2 メリーゴーランドとコーヒーカップ
トモロウは、まずはメリーゴーランドのところへ行きました。
並んでいるひとはいませんでした。係のひとは、やっぱり、ひとではなくネコでした。片目のつぶれた、ぶちゅっとした顔のネコです。
まわるメリーゴーランドの馬のせなかに乗っていたのは、ミャーミャーうるさい子ネコ達と毛がぼうぼうの、ちょっとまるっこい子カラスでした。
(ひょっとして、ここには、人はいないのかな)
と、おもいながら、トモロウはメリーゴーランドの入り口のところに立ちました。すると、メリーゴーランドは動きがゆっくりとなり、やがて音楽がとまり、まわる馬たちもとまりました。
「さぁ、のりな」
と、係のネコが言いました。
トモロウは、メリーゴーランドの台座にあがり、前足をはねあげる白い馬のせなかによじのぼりました。
メリーゴーランドの音楽がながれだすと、トモロウがのった白い馬は、まるでほんものの馬のように、いななき、あるきだしました。
「いい運動だよ」
と、かがやく電気のかざりで着かざった白い馬は言いました。
「生きていたの?」
と、トモロウが、びっくりしながらたずねると、白い馬は言いました。
「音楽がとまると、とまらないといけないんだよ。ぴったりとまっていただろ?」
「うん。ぴったりとまってたから、ぼく、ぜんぜん気がつかなかったよ」
音楽にあわせて、馬たちはメリーゴーランドの中をぐるぐると、はねるように歩いていきました。
何周か、まわる遊園地のけしきを見た後で、トモロウの前の馬にのっていた、まるっこい子カラスが馬の背中でとびはねながら、「クワァー」と鳴きました。
すると、メリーゴーランドの音楽はゆっくりになり、やがて、とまりました。
子カラスは、馬からとびおりました。トモロウも、そろそろ次の乗り物にのってみたくなっていたので、白い馬からおりました。
「バイバイ」
と、トモロウが言うと、白い馬はぶるるんとふるえて、言いました。
「いってらっしゃい。たのしい夜を」
トモロウがメリーゴーランドの外に出ると、子カラスがこっちを見ていました。
「こんばんは」
と、トモロウは子カラスにあいさつをしました。
「クァンアンア」と、あいさつをしてから、子カラスは早口に言いました。
「ちゃんとあいさつができるなんて、きみは人間の子どものわりに、おぎょうぎがいいね」
トモロウは、とつぜん子カラスが早口にしゃべったので、びっくりしましたが、子カラスはおかまいなしにしゃべりつづけました。
「人間ってのは、あいさつをしても、むしするやつばかりだからね。ひとの食事のじゃまをするし。マナーがなってないよ」
子カラスはぴょんと、地面の上でとびはねて、トモロウにたずねました。
「次はなににのる?」
「ぼく、ここにきたばかりで、まだよくわからないんだ」
と、トモロウは言いました。子カラスは言いました。
「そりゃ、みんなそうだよ。なんどもくる子なんていないもん。ここには子どもしかよばれないんだから。来年には、みんなおとなになってるもんね」
「来年にはおとなになってるの?」
と、トモロウがたずねると、子カラスは言いました。
「そういえば、聞いたことがある。人間はずーっと子どものまんまなんだってね。ぼく、しんじてなかったよ。そんなことがあるなんて、しんじられないよ。ほんとうなの?」
トモロウは、こたえました。
「ずっと子どもではないけど、1年で大人にはならないよ」
「ひぇー。信じられないね。でもうらやましいな。何年も子どもでいられるなんて。ぼくはもう、家を追い出されちゃったよ」
「追い出されちゃったの?」
トモロウは、子カラスをかわいそうに思いました。子カラスは、あまり気にしていないようすで、コクンと、うなづきました。
「うん。ぼくは、おそ生まれだから、もうちょっと家にいたかったんだけど。公園のやつらは、いじわるだし。そうだ。次は、コーヒーカップに乗ろう」
子カラスは、そう言って、ぴょんぴょんと、まわるコーヒーカップの方に歩いて行きました。
トモロウも、子カラスについていきました。
まわるコーヒーカップの乗り場のところには、コックさんのように白い服を着て白い帽子をかぶったネコが立っていました。
白い服をきたネコは、トモロウたちにたずねました。
「ミルクたっぷりカフェオレ、クリームたっぷりカフェラテ、どちらにしますか? はちみつ入りホットミルクもありますよ?」
子カラスはカフェラテをたのみ、トモロウははちみつ入りホットミルクをたのみました。
トモロウと子カラスは、同じコーヒーカップにのりこみました。
子カラスはコーヒーカップのまんなかの、テーブルのふちのハンドルにとまり、トモロウはカップの内がわのイスのところにすわりました。
コーヒーカップのまんなかのテーブルの上には、カップの受け皿が4つあります。白い服を着たネコは、そこにあたたかい飲み物の入ったカップを置きました。
それから、ほかのふたつのお皿には、サンタさんがのったカップケーキと、ゆきだるまがのったカップケーキをおきました。
白い服のネコは、台座をおりると、レバーを引きました。
すると、音楽がながれはじめて、トモロウがすわったコーヒーカップはゆっくりまわりだしました。
コーヒーカップのまんなかのテーブルの上では、カップケーキのうえのサンタさんも、ホットミルクがはいったカップも、みんな、その場でくるくるまわっています。
「ひゃーまわるまわる。たのしいね」
と言って、子カラスはたのしんでいました。
「でも、これじゃ、のめないよ」
と、くるくるまわるホットミルクのカップを見ながら、トモロウは言いました。
子カラスは、ふしぎそうに、
「そんなことないよ」
と言って、まわるカップのなかのカフェラテにくちばしをいれました。
しばらくすると、トモロウは目が回ってきたので、
「ぼく、もうおりたい」
と言いました。
すると、コーヒーカップはしだいにゆっくりになり、とまりました。
トモロウが、カップケーキをもってコーヒーカップからおりると、子カラスもいっしょにおりてきました。