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ゆく年くる年

ゆく年くる年3

作者: 御荘庵(黒瀬みさが)
掲載日:2023/01/01

 寅年がもうすぐ終わる。




 俺の家ではその年の干支のヤツを迎えるという風習があり、大晦日の夜は交代のために玄関を開け放っている。


 交代は通常、除夜の鐘が鳴り終わるまでに行われるが、今年は……もうすぐ鳴り終わるというのに、影も形も無い。



 「おっ、来年もネコちゃんの年だな」



 自称「ネコちゃん」がニヤニヤしながら玄関で寝そべっている。


 お前的には移動しなくていいかも知れんが、俺の家が困る。


 最後の鐘の音が夜に溶けて消える頃、慌ただしくヤツが駆け込んできた。 



 「遅刻する遅刻する、ちぃこぉくぅするぅぅぅぅー!」



 何かを抱えて新たな干支のナニカが現れた。


 自称「ネコちゃん(結局この名前で一年を乗り切った)」が軽く舌打ちする。


 面倒臭そうに新たな干支──ウサギ──に向かって口を開く。


 「お前、別に急がなくてもよ──」


 「ほぅら、取って来ぉーいっ!」


 ウサギが遠くに何かを投げた。



 「ほわあああ」



 「ネコちゃん」がそれを追って飛び出した。


 脱兎の如くという言葉が脳裏をよぎった。


 トラだが。


 マタタビ(恐らく)は何てネコ科に効くのだろう。


 別れの挨拶をする間もなく、「ネコちゃん」は暗闇に消えて行った。



 ウサギは奇妙な笑みを浮かべながら、トラの消えた辺りを少し見た後、


 「野菜づくしの特製おせちを持ってきたので、お茶会しましょうぅ?」


と、手持ちのものを差し出す。


 「えっ、野菜づくしのおせち……?」


 困惑する俺に、ショックを受けた顔でウサギがわめき始める。



 「野菜ではご不満ですかぁぁぁ? わかりましたっ! ならばこの身をっっ」



 どこからか取り出した焚き火台(どうやって持ってきた)に素早く火をくべ、ウサギが軽やかにダイブし──。


 俺は火傷しそうになりながら、焚き火台の上でウサギをキャッチした。



 「わかったわかった。おせちでお茶会しような? じゃ、今年一年よろしく」



 そう言って、俺はウサギを玄関内へと運んだ。


 ウサギが小さめでよかった。


 フレミッシュジャイアントぐらいあったら、一緒に焚き火台に突っ込んだかも知れん。




 「お茶会! お茶会!」



 俺が謎の焚き火台を片付ける間中、玄関でウサギはピョンピョンと跳ねていた。


 今年は何だかせわしない年になりそうだなと思いながら、俺はウサギの元へ向かい、静かに玄関を閉めた。

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