4-2話 パーティー結成
「それで、メルティちゃん、ソレーヌさんは何の用だったの?」
酒場のテーブルに戻った私に、同じ席のルーナさんがそう聞いた。
「あ、はい。なんでも、新しい『モンスター職』のジョブが見つかったらしくて……」
「えっ!?」
ルーナさんは、私の先輩冒険者。『ルーナチーム』のリーダーで、クラスはCクラス。ジョブはプリンセス。
この間の誘拐事件の時に共闘してくれた冒険者で、私が『スライム娘』だという事を知っている数少ない冒険者の一人だ。
あの事件以来、私の事を可愛がってくれる。といっても私はお酒を飲めないので、ルーナさん達が酔っぱらいすぎるといろいろちょっと辛いけど……。
「ミノタウロスと……なんだっけ、バロメッツ?」
「バロメッツって、ルーナさんもご存じないですか? 羊の魔物らしいんですけど……」
「うーん、分からないな……ドーラはどう?」
「ん~……。その『バロメッツ』なのかは分からないけどぉ、似たような魔物なら聞いたことあるよぉ」
「おー。さすがは『羊飼い』だね」
「羊飼いは関係ないと思うけどぉ~」
話を振られたのは、ルーナさんのパーティの1人で、『羊飼い』というジョブのドーラさん。
ちなみにルーナさんのパーティにはあと2人、戦士のスカイさんと魔法使いのタイムさんがいるけど、今は違うテーブルに行っている。
「ワタシねぇ、隣の第8地区の出身なんだけどぉ、そっちに『黒い羊の魔物』の言い伝えがあるんだよぉ」
「黒い羊、ですか?」
「うん。そもそもメルティちゃん、黒い羊がいるのは知ってるぅ?」
「いえ、私が知っているのは白い羊です」
叔父の牧場にも羊はいたし、ついこの間も街道付近の牧場にいる羊を見た。でも、その羊の色は白だった。
「んーとね、黒い羊って言うのは、毛は白いんだけど、顔とか足とか、肌が真っ黒いんだぁ」
ドーラさんが詳しく教えてくれる。
ここグレンディル共和国の北西側に海があるんだけど、その海の向こうにひとつの島国がある。
黒い羊は、その国にいる品種の羊なんだそうだ。
こっちの大陸にはあまりいないけど、海を渡ってきた品種がこちらでも少なからず飼育されているそうだ。
中でも第8地区のオータムフィールドの町周辺では、気候も適していて飼育数も多いらしい。
この国に元々いた白い羊は主に羊毛を採るために飼われているけど、黒い羊は、羊毛のほかに食肉用としても飼育される。
寒い地域に生息する家畜なので体のお肉が引き締まっていて、脂肪分の多い白い羊よりも美味しい。
引き締まっていると言っても、お尻は大きく、そちらの部位は脂身の乗った美味しいお肉が取れるらしい。
ちなみに、メスには頭に角が生えて無くて、オスにだけ角が生えているらしい。
「じゃあ、『黒い羊の魔物』って、その羊が魔物化したモンスターなんだ」
ルーナさんがドーラさんに聞く。
「多分そうだと思うよぉ。と言っても、魔物化したってお話は聞かないし、空想の中の生き物だって思われているんだけどねぇ」
「それで、どういう魔物なんですか?」
私はドーラさんに続きを聞く。
「『黒い羊の魔物』って言うだけあって、顔が真っ黒い獣人のモンスターらしいよぉ。
二歩足で立って、手が器用に使えるのぉ。
腕や腰から下はもこもこの毛で覆われているんだぁ」
頭の中でイメージしてみる。
「なんと言うか……ちょっと可愛いかもですね」
「そだねー。隣の島国じゃあ、小さい子のお人形として、お土産物屋さんに売られてるみたいだよー」
「あ、そう言えば……ロアさんのお話だと、植物の特性もある魔物らしいですけど……」
「そうそう、その『黒い羊の魔物』も、体のどこかに……腰とか首とかに、植物の実がくっついているらしいよぉ。
トマトとか、メロンとか……」
「トマトがくっついているんですか? 体に?」
「変でしょ? ワタシも子供のころ初めて聞いた時、ぜったいウソだぁって思ったもん」
「…………」
お話を聞く限り、不思議な魔物だな……。
でも、こうやって聞くといろいろと共通点がある気がする。
ドーラさんのお話に出てくる『黒い羊の魔物』こそが、もしかしたら『バロメッツ』なんじゃないかなって思えてきた……。
「さてと……それじゃあ、明日も早いし、そろそろ帰ろっかな」
それなりに夜も更けてきた頃、ルーナさんはそう言って立ち上がった。
「もう行っちゃうんですか……?」
私は、名残惜しそうにルーナさんに声を掛ける。
「まあね。目的地まで結構かかるしね」
明日から数週間、ルーナチームは遠征に出るらしい。
ルーナチームはCクラス筆頭で、実力的にはBとしても十分やっていけるほどの強さがある。実際、この間のゴブリンの襲撃でも大活躍していたそうだ。
そんなルーナチームがBに今まで上がれなかった理由。
それは、Bに上がる条件を満たしていなかったせいだ。
「ま、いつまでもCのままじゃいられないしね……面倒だけど」
Bクラスに上がる条件。
それは『他地区での貢献度』だ。
EからD、DからCに上がる条件は、『個人の貢献度』だ。
要するに、たくさんクエストをこなして、貢献度という点数をたくさん稼げば上位のクラスに上がれる。
その貢献度は場所を問わない。ずっと1つの街に残って貢献度を稼ぎ続けるだけでも十分昇格できる。
でも、CからBに上がるためにはそれだけではいけない。
『拠点としている地区の貢献度』のほか、『拠点以外の2つの地区での貢献度』も必要となる。
この制度が無い頃、お金を稼げる特定の地区に強い人が固まってしまっていたそうだ。
そうすると、そうじゃない他の地区の人達が困ってしまう。
それを解消するため、積極的に強い人を他地区に派遣するために作られたルールらしい。
基本的にこの街から出たがらないルーナさん達は、『拠点としている地区の貢献度』は既に十分すぎるほど溜まっている。
でも、他の地区の貢献度が足りていない。
「みんなから言われるのよねー。そんなに強いのにいつまでCなんだって」
そういうわけで、ドーラさんの実家がある、隣の第8地区へと、明日から向かうそうだ。
「せっかく仲良くなれたのに、寂しいです……」
「ま、遠征と言っても、ちょこちょこ帰ってくるわよ。
ソレーヌさんから『頼みたいことがある』って言われてるし。シャンティさん絡みで」
「たぶん再来週くらいには帰ってくるよぉ。
その時はまたお話ししよぉねぇ」
そう言って、2人はテーブルを離れた。その足で、他のテーブルにいる2人の元へと向かう。
「スカイ……兄ちゃんは、兄ちゃんは寂しいっ!」
「兄さん、いい加減離れて。キモい」
「タイムお姉さまぁぁぁっ! 私、離れたくないですぅぅぅ……」
「わ、分かった、分かったからくっつかないで、フロル……」
そして、他の冒険者に捕まっている2人の仲間を救助していた……。
ルーナさん達と別れ、私は自分の泊まっている宿、オウル亭に戻る。
「そうなんだ……ドーラさん達、しばらく居なくなるのか」
宿屋の食堂で晩御飯を食べながら、今度は私はロランさんとお話していた。
「知り合いがけっこういなくなって、ちょっと寂しくなるねー」
そう話すのは、一緒に食事をしているターシャさん。
ロランさん、ターシャさん、あと無口であまり話さないけど同席しているミリィさんは、私と同期の冒険者達だ。
「そうなんですよ……イルハスさん達もいなくなるし……」
「ああ、それでさっき喧嘩してたんだ」
「い、いや、そう言うんじゃないですけど……」
ロランさんにそう言われて、私は慌てて取り繕う。
今日の昼間、イルハスさん、マキノさんとの3人で採取クエストに行ったんだけど、その時の話だ。
「え、イルハスさんって、街の領主様の弟なんですか?」
「あ、ああ。まあそうだな」
「へー、そうなんですか」
「……お前、リアクション薄いな」
「すみません……違う世界のお話過ぎて、あんまりピンと来なくて……」
「……そうか」
帰り道、イルハスさんの家の話になった。
「じゃあ、イルハスさんって将来、領主を継ぐんですか?」
「いや……それは無ぇな。
貴族っつっても兄貴には、小さいけどもう子供もいるし、兄弟も多い。
俺より上の後継者候補が10人くらい全員死ぬか世継ぎを辞退しない限り、俺には回ってこねえな」
「は、はあ……」
「ま、そう言う事情もあるからこそ、俺はこういう冒険者稼業とかやれてんだけどな」
「そうなんですね……ところで、どうして突然そんな話を?」
「あ、ああ。実はまあ、兄貴に頼まれごとをされてな。しばらく第8地区のほうに行く事になったんだ」
「えっ!?」
「そういう訳で、しばらくお前とはクエストを組めなくなっちまうな」
……と、そう言われた。
「へー。じゃあメルちー、イルイルに仲間外れにされて怒ってたのー?」
ターシャさんまで、からかうように私に言う。
「そ、そう言うのじゃないんです、本当に……」
私の同期は、私も含めて8人。
イルハスさん達とは、最近は23番旧坑道の縁でいろいろな人と組むようにはなったけど、本来なら決まったメンバーがいる。
リーダーのイルハスさんに、マキノさん、イサクさん、コーストさん。
この4人は組んでいた時期が一番長く、そのぶん連携も上手い。
私は、同期と言っても、1か月遅れで冒険者を始めた身。まだまだ実力に開きがある。
私が入る事によって、戦士のイルハスさんは、私の盾役にならなければいけないので、その分前衛が減ってしまう。
それに、イルハス組には、イサクさんという僧侶がいる。
私も一応はヒーラーとしてメンバーに参加できるけど、本職の僧侶のイサクさんには劣る。
「結局私は、まだまだ足手まといなんです……隣街への遠征みたいな本格的なクエストには参加できません……」
「め、メルちー……」
さっきまで私をからかっていたターシャさんが、やり過ぎたかな、という表情に変わる。
「……でも、だからと言ってあんな言い方は無いじゃないですか!!」
「め、メルティちゃん!?」
「『足手まといがいなくなってせいせいしたぜ』とか、『お前の面倒を見なくて済むから楽だぜ』とか!
どうしてイルハスさんは、いつもいつもあんな言い方をするんですか!」
さっき、マリナさんに思わず愚痴ってしまった事なのに、思い出したらまた悲しくなってきた……。
「まあまあ、メルちー落ち着いて……」
そんな私と、私をなだめるロランさんとターシャさんの事を、ミリィさんは静かに眺めていた……。
「すみません、取り乱しちゃって……」
「あはは……まあメルちーが元気になって良かったよ」
気分も落ち着き、食事も終わった頃。
途中から考え事をしていたロランさんが、真剣な顔でこちらを見ながら話し始めた。
「……あのさ、メルティちゃん。折り入ってお願いがあるんだ」
その真剣な顔に、思わず私も気が引き締まる。
「メルティちゃん。もし良かったら……正式に、俺達のパーティメンバーになってくれないか?」
「えっ?」
「君がイルハスの事を好いているのは分かっている。
それなのにこういう事をお願いするのは申し訳ないんだけどさ……
ほら、俺達3人だろ?
弓使いの俺、魔法使いのターシャ、武道家のミリィで……回復役がいないんだ。
『スライム娘』のほかの能力も、俺達の役に立てると思う。
だから、お願い。俺達に力を貸してくれないか?」
「え、えっと……」
「どう……かな、駄目かな……」
「い、いえ……問題無いです……けど……」
「え、じゃ、じゃあ!」
「えっと……こちらこそ、お願いします」
「ホントか!」
ロランさんにこうお願いされて気が付いた。
ロランさん達は、私がスライム娘になる前、『ジョブ無し』だった頃、私に声を掛けてくれた3人だ。
その縁で仲良くなって、スライム娘になれた後、一緒にパーティーを組んで、南南西の森のクエストに出かけた。
でも、4人で組んだのは、その日1日だけだった。
その後はソレーヌさんの提案で、23番坑道でメンバーシャッフルしながらクエストをこなしていた。
坑道から帰還後も、なんだかんだで皆の日程が合わなくて、引き続きいろんなメンバーでクエストをこなしていた。
ロランさん達と私は、同じ宿、仲良く気楽に話が出来る4人だったが、まだ正式な仲間では無かった。
「というか……すみません。私勝手に、自分も『ロラン組』の1人かと思ってたかも……」
「い、いや、実は俺もそうだったんだけどさ。
ソレーヌさんに聞かれたんだよ。正式なパーティーは誰と組むのかって。
それで初めて、その辺をなあなあにしてたなって気が付いてさ……」
ターシャさんもミリィさんも頷いている。
こうやって改めて仲間かどうかの話をするなんて、はたから見たらちょっとおかしな話かもだけど。
でも、私達は自然に笑い合った。
「ま、まあ、パーティーと言っても、多分まだイルハス組の方とメンバー交換する機会もあるはずだし、イルハスとはこれでお別れじゃないからね。メルティちゃん、そこは安心してね」
ロランさんが、照れ隠しに取り繕う。
「……あ、あの、さっきの話で1か所だけ訂正しておきたいところがあるんですけど……」
「うん? 何だい?」
「あの、私、別にイルハスさんを好いているとかじゃないですからね」
「……えっ?」
「いやだって、そもそもどうしてそう言う話になるんですか!
さっきもイルハスさんの愚痴を言ったばかりですよね!?」
「え、だって『喧嘩するほど仲が良い』って言うし……」
「なんでそうなるんですか!」
ロランさんが驚いている。
ミリィさんまで、驚いたような表情をしている。
「ほらねー。アタシそう言ったじゃーん」
ターシャさんが、ロランさんを肘で突っつく。
「メルちーには、もう理想の王子様がいるもんねー」
ターシャさんにそう言われて、思わずクルスさんの顔……と、胸が頭に思い浮かぶ。
ん……?
王子様? でもクルスさんは女の人だから王女様? あれでも、クルスさんってアレだからいいのか……んん?
王子様って言うと、貴族みたいな偉い人で、守ってくれるカッコいい男の人で…………あれ?
なんでここでイルハスさんの顔が思い浮かぶの!?
「もーっ! 皆で私の事からかうから、訳分かんなくなっちゃったじゃないですか~!!」
「え、あ、うん、ゴメン……?」
思わず私は、食堂中に響き渡る大声を出してしまっていた……。




