僕の凍える心臓のように
じっとしていられなくて
部屋を出た
薄曇りの空
自転車にまたがった
タイヤのエアーが
かなり減っていたけれど
空気を入れる余裕もない
知っている人に
会いたくなかった
ぼくは自転車を走らせる
長い下り坂
もしも このままのスピードで
道路を突っ切ったら
出会い頭に車と衝突!
そうなったら
楽かもしれないな
ちょっと 本気で考えた
けれど
やっぱりいくじがなくて
急ブレーキの甲高い音
車なんか来ていないのに
止まりたくないけれど
信号は赤
コンビニの前で
たばこを吸う髪の長い人
君に似ているような気がした
たばこの煙
たばこの匂い
僕は苦手だったけど
僕もたばこを吸えばよかった
そうしたら 君は
僕に遠慮しなくても済んだ
換気扇の下でなく
リビングで
ゆっくりと吸うことが
できたのに
すっと
僕の横を通り過ぎる人
信号はまだ赤
真面目に
信号待ちをしているのは
僕だけか
「あなたは真面目すぎるから」
君に言われたことがある
いつだったか
どんな時だったか
忘れてしまったけれど・・・
真面目じゃだめなの?
鼻の奥が痛くなって
涙がこぼれそうになる
僕はペダルに力を入れた
空気がオレンジ色に
染まり始める
人通りも多くなって
自転車を押して歩く
学生たちは楽しそうで
恋人たちは幸せそうで
みんな明るく
輝いていて
自分だけがみじめに
思えてくる
誰かのスマホが
鳴っている
ああ
僕はスマホを
持って来なかった
いずれにせよ
君からの連絡はないんだ
僕のスマホは
君のスマホには
つながらない
こんなに嫌われて
しまうなんて
びっくりするよ
だけど
ほんとはわかっていた
付き合った時から
こうなること
想像していた
花屋で花を
選んでいる人がいる
あの人は
花が好きなんだろうな
部屋に花を飾って
静かな時間を
過ごすのだろうか
それとも
誰かへのプレゼントかな
花なんて
興味ないし
あってもなくても
いいようなものだと
思っていた
でも
今は僕より
よっぽど価値が
あると思う
人を幸せな
気持ちにさせることが
できるのだから
僕の優しさは
みせかけで
僕は自分のことしか
考えてなかったよ
いつの間にか
辺りは暗くなって
随分
風が冷たくなってきた
僕の凍える心臓のように
おわり




