5 ネコとハトとヒトとカラスの大ゲンカ
子ネコたちは、むこうの方で、たがいにうばいあいをしながら、すぐにシュークリームを食べてしまいました。
シュークリームを食べおえると、子ネコたちはトモロウたちのいる車両から、もうひとつ前の車両にうつっていきました。
すると、じきに、ものすごい音が、子ネコたちが入っていったとなりの車両から聞こえてきました。
「あいつら、こんどはなにをしてるんだろう。見にいってみよう」
と、子カラスは言いました。
トモロウと子カラスは、前の車両にむかいました。
そこでは、子ネコたちが、子バトたちをおそっていて、たいへんなことになっていました。
子バトたちはとびあがって、子ネコたちのツメやキバをよけていますが、車両の中には羽毛がとびちって、大さわぎです。
「やめなよ」
と言って、トモロウは子ネコたちをとめようとしました。すると、子ネコたちは、トモロウにもおそいかかってきました。
「がんばれ」
と言って、子カラスは、トモロウのおうえんに入りました。
そうして、ネコとハトとヒトとカラスの大ゲンカがはじまりました。
トモロウはあちこちひっかかれながら、がんばって子ネコたちをつかまえようとしました。けれど、3匹の子ネコたちは、すばやくて、なかなかつかまえられません。
しばらくして、とつぜん、大きな、おとなの声がひびきました。
「なにをやっているんですか!」
みんなは動きをとめました。
気づいた時には、列車は駅にもどっており、入り口には、制服すがたのネコが立っていました。
「ケンカをするなら、帰りなさい!」
そう、おとなのネコが言い、子バトと、子ネコと、子カラスとトモロウは、全員、パークの入り口へと連れていかれました。
「ぼくらはなにもわるくないのにさ」
と、子カラスは文句を言いました。
ほんとうにその通りだと、トモロウも思いました。けれど、おとなのネコは、話を聞いてくれそうにありませんでした。
子ネコたちは、おとなのネコに、こっぴどくしかられています。
子バトと子カラスとトモロウは、しかられませんでしたが、そのまま外に出されてしまいました。
クリスマスパークの外で、子カラスは言いました。
「じゃあね。たのしかったよ。また会えるといいね」
「うん。また会おうね」
子カラスは羽ばたこうとして、いちどやめると、トモロウの方にふりかえって、ちょっとさびしそうに言いました。
「バイバイ」
トモロウは少しかなしくなりながら、子カラスに手をふって言いました。
「バイバイ」
子カラスは、夜空に飛んでいき、すぐに見えなくなりました。
トモロウは、路地をあるいて、大通りのベンチにもどりました。
冷たいベンチにすわると、トモロウは、つかれて、ねむくなってしまいました。
少しうとうとしていると、誰かがトモロウの肩をゆさぶりました。
目をあけると、そこにはお父さんがいました。
「トモロウ。夕ごはんを食べに行こう」
と、お父さんは言いました。
「父さん、ぼくね、クリスマスパークに行ってきたんだよ」
と、トモロウは言いました。
「そこの路地の先にね」
と言いながら、トモロウはベンチの後ろの路地を指さそうとしました。
けれど、今はもう、その場所に路地はありませんでした。お店とお店の間には、かべがあるだけです。
「あれ、へんだな?」
トモロウが路地をさがそうと、なんどもその場所を見ていると、お父さんは、つかれた顔で、笑いました。
「ほら、こんなところでねてるとカゼをひいちゃうぞ。なにが食べたい? すきなものを食べに行こう」
「ローストチキン……」
と言いかけたところで、トモロウは、なんとなく、子カラスのことを思い出して、言いなおしました。
「やっぱり、スパゲティがいい」
「じゃあ、そうしよう」
「でも、ぼく、あんまり、おなかはすいてないんだ。クリスマスパークで、いっぱいおやつを食べたから」
トモロウはカップケーキとシュークリームとココアとエッグノッグの味を思い出しながら、そう言いました。
「そうかい?」
お父さんは、トモロウといっしょに歩きながら、まるで、べつのことを心配しているようなようすでした。
「シュークリームのクリスマスツリーをたべたんだよ」
と、言いながら、トモロウは、ポケットの中をさぐり、チケットをとりだしました。
「ほんとうだよ。ほら」
チケットからは、もう文字も地図も消えていて、ただ、そこにはネコの肉球のスタンプが押されているだけでした。
お父さんは、チケットをよく見ながら、言いました。
「ふーん。ネコのチケットかい?」
「うん。ネコがくれたんだ。でも、ぼく、子ネコより子カラスのほうがすきだよ」
そうトモロウが言うと、お父さんはふしぎそうな顔で笑いました。