ゆく年くる年3
寅年がもうすぐ終わる。
俺の家ではその年の干支のヤツを迎えるという風習があり、大晦日の夜は交代のために玄関を開け放っている。
交代は通常、除夜の鐘が鳴り終わるまでに行われるが、今年は……もうすぐ鳴り終わるというのに、影も形も無い。
「おっ、来年もネコちゃんの年だな」
自称「ネコちゃん」がニヤニヤしながら玄関で寝そべっている。
お前的には移動しなくていいかも知れんが、俺の家が困る。
最後の鐘の音が夜に溶けて消える頃、慌ただしくヤツが駆け込んできた。
「遅刻する遅刻する、ちぃこぉくぅするぅぅぅぅー!」
何かを抱えて新たな干支のナニカが現れた。
自称「ネコちゃん(結局この名前で一年を乗り切った)」が軽く舌打ちする。
面倒臭そうに新たな干支──ウサギ──に向かって口を開く。
「お前、別に急がなくてもよ──」
「ほぅら、取って来ぉーいっ!」
ウサギが遠くに何かを投げた。
「ほわあああ」
「ネコちゃん」がそれを追って飛び出した。
脱兎の如くという言葉が脳裏をよぎった。
トラだが。
マタタビ(恐らく)は何てネコ科に効くのだろう。
別れの挨拶をする間もなく、「ネコちゃん」は暗闇に消えて行った。
ウサギは奇妙な笑みを浮かべながら、トラの消えた辺りを少し見た後、
「野菜づくしの特製おせちを持ってきたので、お茶会しましょうぅ?」
と、手持ちのものを差し出す。
「えっ、野菜づくしのおせち……?」
困惑する俺に、ショックを受けた顔でウサギがわめき始める。
「野菜ではご不満ですかぁぁぁ? わかりましたっ! ならばこの身をっっ」
どこからか取り出した焚き火台(どうやって持ってきた)に素早く火をくべ、ウサギが軽やかにダイブし──。
俺は火傷しそうになりながら、焚き火台の上でウサギをキャッチした。
「わかったわかった。おせちでお茶会しような? じゃ、今年一年よろしく」
そう言って、俺はウサギを玄関内へと運んだ。
ウサギが小さめでよかった。
フレミッシュジャイアントぐらいあったら、一緒に焚き火台に突っ込んだかも知れん。
「お茶会! お茶会!」
俺が謎の焚き火台を片付ける間中、玄関でウサギはピョンピョンと跳ねていた。
今年は何だかせわしない年になりそうだなと思いながら、俺はウサギの元へ向かい、静かに玄関を閉めた。




