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1 ねこがくれたチケット

 町にはクリスマスの音楽が流れています。大通りの木やお店には、いろんな色のきれいなあかりが、たくさんついています。お父さんお母さんと歩く子どもたちや、ふたりきりの恋人たちが、たくさん楽しそうに歩いていきます。

 トモロウはベンチにすわって、冷たい手をコートのポケットにつっこんで、歩いていく人たちを見ていました。

 大通りの時計はもうすぐ6時になります。

 たくさんのお店がならぶ大通りは、いつもはたのしい場所でしたが、今はとても寒くて、トモロウはさびしい気分になってしまいました。

(あと15分くらいしたら、いちど家に帰ろう)

 トモロウはそう考えました。

(家のまわりに何もなかったら、家の前でちょっとまって、しずかだったら、そっと中に入ってみよう)

 どこのレストランで食べようか話しあっているたのしそうな家族を見ながら、トモロウは、そう考えました。 

 今日は12月24日です。みんなはお祝いをしながら楽しくすごしています。

 通りを歩くひとたちを見ていると、まるで、今日かなしいのは、トモロウとトモロウの家族だけのように思えました。

 今夜、どこですごすのか、トモロウには、わかりませんでした。

 1時間くらい前、おねぇちゃんが叫んだり物をこわす音を聞きながら、トモロウは、お父さんに行き先をつげて家を出てきました。

 お父さんからのれんらくは、まだありません。

 もしも今、おねぇちゃんが落ちついていれば、今夜はみんなで家ですごすかもしれません。でも、それは、明日の朝まで、何も起こらないことをお祈りしながら、息をひそめて静かに夜をすごすということです。

 お母さんが用意していたクリスマスのディナーを、なんとか食べられるかもしれません。だけど、しずかに食べないといけません。笑い声やおしゃべりの声がうるさいと、おねぇちゃんの具合がまた悪くなってしまうからです。

 もしもまた、おねぇちゃんの具合がわるくなってしまうと、大変です。物がこわれたり、お母さんかお父さんがなにかを投げつけられたり。部屋にこもったおねぇちゃんが、ちゃんと生きているのかを心配しながらすごしたり。

 だから、今夜はホテルに泊まろうと、お父さんかお母さんが言うかもしれません。そうすれば、古くて、いろんなものがガタガタいって、おふろ場がカビくさいホテルに泊まりにいくことになります。

(とつぜんホテルに行ったら、サンタさんはちゃんとぼくをみつけられるかな)

 トモロウは不安に思いました。トモロウは、今日の夕ご飯より、明日のプレゼントのほうが大切だと思いました。

(おねぇちゃんが、よくなってますように)

 そう思いながら、冷たい手をポケットの中でにぎったりひらいたりしていると、足下に一匹のネコがすわっているのに気がつきました。


 いつのまにか、音もなくやってきて、トモロウの足に背中をつけるようにして、ネコはすわっています。

 ネコは「ミャー」となきました。

「ニャー」と、トモロウは小さな声であいさつをかえしました。

 トモロウはポケットから手をだして、ネコのあたまやせなかをなでました。毛の表面はつめたく、おくの方はあたたかでした。しばらくなでていると、トモロウの指先もあたたかくなりました。

 やがて、ネコは立ち上がり、トモロウの足に体をこすりつけるようにして、去っていきました。

(また、ひとりになっちゃった)

 さびしく思いながら、トモロウがふと、ネコがすわっていた場所を見ると、紙切れが一枚、落ちています。

 トモロウがひろってみると、それは、なにかのチケットのようでした。

 チケットには「クリスマスパーク」とかかれており、小さな地図がのっています。

 地図のまんなかにはトモロウが今いる大通りが描かれています。

 ちょうどトモロウのすわっているベンチの後ろあたりに、路地ろじの線がひかれていて、その路地を右に曲がった先に、矢印がついています。

 トモロウは後ろをふりかえってみました。

 たしかに、ベンチの後ろに、せまい道があります。


 トモロウは立ち上がり、地図にしたがって、その暗い路地を歩いて行きました。路地の奥には、ついたり消えたりする街灯がいとうがあり、そこで行き止まりのように見えました。けれど、よく見ると、右側にまた路地が続いていました。

 街灯のところで曲がってさらに進むと、その先には、虹色にきらきら光るアーチ形の門があり、「クリスマスパーク」という文字がひかっていました。

 トモロウはアーチをくぐって、クリスマスパークの中に入りました。

 そこは遊園地ゆうえんちのようでした。おくの方には緑色にかがやく観覧車かんらんしゃがあり、てまえではメリーゴーランドの馬たちが光りかがやきながら回っています。

「ミャー・クリスマス。ようこそ。チケットをみせてください」

という声に、トモロウはおどろいて、ふりかえりました。

 ゲートのすぐ内側に、制服をきたとても小さな人が立っていました。

 いえ、人ではありませんでした。そこに立っていたのは、服を着て帽子ぼうしをかぶったネコでした。

 トモロウがチケットをさし出すと、入場ゲート係のネコは、スタンプのように自分の肉球をチケットに押して、トモロウに返しました。

「いってらっしゃい。楽しい夜を」

と言って、入場ゲート係のネコは、帽子をちょこっとあげました。


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