3 ハトと蒸気機関車
歩きながら、トモロウと子カラスは、カップケーキをたべました。
子カラスは言いました。
「ここには、子ネコばかりいるね」
たしかに、この遊園地には子ネコがたくさんいます。係のひともみんなネコです。
「ここは、ネコの遊園地なのかな?」
と、トモロウが言うと、子カラスは、言いました。
「そんなことしらないよ。でも、ぼくも君もいるんだからネコだけじゃないよ。さっきは、ネズミの子にも会ったしね。いつのまにか、いなくなっちゃったんだけど。どこに行っちゃったのかな」
「へぇ」
「ねぇ、次はなににのる?」
と、子カラスはトモロウにたずねました。
「まわらないのがいいな」
と、トモロウが言うと、子カラスは、
「じゃ、あれはどう?」
と言って、蒸気機関車の絵がかかれた看板の方を向きました。
「うん。いいよ。ぼく、電車、すきなんだ」
と、トモロウが言うと、子カラスは首をひねりました。
「あんなうるさくて食べられないものがすきなんて、君、かわってるね。電車がすきなのは、ハトくらいだと思ってたよ」
子カラスとトモロウは、蒸気機関車の駅に向かいました。
ここの駅員さんは、ネコではなく、ハトでした。
駅のベンチにいたのは、たくさんの子バトたちでした。
子カラスは言いました。
「ほんとうに、ハトは鉄道がすきだよね。知ってる? ハトが列車を発明したんだよ。だから、蒸気機関車はポッポーっていうし、駅員さんは、ぽっぽやって言うんだよ」
「そうだったの?」
トモロウは、(鉄道を発明したのは、たしかイギリスの人だったはずだけど)と思いましたが、子カラスが自信満々だったので、(やっぱりぼくがまちがっていたのかもしれない)と思いました。
その時、駅員さんが、大きな声で言いました。
「クルッ クルーウー! クルッ クルーウー! 列車がまいります」
子バトたちが、うれしそうに、口々に、「クルッ」「クルゥ」と言いました。
「あ、列車が見えたよ」
と、子カラスは言いました。
黒い蒸気機関車がけむりをだしながら駅にやってきました。
大きな音をたてて、列車は駅にとまりました。
電車とちがい、ドアは自動では開きませんでした。
駅員さんは、ひょいと、ドアのところのガラスのない窓わくに立ち、内側のレバーをあげました。するとドアがあき、子バトたちは車両にのりこみました。
「ねぇ、きみ、そこのドアをあけてよ」
と、子カラスはトモロウに言いました。
トモロウは自分たちの前にあったドアの窓枠に手をいれ、内側のレバーをもちあげました。ドアが開き、トモロウと子カラスは、列車の中にはいりました。
ハトの駅員さんはすべてのドアを閉め、駅のホームを確認すると、
「ホホッホ ホーホー。ホホッホ ホーホー。列車が発車いたします」
と大きな声で言いました。
するとすぐに、列車はぽっぽーっと汽笛を鳴らし、駅を出ました。
列車は遊園地の中の線路を走っていきます。けむりのにおいが、あいているまどから入ってきました。
けむりのにおいをかぐと、トモロウは家族みんなで旅行に行って蒸気機関車に乗った時のことを思い出しました。
すると、トモロウはかなしくなってしまい、まどの外の、夕やみの中できらきらとかがやく遊園地を見ながら、泣きだしそうになってしまいました。
「どうしたの?」
と、子カラスがたずねました。トモロウは、なみだをこらえてこたえました。
「どうもしないよ。ちょっとさむいから、さびしくなっちゃっただけだよ」
「じゃあ、まどをしめよう」
と言って、子カラスは、くちばしでがんばって窓をしめました。
ちょうど、子カラスがまどをしめた頃、列車は遊園地のはずれに向かって進んでいました。
そのまま、列車は、少しかたむいて、観覧車の横を進んでいきます。
窓と同じ高さに、観覧車のまん中らへんが見えています。
トモロウはおどろいて、別のあいている窓から外をのぞきました。ずっと下の方に、建物が見えます。列車は、まるで空中を走っているように見えます。
「この列車、飛んでいるよ」
「ぼくだって飛べるよ」
と、子カラスは、なにもふしぎではないように言いました。
「カラスは飛ぶけど、列車が飛ぶなんて、聞いたことがないよ」
と、トモロウが言うと、
「人間の子は、あんまり知らないんだね」
と、子カラスは言いました。
トモロウはなんだか、はずかしくなって、だまってしまいました。
まどから下を見ると、電灯や、クリスマスのかざりの光や、家々のあかりがたくさん見えました。
夕やみの空には月と星がかがやいています。町と夜空はひとつになって、たくさんのいろんな色の光がかがやいていました。
「きれいだね」
と、トモロウが言うと、
「そうだね。キラキラしたのがぜんぶ食べれたらいいのにね」
と、子カラスは言いました。
子カラスがそう言うと、なんだか、トモロウはおなかがへってきました。まだ夕ごはんを食べていなかったので、さっきのカップケーキひとつでは、たりなかったのです。
「おなかがへったねぇ」
と、子カラスもいいました。