたの?

 ……もしかして、帰ってからずっと裸だったの?」


「あ、はい」


「……セシルさんには、どうやってお願いしたの?」


「えっと、1階に持っていきました。

 でもセシルさん忙しかったみたいで、そこに置いておいてって言われたので、そのままカウンターに置いてきました」


「じゃ、じゃあセーフか……誰にも会わなかったんだよね?」


「あ、廊下でファルマさんとすれ違いました」


「ダメだったあ……」


「ファルマさん、今日はなんだかボンヤリしてましたね。

 下を向いて考え事をしてて、私には気づいてくれませんでした」


「えっとこれは……逆転セーフ……なのかな?」



 ターシャさんが一喜一憂している。

 どうして落ち込んだりほっとしたりしているのか。

 スライムのワタシにはよく分からない。




「メルティちゃんは……?」

「あと1時間、散歩してきて」

 帰ってきたロランさんは、またすぐにどこかへ去っていった……。







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― 新着の感想 ―
[良い点] おぅ… 前回挙げた行動の部分だけじゃなく 人間としての常識の部分も消えちゃったかー。 うーん…これは…無理かなw うん、こうなったら発想の転換! もうずっとモンスターでいたら良いよね! …
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